英雄のいない世界で

赤坂皐月

文字の大きさ
90 / 149
BACK TO THE OCEAN Chapter1

第14章 新たなる地を目指して【5】

しおりを挟む
「……分かりました。マジスターさん、コヨミさん、お嬢様をどうぞよろしくお願いします」

 そう言って、ゾフィさんは両手を前に組み、僕達に向かって深々と頭を下げてきた。

「ええ、モチロン! わしらが責任を持って彼女を守ります! なっ? コヨミ?」

「えっ……ええっ! しっかり守ります!!」

 マジスターからのキラーパスに、僕は動揺混じりに答えながら、背筋をピンと真っ直ぐ伸ばした。

 するとそんな僕の姿を見て、先程まで寂しげな表情をしていたゾフィさんだったが、くすりと笑い、その表情が少し和らいだ。

「ふふっ……あっそうだ! アクトポートまで向かうとなると遠いですし、マジスターさん、三十分ほど出発するのを待っていただいてもいいですか?」

「えっ……まあ三十分なら大丈夫ですが……」

「ありがとうございます! では皆さんのお弁当を用意しますので、できたら持っていきますので」

「えっ! わざわざいいんですか?」

「ええ、モチロン。お嬢様とお嬢様を守っていただける方達への、わたしからの些細な旅の餞別と思ってください」

 そう言って、ニッコリと微笑むゾフィさん。

 本当に天使……いや、神のように心の広い御方だ。

「いやぁ……手取り足取り、本当にかたじけない!」

「ありがとうございますゾフィさん!」

 僕とマジスターは共々、深々と頭を下げた。

「いいんですよいいんですよ。では今から用意いたしますので、皆さんはその間に旅立ちの準備を整えてください」

 それからゾフィさんは冷蔵庫の方へと向かい、弁当の材料となる食材を探し始めた。

 ここはゾフィさんのお言葉に甘え、僕達は食堂を出て、宿の外にまで出ると、既にルーナとライフ・ゼロがバイクの前で荷物を持って待機していた。

「遅いじゃない二人共、何してたのよ?」

「いやなに、ゾフィさんにここを出ることを伝えに行ってたんだよ。そしたらわしらのために、弁当を作ってもらえることになってな」

「ええっ!? わざわざいいのに……」

「わしらもそう言ったが、せめてもの餞別だそうだ。だから弁当ができるまで少しの間待機だ」

「そう……」

 弁当を作ってもらえるのだから少しは喜んだっていいはずなのに、ルーナは眉をひそめ、なんだか決まりが悪そうな表情を終始していた。

「どうしたんだよルーナ? あんまり嬉しそうじゃないじゃないか」

「えっ……う~ん……」

 僕が突っ込むと、ルーナは両肩を落としながら、その理由を打ち明けた。

「……わたし、ゾフィには黙ってここを出ようと思ってたのよ。顔を見たら、なんだか出て行きにくくなっちゃうような気がしたから……」

 それはなんだか、彼女らしいといえば彼女らしい理由だった。

 親が寂しければ、子も巣を発つのは寂しいもの……なのだろうな。僕はそんな思いをしたことも無いし、する相手もいなかったから、それがどんな感覚なのかまでは分からないけども。

「うむ……その気持ちは分かるがルーナ、しかしもしかしたら、わしらはもうマグナブラに二度と戻って来れないかもしれない。そうなれば必ず、別れを曖昧にしたことを後悔することになる」

「…………」

「わしは戦場で、国に戻れなかった仲間を何十人と見てきた。その時皆後悔していたのが、家族との別れ、愛する者達との別れだった」

「……そうなんだ」

「お前、情報を集めている間も母親のところには行かなかったのだろう?」

「うん……」

 ルーナの母親、元ノースハーウェンの女王は今、マグナブラに居を構えてひっそりと暮らしているらしい。

 そういえばレジスタンスにいた頃は、頻繁に母親に会いに行くために、ユスティーツフォートを無断で抜け出していたという話を聞いたものだが……しかし彼女はそれだけ、母親の近くまで行きながら、それでも会わないほど、今回の情報収集を真剣に行っていたということなのだろう。

