ヒトコイラヴァーズ 悪魔の女との青春物語

赤坂皐月

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第2部 青春の続き篇

第5話 七夕の日【4】

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「昔はこれを持って、家族で星を見に行ったものだわ……あの後、家族が居なくなってからは、ずっと使う機会が無かったから押入れの奥にしまっていたのよ」

「なるほど……お前にとっての思い出の品なんだな、これは」

「ええ、だから、だからこそあなたとの思い出の品にもしたかったのよ。わざわざ押入れの奥から引っ張り出してまでね。この前のチーズケーキみたいに」

「そりゃなんというか、冥利に尽きるというか、光栄だな」

 家族との過去の思い出。それは多分、今も、そしてこれからも、天地の中では光り輝く思い出である。

 しかし過去は過去。

 昔は昔。

 思い出は、じきに色褪せて、風化していき、そして消えていく。その為に人は、思い出を思い出すために、決して消えてしまわないように、思い出話という形で、過去を共有している人物と度々話をするのだろう。

 しかし彼女にはその相手がいない、共有する人物がいない。

 唯一生存しているのは父親だけ。しかしその父親とも、事実上縁は切られている。

 だから、だからこそ、俺なのだろう。俺に天地は、自分の過去を惜しみも無く教えてくれる。その裏腹はつまり、共有してほしいという意味なのだろう。

 彼女の思い出を、消してしまわぬように。

 だったら俺がやるべき事は決まっている。それを受け止め、それを守ってあげることだ。

 最大の理解者になろうだなんて、そんなおこがましいことは考えちゃいないが、俺自身も天地の事を理解したいと思っているしな。

 それが所謂、恋愛というモノなのではないかと、俺は思うんだけどね。まあ、あくまで自論だが。

「ちなみにこの天体望遠鏡、何万とするものだから」

「あっ、やっぱりそれくらいするんだな」

「壊したら弁償だから」

「………………急に超絶なプレッシャーを感じたのだが」

「思い出の品だけに、重いのよ。プレッシャーも重量も」

三重さんじゅうの意味でかかってたのかっ!!!」

 思い出の品とプレッシャーの意味だけでもウマいって言ってしまいそうなもんだったが、まさか重量のところまでかけてくるとは、こりゃ一本取られた。

 ……そんな事をほのぼのと思っている場合ではない!ウン万の弁償なんて出来るわけがあるか!!そんなのだったら、まだ沖縄に行って絶滅寸前の紙幣を、南国を満喫しながらよたよたと探し回っていた方がマシだ!!

「そうねぇ……もし弁償代が出たら、そのお金でも使って沖縄でも行こうかしら」

「それ、俺が弁償する事を前提に言ってるもんじゃねえか!しかも弁償代を旅行代にしようとしてるんじゃねえっ!!」

「貰ったお金の使い道なんて人それぞれじゃない。それに沖縄に行くっていっても、あなたと一緒に行くのよ岡崎君」

「えっ!あ……うーん……」

 怒るに怒れない、突っ込むに突っ込めないような返しに戸惑う。

「岡崎君、そこは沖縄じゃなくて北海道だろって突っ込むところじゃないの?」

「天地……突っ込みっていうのは別に、ボケの反対の事を言えばいいってもんじゃないからな」

「あらそう、じゃああなたは沖縄と北海道、どっちがいいの?」

「えっ!そういう話になったのか……えっとそうだな……俺は寒いの苦手だし、沖縄がいいかな」

「そう、じゃあ卒業旅行は沖縄で決まりね」

「はやっ!まだ一年の七月なのに決める事じゃないだろ卒業旅行って!!」

「でも三年になってから決める時間なんてないでしょ?受験もあるし。それに今から旅行資金をこつこつ集めないと、沖縄なんて行けないわよ」

「あっ……確かに」

 早計な話でも無かったというわけで、本日この日、俺達の卒業旅行の行き先が決まった。

 とりあえず明日から五百円玉貯金を始めれば間に合うだろうか……?

「そんな先の事への心配はいいから、早く出発するわよ。目的地はこの街よりも田舎の場所だから、電車で向かうわ」

「えっ……電車で向かう程の場所なのか……」

「ええ、ちなみに電車は一時間に一本だから、乗り遅れたら歩いて帰る事にならわ」

「待て待て待てぃっ!一時間に一本って、歩いて帰るってなんだ!聞いてないぞ俺はっ!!」

「そりゃそうよ、だって話してないもの」

「話せよっ!報告・連絡・相談のホウレンソウは社会人の基本だろっ!!」

「わたし達、まだ学生だもの」

 そういえばそうだった、俺達はまだ、高校生だった。

「それに報告・連絡・相談だなんて、一体何割の社会人がそんな事を馬鹿真面目に信じて実行してるのかしらね。もしそんな事が順守されているような社会だったら、黒塗りの報告書なんて出てこないでしょうに」

 ついでに社会への毒も吐いた。

 というか、ついでの方が本格的な嫌味だし、長かった気がした。

 ついでがついでになってない。

「それじゃあ改まって説明を受けたいのだが、今日のこれからの日程はどんな感じになってるんだ?」

 俺は痛くなりつつある頭を掻きむしる。なんとなく、ハードなスケジュールになっているであろう事は、先程の天地の二言三言を聞けば分かるもんだったからな。

「日程としてはこれから出発して、電車で市外の田舎町まで向かい、そこでゆっくり天体観測。時間を見て、電車があれば電車で帰るけれども、無ければ徒歩でわたしの家まで帰宅。その後岡崎君は自転車で帰宅という形になるわね」

「はあ……日程というよりかは、推定って感じだよなそれ」

「想定とも言うわね」

 結局、確たる計画は立っていないが、とりあえず田舎まで行って、星を見て、それで帰るという事だけは決まってるようだった。

 弾丸も弾丸。

 突拍子の無い、とんでも星空ツアーだった。

「それに今日は何を隠そう金曜日、明日は土曜日だから、学生であり、まだ一年坊主であるわたし達には壮大な時間的余裕があるでしょ?だから、そんな突き詰めた日程を立てる必要はないと思ったのよ」

「ああ……そっか、明日は学校休みか」

 だから、だからこのようなアバウトな計画を立てたのだろう。

 学校も無ければ、さして休日の用事も無い。去年のように受験勉強もしなくていいし、特にやっておかなければならない課題も無かった。

 言わば、義務も責任も課せられない、なんのしがらみも無い、絶対的なモラトリアム。

 そのモラトリアムな期間を存分に満喫する為に、時間にも、他人にも、場所にも捕らわれない、言わば無計画というものを天地は今回、計画したのだろう。

 二人だけの、永遠とも思えるような時間をつくる為に。
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