55 / 71
第4章 エキドナの遺跡
009【2】
しおりを挟む
「いいか少年、君の努力も必要だがそれだけでは時間が足りない。特に魔力を増加させるのには何年もの月日がかかる。そこで後から君にプレゼントを送ろう。もうこの短時間で出来ることは、君を強くするよりかは、君を強くするよう見繕う他ない」
「見繕う……ですか」
キョウスケはマモンの言っている意味の全てを理解した訳ではないが、マモンは今の自分をもっと強くする方法を知っているということだけは分かった。
「お願いしますマモンさん……僕をどうにかベルゼブブに対抗出来るよう強くしてください」
何であれ、キョウスケに手段を選択している暇など無かった。
世界を滅ぼそうとする最終戦争ハルマゲドン。それは遠い未来ではなく、現在刻々とその時は迫っていたのだから。
「……分かった。もうこの腐り切った世界を救うのは君達しかいないだろう。わたしのような悪魔はその手伝いをするだけで精一杯……すまないな」
「いえ……僕達もなんだか調子に乗っていたような気がしますし、ここでマモンさんに自分の弱さを教えてもらえたのは幸運だったと思います。ありがとうございます」
「愚かな自分に気づけた……すまなかったなマモン」
二人はマモンに礼をする。
己を鍛えるにはまず、己の弱さを知ること。その点において、このマモンとの一戦は二人にとって大きな収穫と成り得た。
「フッフッフッ……さて、そろそろ石化を解く程の魔力は回復しただろう。君の母親を解放せねばな」
「はいっ!」
マモンは立ち上がり、自慢のハットを被り直す。石化を治すための鉱物スギライトは、マモンの右薬指で紫色に怪しく光っていた。
「サファイアの水の柱があっただろ。あれを弱めていたのは、どうやら君の母親だったようだ」
マモンがそういうと、キョウスケは目を細めた。
「やっぱり……母さんが」
「石化してもなおサファイアの水を抑える程の力を持ち合わせているとは……彼女は本物のエキドナではないがそれに匹敵する程の力があるやもしれん。物凄く強力な魔力の持ち主だ」
「……もしかしたら、父さんは僕なら母さんを見つけ出せると思ってこんな強い魔物に転生させたのかもしれませんね。僕の力になれるように」
「フッフッフッ……両親に感謝せねばな」
「……そうですね」
しかしキョウスケの心の内には、一つのわだかまりがあった。
それは両親の大き過ぎる恩恵であり、自分は自分の力では一向に前に進めていないのではないかという、もどかしい気持ちがキョウスケにはあった。
これは自分の冒険であるはずなのに、親に導かれて、やっとこすっとこ、その導かれた道を歩いているような、そんな気が彼にはしたのだ。
石碑の前に三人は立つ。先程は白光を出し、サファイアの水を抑え込むほどの魔力を放出していた石碑だったが、今は何も無く、普通の石碑となっている。
「それでは……マテリアル・セット・スギライト!」
マモンの右薬指の紫色の鉱物が輝きを増し、その光が真っ直ぐに石碑に向かって照射される。
その刹那、石碑は少しずつ崩れ始め、ボロボロと石が遺跡の床に落ちてきた。
「マ……マモンさん、母さんは大丈夫ですよね……?」
「心配はない、石化は体の表面を石にしているもの。すなわち、その表面の石を取り除けば石化は解けるということだ」
瞬間、ビシビシという不吉な音がし、石碑の縦方向に大きなヒビが入る。それを見てキョウスケの背筋がゾクッとした。
「……グレイ、これホントに大丈夫だよね?」
「フッ……そんなに心配なら自分の手で砕いてみればいいんじゃないか?」
「そんな空手家みたいなこと出来ないよ……」
どうやら心配しているのはキョウスケだけであり、グレイとマモンはむしろ順調に石化が解けていることの表れであり、安心していた。
そして縦ヒビの入った石碑は半分に割れ、石の塊はガラガラと大きな音をたてて一気に崩れ落ちた。
「か……母さん?」
石碑は完全に崩れ落ち、周囲に砂煙が舞い上がり、視界が遮られる。
「ゲホゲホゲホッ!!んもう!何よこれぇ~」
すると砂の舞う先から女性の声が聞こえ、その声はキョウスケも、そしてグレイも聞いたことのある声だった。
「ん?あれ?あっ!これ足が二足じゃ無くて蛇じゃない!どうやるのかしら?ニョロニョロする感じ?」
ガリガリと落ちた石や砂を掻き分けて、こちらに進んで来る。
そしてついに、彼女はキョウスケとグレイの視界が明るみになっている場所までやってきた。
