器用貧乏、世界を救う。

にっぱち

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入学編

3話 苦難の日々の始まり

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「ーーーー!」
(…何だ?何を言ってるんだ?)
 目の前の女性が話す言葉に祐樹は困惑する。今まで一度も聞いたことのない言語に対してなんと反応したらいいかわからなかったからだ。
 しかし困惑する祐樹を他所に、女性はとても嬉しそうな顔で微笑む。
 そんな女性を眺めていると慧眼スキルが自動発動し、女性の情報が祐樹に提示される。

 カーリ・シェイド
 〈称号〉
 無し
 〈スキル〉
 魔力操作Lv.7
 火属性魔法Lv.3
 風属性魔法Lv.6

(カーリ…片仮名?)
 その名前を見た時、祐樹の中に一つの疑問が生じる。

と。

 母親のお腹の中で自分の情報を視た時には
何ら疑問にも思わなかったが、よくよく考えればおかしなことだった。エカテから異世界に送られている時点で言語の違いがあるはずなのに、なぜかスキルは全て日本語表記。
 それならこの世界の人が喋る言葉も日本語になってもいいものだと思うが、少なくとも目につく言葉は祐樹の全く知らない言語。
 なぜこんなに中途半端なのか、と考えてみるがこの世界に来たばかりの祐樹には情報が少なすぎた。いくら考えてもまともな回答が浮かばないため、祐樹は一旦この疑問を頭の隅に追いやった。
(それにしても、魔法か…)
 母親のスキル欄にある魔法の文字に祐樹はげんなりとした。
 日本という現代科学の塊のような世界で生きてきた祐樹にとって、魔法はあまりにも馴染みのないものだった。そのため、まずは魔法とは何なのかというところから学ばなければならない。その苦労の多さに辟易してしまったのだ。
(まあ、やるしかないか。)
 祐樹は半ば諦めとも取れる覚悟を決めた。

 生まれ変わった祐樹は母親のカーリに『ルネス』という名前を授かり、慧眼で視ることのできる祐樹の名は『ルネス・シェイド』へと変更された。
 ルネスは5人兄弟の四男として生まれ、両親に可愛がられながらも自分に課せられた目的を果たすためにこの世界の言語の習得に力を注いだ。
 両親だけでなく、家にいる使用人が話している音を聞きながらそれを自分の知っている意味と結びつける、という半ば反則じみた方法でわずか1年足らずでエレニュスの言語を完璧に習得した。
 その後、ルネスはエレニュスという世界がどういうものなのかを理解するために片端から家にある本を読み漁った。エレニュスの歴史に始まり今の情勢、地理、魔法。ありとあらゆる情報を頭に叩き込んだ。
 それと同時に、祐樹は魔法の特訓を始めた。家にある書物には魔法の特訓方法も載っていて、過去の英雄たちが行なっていたと言われている方法から今流行っている方法まで様々なものを試した。基礎的なところで魔力を知覚したりそれを操ってみたり、果てはイメージ力を鍛えようなどと謳っているものもあった。
 ただ色々と試してみた結果、魔法もスポーツと同じく地道な基礎練習が最も効果的であることがわかった。そのためルネスは、毎晩寝たふりをしながら魔力操作をし続けた。




 こうして昼間は書庫に潜って勉強、夜はひたすらに魔力操作の特訓をし続けて4年が経った。
 夜ほとんど眠らなかったせいもあってか、父親曰くルネスの身長は同年代の子どもと比べてかなり低い方らしい。(本人はむしろ小さい方が目立たなくていいとさえ思っていたが。)
 ふと、ルネスは気になって今の自分の能力がどうなっているのか気になり、自分に慧眼を使ってみることにした。

 ルネス・シェイド
 〈称号〉
 世界を渡りし者
 慧眼の士
 〈スキル〉
 慧眼
 魔力操作Lv.10(Max)
 魔力捌まりょくばつLv.10(Max)
 睡眠耐性Lv.10(Max)
 不眠

「…前より増えてる?」
 生まれた時よりもいくつか増えているスキルが気になり、ルネスは更に慧眼を使う。

〈魔力操作〉
 空間中に漂う魔力を操る能力。
〈魔力捌〉
 魔力操作よりも精密に魔力を操る能力。
〈睡眠耐性〉
 状態異常:睡眠に対する耐性。
〈不眠〉
 状態異常:睡眠を無効化する。

「魔力捌以外は分かるけど、魔力捌と魔力操作って分ける必要あるのか?」
 疑問に思ったルネスだが、考えても無駄なことだと諦めこれからの事に頭をシフトする。今日はこの後、父親や兄たちと共に初めて剣術並びに魔法の稽古に参加することになっている。
 稽古の準備をするために支度をしていると、不意に後ろから何者かが近づく気配を感じた。
 振り返ってみると、そこには小さなバスケットを持った姉のメリッサがいた。
「メリッサ姉さん、おはようございます。そのバスケットは?」
「おはようルネス。これは貴方たちのお昼ご飯よ。折角だし、貴方の初めての稽古を見ていようかと思って。」
 にこやかに笑ってルネスの質問に答えるメリッサ。彼女はシェイド家の兄弟の中で唯一の女性で、とりわけルネスを可愛がっている。
 それを分かっているルネスは少し照れ臭くなったがメリッサが見に来ることをわざわざ咎めることはしなかった。
「それなら、僕もこれから出るから一緒に行きませんか?」
「いいの?なら行きましょう!」
 ぱあっ!と顔を明るくさせたメリッサはルネスの後に続いて家を出た。
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