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期末テスト編
22話 実験に失敗はつきものです
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1日目はルネスもボーダも試合はなく、そのまま解散になった。
「ルネス、一緒に帰ろ。」
いつの間にか君付けから呼び捨てに変わり、前よりも積極的になったボーダにたじたじなルネス。前世でも今世でも、女性とはあまり縁がなかったが故にどう対応していいのかわからないルネス。
(12歳ってこんなもんなのか…?)
そう思いながらも、断る理由が無かったので一緒に帰ることにしたルネス。その道すがら、ボーダがルネスと手を繋ごうとしてきてそれをルネスが躱すという一幕があったり、ボーダが何処かへ立ち寄ろうと誘って来たところをルネスが明日もテストだからと宥めるという一幕があったりして、何とかルネスは家に帰ることができた。
「なんか、どっと疲れた…。」
部屋に入るや否や、ベッドに突っ伏すルネス。前世でも人心掌握術はある程度学んだつもりではあったが、今回はその全てが全く役に立たなかった。
不眠スキルのお陰で眠らなくてもいいルネスだが、眠ることができないわけでは無い。気疲れを取るために、ルネスはこの日は何もせずに眠ることにした。
翌日、試験最終日。
いつもと同じくらいの時間に寮を出るルネス。ルネスは普段から日が昇るか昇らないかくらいの早い時間に登校しているので、学園までの道すがらに生徒はほとんどいない。
今日も直接コロシアムへと向かうルネス。学園に着くと、校門近くでボーダが待っているのが見えた。
ルネスが近づくと、ボーダもルネスに気づいて手を振る。
「あ、ルネスおはよー。」
ルネスも苦笑い気味に手を振り返す。
「おはようボーダ、早いね。」
「だって私今日も一番最初の出番だから、早めにきて慣らしておきたくて。」
人差し指をくるくると回しながらボーダが答える。
「幾ら何でも早すぎじゃない?」
少し意地悪そうな笑みを浮かべてルネスがボーダに問いかける。
「違うよ!あの、たまたま、たまたまこれくらい早い時間に起きちゃって、やる事もなかったから来ただけだよ!」
ボーダはわたわたと両手を前に出して振りながら否定する。そんなボーダを見て嗜虐心がくすぐられたルネスは、ボーダが逃げられないように頭の後ろに手を回すとぐっと顔を寄せる。
「本当は?」
ボーダの目をしっかりと見ながら一言そう聞くルネス。それだけでボーダの顔は真っ赤になってしまい「あ…、」とか「うぅ…、」とか言葉にならない声をあげていた。
「冗談だよ、ごめんごめん。」
突然、パッと顔を話すルネス。
「…あ!もう、からかわないでよ!」
一瞬で態度を切り替えたルネスに脳の処理が追いついていないボーダだったが、遊ばれていたんだと気付くとむっとしてルネスに抗議するボーダだった。
コロシアムに到着すると、まだ朝早いためかルネスとボーダ以外の生徒は誰もいなかった。
「折角だし、2人で模擬戦してみる?」
提案したのはルネス。昨日のボーダの試合を見て、ボーダは単一魔法の多面展開が比較的得意なのが見て取れた。ルネス自身、1発のみの魔法ののベクトル変更は可能だが多面的な攻撃に対する対策がまだイマイチ確立できていなかった。だから今ここで、ボーダに練習に付き合ってもらおうと考えていた。
提案されたボーダとしても、いつかルネスと1対1で戦ってみたいと思っていたので、ボーダは快くルネスの提案を引き受けた。
「いいよ、ルールは試験と同じでいい?」
「うん、でも今回はアンリ先生の防御魔法がかかっていないから、威力は出来るだけ抑えめにしようか。」
