48 / 103
第2部 青春の続き篇
第3話 ロシアンボトル【6】
しおりを挟む
その後の事を、少しだけ話そうか。
あの後天地は数回程(その数回とも全部俺の手を使って)、口を濯いだ後、何とか普通に喋れる程度まで回復する事が出来たのだが、教室に戻ると、俺の指示で自販機に買い出しに行っていた早良が教室に戻っており、俺の机の上には十個ほどの紙パックの牛乳が置かれていた。
その光景に、思わず絶句。
早良に財布を返され、中身を見ると空に。どうやら俺の手持ちの財産は、目の前の牛乳の束に等価交換されてしまったようだった。
流石の俺も、これには口が利けなくなる程のショックを受けたのだが、これは自分の責任だと、天地が牛乳を俺から全て買い取り、更にこんな過剰な量はいらなかったと早良がその半分を天地に手渡し、なんとかお金の問題の方はその感じで落ち着いた。
しかし、もう一つ処理しなければならなかった問題は、目の前にある大量の牛乳である。
辛さを抑え込む為に天地が二つ飲み干したのだが、なんといっても牛乳、そんなに大量に飲めるはずも無く、かと言って、教室に冷蔵庫などの牛乳を保管しておく場所など無い。
ホームルームの時間も近づいていたので、俺と早良が急遽二つずつ飲んだ後は、早良の計らいで、なんとか他のクラスメイトに四つの牛乳を手渡す事に成功し、ホームルームまでには全ての問題を納める事が出来たのだった。
そしてここからは、そのロシアンルーレットが行われた日の昼間の話である。
今日は五日学校がある内、二日設けられた、天地との二人での食事の日でもあった。
しかし月曜日ではなく、水曜日であったため、天地の手作り弁当は無く、母親の手作り弁当を手に持ち、俺はいつもの場所へと向かった。
屋上。今更言うのもなんだが、本来生徒の出入りが禁止されている、禁断の場所。
その場所で、今日も二人での秘密の昼食会が開かれる。正直、まだ誰にもばれていないのが奇跡だとも思える。
「来たわね、岡崎君。こっちよ」
いつも通り、天地は俺よりも先に屋上に到着しており、俺が来るのを待っていた。
待つのは良いが、待たせるのは嫌いらしい。
俺はいつも通り天地に誘導されて、いつも通りの屋上の座る場所へと向かい、いつも通り右側に腰を掛けた。
現在は梅雨のど真ん中、雨は降っていないものの、空は一面灰色の雲に覆われて、ぐずついているように見えた。
「天地、もう口の中は大丈夫なのか?」
朝の激辛スープの後遺症は著しいものであったらしく、授業合間の休み時間も俺は気に掛けていたが、毎時間天地は水を飲みながら舌がヒリヒリすると言っていたのだが。
「ええ、もう大丈夫。あれから四時間ちょっと経ったから、さすがに状態も安定してきたみたい」
「そうか……そりゃよかった」
天地は自分の弁当箱を開け、平然と野菜を食べている。やせ我慢ではなく、本当に大丈夫のようだった。
「でも、まさかわたしが当たるなんて想定外、考えの蚊帳の外だったわ」
「いやいや……確率は五分五分になってたんだ、想定しておけよ」
「確率はそうね、でも生まれ持っての運なら岡崎君には勝ってるとは思ってたのよ、ミドリムシとミジンコくらいの差で」
「どちらとも微生物単位の運しか持ってないってわけかよ……それはそれで悲しいな」
ちなみに今回で言うなら、俺がミジンコで、天地がミドリムシだろうか?運の大きさ的に。
「それに流れを掻き乱されたっていうのもあるわね。完全に崩されたわあの委員長に」
「流れっていうか、それただの確率操作だろ?早良が入らなかったら、完全に俺が不利になっちまってたのは明白じゃないか」
「チッ……予想以上に利口だったか」
「腹黒っ!てか、俺をどこまで下等に評価してるんだお前はっ!!」
初めてだった、女の子に舌打ちをされたのは。
思いの外、傷つくもんなんだな。
「まあでもそうね、詐欺がばれたら詐欺師になるように、イカサマもばれればイカサマ師になっちゃうものね」
「本物のイカサマ師はあんなバレバレな事しないだろ。それに、詐欺をすればその時点でそいつは詐欺師だ」
「そうでもないわよ岡崎君、この世にはばれなきゃ犯罪じゃないって言葉もあるくらいだから」
他人から言われればとんでもない危険思想だと分かるが、生憎、以前俺もこの屋上を出入りしている事について、全く同じ言葉を連想させたので、結局俺も同じ穴の狢だった。
「しかし大事には至らなくて良かったな。あのソース、瓶の半分入れたら本当に人ひとり殺しかねないもんな」
「そうね、本当は処理に困ってたから、一気に四分の一くらい使ってやろうと思ってたけれど、三滴ほどしか垂らさなくて、あの時、容赦という言葉に気づいたわたしを称賛しないといけないわね」
それ、完全に自画自賛なんだよなぁ……。
てか、処理に困るような物をお土産で買って来るなよ。圧倒的に自爆行為じゃないか。
