不老不死のお姫様と執事の日常

ぶー

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扉が優しくノックされる。

ガチャ

「メミロン様、起床の時間でございます」
「あら、もうそんな時間?」
「はぁ……またお眠りにならなかったのですね」
「別に死にはしないからいいじゃない」

私はゆっくりと上体を起こす。

「少し……思い出を振り返っていたのよ」
「さて、どんなものでしょう?」
「貴方と出会った時のこと……」
「………」

静寂の時間が流れた。ふと、モーントが口を開く。

「大丈夫ですよ、わたくしはメミロン様を置いてどこかに行こうなんてしませんよ」

モーントが藍色の目を細めながら、川のせせらぎのような髪を揺らして微笑んだ。

「そう………貴方は私と違って随分成長したわね。身長も、声も、年齢も、人柄も……」
「メミロン様もしっかり成長しておりますよ。御髪もお伸びになったし、何より3食摂られるようになりました」

確かにこのブロンズのストレートな髪はあの時、10年前よりはるかに伸びた。ただ、切るのが面倒くさくなっただけだが。

「ただ一つ、メミロン様は相変わらず寂しがり屋なようです」
「……そのようね」
「さぁ、お召し物を変えて食堂へ向かいましょう」


身支度をすませ、食堂でモーントが作った朝食を食べる。

「こら、メミロン様、お野菜をお残しになってはいけませんよ」
「野菜以前に私には食事は必要無いもの。野菜も嫌い、お肉も嫌い、魚はだいぶ好みにあっているけど」
「お野菜をお召し上がりになると、もれなくモーントが喜びます」
「………」

しぶしぶサラダを口に運ぶ。ほんとに私はモーントに心を開いてしまったのだろう。だからモーントに嫌われることはしたくない。私を受け入れてくれるのも、モーントだけだから。

食事が終わって私は自室で読書を始めた。これは最近モーントが市場で買ってきてくれた小説だ。日本と言う舞台で女の子2人が青春するお話。モーントは何を思ってこれを差し出したのだろう。

コンコン

「どうぞ」
「メミロン様、お気に召されていたお花が咲きました。散歩がてらご覧になりませんか?」
「分かったわ」

そっと本を閉じ、引き出しに丁寧にしまう。

庭に行くと美しい、宝石のような色々な色の花が咲き誇っていた。

「綺麗ね」
「メミロン様が選ぶ花はいつも美しゅうございます」
「…………でも結局、これも枯れてしまうのね」
「メミロン様、このためにわたくし、保存の魔法を習得して参りました」
「この屋敷にそんな魔法習得できる書物があったかしら」
「既存の魔法を組み合わせたオリジナルでございます。既に効果は確認しております」
「ほんとにモーントは魔法の才能があるのね何百年生きてるか分からない私より……」
「何百年経とうがメミロン様はメミロン様です」
「……そうね」

いつまでこうして他愛のない日常を続けられるのだろうか。私はこれを失うのが怖い。

不老不死のお姫様と執事の日常
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