「わかった。」
ある程度のルールだけ決めて、両者はお互いの位置につく。
「それじゃ、よーい始め!」
ルネスの掛け声と共に、ボーダが魔法の構築を始める。
ボーダが構築している魔法は昨日使った魔法と同じ"アクアニードル"だった。ただ試合の時よりも使われている魔力の量が少ないことから、威力がだいぶ抑えられていることがルネスには見て取れた。
(後はこれを消せるかどうかだけど…。)
ルネスが立てた多面攻撃への対策、それは以前メルトに対して行ったように相手の魔法に自身の魔力をぶつける事で、魔法そのものを霧散させるという方法だった。
しかし、以前のように魔力を針のような形状にしてしまうと結局多面攻撃には対応できない。そこでルネスは魔力の壁を何層か作ることで、段階的に自身の魔力を相手の魔法に溶け込ませて徐々に威力を削いでいくことにした。
空気中の魔力を操作して5層の壁をつくる。それと同時に、ボーダの魔法が完成して無数の水で出来た針がルネスを襲う。
ボーダのアクアニードルはルネスによって作られた魔力の壁を次々と貫通してルネスへと牙を剥く。
1層目、2層目と順調に超えていくアクアニードルだったが、3層目の壁に当たると幾つかのアクアニードルは弾けて消えてしまった。それでもまだ何本かは残っていたが、その全てが4層目の壁を越えることなく散っていった。
「やっぱり威力を抑えてもらっても3層は越えられちゃうか…。」
結果を踏まえ、壁1枚からどの程度まで魔力を削ぐことができるかを計算するルネス。一方のボーダは、相手の魔法をかき消したのにも関わらず全く反撃してこようとしないルネスを怪しんでいた。
(なんで全然攻撃してこないんだろう…?)
まさか勝負そっちのけで計算に没頭しているとは夢にも思わないボーダは、チャンスとばかりに追撃を仕掛ける。新たな魔法を急いで構築し、ルネスに向かって発射する。
ボーダが今回組み上げた魔法は”氷弾”。アクアニードルよりも威力、貫通力に優れている代わりに1発放つのにかなりの量の魔力を使用する。そのため今のボーダには3発までが同時射出できる限界だった。
今度は数で勝負するのではなく、力で勝負を仕掛けるボーダ。ルネスは何かがこちらに飛来してくる音を聞き取ると、すぐさま意識を思考の海から現実へと引き戻す。
「これは、いい練習になるな!」
飛んでくる3発の弾の内、1発はベクトル変更の魔法を使って受け流し、残りの2発は先程と同じように魔力の壁を作って消滅させることにしたルネス。しかし同時に別々の魔力操作を行うのはさすがのルネスでも厳しかったらしく、ボーダへと返そうとした弾はあらぬ方向へと飛んで行き、残りの2発は威力を削ぐことには成功したものの完全には消しきれずに喰らってしまった。
弾の勢いに押されて尻もちをつくルネス。まさか当たるとは思っていなかったのか、ボーダが驚いてルネスの方へと駆け寄ってくる。
「ルネス、大丈夫!?」
「ごめん、大丈夫だよボーダ。威力を抑えてくれたおかげで怪我もなにもないし。」
「でも…」
「大丈夫だってば、ほら。」
ルネスが服をめくって氷弾が当たった所をボーダに見せる。そこは少し痣になっているが、怪我という怪我にはなっていなかった。
「ね?」
「良かった、もし怪我をしていたらどうしようかと。」
ホッと胸を撫で下ろすボーダ。ルネスは今の結果を分析して、今後の対策を練り始める。
(あの威力の氷弾なら、昨日戦った子のファイアレーザーのほうが威力は上だった。なのにうまく返せなかった。魔力壁と同時発動したからか?…そういえば魔力壁の方も、アクアニードルを防いだときよりも一枚一枚の魔力の密度が薄かった気がする。
俺の魔力捌のレベルは、あれから42にまで上がったけど、それでもまだ足りないのか?)
