器用貧乏、世界を救う。

にっぱち

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入学編

4話 "落ちこぼれ"からの脱却

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 外に出ると、既に3人の兄は父親と共に稽古を始めていた。
「ルネス!遅いぞ。早くこっちに来い。」
「父上、申し訳ありません。」
 父親のゲインに呼ばれルネスは急ぎ足でゲインの元へ向かう。
 ゲインはルネスに木剣を手渡すと、構えるように言った。
「違う、もっと肩の力を抜けルネス。そんなことでは満足に剣を振れんぞ。」
 見様見真似でやってみたルネスの剣の構えを細かく修正するゲイン。ゲインは自分達が住む国『ディルピオン』の王国騎士団に勤めている。そのため剣の腕も一流レベルで、ルネスたちに教えるには十分なものを持っていた。
「うん、だいぶ様になったな。」
 ルネスの剣の構えを見ながら満足そうに頷くゲイン。そのままルネスから距離を取ると、自身も木剣を持ちルネスに向き合い構える。
「よし、少し打ち込んでこい。」
 ルネスは内心で無茶苦茶なやり方だと苦笑いしたが、ここで逆らう理由もなかったためゲインに向かって踏み込む。
「ぃやぁっ!」
 両手で持った剣を肩に担ぐように振りかぶると、目一杯力を込めて振り下ろす。
 ゲインはそれをその場から動くこともなく持った剣で受け止めると、力任せに押し返した。
「うわっ!」
「自分よりも上の相手に力任せに剣を振ってどうする!押し通すのではなく、隙を突くような剣を振れ。もう一度だ!」
「はい!」
 再び立ち上がり、ゲインへと剣を振るうルネス。防がれては飛ばされ、いなされては飛ばされ、そんなやりとりが3時間ほど続いた。
「よし、ここら辺で一度昼休憩にするか。」
 息一つ切らさないゲインが皆に向かってそう告げる。ゲインの周りにはルネスを含め4人の男たちが息も絶え絶えに寝転がっていた。
 ゲインはルネスだけでなく、他の3人の兄も同時に相手をしていたのだ。
「さすが…父さんだ…。全然勝てる気が…しない…。」
 ぜえぜえと息を吐きながらそう呟くのは次男のシェイド。今年王都の騎士学園に入学するためよりキツイ扱きを受けている。
「何を言っているシェイド。そんなことでは王都の騎士学園など夢のまた夢だぞ。」
「そうは言ってもなぁ…。」
「まあ、父さんは騎士団の中でもトップクラスの実力の持ち主だし、仕方ないよ。」
 そう言いながら4人の中でいち早く起き上がったのは長男のステイル。彼は今年からゲインと同じ王国騎士団に所属し、更なる鍛錬の日々を重ねている。所謂エリートだ。
「何を言うか。俺よりも実力のある人間など、騎士団にはゴロゴロいるぞ。」
「父さん、それ聞いたら騎士団の半分以上が泣いちゃうよ…。」
 いつものゲインの『謙遜癖』に呆れながら答えるステイル。
 そんなこんなでお昼を食べてからまた4人はゲインに扱かれる。そんな日々が続いた。


 それから7年が経ち、ルネスは12歳になった。
 ゲインの剣の稽古を受けてから早々に、ルネスは自分に剣の才があまり無いことに気づいてしまった。そのため稽古を始めて1年ほど経った時には並行して魔法の修行を自身で行うようにしていた。今までやっていた魔力操作ではなくより本格的に魔法を発動させるために叩き込んだ知識を動員しながら夜な夜な一人で練習していた。
 しかし、1年程経つと自身の魔法に違和感を感じた。地水火風光闇全ての属性の魔法が上手く発動できないのだ。試しに一度カーリに火を起こして欲しいと頼んでその時にどのくらいの魔力を使っているのかを視てみたが、明らかに自分が使っている魔力の1/10以下の魔力で発動させていた。
「剣もダメ、魔法もダメ…。ここでの俺は半端者どころか落ちこぼれってことかよ。」
 落ち込むルネスだったが、現状がどうあれルネスがこの世界でやらなければいけない事は何も変わらない。それならば今自分にできることを精一杯やるべきだと思ったルネスは今まで以上に睡眠を削り剣と魔法の修行に打ち込んだ。
 その結果、ルネスの能力はからくらいにはマシになっていた。

 ルネス・シェイド
 〈称号〉
 世界を渡りし者
 慧眼の士
 〈スキル〉
 慧眼
 魔力操作Lv.10(Max)
 魔力捌Lv.10(Max)
 睡眠耐性Lv.10(Max)
 不眠
 剣術Lv.3
 火属性魔法Lv.1
 水属性魔法Lv.2
 土属性魔法Lv.1
 風属性魔法Lv.1
 光属性魔法Lv.3
 闇属性魔法Lv.1

 本来、才能がそこそこある人間がルネスと同じように剣と魔法の修行をすれば最低でもLvは5を超える。それを考えると、いかにルネスに才能がないかが計り知れる。
「Lv.1や2程度じゃ、そこらに生えてる木を壊すことさえできないな。まだマシなのは光属性か。」
 自分の能力に溜息を吐きたくなる気持ちを抑え、冷静に自身を分析する。
 ディルピオンでは12歳になると、学園に行くか仕事に出るのが常識になっている。幸いルネスの家はゲインが騎士団に所属しているお陰で金にはそこまで困っていなかった。そのため、ルネスは安心して学園に進学することができる。
 ここで問題になってくるのが、騎士学園と魔法学園のどちらに進学するか、ということである。
 ルネスにはどちらの才能もない。しかしこの世界を救うために戦う力を付けなければならない。ここの選択は、ルネスにとって非常に重要なものだった。
(剣術は正直頭打ち感が否めないが、魔法の方は独学ってこともある。ここは魔法に行くべきか。)
 自分の進む道を決め、ルネスは父ゲインのいる書斎へと向かう。
 3度ノックをした後、中にいるゲインに声をかける。
「父上、ルネスです。少しよろしいでしょうか。」
「ルネスか、入れ。」
 ゲインの返事を待って、ルネスは書斎に入る。
 ゲインはあれからディルピオンの騎士団長へと昇進し、戦場での仕事よりもこうしたデスクワークの方が増えてきた。今も新たに入ってくる騎士団員をどの隊に振るのかを考えている最中だった。
「職務中に失礼致します。今日は父上にお話があって参りました。」
「学園のことか。」
 自分の発言を先回りされたことにルネスは驚きを隠せなかった。
「そう驚くな。お前ももう12歳だからな、そういう時期だ。
 それに、お前の言いたいこともわかる。騎士学園に行きたくないのだろう?」
 これはもうバレているな、と思ったルネスは少し肩の力を抜いてゲインに向き直った、
「はい。恐らく父上もご存知かと思いますが、私には兄上達の様に剣の才がありません。それであれば、少しでも可能性のある魔法学園に入学したいのです。」
 ゲインは少し考え込む様な仕草をして、再びルネスへと向き直る。
「ルネス、お前の言いたいことはわかる。こう言っては酷かも知れんが、確かにお前には剣の才能はない。だがだからといって魔法学園に行けるだけの才がお前にはあるのか?
 俺は夜な夜なお前が魔法の修行をしていることは知っている。確かにお前は他の者と比べてもかなり大きな魔力を操れるみたいだが、魔法の発動に結びついていない様に見えた。俺は魔法学園の方は余りわからないが、合格できる自信はあるのか?」
 鋭い眼差し。見るものが見れば萎縮して動けないほどのプレッシャーをゲインは息子のルネスに向かって放つ。それは父親としてではなく、1人の戦士としての言葉だった。
「父上、私には剣の才も魔法の才もありません。しかしそれでも、私は合格します。私には、やらなくてはならない使命があるのです。そのために、何としてでも魔法学園に入学してみせます。」
 ゲインの放つプレッシャーに怖気付くことなく答えるルネス。その姿を見たゲインは納得したのか、厳しい表情を綻ばせて父親の顔になった。
「それなら行ってこい。俺はお前を信じている。必ず、合格してこい。」
「ありがとうございます、父上。」
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