 それを聞くと、僕が大した情報も無しに帰って来た時、小言を聞かされたのもしょうがないというか、むしろ申し訳無さすら感じてしまう。

「これから母親に別れを伝えるのは困難だろう……しかしせめて、昔から世話になっているゾフィさんには挨拶をしておいた方が良い」

「……分かったわ」

 ルーナはマジスターに言われ、小さく頷いた。

 僕もそうした方が良いと思う。別れはしっかりと、後悔無くしておくべきだ。

 僕には別れに関して、未だ後悔していることがある……胸に収まっている拳銃を見る度に、それを思い出す。

 まさか僕よりも先にあいつが死ぬなんて……あの時はそんなこと、思ってもみなかったからな。

 突然突きつけられた別れほど、虚しく、寂しいものは無いと、僕はこの身を持って知ったから……。

 それからゾフィさんの弁当ができるまで、僕達は長旅に向けて、バイクのメンテナンスなんかを行った。

 一週間前の戦いや、それ以前にもかなりの無理をさせていたため、心配な箇所はいくつかあったのだが、どうやらまだまだ動かすことができるようだ。

 これからのマグナブラ大陸の横断、バイクが無かったらたった四日とはならず、週単位、あるいは月単位にもなってしまう可能性があったとマジスターが言っていた。

 今の変動が激しい世の中で、週単位あるいは月単位の移動時間など設けていたら、それこそ時代に取り残されてしまう。

 一昔前の、勇者と呼ばれていた者達の、のらりくらりな旅とはもう違う。何事にも今は、早さが求められる時代だからな。

「すみません皆さん、お待たせしました!」

 バイクのメンテナンスが丁度終わったくらいになって、ゾフィさんができあがった弁当をわざわざ、僕達の元まで運んで来てくれた。

「わざわざ運んでまでもらって、かたじけない」

「いえいえ。簡単な物ですがどうぞ食べてください」

 弁当が入った袋を、ゾフィさんはマジスターに手渡す。

 僕は今、二人の元から少し離れた位置に立っているのだが、しかしここまでその袋から、隙をみせればよだれが流れ出てしまうような、そんな美味しそうな匂いが漂ってくる。

 しかし考えれば、こんな美味しそうな匂いのする、そして実際に美味しい食事とは、この弁当が最後に、当分お別れとなってしまう。そう考えると、心からだけでなく、腹からも寂しさや切なさが込み上がってきた。

 胃袋を掴むって多分、こういうことなんだな。僕はゾフィさんの料理に、すっかり惚れ込んでしまったようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョン・イーツ! ~戦闘力ゼロの俺、スキル【絶対配送】でS級冒険者に「揚げたてコロッケ」を届けたら、世界中の英雄から崇拝されはじめた件~

たくみさん
ファンタジー
「攻撃力ゼロのポーターなんて、配信の邪魔なんだよ!」  3年尽くしたパーティから、手切れ金の1万円と共に追放された探索者・天野蓮(アマノ・レン)。  絶望する彼が目にしたのは、ダンジョン深層で孤立し、「お腹すいた……」と涙を流すS級美少女『氷姫』カグヤの緊急生放送だった。  その瞬間、レンの死にスキルが真の姿を見せる。  目的地と受取人さえあれば、壁も魔物も最短距離でブチ抜く神速の移動スキル――【絶対配送(デリバリー・ロード)】。 「お待たせしました! ご注文の揚げたてコロッケ(22,500円)お届けです!」  地獄の戦場にママチャリで乱入し、絶品グルメを届けるレンの姿は、50万人の視聴者に衝撃を与え、瞬く間に世界ランク1位へバズり散らかしていく!  一方、彼を捨てた元パーティは補給不足でボロボロ。 「戻ってきてくれ!」と泣きつかれても、もう知らん。俺は、高ランク冒険者の依頼で忙しいんだ!

異世界召喚されたが無職だった件〜実はこの世界にない職業でした〜

夜夢
ファンタジー
主人公【相田理人(そうた りひと)】は帰宅後、自宅の扉を開いた瞬間視界が白く染まるほど眩い光に包まれた。 次に目を開いた時には全く見知らぬ場所で、目の前にはまるで映画のセットのような王の間が。 これは異世界召喚かと期待したのも束の間、理人にはジョブの表示がなく、他にも何人かいた召喚者達に笑われながら用無しと城から追放された。 しかし理人にだけは職業が見えていた。理人は自分の職業を秘匿したまま追放を受け入れ野に下った。 これより理人ののんびり異世界冒険活劇が始まる。

レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった

あめとおと
ファンタジー
異世界に転移した主人公が得たスキルは【地図作成】。 戦闘能力ゼロ、初期レベル1。 冒険者ギルドでは「外れスキル」と笑われ、 新人向けの雑用クエストしか回ってこない。 しかしそのスキルは、 ダンジョンの隠し通路、未踏破エリア、消えた古代文明の痕跡まで“地図に表示する” という、とんでもない能力だった。 生き残るために始めた地味な探索が、 やがて世界の秘密と、国家すら動かす大冒険へ――。 これは、 戦えない主人公が“冒険そのもの”で成り上がる物語。 同作品を「小説家になろう」で先行配信してます。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。 彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。 だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。 結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。 そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた! 主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。 ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?

勘違いで召喚して来たこの駄女神が強引すぎる 〜ふざけたチートスキルで女神をボコしながら冒険します〜

エレン
ファンタジー
 私は水無月依蓮《みなづきえれん》、どこにでもいる普通の女子高生だ。  平穏な生活を送っていた私は、ある日アルテナと名乗る女神に召喚されてしまう。  厨二臭いその女神が言うには、有給休暇で異世界冒険したいから、従者としてついて来なさいとの事。  うん、なんだその理由は。  異世界なんて興味ない、とっとと私を元の場所に返せ。  女神を殴ったり踏みつけたりしてやっと返してもらえるかと思いきや。  え? 勝手に人間を異世界に呼ぶのは天界の掟で禁止? バレたら私も消される?  ふざけるなー!!!!  そんなこんなで始まる私とポンコツ女神アルテナのドタバタ異世界冒険。  女神が貴族をハゲさせたり、「器用貧乏・改」と言うふざけたスキルを習得したり、ゴブリンの棲家に突撃する羽目になったり、手に入れた家が即崩壊したり、色々起きるけど全てを乗り切って見せる。 全ては元の世界に帰るために!!

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

処理中です...