自分を褒めたり、爆発させたり、ホント見ていて飽きない奴だ。
「ところで岡崎君、保留にしていた問題、その問いの答えはまだ出ていないのかしら?」
「保留にしていた問題?……ああ、ゲームをする前のあれか」
天地が赤裸々になるはずも無く、突拍子に告白された誤魔化し問題。
天地が最初、俺と出会った時に実験だ論文だ言っていたあれの事である。あれは全て、誤魔化し、方便だったと天地は俺に告白した。
しかしあの中に『本音を誤魔化した部分』があるらしく、その部分について答えよという、記憶力を試されつつ、まるで現代文の問題のようなものを天地から出されていたのだった。
危うく、忘れるところだった。故に、まるっきし考えてなどいなかった。
「スマン……正直に言うと思い出せないってのもあるし、あのゲームの事で頭が一杯だったから考えても無かった」
「そう、ならいいのよ。思い出さなくていいから」
一喝されると思ったら、一転、思い出さなくていいと言われた。
いつもの天地のパターンと違う……どうやら本当に本気で思い出されると恥ずかしいことなのかもしれない。
これはやはり、なんとしてでも、脳改造手術をしてでも思い出さねばならないな。俺の中での生涯の目標が、ここに一つ出来上がった。
「さて、どうしましょうね」
「どうするって何が?」
「明日よ、明日のゲームは何にしようかしらねってこと」
既に天地は明日の事を考えていた。
どうやら天地の中では、ゲームブームが起こっているらしい。一言目で『イタズラ』ではなく『ゲーム』という言葉が発せられたのだから、間違いないだろう。
まあ俺としても、イタズラよりかはゲームの方が助かる余地があるので、しばらく付き合ってやろうと思っているところだ。
とりあえず……確率操作だけは目を光らせておかないとな。
あの後天地は数回程(その数回とも全部俺の手を使って)、口を濯いだ後、何とか普通に喋れる程度まで回復する事が出来たのだが、教室に戻ると、俺の指示で自販機に買い出しに行っていた早良が教室に戻っており、俺の机の上には十個ほどの紙パックの牛乳が置かれていた。
その光景に、思わず絶句。
早良に財布を返され、中身を見ると空に。どうやら俺の手持ちの財産は、目の前の牛乳の束に等価交換されてしまったようだった。
流石の俺も、これには口が利けなくなる程のショックを受けたのだが、これは自分の責任だと、天地が牛乳を俺から全て買い取り、更にこんな過剰な量はいらなかったと早良がその半分を天地に手渡し、なんとかお金の問題の方はその感じで落ち着いた。
しかし、もう一つ処理しなければならなかった問題は、目の前にある大量の牛乳である。
辛さを抑え込む為に天地が二つ飲み干したのだが、なんといっても牛乳、そんなに大量に飲めるはずも無く、かと言って、教室に冷蔵庫などの牛乳を保管しておく場所など無い。
ホームルームの時間も近づいていたので、俺と早良が急遽二つずつ飲んだ後は、早良の計らいで、なんとか他のクラスメイトに四つの牛乳を手渡す事に成功し、ホームルームまでには全ての問題を納める事が出来たのだった。
そしてここからは、そのロシアンルーレットが行われた日の昼間の話である。
今日は五日学校がある内、二日設けられた、天地との二人での食事の日でもあった。
しかし月曜日ではなく、水曜日であったため、天地の手作り弁当は無く、母親の手作り弁当を手に持ち、俺はいつもの場所へと向かった。
屋上。今更言うのもなんだが、本来生徒の出入りが禁止されている、禁断の場所。
その場所で、今日も二人での秘密の昼食会が開かれる。正直、まだ誰にもばれていないのが奇跡だとも思える。
「来たわね、岡崎君。こっちよ」
いつも通り、天地は俺よりも先に屋上に到着しており、俺が来るのを待っていた。
待つのは良いが、待たせるのは嫌いらしい。
俺はいつも通り天地に誘導されて、いつも通りの屋上の座る場所へと向かい、いつも通り右側に腰を掛けた。
現在は梅雨のど真ん中、雨は降っていないものの、空は一面灰色の雲に覆われて、ぐずついているように見えた。
「天地、もう口の中は大丈夫なのか?」
朝の激辛スープの後遺症は著しいものであったらしく、授業合間の休み時間も俺は気に掛けていたが、毎時間天地は水を飲みながら舌がヒリヒリすると言っていたのだが。
「ええ、もう大丈夫。あれから四時間ちょっと経ったから、さすがに状態も安定してきたみたい」
「そうか……そりゃよかった」
天地は自分の弁当箱を開け、平然と野菜を食べている。やせ我慢ではなく、本当に大丈夫のようだった。
「でも、まさかわたしが当たるなんて想定外、考えの蚊帳の外だったわ」
「いやいや……確率は五分五分になってたんだ、想定しておけよ」
「確率はそうね、でも生まれ持っての運なら岡崎君には勝ってるとは思ってたのよ、ミドリムシとミジンコくらいの差で」
「どちらとも微生物単位の運しか持ってないってわけかよ……それはそれで悲しいな」
ちなみに今回で言うなら、俺がミジンコで、天地がミドリムシだろうか?運の大きさ的に。
「それに流れを掻き乱されたっていうのもあるわね。完全に崩されたわあの委員長に」
「流れっていうか、それただの確率操作だろ?早良が入らなかったら、完全に俺が不利になっちまってたのは明白じゃないか」
「チッ……予想以上に利口だったか」
「腹黒っ!てか、俺をどこまで下等に評価してるんだお前はっ!!」
初めてだった、女の子に舌打ちをされたのは。
思いの外、傷つくもんなんだな。
「まあでもそうね、詐欺がばれたら詐欺師になるように、イカサマもばれればイカサマ師になっちゃうものね」
「本物のイカサマ師はあんなバレバレな事しないだろ。それに、詐欺をすればその時点でそいつは詐欺師だ」
「そうでもないわよ岡崎君、この世にはばれなきゃ犯罪じゃないって言葉もあるくらいだから」
他人から言われればとんでもない危険思想だと分かるが、生憎、以前俺もこの屋上を出入りしている事について、全く同じ言葉を連想させたので、結局俺も同じ穴の狢だった。
「しかし大事には至らなくて良かったな。あのソース、瓶の半分入れたら本当に人ひとり殺しかねないもんな」
「そうね、本当は処理に困ってたから、一気に四分の一くらい使ってやろうと思ってたけれど、三滴ほどしか垂らさなくて、あの時、容赦という言葉に気づいたわたしを称賛しないといけないわね」
それ、完全に自画自賛なんだよなぁ……。
てか、処理に困るような物をお土産で買って来るなよ。圧倒的に自爆行為じゃないか。
自分を褒めたり、爆発させたり、ホント見ていて飽きない奴だ。
「ところで岡崎君、保留にしていた問題、その問いの答えはまだ出ていないのかしら?」
「保留にしていた問題?……ああ、ゲームをする前のあれか」
天地が赤裸々になるはずも無く、突拍子に告白された誤魔化し問題。
天地が最初、俺と出会った時に実験だ論文だ言っていたあれの事である。あれは全て、誤魔化し、方便だったと天地は俺に告白した。
しかしあの中に『本音を誤魔化した部分』があるらしく、その部分について答えよという、記憶力を試されつつ、まるで現代文の問題のようなものを天地から出されていたのだった。
危うく、忘れるところだった。故に、まるっきし考えてなどいなかった。
「スマン……正直に言うと思い出せないってのもあるし、あのゲームの事で頭が一杯だったから考えても無かった」
「そう、ならいいのよ。思い出さなくていいから」
一喝されると思ったら、一転、思い出さなくていいと言われた。
いつもの天地のパターンと違う……どうやら本当に本気で思い出されると恥ずかしいことなのかもしれない。
これはやはり、なんとしてでも、脳改造手術をしてでも思い出さねばならないな。俺の中での生涯の目標が、ここに一つ出来上がった。
「さて、どうしましょうね」
「どうするって何が?」
「明日よ、明日のゲームは何にしようかしらねってこと」
既に天地は明日の事を考えていた。
どうやら天地の中では、ゲームブームが起こっているらしい。一言目で『イタズラ』ではなく『ゲーム』という言葉が発せられたのだから、間違いないだろう。
まあ俺としても、イタズラよりかはゲームの方が助かる余地があるので、しばらく付き合ってやろうと思っているところだ。
とりあえず……確率操作だけは目を光らせておかないとな。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【書籍化決定】アシュリーの願いごと
ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」
もしかして。そう思うことはありました。
でも、まさか本当だっただなんて。
「…それならもう我慢する必要は無いわね?」
嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。
すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。
愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。
「でも、もう変わらなくてはね」
この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。
だって。私には願いがあるのだから。
✻基本ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
✻1/19、タグを2つ追加しました
✻1/27、短編から長編に変更しました
✻2/2、タグを変更しました
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる