ヒトコイラヴァーズ 悪魔の女との青春物語

赤坂皐月

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第1部 青春の始まり篇

エピローグ【2】

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 一年の教室が並ぶ校舎二階、そこの三組の教室の前で徳永と神坂さんとは別れ、俺は自分の所属する五組の教室へと歩を進めた。

 だが、何故だか今日は教室の前が妙にざわついていた。といっても、入学式翌日に起こった天地による血糊事件の時よりかは遥かに落ち着いている方なのだが。

「あっ!岡崎君!!ちょっと来て!!」

 教室の外に立って、俺が来るのを今か今かと待っていたのだろうか、クラス委員長の早良さわらが早く教室へ来るよう俺を催促してきた。

 まったく……だが、どうやら以前までの俺の日常が戻ってきたような気がしなくもない。この高校に入ってから始まった、平穏の無い朝が。

「どうしたんだ早良?」

「転校したはずの天地さんが戻って来てるのよ!ほらっ!!」

 早良の指さす先には、いつも通り、俺の座席の横に座って窓の外を眺めている天地の姿があった。

 やはり……あの言葉は本当だったんだな。率直に嬉しいよ。

「岡崎君ならもしかしたら何か知ってるかもって思ったんだけど……何か知らない?」

「さあな、もしかしたら気まぐれで戻って来たんじゃないのか?」

 などと、お茶を濁しておく。知ってるもなにも、俺は当事者だからな。知らないはずが無いのだが、詮索されるのも嫌だったのでここは知らないふりを突き通す事にしておこう。

「そう……まあでも、私としても天地さんって面白い人だから戻って来てくれて嬉しいし、あなたも嬉しいんじゃないの?」

「……お前は何が言いたいんだ」

「あら、言葉通りの意味よ?岡崎君、天地さんと仲が良いからお友達が戻って来てくれて良かったねって」

「ああ……まあそうだな」

「……もしかして、もうお友達以上の関係になってたかしら?」

「……っ!断じてない、そんな事は」

「ええ~?ホントに~?怪しいなぁ……」

 怪訝そうな、しかし口元をにやつかせながら、俺の顔色を窺う早良。まったく、どいつもコイツも何故俺の周りには他人の事情を嗅ぎまわろうとする奴が多いんだ?俺なんかより、もっともっと詮索したら面白いネタが転がって来そうな奴なんか山ほどいるだろうに。例えば隣の座席のやつとかさ。

「……まあいいわ、これからも天地さんと仲良くしてあげてね岡崎君?」

 早良は俺にウインクを一つくれると、教室の中へと入り、友人達の輪の中へと戻って行った。本当に物好きというか、世話好きというか……まあ、悪い奴じゃないという事は俺も知るところなのだが。

 早良の尋問からもやっと解放され、俺はようやく教室へと入る事が出来たのだが、しかし、ここからが本当のデンジャーゾーン。以前のように油断をしていると尻を真っ白にされ兼ねない。クリーニングしたての制服を汚させるわけには、断じてならないのだ。

 俺は警戒を怠らず、自分の座席へと向かい、更にすぐに椅子には座ろうとせず、椅子の座る部分、背もたれ、机の中、横……あらゆる部分を嘗め回すように点検し、自己防衛に臨んだのだが、そんな姿を見ていたのだろう、隣の席から俺を真っ向から蔑むような声が聞こえてきた。

「そんな嫌らしい目で机を見てると、周りから変態扱いされるわよ岡崎君?」

 振り返ると、天地はまるで何か汚らわしいものを見るかのような、そんな軽蔑の目で俺を見ていた。再会して初っ端がこれとは……まあそんなもんか。

「俺はそんな特殊性癖は兼ね備えてない」

「あらそう。わたしはてっきり岡崎君は『あっあのオフィスチェアは腰つきがいいな、でもこっちのソファは優しく包み込んでくれそうだし……ウヒヒ』とか言いながら家具屋を毎週三回訪問してはチェックしてるような、そんな思考回路が特殊な人だと思っていたわ」

「そんな歪んだ思考の家具マニアがいてたまるかっ!」

 というか現実にいるのだろうか家具マニアなんて?家電マニアというのはどうやら現存しているみたいだが。

「何を怪しんでいるか知らないけど、早く座りなさい。あんまりうそうそされると、まるで目の前に蠅が飛び回ってるみたいに感じるから」

「……それ遠まわしに鬱陶しいって言ってるのと同じだぞ」

「そう言ったのよ」

 配慮した言い方でも無ければ、オブラートに包んだわけでも無く、いつも通りの直球の罵倒だったようだ。通りで天地が例える割には簡単な例えだったわけだ。でも何でだろう……理解出来た方が悲しくなってくるこの気持ちは。

 しかしおそらく、机周りに仕掛けを施していないというのは嘘ではないのだろう、俺は天地の言葉を信じ、机に腰を掛けようとしたその時だった。

「見れたわ」

 突如、天地は俺の背中を見て言った。

「何がだ」

「岡崎君のお尻が黒に戻る姿。見る事ができたわ」

 そういえばそんな事も言っていたな、懐かしい……といっても、まだ三、四日前の出来事なのだが。最近の思い出は一日一日が妙に濃すぎて、たった数日前の出来事すら懐かしく思えてしまう……まあ現生活を満足している証拠だと思えば、それはそれで有りなのだろうけれど。

「今度は何色に染めようかしら?赤?」

「色を指定されただけで不安で一杯なのだがっ!?」

「大丈夫怪我は負わせないわ。そんな事したら傷害事件になるじゃない」

 そこまで考えてイタズラを仕掛けるとは……用意周到、プロ意識とでも言った方がいいのだろうか。というか、そもそもそんなプロがこの世にいるのかが怪しい所だが。

「やるとしたらそうね……やっぱり血糊かしら。この前のがまだ余ってるし」

「やめとけ血糊は。今やこのクラスのトラウマと言える産物を出したら、また騒ぎになるぞ」

「そうね、そういえばそんな事もあったわね。じゃあもういっそのことペンキにしましょう。ギャグ漫画とかにある、塗りたて注意って書いてあるのに座っちゃうあれみたいな」

「それを堂々と俺の前で発表して、俺はどんな顔してりゃいいんだ」

「笑えばいいと思うわよ?」

「笑えるかっ!!」

 言ってしまえば、事件の犯人が犯行予告を被害者の面前でしているようなもんだ。そんな状況でニコニコ笑える奴はどうかしてる……ペンキはクリーニングに出したら、果たして落ちるものなのだろうか。
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