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BACK TO THE OCEAN Chapter1
第17章 星空の下【6】
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「えぇ……」
ルーナがどんな反応をするか更に気になり、僕は苦々しい表情をしてみせる。
小さい男の子がよく、好きな女の子にイタズラをするような、そんな心理が多分、今の僕には働いているのかもしれない。
嫌なヤツ……と言われれば、そうでもあるんだけど。
「……もういい」
すると彼女はごろりと寝返りを打ち、僕に背中を向けてしまった。
もしかして、拗ねてしまったか?
しかしこのままルーナを不機嫌にしておくのはさすがにマズい。怒りの種が芽吹く前に摘み取っておかないと、たちまち厄介なことになりかねない。
「じょ……冗談だよ冗談! 化粧水でも、ボディクリームでも買ってやるよ」
「ホントに! やったー!」
「えっ?」
買ってやるという言葉を僕から引き出した途端、ルーナはまるで、そうなる展開を待っていたかのように、すぐに機嫌を取り戻し、僕の方に顔が来るよう、また寝返りをうった。
「ゼロが前に言ってたのよ、男は女の涙に弱いって。まさか本当に上手くいくとは思って無かったけど」
「ああ……そうなんだ」
ルーナは一応、悲しんだフリをしていたのか。
僕は怒ってしまったと勘違いし、そして彼女は一度不機嫌になったら、とことん険悪になることを知っているから、それを恐れたが故のアフターケアという感じだったのだが……まあ結果はどうであれ、怒っても悲しんでもいなかったのだから、良しとしよう。
「でもロクヨウ、本当に無理ならいいのよ? それに今はそんな、オシャレを気にしているような時じゃないし……」
しかしルーナは再度、僕に確認をとってくる。
彼女の中の優しさや、相手を配慮する心が、こういうところでしっかりと形として出てくる……そんな、いつものイケイケな彼女とのギャップを垣間見ることで、僕の彼女への恋しさはどんどんと増してしまう。
僕、こういうのにトコトン弱すぎ……。
「別に気にすること無いよルーナ。年頃の女の子なんだから、そういうことを我慢してるとストレスにもなるし、それに……鮫肌のようなガサガサ肌で抱かれるより、白魚のようなすべすべ肌で僕は抱かれたいから!」
「なによそれ? 結局アンタのためってことじゃない」
「まあほら……ルーナは肌を綺麗に保てるし、僕はすべすべの肌に抱かれて幸せだし、ここは好きな物を分け与えてるってことでね?」
「それ、昼間にわたしが言ったことじゃない。盗まないでよ」
「リスペクトしただけだよ」
「物は言いようじゃない……ふふっ!」
「ははっ! そうかもしれないな」
本当に本当に、楽しい時間だった。
僕がこれから、彼女とこんな時間を、あとどれくらい過ごすことができるのかは分からないけれど、でもその一回一回を、大切にしたい、心に残るものにしていきたい。
でも、こうも思ってしまう。僕が世界と戦うなんて言わなかったら、こんな気持ちにならずに済むのかな……なんて。
ずっと彼女と一緒に、ずっと平穏な時間を分かち合うことができるのかなって。
でも、そうはいかない。一度歩き出した道を、そう易々と変えることは許されない。
そんなことをしたら、それこそ仲間を裏切ることになるし、そして一番、ルーナがそれを許してはくれないだろう。
修羅の道からはもう戻れない。だったら修羅の道で、彼女を守ればいい、彼女を愛せばいい。
そして手に入れればいい……平穏に過ごせる未来を。
「おっ!」
「あっ!」
僕達は同時に、声をあげる。
それは星の瞬く夜空を、一筋の光がスッと斜め下に向かって流れていったからだ。
そう、それは流れ星だった。
多分、初めて見たかもしれない。二十四年間、この世に生を受けて最初に見た流れ星。
それは本当に一瞬で、本当に儚げな光ではあったのだが、しかししっかりと僕の目に、僕の心に残るような、そんな煌めきだった。
「ねえアンタ、何か願い事した?」
「願い事? いや、してないけど、何で?」
ルーナに問われ、僕は首を横に振る。
なんせ一瞬だったから、そんなことを考えている余裕は無く、見るだけで精一杯だったというのもあるが、そもそも何故、流れ星を見て願い事をするのか、その意味すらも僕は知らなかった。
「何でって、流れ星が流れている間にお願い事を三回すると、願いが叶うって聞いたこと無い?」
「へえ……聞いたこと無いな」
「そうなの……でもまあ、あんな一瞬の間に三回も願わなきゃいけないって相当難しいわよね。つまりそれだけ、自分の願いを叶えるのは難しいっていう暗示なのかしら?」
「ロマンチックな話なのに、そう考えたら一気に現実感が出てくるな……」
でも実際、願いを叶えるなんて、早々誰もが成し遂げられることではないということを、一番よく知っているのは僕自身だ。
僕は一度、勇者になるという願いをあと一歩のところで挫かれ、挫折してしまった経験がある。だから願うということへの無力さを、知っていた。
願っているだけでは、何も前には進まない。願っている内は、何も果たせていないのだと。
今はどうなのかな……少しでも前に進めているのだろうか?
「大丈夫よ」
「えっ?」
すると何も僕は喋っていないのに、ルーナはその一言を突然言ってのけた。
「どうせアンタのことだから、自分のことと重ねていたんでしょ?」
「まあ……うん」
「確かに頼りないところもあるし、臆病だったり、ちょっと空気読めないところもあるけど、でも前とは比べ物にならないくらいに、わたし達のために頑張ってくれているっていうのは、今日のマンハットさんの勧誘の時の、アンタの言葉で十分にわたし達にも伝わったから……それに……」
「それに?」
それまで堂々とした口調で喋っていたルーナだったが、急に口をもごもごさせ、そして視線を逸らしたまま、小さく呟くように言った。
「それにその……あの時のアンタ……カッコよかったし……」
「えっ!? そ……そっか……えっと……ありがとう……」
ルーナのその表情に、その言葉に、僕は胸が高鳴って仕方が無い。
途中までは褒められているのか、はたまた貶されているのか分からないような、そんな心境だったのだが、しかし最後の言葉で僕は確信することができた。
やっぱりこの子は、正直じゃないなと。そしてそんなところもひっくるめて、僕は彼女のことが好きなんだと。
随分とのぼせてるな……僕も。
「……ねえ」
「ん?」
「もしアンタがあの流れ星に願い事をするなら、どんなことを願ってた?」
「ああ……」
ルーナの質問に、僕は少しの間考える。というのも、僕自身願うことに対して、それは無力だと思っているからだ。
どんなに願いを強くしたところで、それだけでは叶わない。願っているだけでは何も果たせないことを、僕は知っている。
だから、そんな僕が出した答えは……。
「……僕に願いは無い」
「えっ?」
ルーナはその時、目を丸くしていたが、しかし僕は更に続ける。
「だけど、その代わりに宣言する」
僕が願いの代わりにするのは、宣言。
そうなりますように、ではなく、そうなるようにする、という表明だった。
「僕はこの世界を新しい方向に導いて、そしてその世界でルーナと一緒に暮らす!」
「えっ……一緒に暮らすって……」
「その時になったら結婚しよう! ルーナっ!!」
僕からの宣告を耳にした途端、ルーナは顔を一気に真っ赤に染め上げた。
「けっ……!!? いやいやいやいやっ! 昼間もそうだったけど、アンタソフトにプロポーズをし過ぎなのよ!!」
「満天の星空で、誰もいない中で二人っきり……これ以上のプロポーズ日和は他に無いだろっ!?」
「プロポーズ日和ってなにっ!? 変な言葉を作るなっ!! それにこういうのはタイミングが大事なんでしょっ?!」
「タイミング……っていっても、まだ先の話だぜ?この世界をまず解放することが先だからね」
「えっ!? まっ……まあ……そうなんだけど……」
「それに僕達はこれから世界に狙われるような、そんな身になるかもしれない。だから今伝えておかないといけないことは、今伝えておく」
「そっか……そうね……じゃあわたしも伝えておく」
するとルーナは横になった状態で、僕との距離を更に縮め、そして左手を僕の横になっている体の上に、右手を体の下の隙間に入れて、僕の体を包み込んだまま、こう宣言した。
「わたしもアンタと同じ世界を、同じ場所を生きる。だからその時まで、互いに生き合いましょ」
「ああ……そうしよう」
僕は自然と両手をルーナの体にまとわせ、そしてしっかりと彼女を感じるために強く、強く、抱きしめた。
夜空に輝く幾万もの星々……もしその中に願いを叶える星があるのならば、これだけは是が非でも叶えてもらいたいものだ。
僕と彼女が無事、新しい世界で、永遠と愛し合えるような日々がきますように……と。
ルーナがどんな反応をするか更に気になり、僕は苦々しい表情をしてみせる。
小さい男の子がよく、好きな女の子にイタズラをするような、そんな心理が多分、今の僕には働いているのかもしれない。
嫌なヤツ……と言われれば、そうでもあるんだけど。
「……もういい」
すると彼女はごろりと寝返りを打ち、僕に背中を向けてしまった。
もしかして、拗ねてしまったか?
しかしこのままルーナを不機嫌にしておくのはさすがにマズい。怒りの種が芽吹く前に摘み取っておかないと、たちまち厄介なことになりかねない。
「じょ……冗談だよ冗談! 化粧水でも、ボディクリームでも買ってやるよ」
「ホントに! やったー!」
「えっ?」
買ってやるという言葉を僕から引き出した途端、ルーナはまるで、そうなる展開を待っていたかのように、すぐに機嫌を取り戻し、僕の方に顔が来るよう、また寝返りをうった。
「ゼロが前に言ってたのよ、男は女の涙に弱いって。まさか本当に上手くいくとは思って無かったけど」
「ああ……そうなんだ」
ルーナは一応、悲しんだフリをしていたのか。
僕は怒ってしまったと勘違いし、そして彼女は一度不機嫌になったら、とことん険悪になることを知っているから、それを恐れたが故のアフターケアという感じだったのだが……まあ結果はどうであれ、怒っても悲しんでもいなかったのだから、良しとしよう。
「でもロクヨウ、本当に無理ならいいのよ? それに今はそんな、オシャレを気にしているような時じゃないし……」
しかしルーナは再度、僕に確認をとってくる。
彼女の中の優しさや、相手を配慮する心が、こういうところでしっかりと形として出てくる……そんな、いつものイケイケな彼女とのギャップを垣間見ることで、僕の彼女への恋しさはどんどんと増してしまう。
僕、こういうのにトコトン弱すぎ……。
「別に気にすること無いよルーナ。年頃の女の子なんだから、そういうことを我慢してるとストレスにもなるし、それに……鮫肌のようなガサガサ肌で抱かれるより、白魚のようなすべすべ肌で僕は抱かれたいから!」
「なによそれ? 結局アンタのためってことじゃない」
「まあほら……ルーナは肌を綺麗に保てるし、僕はすべすべの肌に抱かれて幸せだし、ここは好きな物を分け与えてるってことでね?」
「それ、昼間にわたしが言ったことじゃない。盗まないでよ」
「リスペクトしただけだよ」
「物は言いようじゃない……ふふっ!」
「ははっ! そうかもしれないな」
本当に本当に、楽しい時間だった。
僕がこれから、彼女とこんな時間を、あとどれくらい過ごすことができるのかは分からないけれど、でもその一回一回を、大切にしたい、心に残るものにしていきたい。
でも、こうも思ってしまう。僕が世界と戦うなんて言わなかったら、こんな気持ちにならずに済むのかな……なんて。
ずっと彼女と一緒に、ずっと平穏な時間を分かち合うことができるのかなって。
でも、そうはいかない。一度歩き出した道を、そう易々と変えることは許されない。
そんなことをしたら、それこそ仲間を裏切ることになるし、そして一番、ルーナがそれを許してはくれないだろう。
修羅の道からはもう戻れない。だったら修羅の道で、彼女を守ればいい、彼女を愛せばいい。
そして手に入れればいい……平穏に過ごせる未来を。
「おっ!」
「あっ!」
僕達は同時に、声をあげる。
それは星の瞬く夜空を、一筋の光がスッと斜め下に向かって流れていったからだ。
そう、それは流れ星だった。
多分、初めて見たかもしれない。二十四年間、この世に生を受けて最初に見た流れ星。
それは本当に一瞬で、本当に儚げな光ではあったのだが、しかししっかりと僕の目に、僕の心に残るような、そんな煌めきだった。
「ねえアンタ、何か願い事した?」
「願い事? いや、してないけど、何で?」
ルーナに問われ、僕は首を横に振る。
なんせ一瞬だったから、そんなことを考えている余裕は無く、見るだけで精一杯だったというのもあるが、そもそも何故、流れ星を見て願い事をするのか、その意味すらも僕は知らなかった。
「何でって、流れ星が流れている間にお願い事を三回すると、願いが叶うって聞いたこと無い?」
「へえ……聞いたこと無いな」
「そうなの……でもまあ、あんな一瞬の間に三回も願わなきゃいけないって相当難しいわよね。つまりそれだけ、自分の願いを叶えるのは難しいっていう暗示なのかしら?」
「ロマンチックな話なのに、そう考えたら一気に現実感が出てくるな……」
でも実際、願いを叶えるなんて、早々誰もが成し遂げられることではないということを、一番よく知っているのは僕自身だ。
僕は一度、勇者になるという願いをあと一歩のところで挫かれ、挫折してしまった経験がある。だから願うということへの無力さを、知っていた。
願っているだけでは、何も前には進まない。願っている内は、何も果たせていないのだと。
今はどうなのかな……少しでも前に進めているのだろうか?
