ヒトコイラヴァーズ 悪魔の女との青春物語

赤坂皐月

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第3部 欺いた青春篇

第1章 夏の始まり【4】

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 時は流れ、昼休み。

 流石に四時間ほど経てば腹の調子も平常運転まで回復し、今日は天地と二人で昼食を取る日だったので、この数ヶ月で何度もやってきた、誰の目にもとまらず屋上への階段を上るという行動にも、箔が付いてきた。

 数分と掛からず階段を上れるようになったし、屋上前四階の階段に、誰も通らなくなる時間帯というものが存在する事にも気づけれるようになり、イレギュラーが発生しない限りは、スムーズに屋上へと辿り着けるようになったのだ。

 果たしてこれが良い事なのか悪い事なのか……いや、そもそも屋上は生徒の侵入が禁止されているので、悪い事なのは確かなんだけど、慣れというものが俺の中の罪悪感を薄めている。

 完全に毒されているな……天地魔白によって。

 まあ……俺自身が好きでやってるっていう節もあるけど。

 そんな、責任転嫁ともとれなくない事を考えながら、俺が屋上の扉を押し通ると、普段通り天地が先に、いつもの場所に座って待機をしていた。

 そして俺も、相も変わらずと言った感じで、天地の隣に腰を据えた。

「岡崎君、お腹の調子はどうなの?」

 天地が弁当の蓋を開けながら、俺に問いかける。心配してくれてるのだろうか?

「うん……まあ四時間経ったから、良くはなってきたよ。それでもちょっと冷えてる感じはするから、冷たい物は怖くて飲めないな」

「そう、でも良かったわ。食べ物が食べれるくらいまで回復して」

「なんか妙に優しいな……何か企んでないだろうな?」

「別に何も企んでなんかないわよ。この前のロシアンルーレットの時の借りを返しただけ」

 ああ、そういえばやったなそんな事。確かあの時は、天地が当たりを引いて、俺がその看病をしたんだっけか。

 あれ……でも結局それって俺、恩を仇で返されてないか?そもそも、俺が腹を下した原因はコイツにあるんだし、そして言ってしまえば、コイツが辛くて痛い目にあったのもコイツのせいだし……。

「そんなわたしにとって都合の悪い事なんて、水に流しなさい」

「流せるかっ!」

「なによ冷たいわね、かき氷でお腹を下したくらいで」

「あのかき氷に比べたら、むしろ俺の冷たさなんてぬるいくらいだっ!」

「そうね、岡崎君はどちらかと言えば詰めが甘くてぬるい人間だものね」

「……お前俺に借りを返すんじゃなかったのか?」

「借りは返したわよ、仇にして」

「恩にしろよっ!」

 相変わらずの罵詈雑言であるが、時々、コイツは本当に俺の事が好きなのか、疑わしい時がある。
 
 俺の事が好きなら、もうちょっと優しくとまでは言わないけれど、ソフトに表現してくれてもいいだろうに。

「暴言も、わたしにとっては愛情表現なのよ岡崎君」

「とてもそうとは思えないけどな……むしろ俺の心が傷つく」

「あなたのハートに刻み付けてるのよ」

「トラウマをなっ!」

 ハートと言うより、記憶に刻まれている。

 お前という女がいた事を、多分、俺はこの先一生、忘れる事は無いだろうよ。

「そんなの忘れるわけないじゃない。だってわたしは記憶どころか、こうやって一生、あなたの隣に座り続けるつもりなのよ岡崎君」

「そうか……隣に……」

 しかしそんな時がいつまで続くかなんて、実のところ分かりはしない。

 今はこうして一緒の時間を共有しやすい環境にはあるが、しかし、人には分岐点がある。一番近いところだと、高校二年になると、理系クラスか文系クラスかという選択が俺達には迫られることになっている。

 俺は多分、このままいけば文系クラスのような気がするけれど、天地は多分、理系を進むんじゃないかと思っている。

 今は文系よりも理系の時代。この先の事を考えるなら、きっとそっちの方がいいだろうと、俺は思うからだ。コイツの最終目標に近づくには、必要な事だと思うから。

 しかしそうなると、教室は自明のことながら、離ればなれになってしまう。そうなると、あの朝のやり取りはもう、必然的に出来なくなるだろう。

 そしてその先の進学、就職と、分岐点はまだまだある。そんな多くの分岐点の中で、全く同じ道を辿ることなど不可能に近い。

 だから、いつかはたがえる。それぞれの道を歩く為に。

 それ故に、今を大切にしたい。今、この時間を。

「どうしたの岡崎君?ぬるい顔してるわよ?」

「ぬるい顔ってどんな顔だよ……」

「そんなことより岡崎君、今から暑い夏よ。夏休みよ」

 ぬるい顔についてはこれ以上言及されず、話はなんの脈絡も無く、夏休みの話になる。

 いや、脈絡はあったかもしれない。だが、ぬるい顔から暑い夏なんて連想する奴を、俺は今まで見たことが無い。しかし今、目撃したばかりではあった。

「夏休みか……もう、現状で課題が山のように出てて、ウンザリしちまってるけどな……」 

 やはり公立とはいえ進学校だけあって、中学の頃とは比較にならないほどの課題を一から四限の間にばら撒かれた俺は、悲観していた。

 俺はどちらかと言えば、課題を八月三十一日の夜に全てを片付ける派の人間であり、しかしそれは、ある程度の課題の量だったから成し得たことであり、今回の課題の量についてはまさに俺の力量の範囲外。

 つまり成し得ないと断定づけるに等しいような、そんな状態なのだった。

「そうかしら?あの程度の量なら、わたしは七月までに終わると算段を踏んでるけど」

「七月って……そうか、お前は夏休みの課題は先にやる派なのか」

「先にやる派というよりかは、先にやらざるを得なかった派と言うべきね。わたしは中学の頃、ずっとお父さんを追いかけていたから、課題なんて基本、やる時間が無かったのよ。だから早め早めに終わらせていたわ」

「なるほど」

「それに学校へ行かなかった分、内申点は課題で稼ぐしかなかったからね。だから、やらざるを得なかったってわけよ」

「そうか……そういう事か」

 俺のように、学校に毎日通っていたにも関わらず、テストの点数が芳しくないことから課題をこなすのとは異なり、天地にとってこの課題こそが、授業を受けられない分、自らの学習への姿勢、習熟度を教師に示す為の生命線だったというわけなのか。
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