顎に手を当て、冷静に分析するルネス。なにか話をしようとしたボーダだったが、ルネスの真剣な顔を見て諦めた。代わりとばかりに、ボーダは少しルネスに寄り添って座り、ルネスの考えが纏まるのを待つことにした。
「ルネス、一緒に帰ろ。」
いつの間にか君付けから呼び捨てに変わり、前よりも積極的になったボーダにたじたじなルネス。前世でも今世でも、女性とはあまり縁がなかったが故にどう対応していいのかわからないルネス。
(12歳ってこんなもんなのか…?)
そう思いながらも、断る理由が無かったので一緒に帰ることにしたルネス。その道すがら、ボーダがルネスと手を繋ごうとしてきてそれをルネスが躱すという一幕があったり、ボーダが何処かへ立ち寄ろうと誘って来たところをルネスが明日もテストだからと宥めるという一幕があったりして、何とかルネスは家に帰ることができた。
「なんか、どっと疲れた…。」
部屋に入るや否や、ベッドに突っ伏すルネス。前世でも人心掌握術はある程度学んだつもりではあったが、今回はその全てが全く役に立たなかった。
不眠スキルのお陰で眠らなくてもいいルネスだが、眠ることができないわけでは無い。気疲れを取るために、ルネスはこの日は何もせずに眠ることにした。
翌日、試験最終日。
いつもと同じくらいの時間に寮を出るルネス。ルネスは普段から日が昇るか昇らないかくらいの早い時間に登校しているので、学園までの道すがらに生徒はほとんどいない。
今日も直接コロシアムへと向かうルネス。学園に着くと、校門近くでボーダが待っているのが見えた。
ルネスが近づくと、ボーダもルネスに気づいて手を振る。
「あ、ルネスおはよー。」
ルネスも苦笑い気味に手を振り返す。
「おはようボーダ、早いね。」
「だって私今日も一番最初の出番だから、早めにきて慣らしておきたくて。」
人差し指をくるくると回しながらボーダが答える。
「幾ら何でも早すぎじゃない?」
少し意地悪そうな笑みを浮かべてルネスがボーダに問いかける。
「違うよ!あの、たまたま、たまたまこれくらい早い時間に起きちゃって、やる事もなかったから来ただけだよ!」
ボーダはわたわたと両手を前に出して振りながら否定する。そんなボーダを見て嗜虐心がくすぐられたルネスは、ボーダが逃げられないように頭の後ろに手を回すとぐっと顔を寄せる。
「本当は?」
ボーダの目をしっかりと見ながら一言そう聞くルネス。それだけでボーダの顔は真っ赤になってしまい「あ…、」とか「うぅ…、」とか言葉にならない声をあげていた。
「冗談だよ、ごめんごめん。」
突然、パッと顔を話すルネス。
「…あ!もう、からかわないでよ!」
一瞬で態度を切り替えたルネスに脳の処理が追いついていないボーダだったが、遊ばれていたんだと気付くとむっとしてルネスに抗議するボーダだった。
コロシアムに到着すると、まだ朝早いためかルネスとボーダ以外の生徒は誰もいなかった。
「折角だし、2人で模擬戦してみる?」
提案したのはルネス。昨日のボーダの試合を見て、ボーダは単一魔法の多面展開が比較的得意なのが見て取れた。ルネス自身、1発のみの魔法ののベクトル変更は可能だが多面的な攻撃に対する対策がまだイマイチ確立できていなかった。だから今ここで、ボーダに練習に付き合ってもらおうと考えていた。
提案されたボーダとしても、いつかルネスと1対1で戦ってみたいと思っていたので、ボーダは快くルネスの提案を引き受けた。
「いいよ、ルールは試験と同じでいい?」
「うん、でも今回はアンリ先生の防御魔法がかかっていないから、威力は出来るだけ抑えめにしようか。」
「わかった。」
ある程度のルールだけ決めて、両者はお互いの位置につく。
「それじゃ、よーい始め!」
ルネスの掛け声と共に、ボーダが魔法の構築を始める。
ボーダが構築している魔法は昨日使った魔法と同じ"アクアニードル"だった。ただ試合の時よりも使われている魔力の量が少ないことから、威力がだいぶ抑えられていることがルネスには見て取れた。
(後はこれを消せるかどうかだけど…。)
ルネスが立てた多面攻撃への対策、それは以前メルトに対して行ったように相手の魔法に自身の魔力をぶつける事で、魔法そのものを霧散させるという方法だった。
しかし、以前のように魔力を針のような形状にしてしまうと結局多面攻撃には対応できない。そこでルネスは魔力の壁を何層か作ることで、段階的に自身の魔力を相手の魔法に溶け込ませて徐々に威力を削いでいくことにした。
空気中の魔力を操作して5層の壁をつくる。それと同時に、ボーダの魔法が完成して無数の水で出来た針がルネスを襲う。
ボーダのアクアニードルはルネスによって作られた魔力の壁を次々と貫通してルネスへと牙を剥く。
1層目、2層目と順調に超えていくアクアニードルだったが、3層目の壁に当たると幾つかのアクアニードルは弾けて消えてしまった。それでもまだ何本かは残っていたが、その全てが4層目の壁を越えることなく散っていった。
「やっぱり威力を抑えてもらっても3層は越えられちゃうか…。」
結果を踏まえ、壁1枚からどの程度まで魔力を削ぐことができるかを計算するルネス。一方のボーダは、相手の魔法をかき消したのにも関わらず全く反撃してこようとしないルネスを怪しんでいた。
(なんで全然攻撃してこないんだろう…?)
まさか勝負そっちのけで計算に没頭しているとは夢にも思わないボーダは、チャンスとばかりに追撃を仕掛ける。新たな魔法を急いで構築し、ルネスに向かって発射する。
ボーダが今回組み上げた魔法は”氷弾”。アクアニードルよりも威力、貫通力に優れている代わりに1発放つのにかなりの量の魔力を使用する。そのため今のボーダには3発までが同時射出できる限界だった。
今度は数で勝負するのではなく、力で勝負を仕掛けるボーダ。ルネスは何かがこちらに飛来してくる音を聞き取ると、すぐさま意識を思考の海から現実へと引き戻す。
「これは、いい練習になるな!」
飛んでくる3発の弾の内、1発はベクトル変更の魔法を使って受け流し、残りの2発は先程と同じように魔力の壁を作って消滅させることにしたルネス。しかし同時に別々の魔力操作を行うのはさすがのルネスでも厳しかったらしく、ボーダへと返そうとした弾はあらぬ方向へと飛んで行き、残りの2発は威力を削ぐことには成功したものの完全には消しきれずに喰らってしまった。
弾の勢いに押されて尻もちをつくルネス。まさか当たるとは思っていなかったのか、ボーダが驚いてルネスの方へと駆け寄ってくる。
「ルネス、大丈夫!?」
「ごめん、大丈夫だよボーダ。威力を抑えてくれたおかげで怪我もなにもないし。」
「でも…」
「大丈夫だってば、ほら。」
ルネスが服をめくって氷弾が当たった所をボーダに見せる。そこは少し痣になっているが、怪我という怪我にはなっていなかった。
「ね?」
「良かった、もし怪我をしていたらどうしようかと。」
ホッと胸を撫で下ろすボーダ。ルネスは今の結果を分析して、今後の対策を練り始める。
(あの威力の氷弾なら、昨日戦った子のファイアレーザーのほうが威力は上だった。なのにうまく返せなかった。魔力壁と同時発動したからか?…そういえば魔力壁の方も、アクアニードルを防いだときよりも一枚一枚の魔力の密度が薄かった気がする。
俺の魔力捌のレベルは、あれから42にまで上がったけど、それでもまだ足りないのか?)
顎に手を当て、冷静に分析するルネス。なにか話をしようとしたボーダだったが、ルネスの真剣な顔を見て諦めた。代わりとばかりに、ボーダは少しルネスに寄り添って座り、ルネスの考えが纏まるのを待つことにした。
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