「大丈夫よ」
「えっ?」
すると何も僕は喋っていないのに、ルーナはその一言を突然言ってのけた。
「どうせアンタのことだから、自分のことと重ねていたんでしょ?」
「まあ……うん」
「確かに頼りないところもあるし、臆病だったり、ちょっと空気読めないところもあるけど、でも前とは比べ物にならないくらいに、わたし達のために頑張ってくれているっていうのは、今日のマンハットさんの勧誘の時の、アンタの言葉で十分にわたし達にも伝わったから……それに……」
「それに?」
それまで堂々とした口調で喋っていたルーナだったが、急に口をもごもごさせ、そして視線を逸らしたまま、小さく呟くように言った。
「それにその……あの時のアンタ……カッコよかったし……」
「えっ!? そ……そっか……えっと……ありがとう……」
ルーナのその表情に、その言葉に、僕は胸が高鳴って仕方が無い。
途中までは褒められているのか、はたまた貶されているのか分からないような、そんな心境だったのだが、しかし最後の言葉で僕は確信することができた。
やっぱりこの子は、正直じゃないなと。そしてそんなところもひっくるめて、僕は彼女のことが好きなんだと。
随分とのぼせてるな……僕も。
「……ねえ」
「ん?」
「もしアンタがあの流れ星に願い事をするなら、どんなことを願ってた?」
「ああ……」
ルーナの質問に、僕は少しの間考える。というのも、僕自身願うことに対して、それは無力だと思っているからだ。
どんなに願いを強くしたところで、それだけでは叶わない。願っているだけでは何も果たせないことを、僕は知っている。
だから、そんな僕が出した答えは……。
「……僕に願いは無い」
「えっ?」
ルーナはその時、目を丸くしていたが、しかし僕は更に続ける。
「だけど、その代わりに宣言する」
僕が願いの代わりにするのは、宣言。
そうなりますように、ではなく、そうなるようにする、という表明だった。
「僕はこの世界を新しい方向に導いて、そしてその世界でルーナと一緒に暮らす!」
「えっ……一緒に暮らすって……」
「その時になったら結婚しよう! ルーナっ!!」
僕からの宣告を耳にした途端、ルーナは顔を一気に真っ赤に染め上げた。
「けっ……!!? いやいやいやいやっ! 昼間もそうだったけど、アンタソフトにプロポーズをし過ぎなのよ!!」
「満天の星空で、誰もいない中で二人っきり……これ以上のプロポーズ日和は他に無いだろっ!?」
「プロポーズ日和ってなにっ!? 変な言葉を作るなっ!! それにこういうのはタイミングが大事なんでしょっ?!」
「タイミング……っていっても、まだ先の話だぜ?この世界をまず解放することが先だからね」
「えっ!? まっ……まあ……そうなんだけど……」
「それに僕達はこれから世界に狙われるような、そんな身になるかもしれない。だから今伝えておかないといけないことは、今伝えておく」
「そっか……そうね……じゃあわたしも伝えておく」
するとルーナは横になった状態で、僕との距離を更に縮め、そして左手を僕の横になっている体の上に、右手を体の下の隙間に入れて、僕の体を包み込んだまま、こう宣言した。
「わたしもアンタと同じ世界を、同じ場所を生きる。だからその時まで、互いに生き合いましょ」
「ああ……そうしよう」
僕は自然と両手をルーナの体にまとわせ、そしてしっかりと彼女を感じるために強く、強く、抱きしめた。
夜空に輝く幾万もの星々……もしその中に願いを叶える星があるのならば、これだけは是が非でも叶えてもらいたいものだ。
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