ヒトコイラヴァーズ 悪魔の女との青春物語

赤坂皐月

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第4部 連なってゆく青春篇

第1話 里恋噺【1】

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 はじめに結果だけを知らせておこう。

 岡崎千羽矢おかざきちはやはこの年齢にして、よわい十五年にしてようやく初めて、女の子をデートに誘うことに成功した。

 しかもそれは、八月の最終週に行われるという、結構大規模な花火大会である。

 対する相手、天地はいつもの素っ気ない声で『いいわよ』と実にシンプルな答えを提示してきたわけだが、しかし即答してきたとも言えなくもないので、おそらくは楽しみにしてくれているはずだ。

 さて、前述というか、一つの報告のようなものはここまでにしておき、今回はその花火大会の話というわけではなく、盆の日に、俺を含めた岡崎家の人間が、母方の故郷である田舎村に帰郷した際の話である。

 といっても、俺と弟との兄弟水入らずのくだらないやり取りをもう一度するのではなく、その後の話。

 俺が電波の届きにくい場所で、ようやく電波の入る場所を見つけ、なんとか天地と花火大会へ行く約束を取り付けた後の話となるわけだが、しかしここで一つ言わせてもらうと、これは俺の話でもあり、俺を主体とした話ではない。

 つまるところ、今回の主役は俺ではなく、別の人物であるということだ。

 俺はどちらかといえば、傍観者に近いような、実行している側というよりかは、陰から支えるパートナー的ポジションとなるため、そういう視点で話を進めていくこととなる。

 所謂、ストーリーテラーといったところか……いや、それとは違うような気もするが、まあつまり、脇役目線といったところだろうか。

 ではでは、一体その主役を張るような人物はどいつなのかというのは、おそらく気になるだろうが、この場合、俺以外にそれになり得る人物はもう、現状一人しかいない。

 俺の弟、岡崎元おかざきはじめだ。

 俺の三つ下の弟であり、中学一年生でありながら既に反抗に次ぐ反抗を繰り返す弟であり、クソ生意気な弟でもある。

 学力は普通程度。

 良くも無ければ悪くも無いが、それは全体を通して、平均を取ればそうであるのだが、しかし算数、まあ中一だから数学においては、ぶっちぎりの成績を収めていた。

 本人曰く、数学は数式さえ知っていれば誰でも解けるだそうだ。

 この言葉を聞いて腹が立った諸君、皆俺の仲間だ。

 それが理解できないから、俺のような数学において、落ちこぼれどころか落第級に、絶対的に苦手とする人間がいるというのに……。

 愚痴はこの辺にしておいて、今このクソ生意気な弟には確実的に、着実的に足りないものがある。

 それは、青春。何かに熱中すること。

 どうやら部活動には入ったらしく、剣道部であるのだが、練習をそんなに熱心にしているというわけでもないらしい。

 あくまで部活動に入った理由は、剣道を嗜む程度でやってみたかった。ただそれだけ。

 インターハイに出るとか、団体戦、玉竜旗でレギュラーになるとか、そういうのではなく、ただやってみたかっただけ。

 しかしその程度の気持ちで、熱中できるはずが無い。それは必然、当たり前だった。

 だから高校野球の試合をテレビで見て、あいつは俺にこんなことを尋ねてきたのだ。

『兄貴もこの人達みたいに、野球に熱中してた時ってあったの?』

 それは俺への疑問と共に、自分への問いかけでもあったはずだ。

 自分には熱中するものが無い。ただ単に、フラフラと学校に行って、ある程度竹刀を握って練習して、飯食って風呂入って、寝て……その繰り返し。

 そうしてくるうちに、考えてしまう。これは惰性なのではないかと。

 今やってる、今自分が生きてる、その全てが惰性のように思えてくる瞬間。

 何も変化の無い日常に、何も山の無い今に飽き始めるその瞬間が、おそらく元にもあったのだろう。

 しかしそれは、俺も中学時代嫌というほど味わった気持ちだ。

 上に上がろうという気配も無く、ただ野球をして、ある程度友達と付き合って、飯食って風呂入って寝て、その毎日であった。

 しかしその惰性の生活は、俺の場合、高校入学と同時に消え去った。

 天地魔白との出会いによって。

 そう考えると、弟のやってることは俺と同じなのだ。

 だから何かに熱中する者達を見ると、それが眩しく、輝かしく見えてくるのだ。

 自分に持って無いものを、彼ら彼女らは持っている。

 じゃあ何故、自分には手に入らないのか……と。

 隣の芝は青く見えるというけれども、見えるだけではなく、本当に青々としていたならば、枯草の上に立ってる人間からしたら、それを羨ましがるのは当然のことなのである。

 だから多分、弟は今の俺を羨んでる。

 弟は餓え、俺は満ちているから。

 しかし今回俺は、その満ちている俺は、餓えている弟のお立ち台、弟を輝かせるための脇役となるのだ。

 何故ならこれは、俺よりも幼い二人が育んでいくだろう、いくはずだろう一つの物語のキッカケなのだから。

 こんな小さな人の居ない農村で、人と人とが出会い、約束した、小噺のような恋物語なのだから。
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