「あらっ!キョウスケにグレイさんじゃない!いきなり目の前が明るくなったと思ったら、あなた達がやってくれたのね」
その姿は間違いなく、キョウスケの母親カコその人だった。
下地が黄色のオレンジのボーダーが入ったシャツ、そしてお気に入りのデニム素材のエプロン姿。そこまではキョウスケが人間世界で見たカコと同じ姿だった。
ただ、人間の時と違うのはエキドナであるため、二足ではなく尻尾。足部が蛇になっていた。
「母さん……やっと会えた……本物の母さんにっ!!」
キョウスケは嬉しさのあまり、カコに飛びつく。そんな息子を、カコは優しく受け止めた。
「本物……あぁ!じゃあわたし今は魔物ってことね!じゃあここは魔界なのかしら?それにしても立派な岩場ねぇ~グランドキャニオンみたい」
カコは片手で我が子を抱きながら、周りの景色を眺めていた。
「いや……順応早過ぎやしませんかカコさん……もっとこう驚いたり、キョウスケとの出会いに感動したりとか」
あまりに状況の呑み込みが早いカコに、思わずグレイは唖然としてしまう。
「モチロンびっくりしてますよグレイさん。それにキョウスケとグレイさんにこうやって生身で再会出来るのは嬉しいわ。だけどね、わたしさっきまであなた達と一緒に戦っていたのよ!わたし水の柱を防いでたんだから!!」
「あっ、じゃあやっぱりあれは母さんだったんだ」
キョウスケは思い出す。水の柱の中で意識が飛んだ時に聞いた声を、そしてサファイアの水を抑えていた謎の光を。
あれは全て、カコが自らの意思でやっていたことだった。
「キョウスケが苦しんでる声が聞こえた気がしたからね……分かるのよ母さんには!」
「はぁ……やっぱ母さんには敵わないなぁ」
母は強し、それを実際に体現したのがキョウスケの母親カコだった。
「見繕う……ですか」
キョウスケはマモンの言っている意味の全てを理解した訳ではないが、マモンは今の自分をもっと強くする方法を知っているということだけは分かった。
「お願いしますマモンさん……僕をどうにかベルゼブブに対抗出来るよう強くしてください」
何であれ、キョウスケに手段を選択している暇など無かった。
世界を滅ぼそうとする最終戦争ハルマゲドン。それは遠い未来ではなく、現在刻々とその時は迫っていたのだから。
「……分かった。もうこの腐り切った世界を救うのは君達しかいないだろう。わたしのような悪魔はその手伝いをするだけで精一杯……すまないな」
「いえ……僕達もなんだか調子に乗っていたような気がしますし、ここでマモンさんに自分の弱さを教えてもらえたのは幸運だったと思います。ありがとうございます」
「愚かな自分に気づけた……すまなかったなマモン」
二人はマモンに礼をする。
己を鍛えるにはまず、己の弱さを知ること。その点において、このマモンとの一戦は二人にとって大きな収穫と成り得た。
「フッフッフッ……さて、そろそろ石化を解く程の魔力は回復しただろう。君の母親を解放せねばな」
「はいっ!」
マモンは立ち上がり、自慢のハットを被り直す。石化を治すための鉱物スギライトは、マモンの右薬指で紫色に怪しく光っていた。
「サファイアの水の柱があっただろ。あれを弱めていたのは、どうやら君の母親だったようだ」
マモンがそういうと、キョウスケは目を細めた。
「やっぱり……母さんが」
「石化してもなおサファイアの水を抑える程の力を持ち合わせているとは……彼女は本物のエキドナではないがそれに匹敵する程の力があるやもしれん。物凄く強力な魔力の持ち主だ」
「……もしかしたら、父さんは僕なら母さんを見つけ出せると思ってこんな強い魔物に転生させたのかもしれませんね。僕の力になれるように」
「フッフッフッ……両親に感謝せねばな」
「……そうですね」
しかしキョウスケの心の内には、一つのわだかまりがあった。
それは両親の大き過ぎる恩恵であり、自分は自分の力では一向に前に進めていないのではないかという、もどかしい気持ちがキョウスケにはあった。
これは自分の冒険であるはずなのに、親に導かれて、やっとこすっとこ、その導かれた道を歩いているような、そんな気が彼にはしたのだ。
石碑の前に三人は立つ。先程は白光を出し、サファイアの水を抑え込むほどの魔力を放出していた石碑だったが、今は何も無く、普通の石碑となっている。
「それでは……マテリアル・セット・スギライト!」
マモンの右薬指の紫色の鉱物が輝きを増し、その光が真っ直ぐに石碑に向かって照射される。
その刹那、石碑は少しずつ崩れ始め、ボロボロと石が遺跡の床に落ちてきた。
「マ……マモンさん、母さんは大丈夫ですよね……?」
「心配はない、石化は体の表面を石にしているもの。すなわち、その表面の石を取り除けば石化は解けるということだ」
瞬間、ビシビシという不吉な音がし、石碑の縦方向に大きなヒビが入る。それを見てキョウスケの背筋がゾクッとした。
「……グレイ、これホントに大丈夫だよね?」
「フッ……そんなに心配なら自分の手で砕いてみればいいんじゃないか?」
「そんな空手家みたいなこと出来ないよ……」
どうやら心配しているのはキョウスケだけであり、グレイとマモンはむしろ順調に石化が解けていることの表れであり、安心していた。
そして縦ヒビの入った石碑は半分に割れ、石の塊はガラガラと大きな音をたてて一気に崩れ落ちた。
「か……母さん?」
石碑は完全に崩れ落ち、周囲に砂煙が舞い上がり、視界が遮られる。
「ゲホゲホゲホッ!!んもう!何よこれぇ~」
すると砂の舞う先から女性の声が聞こえ、その声はキョウスケも、そしてグレイも聞いたことのある声だった。
「ん?あれ?あっ!これ足が二足じゃ無くて蛇じゃない!どうやるのかしら?ニョロニョロする感じ?」
ガリガリと落ちた石や砂を掻き分けて、こちらに進んで来る。
そしてついに、彼女はキョウスケとグレイの視界が明るみになっている場所までやってきた。
「あらっ!キョウスケにグレイさんじゃない!いきなり目の前が明るくなったと思ったら、あなた達がやってくれたのね」
その姿は間違いなく、キョウスケの母親カコその人だった。
下地が黄色のオレンジのボーダーが入ったシャツ、そしてお気に入りのデニム素材のエプロン姿。そこまではキョウスケが人間世界で見たカコと同じ姿だった。
ただ、人間の時と違うのはエキドナであるため、二足ではなく尻尾。足部が蛇になっていた。
「母さん……やっと会えた……本物の母さんにっ!!」
キョウスケは嬉しさのあまり、カコに飛びつく。そんな息子を、カコは優しく受け止めた。
「本物……あぁ!じゃあわたし今は魔物ってことね!じゃあここは魔界なのかしら?それにしても立派な岩場ねぇ~グランドキャニオンみたい」
カコは片手で我が子を抱きながら、周りの景色を眺めていた。
「いや……順応早過ぎやしませんかカコさん……もっとこう驚いたり、キョウスケとの出会いに感動したりとか」
あまりに状況の呑み込みが早いカコに、思わずグレイは唖然としてしまう。
「モチロンびっくりしてますよグレイさん。それにキョウスケとグレイさんにこうやって生身で再会出来るのは嬉しいわ。だけどね、わたしさっきまであなた達と一緒に戦っていたのよ!わたし水の柱を防いでたんだから!!」
「あっ、じゃあやっぱりあれは母さんだったんだ」
キョウスケは思い出す。水の柱の中で意識が飛んだ時に聞いた声を、そしてサファイアの水を抑えていた謎の光を。
あれは全て、カコが自らの意思でやっていたことだった。
「キョウスケが苦しんでる声が聞こえた気がしたからね……分かるのよ母さんには!」
「はぁ……やっぱ母さんには敵わないなぁ」
母は強し、それを実際に体現したのがキョウスケの母親カコだった。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います
あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。
化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。
所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。
親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。
そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。
実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。
おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。
そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」
仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる