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第2章 魔界への旅立ち
002【1】
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キョウスケとグレイは学校を出て、キョウスケの家へと向かう。
その途中、二人は一切の会話も交わさない。グレイは側から見れば犬にしか見えないため、そんな犬が突然喋りだしたら、それこそパニックが起こる原因になりかねないからだ。
数人の人が彼らを目撃しているが、どの人達も飼い主とペットの犬として見ていた。
その正体が魔物、ケルベロスなど誰が想像するだろうか。
「着いたよ」
家の前で、ようやくキョウスケは言葉を切り出す。
いつも帰ってくる家なのだが、今日だけは妙に特別なような気がキョウスケにはした。
するとグレイは家の前で急に立ち止まる。
「……キョウスケ、先に行ってカコさんを家の前まで呼んできてくれないか?この家にはかなり厳重な魔除けがされていて俺も入れないんだ」
目では見えないものだが、魔物にとってはそこに一つの境界線のようなものがあり、その先には決して踏み入ることのできない謂わばバリアのようなもの。それが魔除けだった。
「魔除け?この家にそんなものが……」
「多分……お前を守るためにシュンジが張ったのだろう。それをカコさんが維持し続けているに違いない」
「母さんが!?じゃあ母さんもデビルサモナーなの?」
「いや……それは俺から言うことじゃない。カコさんから直接聞いた方がいい」
グレイは決してキョウスケの母親、カコのことは自分から話さない。それは何よりもキョウスケのためだと考えていたからだ。
「……分かった。呼んでくるよ」
キョウスケは家の中に入り、いつものようにリビングへと向かう。そこには、洗濯物を畳んでいる母親、カコの姿があった。
「ただいま母さん」
「おかえりキョウスケ、今日は遅かったわね?またミレイちゃんと遊んでたの?」
「うん……まあね」
キョウスケは背負っていたくったくたのランドセルを床に置き、しばらくの間その場に突っ立っていた。
先程までの非現実的な場所からこの現実的な場所に戻って来ただけで安心感を覚える。
しかしこの話を切り出せばまた非現実へと戻ってしまう。そのことがキョウスケには不安で仕方がなかったのだ。
「どうしたのキョウスケそんなとこで突っ立って?椅子に座ったらいいじゃない」
「…………ねぇ母さん、ちょっといい?」
だがキョウスケは決心する。
グレイが言っていた本当の現実、それを知るためにはこの仮初めの現実から抜け出さなければならない。
彼の現実はもうこんな平穏なものではない。運命の歯車はすでに切り替わっていた。
「実は母さんに会わせたい人?……いやモノがあるんだ」
「会わせたいモノ?……何かしらね?」
ふふっ、と優しい笑みを浮かべるカコ。
母親のそんな笑顔が、今のキョウスケには心苦しかった。
「家の前に待たせてるから、ちょっと来てくれる?」
「分かったわ、ちょっと待ってね」
カコは膝の上にあった洗濯物を畳んでいく。
しかしその全てが、キョウスケの衣服だった。
「よし!じゃあキョウスケ行きましょうか」
「うん……」
そしてキョウスケは家の外までカコを連れて行く。
グレイの言っていた辛い現実がどれほどのものなのか今のキョウスケには分からない。
ただ、この玄関の扉を開けるともうこの優しい世界には戻れない。それだけは分かっていた。
それでも少年は玄関の扉を開ける。
それは、彼の運命を開いた瞬間でもあった。
「……あなたは」
扉を開けた先には、グレイが立っていた。その姿を見てカコの足が止まる。
先程までの優しい笑みはもうない。
「お久しぶりです……が今のあなたに会うのは初めてですよね」
グレイはそう言って頭を下げる。
二人の間には非常に居心地の悪い緊張感がピンと張りつめる。
「……あなたが来たということは、この子を魔界へ連れて行くということですね」
「はい。俺の見立て、キョウスケは立派な少年でシュンジにも勝るほどの魔力を持っています。ベルゼブブを倒せるのは彼しかいません」
「そう……シュンジさんより……」
カコは優しい目をキョウスケに向ける。しかしその瞳には寂しさがあり、その寂しさはキョウスケにも伝わってきた。
「母さん……」
キョウスケが呟くと、カコはキョウスケの頭を優しく撫で。
「……そうね、もうキョウスケも立派な六年生だもんね。もう……話してもいいわね」
カコの手がキョウスケから離れて行く。その手が離れると同時に、キョウスケには母がどんどん遠くへ行ってしまうような気がした。
「キョウスケ、あなたのお父さん、シュンジさんはデビルサモナーでベルゼブブに殺されたというのは聞いたかしら?」
「うん、グレイから聞いたよ」
「グレイ……あぁケルベロスさんのことね。名前まで付けて、もう立派なパートナーね」
微笑み、それからカコは続ける。
「実はシュンジさんが亡くなる前、ベルゼブブは私たち達家族を全員抹殺しようと悪魔の軍隊を送ってきたわ。その時はシュンジさんとケルベロスさんが戦って悪魔の軍隊は倒すことができたみたいなの」
だけど、とカコは言葉を詰まらる。キョウスケから離れた両手は震え、その両手で顔を覆ってしまう。
「だけど……その時お母さんはあなたを……あなたを悪魔から守るために……」
顔は両手で塞がっていて見えないが、カコの声は震え、涙声になる。
グレイの言っていた、キョウスケにとっての辛い現実。それが次の彼女の一言によって明らかなものとなった。
「お母さんは……悪魔に殺されてしまったの」
「えっ…………?」
カコの衝撃的な一言に、キョウスケは愕然としてしまう。
今まで親しくしてきた母親が、何年も前に既に死んでいた。となると、今ここにいる、今までここにいた母親は一体何なのか、キョウスケには全てが分からなくなってしまった。
その途中、二人は一切の会話も交わさない。グレイは側から見れば犬にしか見えないため、そんな犬が突然喋りだしたら、それこそパニックが起こる原因になりかねないからだ。
数人の人が彼らを目撃しているが、どの人達も飼い主とペットの犬として見ていた。
その正体が魔物、ケルベロスなど誰が想像するだろうか。
「着いたよ」
家の前で、ようやくキョウスケは言葉を切り出す。
いつも帰ってくる家なのだが、今日だけは妙に特別なような気がキョウスケにはした。
するとグレイは家の前で急に立ち止まる。
「……キョウスケ、先に行ってカコさんを家の前まで呼んできてくれないか?この家にはかなり厳重な魔除けがされていて俺も入れないんだ」
目では見えないものだが、魔物にとってはそこに一つの境界線のようなものがあり、その先には決して踏み入ることのできない謂わばバリアのようなもの。それが魔除けだった。
「魔除け?この家にそんなものが……」
「多分……お前を守るためにシュンジが張ったのだろう。それをカコさんが維持し続けているに違いない」
「母さんが!?じゃあ母さんもデビルサモナーなの?」
「いや……それは俺から言うことじゃない。カコさんから直接聞いた方がいい」
グレイは決してキョウスケの母親、カコのことは自分から話さない。それは何よりもキョウスケのためだと考えていたからだ。
「……分かった。呼んでくるよ」
キョウスケは家の中に入り、いつものようにリビングへと向かう。そこには、洗濯物を畳んでいる母親、カコの姿があった。
「ただいま母さん」
「おかえりキョウスケ、今日は遅かったわね?またミレイちゃんと遊んでたの?」
「うん……まあね」
キョウスケは背負っていたくったくたのランドセルを床に置き、しばらくの間その場に突っ立っていた。
先程までの非現実的な場所からこの現実的な場所に戻って来ただけで安心感を覚える。
しかしこの話を切り出せばまた非現実へと戻ってしまう。そのことがキョウスケには不安で仕方がなかったのだ。
「どうしたのキョウスケそんなとこで突っ立って?椅子に座ったらいいじゃない」
「…………ねぇ母さん、ちょっといい?」
だがキョウスケは決心する。
グレイが言っていた本当の現実、それを知るためにはこの仮初めの現実から抜け出さなければならない。
彼の現実はもうこんな平穏なものではない。運命の歯車はすでに切り替わっていた。
「実は母さんに会わせたい人?……いやモノがあるんだ」
「会わせたいモノ?……何かしらね?」
ふふっ、と優しい笑みを浮かべるカコ。
母親のそんな笑顔が、今のキョウスケには心苦しかった。
「家の前に待たせてるから、ちょっと来てくれる?」
「分かったわ、ちょっと待ってね」
カコは膝の上にあった洗濯物を畳んでいく。
しかしその全てが、キョウスケの衣服だった。
「よし!じゃあキョウスケ行きましょうか」
「うん……」
そしてキョウスケは家の外までカコを連れて行く。
グレイの言っていた辛い現実がどれほどのものなのか今のキョウスケには分からない。
ただ、この玄関の扉を開けるともうこの優しい世界には戻れない。それだけは分かっていた。
それでも少年は玄関の扉を開ける。
それは、彼の運命を開いた瞬間でもあった。
「……あなたは」
扉を開けた先には、グレイが立っていた。その姿を見てカコの足が止まる。
先程までの優しい笑みはもうない。
「お久しぶりです……が今のあなたに会うのは初めてですよね」
グレイはそう言って頭を下げる。
二人の間には非常に居心地の悪い緊張感がピンと張りつめる。
「……あなたが来たということは、この子を魔界へ連れて行くということですね」
「はい。俺の見立て、キョウスケは立派な少年でシュンジにも勝るほどの魔力を持っています。ベルゼブブを倒せるのは彼しかいません」
「そう……シュンジさんより……」
カコは優しい目をキョウスケに向ける。しかしその瞳には寂しさがあり、その寂しさはキョウスケにも伝わってきた。
「母さん……」
キョウスケが呟くと、カコはキョウスケの頭を優しく撫で。
「……そうね、もうキョウスケも立派な六年生だもんね。もう……話してもいいわね」
カコの手がキョウスケから離れて行く。その手が離れると同時に、キョウスケには母がどんどん遠くへ行ってしまうような気がした。
「キョウスケ、あなたのお父さん、シュンジさんはデビルサモナーでベルゼブブに殺されたというのは聞いたかしら?」
「うん、グレイから聞いたよ」
「グレイ……あぁケルベロスさんのことね。名前まで付けて、もう立派なパートナーね」
微笑み、それからカコは続ける。
「実はシュンジさんが亡くなる前、ベルゼブブは私たち達家族を全員抹殺しようと悪魔の軍隊を送ってきたわ。その時はシュンジさんとケルベロスさんが戦って悪魔の軍隊は倒すことができたみたいなの」
だけど、とカコは言葉を詰まらる。キョウスケから離れた両手は震え、その両手で顔を覆ってしまう。
「だけど……その時お母さんはあなたを……あなたを悪魔から守るために……」
顔は両手で塞がっていて見えないが、カコの声は震え、涙声になる。
グレイの言っていた、キョウスケにとっての辛い現実。それが次の彼女の一言によって明らかなものとなった。
「お母さんは……悪魔に殺されてしまったの」
「えっ…………?」
カコの衝撃的な一言に、キョウスケは愕然としてしまう。
今まで親しくしてきた母親が、何年も前に既に死んでいた。となると、今ここにいる、今までここにいた母親は一体何なのか、キョウスケには全てが分からなくなってしまった。
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