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第2部 青春の続き篇
第5話 七夕の日【5】
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「説明は終わり。さっ岡崎君行きましょ。ほら荷物持って」
「はいはい」
天地に言われる通り、俺は天体望遠鏡の入っているケースの紐を肩に掛けて、背中に回す。
見た目通り、やはり重いが担げない程では無かった。
対する天地は、背中にハイキングとかそんな時に使いそうなリュックサックを背負い、それから共々天地の家を出て、駅に向けて出発する。
モチロン、ここら辺の土地勘において皆無である俺が先導など出来るはずも無く、俺の先を歩くのは天地だった。
歩いて数分、最寄りの駅に辿り着き、どうやらその目指す駅は交通系ICが使えない駅らしく、俺は久々に切符というものを購入し、天地と共に自動改札を抜ける。
数分後、一時間に一本しか来ない電車に乗り、人の少ない電車であったので背中におぶっていた天体望遠鏡を一度下ろし、座席に座る。
その隣に、天地も座った。
無言のまま、ただただ電車に揺らされる。
別に話す事が無いわけではなかったのだが、これから十分その時間はある。
それにこのだんまりと、ただただ隣に座り合うだけの時間も、存外悪くないものだ。ドキドキするというよりかは、むしろ落ち着く。
同じ場所、同じ時間、同じ状況に、同じ揺れを共有してるだけでも、心が安らぐ。
そんな時間を四十分程味わい、目的の駅へと辿り着く。こう言ってはなんだが、本当に辺鄙な、片田舎の駅だった。
天体望遠鏡を担ぎ直し、俺と天地は電車を出る。駅周辺の田舎具合を見れば、何となく予測出来ていたのだが、やはりこの駅、無人改札機は無く、有人改札だった。
切符を駅員さんに渡し、駅舎を出る。駅前広場はあったが、人っ子一人いない。
非常に静かで、車通りは皆無、家もぽつぽつと建っており、田んぼや畑が広がる、そんな田舎町。
俺達の住んでいる所も、結構片田舎の地方の町ではあるのだが、それよりもここは田舎レベルが高い。
そんな田舎町に、男女二人、星を見に来たのだった。
「ところで天地、何でこんな外れの街まで来ようって思ったんだ?星なら俺達の住んでる町でも、十分見られるだろうに」
「無粋ね岡崎君は。そんな事だから、彼女いない歴イコール年齢なんていう称号を引っ提げることになるのよ」
「誰からも貰ってねえよそんな不名誉な称号っ!それに世の中、結構いるんだぞ彼女いない歴イコール年齢のやつなんて!」
「でもわたしのお蔭で、その枠組みからは脱出できたじゃない。感謝しなさい」
「う……う~ん……?……ありがとう」
「どういたしまして」
なんだか今日は、うまい具合に天地に誘導されているというか、弄ばれているというか、そんな感じがする。
主導権を完全に握られている。
「そうね……田舎町まで来たのはまず一つ、より星の見えやすい、街灯なんかが少ない場所で、天体望遠鏡に鮮明に映る星を見たかったから」
「なるほど」
「二つ、今日は七月七日七夕よ。確かにわたし達の住んでいる場所でも、天体望遠鏡があれば星は見えたでしょうけど、おそらくみんな考える事は同じ、だから都市近郊の観測スポットでは、他のカップルが蟻のようにうじゃうじゃ湧くのは、目に見えていたから」
「うじゃうじゃって……」
しかも蟻のようって……あっ、カップルだけに甘いから、蟻なのか?
「そんなクソ寒い駄洒落を言ったつもりはないわよ」
寒いだけでも傷つきそうなものの、クソ寒い駄洒落って言われた……せめてオヤジギャグって言ってくれよ……。
辛辣だなぁ……。
「そして三つ目は、わたしの家族は、この田舎町で天体観測を行っていたから。だから、わたし達が見た星空を岡崎君、あなたにも見せてあげたかったからよ」
「えっ……そうなのか」
こんな片田舎まで、家族揃って、電車に揺られながら、ここまで星を見に来ていたのか。
そんな深い意味が。
「この前チーズケーキを食べるのに、わたしは岡崎君の家族を紹介してもらったでしょ?弟の元君にお父さん、お母さん」
「ああ、そうだな」
「そのお返しに、わたしの家族を紹介したかったけど、でも今はいない。だから家族が揃っていた時に見た物を、あなたには見て欲しかったの。その為にここにやって来た。わたしの思い出の中の家族を、あなたに紹介するために」
思い出の中の家族……か。
こんな、まだ成人もしていないこんな歳で、家族が思い出の中にしかいないというのは、どれだけ寂しいものなんだろうな。
俺には父も母も、生意気な弟もいる。満ち足りている。
そんな満ち足りている俺に、天地の気持ちは分からない。
しかしその気持ちが分からない事は、ある意味幸せなのだろう。当然が当然だと思ってはならない。
そこには、どんなに頑張って、足掻いたって、当然すら手に入らない人だっているのだから。
「以上三つがここまで来た理由よ。異論はある?」
「ありません、十分です……」
「そう……じゃあ観測スポットへ向かうわよ」
理由としてはもう本当に、お腹一杯、胸焼けしそうなフルコースだったわけで、俺達はついに、満を持して、天体観測へと向かう事となったのである。
誰一人として歩いていない、所々街灯がチカチカと点滅しているような、そんな歩道を二人歩き、田舎の度合いが更に増して、家よりも田んぼや畑の方が多くなってきた場所に辿り着くと、天地は踏みとどまる事も無く、淡々と、スタスタと、林の中へと俺をいざなった。
スマートフォンで確認すると、時間は十九時ちょっと前を示しており、幾ら夏になり日が長くなってきたとはいえ、まだ七月の初頭。辺りはすっかり暗くなり始めていた。
「お……おい天地、大丈夫なのかここ?私有地だろ多分」
「さあ?ただ、前に天体観測に来た時は大丈夫だったから、おそらく今回も大丈夫よ」
「お前な……もし地主に見つかったら、不法侵入だぞ」
「その時は逃げればいいのよ、わたし、岡崎君とだったら地の果てでも逃げ続けれる自信があるわよ」
「……気持ちは嬉しいけど、俺はそんな自信ねえよ」
「そう、だったらその時は身代わりにするわね」
「あっさり切り捨てやがった!」
容赦ないな本当に……だったら俺も、逃げ続けないといけないのかな。
天地と、地の果てまで。
「全然上手くないわよ、岡崎君」
「な……なにがだよ!」
「天地の『地』と地の果ての『地』をかけただなんて、そんな事どうせ思ったんでしょ?」
「んなっ!?何故それを……!」
「岡崎君の浅はかな考えなんて、全知全能のわたしからしたら、先読みする事など容易いわ」
「神がここにおられたのかっ!」
「これからは精一杯崇めなさい」
「ははぁ~……」
全てが天地には筒抜けており、俺はそんな浅はかで、軽々しい頭を下げた。
こんな簡単に頭を下げるなんて、ホント軽率だよなぁ~俺……。
「はいはい」
天地に言われる通り、俺は天体望遠鏡の入っているケースの紐を肩に掛けて、背中に回す。
見た目通り、やはり重いが担げない程では無かった。
対する天地は、背中にハイキングとかそんな時に使いそうなリュックサックを背負い、それから共々天地の家を出て、駅に向けて出発する。
モチロン、ここら辺の土地勘において皆無である俺が先導など出来るはずも無く、俺の先を歩くのは天地だった。
歩いて数分、最寄りの駅に辿り着き、どうやらその目指す駅は交通系ICが使えない駅らしく、俺は久々に切符というものを購入し、天地と共に自動改札を抜ける。
数分後、一時間に一本しか来ない電車に乗り、人の少ない電車であったので背中におぶっていた天体望遠鏡を一度下ろし、座席に座る。
その隣に、天地も座った。
無言のまま、ただただ電車に揺らされる。
別に話す事が無いわけではなかったのだが、これから十分その時間はある。
それにこのだんまりと、ただただ隣に座り合うだけの時間も、存外悪くないものだ。ドキドキするというよりかは、むしろ落ち着く。
同じ場所、同じ時間、同じ状況に、同じ揺れを共有してるだけでも、心が安らぐ。
そんな時間を四十分程味わい、目的の駅へと辿り着く。こう言ってはなんだが、本当に辺鄙な、片田舎の駅だった。
天体望遠鏡を担ぎ直し、俺と天地は電車を出る。駅周辺の田舎具合を見れば、何となく予測出来ていたのだが、やはりこの駅、無人改札機は無く、有人改札だった。
切符を駅員さんに渡し、駅舎を出る。駅前広場はあったが、人っ子一人いない。
非常に静かで、車通りは皆無、家もぽつぽつと建っており、田んぼや畑が広がる、そんな田舎町。
俺達の住んでいる所も、結構片田舎の地方の町ではあるのだが、それよりもここは田舎レベルが高い。
そんな田舎町に、男女二人、星を見に来たのだった。
「ところで天地、何でこんな外れの街まで来ようって思ったんだ?星なら俺達の住んでる町でも、十分見られるだろうに」
「無粋ね岡崎君は。そんな事だから、彼女いない歴イコール年齢なんていう称号を引っ提げることになるのよ」
「誰からも貰ってねえよそんな不名誉な称号っ!それに世の中、結構いるんだぞ彼女いない歴イコール年齢のやつなんて!」
「でもわたしのお蔭で、その枠組みからは脱出できたじゃない。感謝しなさい」
「う……う~ん……?……ありがとう」
「どういたしまして」
なんだか今日は、うまい具合に天地に誘導されているというか、弄ばれているというか、そんな感じがする。
主導権を完全に握られている。
「そうね……田舎町まで来たのはまず一つ、より星の見えやすい、街灯なんかが少ない場所で、天体望遠鏡に鮮明に映る星を見たかったから」
「なるほど」
「二つ、今日は七月七日七夕よ。確かにわたし達の住んでいる場所でも、天体望遠鏡があれば星は見えたでしょうけど、おそらくみんな考える事は同じ、だから都市近郊の観測スポットでは、他のカップルが蟻のようにうじゃうじゃ湧くのは、目に見えていたから」
「うじゃうじゃって……」
しかも蟻のようって……あっ、カップルだけに甘いから、蟻なのか?
「そんなクソ寒い駄洒落を言ったつもりはないわよ」
寒いだけでも傷つきそうなものの、クソ寒い駄洒落って言われた……せめてオヤジギャグって言ってくれよ……。
辛辣だなぁ……。
「そして三つ目は、わたしの家族は、この田舎町で天体観測を行っていたから。だから、わたし達が見た星空を岡崎君、あなたにも見せてあげたかったからよ」
「えっ……そうなのか」
こんな片田舎まで、家族揃って、電車に揺られながら、ここまで星を見に来ていたのか。
そんな深い意味が。
「この前チーズケーキを食べるのに、わたしは岡崎君の家族を紹介してもらったでしょ?弟の元君にお父さん、お母さん」
「ああ、そうだな」
「そのお返しに、わたしの家族を紹介したかったけど、でも今はいない。だから家族が揃っていた時に見た物を、あなたには見て欲しかったの。その為にここにやって来た。わたしの思い出の中の家族を、あなたに紹介するために」
思い出の中の家族……か。
こんな、まだ成人もしていないこんな歳で、家族が思い出の中にしかいないというのは、どれだけ寂しいものなんだろうな。
俺には父も母も、生意気な弟もいる。満ち足りている。
そんな満ち足りている俺に、天地の気持ちは分からない。
しかしその気持ちが分からない事は、ある意味幸せなのだろう。当然が当然だと思ってはならない。
そこには、どんなに頑張って、足掻いたって、当然すら手に入らない人だっているのだから。
「以上三つがここまで来た理由よ。異論はある?」
「ありません、十分です……」
「そう……じゃあ観測スポットへ向かうわよ」
理由としてはもう本当に、お腹一杯、胸焼けしそうなフルコースだったわけで、俺達はついに、満を持して、天体観測へと向かう事となったのである。
誰一人として歩いていない、所々街灯がチカチカと点滅しているような、そんな歩道を二人歩き、田舎の度合いが更に増して、家よりも田んぼや畑の方が多くなってきた場所に辿り着くと、天地は踏みとどまる事も無く、淡々と、スタスタと、林の中へと俺をいざなった。
スマートフォンで確認すると、時間は十九時ちょっと前を示しており、幾ら夏になり日が長くなってきたとはいえ、まだ七月の初頭。辺りはすっかり暗くなり始めていた。
「お……おい天地、大丈夫なのかここ?私有地だろ多分」
「さあ?ただ、前に天体観測に来た時は大丈夫だったから、おそらく今回も大丈夫よ」
「お前な……もし地主に見つかったら、不法侵入だぞ」
「その時は逃げればいいのよ、わたし、岡崎君とだったら地の果てでも逃げ続けれる自信があるわよ」
「……気持ちは嬉しいけど、俺はそんな自信ねえよ」
「そう、だったらその時は身代わりにするわね」
「あっさり切り捨てやがった!」
容赦ないな本当に……だったら俺も、逃げ続けないといけないのかな。
天地と、地の果てまで。
「全然上手くないわよ、岡崎君」
「な……なにがだよ!」
「天地の『地』と地の果ての『地』をかけただなんて、そんな事どうせ思ったんでしょ?」
「んなっ!?何故それを……!」
「岡崎君の浅はかな考えなんて、全知全能のわたしからしたら、先読みする事など容易いわ」
「神がここにおられたのかっ!」
「これからは精一杯崇めなさい」
「ははぁ~……」
全てが天地には筒抜けており、俺はそんな浅はかで、軽々しい頭を下げた。
こんな簡単に頭を下げるなんて、ホント軽率だよなぁ~俺……。
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