英雄のいない世界で

赤坂皐月

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BACK TO THE OCEAN Chapter1

第17章 星空の下【5】

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 夜も更け、明日はついに目的地であるアクトポートへと入るため、今日は早めに就寝しようという話になり、寝る準備を始めた僕達だったが、しかしそこでマンハットが、二人ならキャンピングカーの車内で寝ることができるという提案をしてきたので、僕とルーナはその権利を、ライフ・ゼロとマジスターに譲ることにした。

 モチロン言わずとも、寝る環境としてはふかふかのシートの上で寝ることのできる車内の方が、断然良いことは僕達も知っていたのだが、しかし僕とルーナには、快適な睡眠なんかよりも、もっと大切な約束があったのだ。

 二人で寄り添って、一緒に寝ること。

 確かにキャンピングカーの車内でもできることだが、しかし天井がある場所と無数の星が瞬く夜空の下とでは、ロケーションやムードに断然、差が出てくる。

 それに運転席ではマンハットが寝ているため、何かと気を遣わねばならないことを考えたら、僕達が外で寝ることが、お互いに最良の方法であることは言うまでも無かった。

 僕とルーナは少し車から離れた場所に良さげな草地があったので、そこに敷布団の代わりとなるシートを敷いて、寝転がってみる。

 マジスターとライフ・ゼロは車中泊となったので、不要になった二人の分のシートも合わせて、二重に敷いたこともあり、思いの外背中は痛くならず、初日よりかは快適に寝れるような、そんな予感がした。

 宵闇の空には雲一つ浮いておらず、一日中蛍光灯やネオンらの、人工の光が輝くマグナブラの市街地では見ることのできない、天然の無数の光が散りばめられていた。

「綺麗だ……」

 普通こういう台詞は、女の子から言いだすのがテンプレートなのだろうけれど、しかしルーナよりも先に、僕の口から自然と出てしまった。

 今にも降ってきそうな星々……まさか二十四歳にもなって、こんな、星に感動するような童心が僕にも残っていることに、正直ビックリしてしまう。

 一日目の野宿では、この先の不安や寝ることに集中し過ぎて、そんな夜空を堪能するような気分では無かったのだが、しかし今となってはもう、こんなに楽しみ、こんなに満喫することのできる余裕を、僕は手にしていた。

 これが所謂、旅慣れというやつなのだろうか?とはいっても、まだまだビギナーのクラスからは、抜け切れていないのだろうけども。

「ふふ……そんなに星に感動するなんて、アンタって結構単純よね?」

 そう言って、ルーナはくすりと笑ってみせる。

「えっ……ああ……まあ、こんなに星をちゃんと見たのは久々だったから……」

 ここ最近は忙しかったし、それまでは夜になると、いつも通っている飲み屋に行って、酔い潰れるまで飲んだ暮れてたりしたから、こうやって夜空と真正面に向かい合って星を眺めたのは、まだ勇者の道を志し、朝から晩まで剣を振り回して、疲れて倒れたあの時以来だろうか。

「そうなの……ねえ、アンタっていくつなんだっけ?」

 それは本当に、唐突にされた質問だった。

「えっ? 僕二十四だけど」

「あらそうだったの! わたしてっきり、もうちょっと下だと思ってた!」

 それはお世辞ではなく、本当にルーナは驚いているようだった。

「まあ僕、年齢の割に童顔だから、よく二十とか十八とかに間違われるよ。自慢じゃないけど」

「十分自慢してるじゃない」

「まあ……」

 自慢……ではあるけどね。

 やっぱり年齢より若く見られるのは、悪い気持ちにはならない。

 むしろ嬉しいくらいだ。

「でもさ、こういうのもなんだけど、見た目はアンタ若く見えるけど、性格はホント、それより上って感じするわよね」

「えっ……」

「ちょっと理屈っぽいところとか、あと最近は少し直ってきたみたいだけど、頑固なところとか」

「うーん……まあ……」

 思い当たる節は、いくつかあった。理屈っぽいのも頑固なのも。

 それにルーナが言ったこと以外にも、好んで飲むお酒が、カクテルとか、そんな若者が好むオシャレな物ではなく、ラム酒だったり、あと綺麗なバーよりも、小汚い居酒屋が好きだったりと、趣味嗜好までもがちょっと、言葉は悪いかもしれないが、オッサンっぽいところはあった。

「でも……そう、二十四なんだ。わたしよりも年上ね」

「ルーナはいくつなんだ?」

「レディに対してすんなり訊く質問じゃないわね?」

「じゃあいいや」

「ちょっと! もう少し粘ろうとしなさいよっ!」

「だって訊く質問じゃないって……」

「そういうところが理屈っぽいっていうのよ!」

 ルーナは怒るまではいかないが、しかしそう言って、頬を膨らませていた。

 ちょっとそれとは違うような気がするんだけど……でもまあ、ルーナの年齢を知っておきたいという気持ちは僕にもあるし、もうちょっと粘ってみるのもいいかもしれないな。

 それにルーナもきっと、訊いて欲しいんだろうし。

「それじゃあう~ん……ルーナちゃん、お歳はいくつでちゅか~?」

「えっとね~……って! わたしが年下だって分かったからって、早速子ども扱いするなっ!」

 ボケてみたら、ノリ突っ込みをされてしまった。う~ん……そういう口もいけるのか……。

 ちなみに余談だが、「えっとね~」と子供の真似をしたルーナに、僕は図らずも、心を打たれてしまった。

 素直にこの子かわいいって、思っちゃった。

「それでルーナ、いくつなんだ?」

「結局それで落ち着くのね。わたしは十九よ」

「十九……かぁ……若いなぁ……」

「たった五歳の差じゃない」

「たったって……はあ……」

 僕はそのルーナの発言に、大きな溜息を吐き、そんな僕の姿を見て、彼女は眉をしかめた。

「なによ?」

「いいかいルーナ、まだなってないからそんなこと言えるけど、ティーンと二十歳はたちの間には、それはそれは大きな隔たりがあるんだぜぇ?」

「ティーンって……そうは言っても、わたし十九だから、たった一歳の差よ? それに二十歳の方が、周りからちゃんと大人扱いされるから良いじゃない」

「大人なんて、なってもそんなに得しないよ……それに僕は男だからそんなに気にしなかったけど、やっぱり十代の時と二十代の時とでは、肌の質とか結構変わっちゃうらしいよ?」

「えっ……そうなの?」

 ルーナは焦るようにして、両手を自分の頬に当てる。

 いつもはガサツそうな彼女だが、やっぱりこういうところはしっかり女の子なんだな。

「肌の手入れをサボると、すぐに荒れちゃうとか聞いたことがあるよ」

「ええ……わたし化粧水とかボディクリームとか持ってないわよ……どうしようロクヨウ!?」

「ぼ……僕に言われても……」

「むう……あっそうだ! 確かアクトポートって最大交易都市とかマジスターさんが言ってたわよね?」

「ああ、言ってたね」

「そんな大きい街なら、絶対化粧を置いているお店はあるわ! だからロクヨウ……ね?」

 そう言うと、ルーナは僕に向けてウインクをしてきた。

 今までの会話から、彼女が僕に何かを要求しているのは分かったが、しかしとりあえず、ここは様子見として、とぼけてみることにした。

「ね? って、何が?」

「買って?」

 するとルーナは、今度は単刀直入に、用件だけを僕に迫ってきた。

 やっぱりそういうことだったか……。
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