英雄のいない世界で

赤坂皐月

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BACK TO THE OCEAN Chapter1

第14章 新たなる地を目指して【6】

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「あの……ゾフィ……」

 するとバイクのメンテナンスをしていたルーナが、どことなく気恥ずかしそうに、目を伏せながらゾフィさんの元へ近寄っていた。

「えっと……」

「……フフッ、行ってらっしゃいませお嬢様。お怪我の無いように」

「えっ! ……う、うん! 行ってくるわ!」

 ゾフィさんはルーナのことをよく知ってか、色々と別れの言葉を切り出すことも無く、ただ彼女を送り出すための、その一言だけをルーナに向けて送り、そしてルーナも、先程までの気まずそうな表情を一変させ、快く笑顔で受け応えた。

 見ていてなんとも清々しい、決して言葉で取り繕うことの無い、ある意味一番、これが理想の別れ方なのかもしれないな。

「キッキッ……別れねぇ……」

 すると僕の隣で、そんな二人のやり取りを見ていたライフ・ゼロが、静かに笑って呟く。

「なんだ? お前にもああいう瞬間があったのか?」

「無い」

「即答だな……」

「我は魔王だからな、当時は別れなど常だった。それにそもそも、別れを惜しむような間柄となった者など、誰一人いなかったしな」

「……それってさ、友達が一人もいなかったってことか?」

「そんなもんおらん。友達も、家族もな。頂点に立つものは常に孤独なのだ」

「……なるほどね。お前が僕に対して、当たりが強い意味が少し分かったよ」

「どういう意味だ?」

「そういう意味だよ」

 つまりライフ・ゼロは、そもそも平等な立場での人付き合いというものを、僕達と出会うまで一度もやったことが無かったのだろう。

 だからああいう風に、常に上から目線だし、僕にキツイ言葉や態度をとっていたんだ。そうに違いない!

「それは少し違うな」

「えっ?」

「確かに我は魔王だったこともあり、そんな平等な付き合いなど一切したことが無かった。それは認めよう。上から目線なのも、認めよう」

「それも認めるのかよ……」

「だがしかし! うぬへの態度に関しては、それらとは一切関係ない!」

「そんな力強く否定するのかよ……じゃあなんでそんなに僕に対して、当たりが強いんだよ」

「うぬが嫌いだからだ」

「………………」

 それは腹が立つ隙も与えないほど清々しい、包み隠された部分が一切無い、純粋な告白だった。

 いや……正直そうなんじゃないかとは思っていたが、正面切って言われてしまうとこう……胸にくるものがある。

 グッとくると言うよりかは、ザクッと貫かれたような、そんな感じがした。

「さて! それじゃあ出発するとしよう……ん? どうしたコヨミ? そんな悲しそうな顔して?」

「……いや、ちょっと今、心に致命傷を負っただけ」

「カッカッカッ! なんだそれは?」

 マジスターはそう言って、いつもの如く豪快に笑ってみせる。多分、僕が冗談か何かを言ってるのだろうと受け止められたのだろう。

 いやむしろ、冗談だったらよかったのになぁ……。

「なにアンタがそんな辛気臭い顔してるのよ? ほらっ! 最初はわたしが運転するから、さっさと後ろに乗りなさい」

 ゾフィさんとの別れを済ませたルーナは、もうバイクに跨り、エンジンをかけていた。

 別れをいつまでも惜しむこと無く、次に進もうとするその勇ましさ……そういうところは本当に、見習いたいと思う。

 僕はルーナからヘルメットを受け取り、もう座り慣れた後部座席に座ったところで、僕はふと気づいてしまった。

「そういやルーナ」

「なによ?」

「細かいことだと思うけどさ、何で僕がルーナの後部座席に座るの?」

「なによ! 嫌なの!?」

「いや、そういうことじゃなくてさ。こう……二人乗りをするとさ、互いに体が触れることが多いだろ? それだったら僕は、むしろマジスターの後ろに乗った方が良いんじゃないかなって思ってさ」

「えっ……いや……それは……何よ今更そんな細かいことをっ! わたしが良いんだから、アンタが気にすることじゃないのっ!!」

「うわっ! ……なんで急に怒ってるんだよ」

「怒ってない!!」

 フンッ! と鼻を鳴らし、あっという間に不機嫌モードになってしまったルーナ。

 そんなに怒らせてしまうような質問を、僕しちゃったかな?

『フンッ、そういう鈍感なところも、我がうぬを嫌う原因の一つだ』

(んなっ!?)

 意識の内から声が聞こえ、振り返ると、ライフ・ゼロはマジスターの乗っているバイクの後部座席に座ったまま、まるで人を蔑むような視線を、僕に向けていた。 

 ここにいるのは全員味方のはずなのに、いつの間にか四面楚歌。僕の敵だらけになってしまっていた。

 どうやら僕は気づかぬ内に、トンデモナイ失言をしてしまっていたようだ。まさに口は禍の元。

 今後はもっと慎重に発言はするようにしよう……とはいったものの、一体何故僕が周りに責められているのか、その根本は分からずじまいだった。

「ゾフィさん世話になった! この恩は必ずいつか返す! それじゃあ出発だっ!」

 マジスターはそう言うとバイクのエンジンを鳴らし、先頭を切って走り始めた。

「それじゃあゾフィ、行ってくるわね!」

「行ってらっしゃいませ、お嬢様!」

 ゾフィさんに見送られ、ルーナはアクセルを回すと、バイクは勢い良くスタートダッシュをし、ゾフィさんの宿は瞬く間に小さくなっていった。

 これまでの長いマグナブラでの生活が、これで本当に終わりを告げ、そしてこれから、これまた長い、マグナブラ大陸横断の旅が始まる。

 距離にして約四千三百キロ。本当に果てしない道のりだ。

 しかも僕達の旅は大陸横断だけで終わることなく、その後には大海を渡り、大陸を移動する旅も控えてある。

 その距離がいかほどであるのか、そんな詳細な情報までは、この世界の地理について、ほぼ無知同然である僕には分からないのだが、しかし大陸横断なんかよりよっぽど時間が掛かるのは、言葉の響きからなんとなく想像がつく。

 更にこの長い旅路は、誰に望まれたわけでも、誰に託されたわけでもない、自分達で歩むと定めたが故に、誰の助けも乞うことのできない、そんな厳しくも険しい旅でもあるのだ。

 考えれば考えるほど、先の思いやられる、不安だらけの旅であることは間違いない。

 しかしそんな不安が募る中、荒野の空は、そんな不安という言葉とは対照的なくらい、相も変わらず晴れ渡っている。

 この蒼天は、きっと僕達のこの旅の始まりを、天が祝福してくれているのだろう……。

 そうやって、物事をプラス思考で考えることによって、僕はバイクの後部座席で、ルーナの腰に両手で触れながら、彼女の体温を両手から感じながら、ずっとそれらの不安を、自分の中で紛らわせていた。
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