英雄のいない世界で

赤坂皐月

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BACK TO THE OCEAN Chapter2

第18章 民衆の街【5】

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「うぬの思っておることは、決して的外れというわけでもない。魔物というのは味云々よりも、食べれればそれでいいという輩が多いからな。我も基本は腹の足しになれば何でも良いのだが、しかしやはり、そこに旨味があるかどうかで、食べた後の満足感は異なってくる。だから我はその旨味を求めたのだが、しかしどうにも奴らとは価値観が合わなかったようだな……」

 そう言って、皿の上に置いていた、紙に包まれたハンバーガーを再び両手で持ちながら、過去のことをフィードバックするライフ・ゼロ。

「ああ……でもそれ、僕も分かるよ。よく人間の中にも、胃の中に入れば何だって同じっていう人がいるんだけど、でも美味いって感じる感性があるから、また食欲が湧いて食べ物を食べたくなるんだし、食べていかないと生物は餓死するんだし、だから旨味っていうのはとても大切なものだと思うんだ」

「うむ、我も同感だ。もしかしたら魔物には、そういう感覚が欠如しておるのかもしれないな……」

 う~んと唸って、僕の意見に賛同するライフ・ゼロ。

 なんだろう……ここまでコイツと意見が合ったことって、初めてじゃないだろうか?

 いつもは、ありとあらゆる点で意見が一致しないし、主にライフ・ゼロが僕の意見に反発してくるから、お互いに歩み寄ることなど、今まで無かったのだが……。

「まあよいわ、他の魔物のことなど。よそはよそ、うちはうちだ」

「なんだよその便利な言葉……お前と同じ魔物のことだろ?」

「フン、我はもう魔王ではないからな。配下でもなんでも無いようなやつらのことを案ずる気にはならん。それに……」

「それに?」

「我はやつらのようにならんで良かったと思っておる! こんな美味い物の旨味も分からんような魔物に生まれんで良かったわ、となっ! キッキッキッ!」

 言い切って、ライフ・ゼロは笑いながら再び、手に持ったハンバーガーに噛り付き始めた。

 僕もその意見には同感だな。旨味の分かる人間に生まれて、本当に良かった。

 それから僕とルーナ以外のみんなが、ハンバーガーを食べ終えそうになった頃、ようやく店員の大男が、僕の注文した海賊パイレーツバーガーを手に持ち、厨房から出てきた……のだが。

「げっ!!?」

 待ちに待ったハンバーガーの御登場となると思いきや、僕はそのパイレーツバーガーの姿を見て、思わず表情を歪めてしまった。

 それは決して、見た目が変だとか、ゲテモノっぽかったからとか、そういう意味では無く、姿形はみんなの食べているハンバーガーにそっくりな物だった。

 しかし僕が驚いたのは、その大きさ。さっきまで普通のハンバーガーを配膳する際には、男の持っているトレーには、それが二つ収まり、なおかつ、それでもトレーにはまだ空きスペースがあったのだが、しかし今運んでいるパイレーツバーガーは、そんなトレーからもはみ出るほどの、二倍どころか、五倍ほどの大きさをしている、そんなとんでもない、とてつもないハンバーガーだったのだ。

 そうか……最初に店員の男が、パイレーツバーガーを誰が注文したか確認を取ってきたのは、そのためだったのか。

 あのどデカい怪物に挑む猛者の顔を、確認していたのか……もしあそこでルーナやライフ・ゼロが手を挙げていたら、おそらく店員に止められていたかもしれない。

 そんな厳しい審査を通過して、僕はあの化物バーガーを食い切ることができる勇者だと店員に判断されたと共に、その人物を特定したところで、残すという逃げ道を封殺されたというわけだ……。

 それにしてもあの店員、最初にパイレーツバーガーを頼んだ際に、平坦な声で「大きいハンバーガーになりますが」という一言しか、注意喚起してこなかったよな?

 大きいハンバーガーと言うよりは、あれは超巨大ハンバーガーだろ……警告をするのなら、言葉とか声の出し方とか、もっと色々と大袈裟に表現をした方が良いと思うぞ……と、正面切っては言えないので、心の中で僕は彼にアドバイスをしておいた。

「お待たせいたしました、こちらがパイレーツバーガーです」

 店員の男は、普通のハンバーガーのように皿で渡すのではなく、その下に敷いていたトレーごと僕の前に、その超巨大バーガーをドスン……という音はしなかったが、そんな重々しい迫力を感じさせる勢いで置いてみせた。

 しかしこうして目の前に置かれると、改めてその大きさに圧巻させられる。

「……あれ?」

 その時僕は、このパイレーツバーガーを近くから見たことによって、あることに気がついた。

 遠くから見ると、このパイレーツバーガーは、普通のハンバーガーを単に巨大化させた物のように見えていたのだが、しかし実はそうではなく、大きく異なる点が一つだけあり、それはハンバーガーパティの代わりに、巨大な揚げ物が挟まっていたのだ。

 しかもどうやらその揚げ物の上には白いソースがかかっており、よくよく見てみると、玉ねぎやピクルスを刻んだ物が含まれていたため、どうやらこのソースの正体はタルタルソースなのではないかと、僕は予想した。

「あの……この揚げ物は何なんですか?」

 僕が店員の男に尋ねると、男は顔色一つ変えずに、渋い声で答えた。

「それは白身魚のフライです」

「白身魚……ああ、だからパイレーツバーガーか」

 つまりは、陸上に生息する牛を、海中にいる魚にすることによって、海賊である『海』を表現したということなのだろう。

 ということは、この巨大さはあながち、海賊の『賊』を表現したというところだろうか?

 海賊とか山賊とか、とにかく賊というものには、どこかワイルドなイメージが着いているからな。

 そう考えると、このパイレーツバーガーはまさに、海賊という名に相応しい、そんな一品ではあった。

「トレーの横にナイフとフォークがありますので、それらを使ってお食べください」

 男に言われて見てみると、確かにトレーの右端に、パイレーツバーガーによって今にも埋もれそうになっているが、ナイフとフォークが置かれてあった。

 こんな巨大サイズのハンバーガーともなると、それを包むための紙など存在するわけも無く、パイレーツバーガーは剥き出しとなっていたので、手に持つこともできず(というか、そもそも大きさ的に持てないけど)用意されたフォークとナイフで切って食べていくしか方法はなかった。

「それではどうぞ、ごゆっくり」

 そう言い残して、全ての品を運び終えた男は、厨房の方へと静かに戻って行った。

「なんか……トンデモナイのが来ちゃったわね」

「ああ……」

 僕の真正面に座っているルーナは、目の前に置かれた巨大ハンバーガーを見て、呆然としていた。

 ちなみにルーナのまだ一口もつけていないハンバーガーは、パイレーツバーガーの物陰に入ってしまい、こちらからは全く見えなくなってしまっている。

「コヨミ……食えるか?」

 隣に座っているマジスターが、真剣な表情で僕を気遣ってくれる。

 本物の魔物にも臆しなかったマジスターだが、しかしこのモンスターバーガーに対しては、その姿を目にして、少し怯んでいるようだった。

「大丈夫……今の僕ならいける!」

 僕は右手にナイフを、左手にフォークを装備し、その巨大バーガーの真ん中部分に第一刀を入れる。

 するとパイレーツバーガーは思ったよりも柔らかく、ザクザクと揚げ物を切る音をたてながら、途中で引っかかること無く、真っ二つにすることができた。

 先程まではその外観に圧倒されていたのだが、しかし真っ二つにしたことにより、その断面がしっかりと見て取れるようになり、更にそこから白身魚のフライの芳醇な香りが匂ってきて、今までの恐れよりも、食欲という欲求の方が、僕の中で上回ってきた。

「いただきますっ!」

 更にナイフとフォークを使って一口分に切った物を、僕は気合を入れて口の中へと運んでいく。

「う……美味いっ! これメチャクチャ美味いっ!!」

 それは、白身魚のフライにタルタルソースと、味の濃い物が入っているので、それらに味覚の全てが支配されるんじゃないかと思いきや、間に挟まっているレタスとトマトと玉ねぎの味もしっかりとし、それどころかバンの味まで伝わってくるような、ダイナミックな見た目とは裏腹に、すごく繊細な味のするハンバーガーだったのだ。

 今まで食べてきたハンバーガーも美味いには美味かったのだが、しかしこのパイレーツバーガーには足元にも及ばない……そんな、いろんな意味で、僕の中の二十四年間に渡る、ハンバーガーの歴史を大きく塗り替えるような、そんな逸品だった。
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