30 / 103
第1部 青春の始まり篇
エピローグ【1】
しおりを挟む
その後の事を、少しだけ話そうか。
五月の第二週。登校している学生の誰もが、鬱々しさ全開の灰色の表情を浮かべる今日は、ゴールデンウィーク明け初日の登校日であった。
今年の五月は春だというのに、夏日だと呼べる程に暑く、日差しの強い日が続いており、ただでさえ長袖長ズボンであるが故に蒸し暑い学ランなのだが、更に黒い色をしているため、強い日差しまでも吸収し、それ単体でサウナスーツだと言えるような代物と化していた。
しかし、こんな状況でありながら、夏服への移行期間は来週からだという事は、既に職員会議にて決定されているらしく、頭が薄くてこの時期は涼しくて快適そうな校長を始め、学校職員共々に対して、俺は憎悪の念を抱いていた。
唯一の助けといえば、この通学路が平坦であった事だ。もしこの通学路がハイキングコース並みの上り坂となっていたならば、多分、俺は転校するという選択肢も検討していたかもしれない。
そんな優遇されている今の自分の境涯に感謝しつつ、それでもやっぱり暑いものは暑いと憂いつつ、若干情緒不安定になりながらも、俺は一歩二歩と足を踏み出していると、定例、というよりそれが慣習であるかのように、徳永が俺の背中を軽くポンと叩いてきた。
「やあチハ」
「おはようございます、岡崎君」
徳永の隣にはいつも通り、現世に現れたエンジェルこと、神坂さんの姿もあった。う~ん、今日も今日とてベリーキュートでございます。
「ところでチハ、ゴールデンウィークはどうだったんだい?」
「えっ?う~ん……家でゴロゴロ、元とゲームしてあとは……」
「いやいやそうじゃなくてさ、初日の事だよ。天地さんを追いかけたんでしょ?」
徳永は朗らかに笑いながら、それでも好奇心剥きだしで俺に訊いてくる。どうせその事だろうとは予期していたが、やはり知ってやがったか。
おそらく、神坂さんからせしめた情報だろう。神坂さんが俺に苦笑いを送っているから間違いない。まったく……情報屋というのは利用するには便利が良いが、いざ問い質される側になった時はタチが悪い。それが友人であると尚更な。
「まあそうだな、追いかけた」
「それでどうだったの?」
「どうって何がだ」
「天地さんだよ。引き留める事ができたの?」
一度食いついたら離さない、まるですっぽんみたいな奴だな。すっぽんが雷が鳴るまで噛み付くのを離さないように、一部始終話さねば徳永も俺を解放してはくれまい。厄介な野郎だ。
「まあ一応な、だが本当に引き止められたかどうかは教室に行ってみなければ俺だって分からん。アイツと連絡をとったわけじゃないんだからな」
実際、あの場を逃れるために放った口八丁とも限らないしな。でも……俺自身はあの言葉が本当のものだったと信じたい。
「ふうんそっか、でもまあ、そんなものだよね」
「何がだ」
「いや、フィクションだったらそういう時ってさ、愛の告白なんかして相手が何処かへ行ってしまうのを強引に引き止めようって感じの話になるじゃない?でも現実だとやっぱりそんな非現実的というか、ラブコメディ的な流れにはやっぱりならないんだなって思ってさ」
「……そんなもんさ現実なんて」
俺は平然を装い、誤魔化すので精一杯だった。まさかそういう展開になって天地を引き止めたなんて、そんな事コイツに知られたりなんかしたら、今後俺はどんな顔をして生きて行けばいいか分からん。
まあ……空港の入口であんな大胆な事をしておいて、今更何を言ってるんだかと、当時あの状況を見ていた人間が聞いてたら、思わず後ろ指を指されそうなもんだがな。
「あたしは岡崎君の気持ち、きっと天地さんに届いてると思うよ?だって、そこまで一人の人を追いかける事って簡単そうで意外と出来ない事だと思うし……」
天に輝くお天道様と見まごうが如く、眩しい笑顔を俺に見せてくれる神坂さん。その言葉だけで勇気百倍でございます。
「ふふっ……でも天地さんに憧れちゃうな~……そういう人が居てくれて」
「やっぱりそういうのって憧れるもんなんですかね?」
「それはモチロン!……あれ?岡崎君ってそれを分かっててやってたんじゃないんですか?」
「いや、全然。この沙汰、そういう事に関しては知識どころか興味すら皆無だったので」
「へえ……」
すると神坂さんは俺の顔を五秒ほど見つめると、くすりと笑った。
「天地さん、苦労する事になるかもしれないね?」
「えっ?」
あまりにも意味深な台詞であったが、その真相を神坂さんは教えてくれる事も無く、俺達は校門を通過していた。
五月の第二週。登校している学生の誰もが、鬱々しさ全開の灰色の表情を浮かべる今日は、ゴールデンウィーク明け初日の登校日であった。
今年の五月は春だというのに、夏日だと呼べる程に暑く、日差しの強い日が続いており、ただでさえ長袖長ズボンであるが故に蒸し暑い学ランなのだが、更に黒い色をしているため、強い日差しまでも吸収し、それ単体でサウナスーツだと言えるような代物と化していた。
しかし、こんな状況でありながら、夏服への移行期間は来週からだという事は、既に職員会議にて決定されているらしく、頭が薄くてこの時期は涼しくて快適そうな校長を始め、学校職員共々に対して、俺は憎悪の念を抱いていた。
唯一の助けといえば、この通学路が平坦であった事だ。もしこの通学路がハイキングコース並みの上り坂となっていたならば、多分、俺は転校するという選択肢も検討していたかもしれない。
そんな優遇されている今の自分の境涯に感謝しつつ、それでもやっぱり暑いものは暑いと憂いつつ、若干情緒不安定になりながらも、俺は一歩二歩と足を踏み出していると、定例、というよりそれが慣習であるかのように、徳永が俺の背中を軽くポンと叩いてきた。
「やあチハ」
「おはようございます、岡崎君」
徳永の隣にはいつも通り、現世に現れたエンジェルこと、神坂さんの姿もあった。う~ん、今日も今日とてベリーキュートでございます。
「ところでチハ、ゴールデンウィークはどうだったんだい?」
「えっ?う~ん……家でゴロゴロ、元とゲームしてあとは……」
「いやいやそうじゃなくてさ、初日の事だよ。天地さんを追いかけたんでしょ?」
徳永は朗らかに笑いながら、それでも好奇心剥きだしで俺に訊いてくる。どうせその事だろうとは予期していたが、やはり知ってやがったか。
おそらく、神坂さんからせしめた情報だろう。神坂さんが俺に苦笑いを送っているから間違いない。まったく……情報屋というのは利用するには便利が良いが、いざ問い質される側になった時はタチが悪い。それが友人であると尚更な。
「まあそうだな、追いかけた」
「それでどうだったの?」
「どうって何がだ」
「天地さんだよ。引き留める事ができたの?」
一度食いついたら離さない、まるですっぽんみたいな奴だな。すっぽんが雷が鳴るまで噛み付くのを離さないように、一部始終話さねば徳永も俺を解放してはくれまい。厄介な野郎だ。
「まあ一応な、だが本当に引き止められたかどうかは教室に行ってみなければ俺だって分からん。アイツと連絡をとったわけじゃないんだからな」
実際、あの場を逃れるために放った口八丁とも限らないしな。でも……俺自身はあの言葉が本当のものだったと信じたい。
「ふうんそっか、でもまあ、そんなものだよね」
「何がだ」
「いや、フィクションだったらそういう時ってさ、愛の告白なんかして相手が何処かへ行ってしまうのを強引に引き止めようって感じの話になるじゃない?でも現実だとやっぱりそんな非現実的というか、ラブコメディ的な流れにはやっぱりならないんだなって思ってさ」
「……そんなもんさ現実なんて」
俺は平然を装い、誤魔化すので精一杯だった。まさかそういう展開になって天地を引き止めたなんて、そんな事コイツに知られたりなんかしたら、今後俺はどんな顔をして生きて行けばいいか分からん。
まあ……空港の入口であんな大胆な事をしておいて、今更何を言ってるんだかと、当時あの状況を見ていた人間が聞いてたら、思わず後ろ指を指されそうなもんだがな。
「あたしは岡崎君の気持ち、きっと天地さんに届いてると思うよ?だって、そこまで一人の人を追いかける事って簡単そうで意外と出来ない事だと思うし……」
天に輝くお天道様と見まごうが如く、眩しい笑顔を俺に見せてくれる神坂さん。その言葉だけで勇気百倍でございます。
「ふふっ……でも天地さんに憧れちゃうな~……そういう人が居てくれて」
「やっぱりそういうのって憧れるもんなんですかね?」
「それはモチロン!……あれ?岡崎君ってそれを分かっててやってたんじゃないんですか?」
「いや、全然。この沙汰、そういう事に関しては知識どころか興味すら皆無だったので」
「へえ……」
すると神坂さんは俺の顔を五秒ほど見つめると、くすりと笑った。
「天地さん、苦労する事になるかもしれないね?」
「えっ?」
あまりにも意味深な台詞であったが、その真相を神坂さんは教えてくれる事も無く、俺達は校門を通過していた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【書籍化決定】アシュリーの願いごと
ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」
もしかして。そう思うことはありました。
でも、まさか本当だっただなんて。
「…それならもう我慢する必要は無いわね?」
嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。
すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。
愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。
「でも、もう変わらなくてはね」
この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。
だって。私には願いがあるのだから。
✻基本ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
✻1/19、タグを2つ追加しました
✻1/27、短編から長編に変更しました
✻2/2、タグを変更しました
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる