ヒトコイラヴァーズ 悪魔の女との青春物語

赤坂皐月

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第2部 青春の続き篇

 第4話 図書館の住人【5】

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 その後の事を、少しだけ話そうか。 

 あれからは俺も神坂さんも、何も、一言も発さず、互いの手に持っていた本を読み、時間は更けていった。

『子供図鑑、星座』コイツのお蔭で、なんとか夏の星座の知識を程よく、雑学程度には憶える事が出来た。これで天地からの制裁も避ける事が出来るだろう。

 まったく……知識というものは自分の為に身につけるものであるはずなのに、天地から強制されないとそれをしないなんて、俺もとことん駄目な奴である。

 この歳にもなってテレビゲームばかりをするだけでなく、たまには読書もしないといけないなと、自分を律するキッカケにもなったかもしれない。そういう意味では、天地に感謝せねばならないな。

 まあ多分……家に帰ればこの手には本は握られておらず、コントローラーが握られていると思うが。

 甲斐性無しにも程がある。

 閑話休題。 

 丁度俺が星座の名前を記憶したところで、時間は十七時を過ぎていた。

 神坂さんは十八時が家の門限らしく、帰る準備し始め、だったらと、俺も共に引き上げる準備を始めた。

 簡単な星座はもう頭の中に入ったので、図鑑を元の児童書の陳列されている本棚へと、神坂さんに教えられた背ラベルの読み方を思い出しながら、自力で本を戻す事が出来た。

 一方の神坂さんは持っていた二冊の本を借りる為に、俺が図鑑を児童書コーナーへ返しに行っている間、本の貸し出しの手続きを行っていた。

「あっ岡崎君、無事本を返せたみたいだね」

「まあ、なんとか。神坂さんから背ラベルの読み方を教えてもらった賜物です」

「ふふっそっか。じゃあお礼にジュースでも奢ってもらおうかなぁ~」

「あぁ……確か図書館の外に自販機あったから、奢りますよ」

「えっ!?いやいや岡崎君冗談だよ!冗談!!」

 左手は貸本で塞がれていた為、神坂さんは焦って右手を大きく横に振っていた。

 まあ天地じゃあるまいし、神坂さんが本気でねだってくるなんて、俺も思ってはいなかったのだが。

「でも助かったのは本当ですし、感謝の気持ちだと思って受け取ってくださいよ」

「……そっか、じゃあお言葉に甘えちゃおっかな?」

 満更でもない、小悪魔のようなニヤリとした笑みを浮かべる神坂さん。

 こういう表情をした神坂さんを見たのは、初めてだった気がする。いつもは満面なる笑みを浮かべて人を和ませるが、こんなイタズラな笑みも出来るのか。

 もしかして彼女の本当の素の表情はこっち側なのではないのかと、少しばかりだが、俺は勘ぐった。勘ぐったが、結果どちらでもよかった。

 カワイイは正義って、きっとそういう事なのだから。

 それから館内を出た俺達は、出入口のすぐそばにあった自動販売機でジュースを購入する事となったのだが、やはりというか、そういう系統の人だろうなとは思っていたが、神坂さんは自動販売機の前の立つと、何を飲もうかじっくりと考え始めた。

「う~ん……コーラもいいけどサイダーも飲みたい気分だなぁ……あっ!でもぶどうジュースも捨てがたいし……う~ん……」

 見事なまでに優柔不断。

 そのまま神坂さんの悩んでいる姿を見ながら待っていても良かったのだが、読書中は何も飲んでいなかった為、というか図書館が飲食厳禁だった為、水一滴と口にしていなかった俺は喉の渇きの限界に達していた。

「あの……俺先に買っていいですか?」

「あっ!ご……ごめんなさい!どうぞどうぞ!!」

 神坂さんに先を譲ってもらい、俺は迷いなく水のボタンを押した。

 こういう時はジュースなど飲まず、水を飲むに限る。でないと飲んでも飲んでも喉が渇くという、無限ループに嵌ってしまうからな。

「あっ……岡崎君、水なんだ」

「ええ、まあ喉が渇いてたんで」

「じゃああたしも水に……」

「いやいや!別に俺に合わせないでいいですよ!好きなのを選んでください!」

「えっじゃあ……う~ん……どうしよう……」

 ほぼ妥協だったとはいえ、決まりかけていた選択をまた振り出しに戻してしまった。

 まあ水を飲みながら、俺はゆっくり神坂さんの悩んでいる姿でも見守っておこう。今日の水は美味しいな~。

 それからしばらく、といっても二分くらいだったが、ついに神坂さんは厳選に厳選を重ねた結果、俺に合わせてかどうかは分からないが、お茶を選択する事にしたのだった。

「ごめんなさい岡崎君、あたしこういうの中々決めれなくて……」

「いえいえ、そういう人もいますからね。徳永なんかはそのタイプなんで」

「へえ、徳永君はそうなんだ。結構スッパリ物事を決めそうな気がするけど」

「アイツは他人の目を気にしますからね。空気が読めるのはいいかもしれないけど、空気が読め過ぎるって感じはしますね」

「ふうん……まあでも、そんな気はするかな~。話してると、あたしに話題を合わせようとしてきてる感じはするもんねぇ~」

 まああらかじめ言っておくと、悪い奴じゃないのだが、とにかくアイツは無意識的なのか、自意識的にやってるのか分からないが、とにかく人に合わせようとするやつだからなぁ。

 でも、だからこそ、俺みたいな偏屈と付き合っていけるのだろうってところはあるから、変に否定も出来ないんだよな。

 本当に隙の無い、それでも良い友人ではあるが。

「岡崎君は……どちらかというと、合わせようとするけど本音が顔に出ちゃってるよね。もしかしたら誤魔化したり、嘘を吐くのが下手なんじゃないかな?」

「……ええ、よく言われますね。決して良い事とは思いませんけど」

 自分の事を俺は正直者だなんて、一度も思ったことは無い。正しく真っ直ぐであるどころか、ぐにゃぐにゃに捻ねくれて曲がっている。

 だが、嘘が下手だというのは身に覚えがあるし、他人からもよく言われる。そして皆が皆、思っている事が顔に出ていると、口を揃えて指摘してくるのだ。

 捻くれた考え方が、正直に顔に出てくる矛盾。

 もしそれが、正直者であるという広義の意味でも嵌るのであれば、俺は正直者などになりたくはなかった。

 本音と建前。正直者は馬鹿を見る。

 こんな言葉が平然と使われている国に、俺のような人間は不利でしかない。

「そうかな?多分、岡崎君がそういう人だから徳永君だって天地さんだって、それにあたしだって友達になれたんだろうし、むしろ岡崎君が建前を盾に取っているような人だったら、あたし達は岡崎君から離れていて、岡崎君には別の友達が出来てたかもしれない。岡崎君は今、岡崎君だったからこうやってあたしと、みんなと話せている。そう思ったらあながち、今の自分が気に入らないだなんて、そう思わないで済むんじゃないかな?」

「…………なるほど」

 今の事象は、自分でなければ起きなかった。

 目の前で起きている事、それは自分が自分だったから、目の前で起こっている事なのだと。

 でもそうなのかもしれない。俺がもし、嘘つきで、八方美人で、空気の読める隙の無い人間だったら、俺は今こうして神坂さんとも会ってないだろうし、徳永とも、まして天地とも、仲良くなっていなかったのかもしれない。

 俺が俺だから、俺がこんなのだったから、俺の現在がある。

 勿論、こんな俺じゃなくても今のような事が起きていたかもしれない。しかしそれは可能性の問題だ。

 この現在に至るまでの確率を百パーセントまで高めたのは、何を隠そう捻くれ者で、嘘を吐くのが下手で、思っている事が顔に出やすい俺なのだから。

 自己陶酔とまではいかないが、自己嫌悪はよくない。

 つまりはそういう話だった。
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