67 / 103
第3部 欺いた青春篇
第1章 夏の始まり【1】
しおりを挟む
午前八時前、通学路を歩く生徒達は、皆浮かれているように俺には見えた。
というのもそのはず、明日から夏休みが始まるからだった。一年で最も長い、長期休暇の始まりである。
なので行き交う生徒がこぞって、友達と夏の計画を話し合ったりしているのは、まあ特別でもなんでもなく、むしろ俺みたいに一人で歩きながら、そんな光景を見ているやつの方が少ないくらいで、まあそれも別に、気にはならなかった。
夏、夏である。
まだ梅雨前線が完全に俺達の住んでいる地方上空を離れたわけでは無いので、空は若干曇りがかってはいるものの、それでも時折見せる太陽が、まるで地上の人間を焼き尽くすが如く熱い熱線を送って来る。
半袖ポロシャツであったとしても、暑いものは暑い。
額に汗が滲んでいたので、俺がそれを手で拭い去ろうとしたその時、相も変わらず、定刻通り、やつが俺の背中を軽く押してやってきた。
「やあチハ」
いつもの軽いノリで挨拶をしてきたのは、徳永だった。
「おはよう、岡崎君」
そしてその隣にいるのは、数時間前にモーニングコールをくれた神坂さんだった。
しかし神坂さんは何食わぬ顔をしている。まるで早朝の一件など、無かったかのように。
もしかしたら、徳永にはあまり知られたくないのだろうか?だとしたら二人の秘め事みたいで……うん、それだけで胸の高鳴りを感じざるを得ない。
「おはよう、徳永、神坂さん」
だから俺は、神坂さんの対応に合わせる事にした。
何食わぬ顔で、いつも通りの口調で。
「ん?どうしたのチハ?なんか今日は少しテンションが高い気がするけど、もしかして明日から夏休みだからかい?」
さすがは旧友といったところか、この程度のまやかしでは見抜かれてしまった。
というか元々、俺は誰からもそう言われるのだが、嘘を吐くのが下手というか、心の声が顔に漏れだしてしまっているらしい。
ようは感情が表情に出やすいとのことだ。
だから、それももう四年もの付き合いになる徳永には、まるで手に取るように、俺の浮かれ様が分かってしまうということだ。
まあしかし、その内容までは当てきれなかったので、どうやら神坂さんとのことは、コイツには知れ渡ってないらしい。ということは、やはり神坂さんはあの事を、徳永には黙っているようだ。
「まあな、というか、夏休みで浮かれない学生なんて、この世にはいないだろ?」
「さあどうだろうね。家に居るより学校の方が楽しいって学生も、案外、この世には多くいるかもしれないし、存外、そうだと言えないかもしれないよ?」
「じゃあ校門前でアンケートでも取ってみるか?」
「ははは!確かに面白いアンケートになって、自由研究としては丁度良いかもしれないけれど、でも僕は遠慮しておくよ。生憎、高校生に自由研究は無いからね」
まあ俺も高校生だし、それにこんな暑い日に、誰が校門前で通り過ぎる生徒達から白い目で見られながらアンケートをとるかってんだ。
まあ……発案者は俺なのだが、言いだしっぺだからと言って、やるとは決して言っていない。
「ところでチハは何か夏休みの予定、入ってるの?」
「う~ん……今のところ何も入ってないかな。ただ、どうせ天地が何か思いつくだろうから、それに合わせようかなとは思ってるけどな」
「へえ……天地さんにね。うんうん」
「なんだよ、その意味有り気な頷きは」
「いや……つい二ヶ月前にも、ゴールデンウィークの時も同じようなこと訊いた気がするんだけど、その時はチハ、元くんと遊ぶって言ってたけど、今じゃ女の子と遊ぶなんて、短い間にシフトチェンジしたなぁって思ってね」
「……妬いてるのか?」
「さあ、どうだろうね。ただ、羨ましくはあるかな」
いつものように穏やかに笑ってみせる徳永。
どちらかといえば、コイツは本性が顔に現れないやつなんだと思う。なんせ、四六時中、いつもこうやって、優しい顔して笑っているやつだからな。
だから、こういう事を友人に対して思うのもどうかと言われるかもしれないが、コイツは多分、詐欺師になったら百戦錬磨の詐欺師になれそうだ。
情報収集能力も並大抵ではないし、顔も絵に描いたような優しい人みたいな、そんな顔をしているからな。
まあ詐欺師でなくても、選挙とかに出たら、もしかしたらその人相だけで当選するかもしれない。
しかし人相だけで、ここまで様々な未来を切り開く可能性があるなんて。
ああ……何だか俺は、人間としてお前が羨ましいぞ徳永。
「ん?どうしたのチハ?僕の顔見て?」
「いや……ところでお前、生徒会入ってたんだよな?」
「うん、まあね。今日の放課後もその集まりがあってね……結構この学校の生徒会は活発のようだよ」
「そうか、それでお前、何の役員だったっけ?」
「生徒会副委員長だけど?」
「ああ……」
何かの係の副委員長かと思っていたら、どっこい生徒会の副委員長だった。
まあでも、コイツには妥当なポストなのかもしれない。委員長よりも、その委員長を支える方がコイツにはあってるような、そんな気がする。
しかしまあ、コイツのスキルの高さには本当に憧れというか、羨望するところが多々ある。
だけどやっぱり、俺はコイツみたいにはなれないし、コイツのようには、なりたくないかな。
不器用な人間が器用な人間を羨むことはあれど、そうなりたいと絶対的に思うかと言えば、そうでもない。
まあ、さっき徳永が言っていた、夏休みを苦に思う人がいるかもしれない、という可能性があるように、器用になりたいって思う人もいるかもしれないが、せめて俺は、そんな事は無い。
俺はそこまで、俺のことを嫌いだとは思ってないし、それにこの前、神坂さんに自己嫌悪はよくないって、注意されたばかりだしな。
ちなみにその神坂さんはと言うと、その時彼女は、間に入ってくる事も無く、相槌を打つ事も無く、薄い笑みを浮かべたまま、ただただ黙って俺達の話を聞いているだけだった。
いつもと少し異なる雰囲気を醸し出しているような、なんだか哀愁を漂わせているような、そんな気がしたのも束の間、そんな事を思っている内に、俺達三人は校門を潜り抜けていた。
というのもそのはず、明日から夏休みが始まるからだった。一年で最も長い、長期休暇の始まりである。
なので行き交う生徒がこぞって、友達と夏の計画を話し合ったりしているのは、まあ特別でもなんでもなく、むしろ俺みたいに一人で歩きながら、そんな光景を見ているやつの方が少ないくらいで、まあそれも別に、気にはならなかった。
夏、夏である。
まだ梅雨前線が完全に俺達の住んでいる地方上空を離れたわけでは無いので、空は若干曇りがかってはいるものの、それでも時折見せる太陽が、まるで地上の人間を焼き尽くすが如く熱い熱線を送って来る。
半袖ポロシャツであったとしても、暑いものは暑い。
額に汗が滲んでいたので、俺がそれを手で拭い去ろうとしたその時、相も変わらず、定刻通り、やつが俺の背中を軽く押してやってきた。
「やあチハ」
いつもの軽いノリで挨拶をしてきたのは、徳永だった。
「おはよう、岡崎君」
そしてその隣にいるのは、数時間前にモーニングコールをくれた神坂さんだった。
しかし神坂さんは何食わぬ顔をしている。まるで早朝の一件など、無かったかのように。
もしかしたら、徳永にはあまり知られたくないのだろうか?だとしたら二人の秘め事みたいで……うん、それだけで胸の高鳴りを感じざるを得ない。
「おはよう、徳永、神坂さん」
だから俺は、神坂さんの対応に合わせる事にした。
何食わぬ顔で、いつも通りの口調で。
「ん?どうしたのチハ?なんか今日は少しテンションが高い気がするけど、もしかして明日から夏休みだからかい?」
さすがは旧友といったところか、この程度のまやかしでは見抜かれてしまった。
というか元々、俺は誰からもそう言われるのだが、嘘を吐くのが下手というか、心の声が顔に漏れだしてしまっているらしい。
ようは感情が表情に出やすいとのことだ。
だから、それももう四年もの付き合いになる徳永には、まるで手に取るように、俺の浮かれ様が分かってしまうということだ。
まあしかし、その内容までは当てきれなかったので、どうやら神坂さんとのことは、コイツには知れ渡ってないらしい。ということは、やはり神坂さんはあの事を、徳永には黙っているようだ。
「まあな、というか、夏休みで浮かれない学生なんて、この世にはいないだろ?」
「さあどうだろうね。家に居るより学校の方が楽しいって学生も、案外、この世には多くいるかもしれないし、存外、そうだと言えないかもしれないよ?」
「じゃあ校門前でアンケートでも取ってみるか?」
「ははは!確かに面白いアンケートになって、自由研究としては丁度良いかもしれないけれど、でも僕は遠慮しておくよ。生憎、高校生に自由研究は無いからね」
まあ俺も高校生だし、それにこんな暑い日に、誰が校門前で通り過ぎる生徒達から白い目で見られながらアンケートをとるかってんだ。
まあ……発案者は俺なのだが、言いだしっぺだからと言って、やるとは決して言っていない。
「ところでチハは何か夏休みの予定、入ってるの?」
「う~ん……今のところ何も入ってないかな。ただ、どうせ天地が何か思いつくだろうから、それに合わせようかなとは思ってるけどな」
「へえ……天地さんにね。うんうん」
「なんだよ、その意味有り気な頷きは」
「いや……つい二ヶ月前にも、ゴールデンウィークの時も同じようなこと訊いた気がするんだけど、その時はチハ、元くんと遊ぶって言ってたけど、今じゃ女の子と遊ぶなんて、短い間にシフトチェンジしたなぁって思ってね」
「……妬いてるのか?」
「さあ、どうだろうね。ただ、羨ましくはあるかな」
いつものように穏やかに笑ってみせる徳永。
どちらかといえば、コイツは本性が顔に現れないやつなんだと思う。なんせ、四六時中、いつもこうやって、優しい顔して笑っているやつだからな。
だから、こういう事を友人に対して思うのもどうかと言われるかもしれないが、コイツは多分、詐欺師になったら百戦錬磨の詐欺師になれそうだ。
情報収集能力も並大抵ではないし、顔も絵に描いたような優しい人みたいな、そんな顔をしているからな。
まあ詐欺師でなくても、選挙とかに出たら、もしかしたらその人相だけで当選するかもしれない。
しかし人相だけで、ここまで様々な未来を切り開く可能性があるなんて。
ああ……何だか俺は、人間としてお前が羨ましいぞ徳永。
「ん?どうしたのチハ?僕の顔見て?」
「いや……ところでお前、生徒会入ってたんだよな?」
「うん、まあね。今日の放課後もその集まりがあってね……結構この学校の生徒会は活発のようだよ」
「そうか、それでお前、何の役員だったっけ?」
「生徒会副委員長だけど?」
「ああ……」
何かの係の副委員長かと思っていたら、どっこい生徒会の副委員長だった。
まあでも、コイツには妥当なポストなのかもしれない。委員長よりも、その委員長を支える方がコイツにはあってるような、そんな気がする。
しかしまあ、コイツのスキルの高さには本当に憧れというか、羨望するところが多々ある。
だけどやっぱり、俺はコイツみたいにはなれないし、コイツのようには、なりたくないかな。
不器用な人間が器用な人間を羨むことはあれど、そうなりたいと絶対的に思うかと言えば、そうでもない。
まあ、さっき徳永が言っていた、夏休みを苦に思う人がいるかもしれない、という可能性があるように、器用になりたいって思う人もいるかもしれないが、せめて俺は、そんな事は無い。
俺はそこまで、俺のことを嫌いだとは思ってないし、それにこの前、神坂さんに自己嫌悪はよくないって、注意されたばかりだしな。
ちなみにその神坂さんはと言うと、その時彼女は、間に入ってくる事も無く、相槌を打つ事も無く、薄い笑みを浮かべたまま、ただただ黙って俺達の話を聞いているだけだった。
いつもと少し異なる雰囲気を醸し出しているような、なんだか哀愁を漂わせているような、そんな気がしたのも束の間、そんな事を思っている内に、俺達三人は校門を潜り抜けていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【書籍化決定】アシュリーの願いごと
ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」
もしかして。そう思うことはありました。
でも、まさか本当だっただなんて。
「…それならもう我慢する必要は無いわね?」
嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。
すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。
愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。
「でも、もう変わらなくてはね」
この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。
だって。私には願いがあるのだから。
✻基本ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
✻1/19、タグを2つ追加しました
✻1/27、短編から長編に変更しました
✻2/2、タグを変更しました
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる