英雄のいない世界で

赤坂皐月

文字の大きさ
96 / 149
BACK TO THE OCEAN Chapter1

第15章 アマノジャクな二人【5】

しおりを挟む
「それで……アンタはどうなの? まだ答え、聞いてないけど」

「えっ! ああ……うん……」

 イキナリだったということもあって、まだそこまでじっくり考えることができてないのだが、しかしこういうのって多分、直感で決めるものだよな。

 それに僕自身も、自分の気づかない無意識の内に、そうやって彼女を思う気持ちがあった気がする。

 特にブラースティを倒した後、ルーナに抱きつかれた時は、ずっとこうしていたかったって思ったほどに……ああ、そっか。そういうことだったのか。

 僕も最初から、ルーナのことが好きだったんだ。あの時、路地裏で出会った時からずっと。

 だから僕はあの時、勇者の夢を捨てた身でありながら、彼女の中でだけでもいいから、もう一度英雄になろうとしたんだ。

 あの時からずっと惹かれていたんだ……でも僕はそれを、気づこうともしなかった。

 自分の気持ちにも気づかず、ルーナの気持ちにも気づかず、周りのアプローチにも気づかず……僕はのうのうと過ごしていたんだ。

 一番酷くて、ルーナの心を痛めさせていたのは、何を隠そう、この僕だったんだ。

 意識的に無知を装うのは、当然悪いことだが、無意識に知ろうとしないことも、同じくらいか、それ以上に罪深いことだ。

 最低最悪だな僕は……この業は、僕自身でしっかり落とし前をつけないといけないな……一人の男として。

 僕は特に何があるわけでもない、しいて言うなら緑の平原が広がる地の真ん中で、バイクを急きょ停車させた。

「えっ? どうしたの? 急に止まって?」

 僕に体を寄せているルーナが、僕の唐突な行動に困惑しているようだった。

「マジスターさん、行っちゃってるわよ?」

「いい、どうにかして後から追いつくから」

「どうにかって……」

「今伝えたいんだ。ルーナを背にして話すんじゃなく、正面で目を見ながら」

「……分かった」

 ルーナは僕の体から腕をほどき、そしてバイクを降りて、ヘルメットを脱ぐ。

 僕も同様にバイクを降りて、ヘルメットを脱いで、ルーナの正面にしっかり立って、一呼吸、二呼吸してから、言葉を紡ぎ始めた。

「ルーナ、僕のせいでずっと辛い思いをさせてゴメン。僕ってほら……そういうところがあって」

「知ってる。言い訳はいいから」

「あっ……そうだよね」

 こんな時にも逃げ口上を考えようとするなんて……ホント僕って情けない。

「じゃあもう逃げも隠れもせず伝える。僕も好きだ、ルーナのことが」

「それはなに? 仲間として?」

「そうでもあるけど、それだけじゃない」

「人間として?」

「それ以上に」

「じゃあ……一人の女として?」

「……そうだっ!」

 言い切った。言い切ってやった。

 もう半分、ヤケクソの勢いで。

「僕は最初ルーナを助けた時、あの子のためだけでもいいから、もう一度勇者になろうって思えたんだ。もう勇者の夢を捨て切っている時だった……普通なら、そんなこと思いつかないくらいに、僕はあの頃、荒んでいたんだけど……」

「そう……でもアンタが荒んでいたのは、なんとなく分かってたわ。そう考えると、随分見違えたものよね?」

「そうだなぁ……って、違う違う! 思い出話がしたいんじゃないんだよ! それは、あの時から好きだったっていうことが言いたくて……」

「あーもう分かったから!それで?」

「それで……でもその気持ちに気づかなくて……ちょっとした感じでは表われてたと思うんだけど……」

「なによそのちょっとした感じって?」

「例えばそうだな……それこそ路地裏の時に、胸をチラ見した時はときめいたし、あと最初にバイクの二人乗りをした時、腰を握ってウキウキしたし……」

「とんだド変態じゃない」

 瞬間、ルーナから永久凍土に放り出されたかのような、そんな強烈に冷たい視線を浴びせられる。

 だが今、僕は最高に熱くなっている。それこそ灼熱の炎のように。

 だからそんなルーナの冷めた視線には動じずに、僕は自分の心中を彼女に吐露することを続ける。

「まあ、それらは男の本能的にときめいたって感じだったから……でも決定的だったのが、暴走するブラースティを倒した時に、君に抱きつかれたあの時だった。あの時は本当に、ずっとこのままでいたいって思ったから」

「そうなの……」

「離れた時は急に寂しくなった……だから……やろう!」

「は? やろうって何を?」

「あの時の続きをだよ!」

「は……えっ? ちょっと……ええええええええええっ!!?」

 ルーナは目をまんまるにし、この平原の端から端にまで届きそうなほどの大声で、絶叫した。

「僕はルーナとなら、何時間でも抱き合ってられる! それが僕の答えだ!!」

「なに滅茶苦茶恥ずかしいことをサラッと大声で言ってるのよ!」

「僕は一人の男として、お前を受け止める準備はできている!!」

「それもう告白を飛び越えちゃって、プロポーズの領域じゃない!」

「もういっそのことそれでもいい! さあ来いっ!!」

「決断が軽すぎるわっ!! って! ちょ……!」

 渾身のルーナのツッコミも決まったところで、僕はもう待つことに痺れを切らし、僕の方からルーナの体を抱きしめにかかった。

 あの時とは、逆の立場だった。

「ルーナ……待たせてゴメン。気づくのが遅くなって……ゴメン」

 僕がそう言うと、ルーナはそれに答えるようにして、僕の体に両腕をまとわせ、ぎゅっと抱きしめ返してきた。

「……謝らないで。わたしもやっと、伝えることができたんだから」

「そっか……」

「これからはちゃんと伝える……アンタ……いや、ロクヨウにはわたしの素直な気持ちを……」

「ああ、僕もそうするし、これからは全て漏らさずに受け止めるよ。ルーナの気持ちを……」

 まだ日はさんさんと輝いており、とてもじゃないが夕日とか、夜景とか、そんなロマンチックな背景が用意されているような場所ではない。

 言ってしまえば、どこにでもありそうな野っぱらで、真昼間から男女が抱き合っているという、一歩間違えればシュールな絵面だ。

 だけど僕はこの光景を、一生を通して決して忘れない。それは僕にとって、生まれて初めて全てを知り尽したいと思える、大切な人ができた瞬間であったから。

 地獄に落ちる前に出会えて……本当に良かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョン・イーツ! ~戦闘力ゼロの俺、スキル【絶対配送】でS級冒険者に「揚げたてコロッケ」を届けたら、世界中の英雄から崇拝されはじめた件~

たくみさん
ファンタジー
「攻撃力ゼロのポーターなんて、配信の邪魔なんだよ!」  3年尽くしたパーティから、手切れ金の1万円と共に追放された探索者・天野蓮(アマノ・レン)。  絶望する彼が目にしたのは、ダンジョン深層で孤立し、「お腹すいた……」と涙を流すS級美少女『氷姫』カグヤの緊急生放送だった。  その瞬間、レンの死にスキルが真の姿を見せる。  目的地と受取人さえあれば、壁も魔物も最短距離でブチ抜く神速の移動スキル――【絶対配送(デリバリー・ロード)】。 「お待たせしました! ご注文の揚げたてコロッケ(22,500円)お届けです!」  地獄の戦場にママチャリで乱入し、絶品グルメを届けるレンの姿は、50万人の視聴者に衝撃を与え、瞬く間に世界ランク1位へバズり散らかしていく!  一方、彼を捨てた元パーティは補給不足でボロボロ。 「戻ってきてくれ!」と泣きつかれても、もう知らん。俺は、高ランク冒険者の依頼で忙しいんだ!

異世界召喚されたが無職だった件〜実はこの世界にない職業でした〜

夜夢
ファンタジー
主人公【相田理人(そうた りひと)】は帰宅後、自宅の扉を開いた瞬間視界が白く染まるほど眩い光に包まれた。 次に目を開いた時には全く見知らぬ場所で、目の前にはまるで映画のセットのような王の間が。 これは異世界召喚かと期待したのも束の間、理人にはジョブの表示がなく、他にも何人かいた召喚者達に笑われながら用無しと城から追放された。 しかし理人にだけは職業が見えていた。理人は自分の職業を秘匿したまま追放を受け入れ野に下った。 これより理人ののんびり異世界冒険活劇が始まる。

レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった

あめとおと
ファンタジー
異世界に転移した主人公が得たスキルは【地図作成】。 戦闘能力ゼロ、初期レベル1。 冒険者ギルドでは「外れスキル」と笑われ、 新人向けの雑用クエストしか回ってこない。 しかしそのスキルは、 ダンジョンの隠し通路、未踏破エリア、消えた古代文明の痕跡まで“地図に表示する” という、とんでもない能力だった。 生き残るために始めた地味な探索が、 やがて世界の秘密と、国家すら動かす大冒険へ――。 これは、 戦えない主人公が“冒険そのもの”で成り上がる物語。 同作品を「小説家になろう」で先行配信してます。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。 彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。 だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。 結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。 そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた! 主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。 ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?

勘違いで召喚して来たこの駄女神が強引すぎる 〜ふざけたチートスキルで女神をボコしながら冒険します〜

エレン
ファンタジー
 私は水無月依蓮《みなづきえれん》、どこにでもいる普通の女子高生だ。  平穏な生活を送っていた私は、ある日アルテナと名乗る女神に召喚されてしまう。  厨二臭いその女神が言うには、有給休暇で異世界冒険したいから、従者としてついて来なさいとの事。  うん、なんだその理由は。  異世界なんて興味ない、とっとと私を元の場所に返せ。  女神を殴ったり踏みつけたりしてやっと返してもらえるかと思いきや。  え? 勝手に人間を異世界に呼ぶのは天界の掟で禁止? バレたら私も消される?  ふざけるなー!!!!  そんなこんなで始まる私とポンコツ女神アルテナのドタバタ異世界冒険。  女神が貴族をハゲさせたり、「器用貧乏・改」と言うふざけたスキルを習得したり、ゴブリンの棲家に突撃する羽目になったり、手に入れた家が即崩壊したり、色々起きるけど全てを乗り切って見せる。 全ては元の世界に帰るために!!

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

処理中です...