ヒトコイラヴァーズ 悪魔の女との青春物語

赤坂皐月

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第3部 欺いた青春篇

第1章 夏の始まり【1】

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 午前八時前、通学路を歩く生徒達は、皆浮かれているように俺には見えた。

 というのもそのはず、明日から夏休みが始まるからだった。一年で最も長い、長期休暇の始まりである。

 なので行き交う生徒がこぞって、友達と夏の計画を話し合ったりしているのは、まあ特別でもなんでもなく、むしろ俺みたいに一人で歩きながら、そんな光景を見ているやつの方が少ないくらいで、まあそれも別に、気にはならなかった。

 夏、夏である。

 まだ梅雨前線が完全に俺達の住んでいる地方上空を離れたわけでは無いので、空は若干曇りがかってはいるものの、それでも時折見せる太陽が、まるで地上の人間を焼き尽くすが如く熱い熱線を送って来る。

 半袖ポロシャツであったとしても、暑いものは暑い。

 額に汗が滲んでいたので、俺がそれを手で拭い去ろうとしたその時、相も変わらず、定刻通り、やつが俺の背中を軽く押してやってきた。

「やあチハ」

 いつもの軽いノリで挨拶をしてきたのは、徳永だった。

「おはよう、岡崎君」

 そしてその隣にいるのは、数時間前にモーニングコールをくれた神坂さんだった。

 しかし神坂さんは何食わぬ顔をしている。まるで早朝の一件など、無かったかのように。

 もしかしたら、徳永にはあまり知られたくないのだろうか?だとしたら二人の秘め事みたいで……うん、それだけで胸の高鳴りを感じざるを得ない。

「おはよう、徳永、神坂さん」

 だから俺は、神坂さんの対応に合わせる事にした。

 何食わぬ顔で、いつも通りの口調で。

「ん?どうしたのチハ?なんか今日は少しテンションが高い気がするけど、もしかして明日から夏休みだからかい?」

 さすがは旧友といったところか、この程度のまやかしでは見抜かれてしまった。

 というか元々、俺は誰からもそう言われるのだが、嘘を吐くのが下手というか、心の声が顔に漏れだしてしまっているらしい。

 ようは感情が表情に出やすいとのことだ。

 だから、それももう四年もの付き合いになる徳永には、まるで手に取るように、俺の浮かれ様が分かってしまうということだ。

 まあしかし、その内容までは当てきれなかったので、どうやら神坂さんとのことは、コイツには知れ渡ってないらしい。ということは、やはり神坂さんはあの事を、徳永には黙っているようだ。

「まあな、というか、夏休みで浮かれない学生なんて、この世にはいないだろ?」

「さあどうだろうね。家に居るより学校の方が楽しいって学生も、案外、この世には多くいるかもしれないし、存外、そうだと言えないかもしれないよ?」

「じゃあ校門前でアンケートでも取ってみるか?」

「ははは!確かに面白いアンケートになって、自由研究としては丁度良いかもしれないけれど、でも僕は遠慮しておくよ。生憎、高校生に自由研究は無いからね」

 まあ俺も高校生だし、それにこんな暑い日に、誰が校門前で通り過ぎる生徒達から白い目で見られながらアンケートをとるかってんだ。

 まあ……発案者は俺なのだが、言いだしっぺだからと言って、やるとは決して言っていない。

「ところでチハは何か夏休みの予定、入ってるの?」

「う~ん……今のところ何も入ってないかな。ただ、どうせ天地が何か思いつくだろうから、それに合わせようかなとは思ってるけどな」

「へえ……天地さんにね。うんうん」

「なんだよ、その意味有り気な頷きは」

「いや……つい二ヶ月前にも、ゴールデンウィークの時も同じようなこと訊いた気がするんだけど、その時はチハ、元くんと遊ぶって言ってたけど、今じゃ女の子と遊ぶなんて、短い間にシフトチェンジしたなぁって思ってね」

「……妬いてるのか?」

「さあ、どうだろうね。ただ、羨ましくはあるかな」

 いつものように穏やかに笑ってみせる徳永。

 どちらかといえば、コイツは本性が顔に現れないやつなんだと思う。なんせ、四六時中、いつもこうやって、優しい顔して笑っているやつだからな。

 だから、こういう事を友人に対して思うのもどうかと言われるかもしれないが、コイツは多分、詐欺師になったら百戦錬磨の詐欺師になれそうだ。

 情報収集能力も並大抵ではないし、顔も絵に描いたような優しい人みたいな、そんな顔をしているからな。

 まあ詐欺師でなくても、選挙とかに出たら、もしかしたらその人相だけで当選するかもしれない。

 しかし人相だけで、ここまで様々な未来を切り開く可能性があるなんて。

 ああ……何だか俺は、人間としてお前が羨ましいぞ徳永。

「ん?どうしたのチハ?僕の顔見て?」

「いや……ところでお前、生徒会入ってたんだよな?」

「うん、まあね。今日の放課後もその集まりがあってね……結構この学校の生徒会は活発のようだよ」

「そうか、それでお前、何の役員だったっけ?」

「生徒会副委員長だけど?」

「ああ……」

 何かの係の副委員長かと思っていたら、どっこい生徒会の副委員長だった。

 まあでも、コイツには妥当なポストなのかもしれない。委員長よりも、その委員長を支える方がコイツにはあってるような、そんな気がする。

 しかしまあ、コイツのスキルの高さには本当に憧れというか、羨望するところが多々ある。

 だけどやっぱり、俺はコイツみたいにはなれないし、コイツのようには、なりたくないかな。

 不器用な人間が器用な人間を羨むことはあれど、そうなりたいと絶対的に思うかと言えば、そうでもない。

 まあ、さっき徳永が言っていた、夏休みを苦に思う人がいるかもしれない、という可能性があるように、器用になりたいって思う人もいるかもしれないが、せめて俺は、そんな事は無い。

 俺はそこまで、俺のことを嫌いだとは思ってないし、それにこの前、神坂さんに自己嫌悪はよくないって、注意されたばかりだしな。

 ちなみにその神坂さんはと言うと、その時彼女は、間に入ってくる事も無く、相槌を打つ事も無く、薄い笑みを浮かべたまま、ただただ黙って俺達の話を聞いているだけだった。

 いつもと少し異なる雰囲気を醸し出しているような、なんだか哀愁を漂わせているような、そんな気がしたのも束の間、そんな事を思っている内に、俺達三人は校門を潜り抜けていた。
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