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期末テスト編
24話 故意の事故
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「では、始めっ!」
アンリの掛け声とともに、メルトが魔法を構築する。ルネスはメルトの組み上げる魔法を視ながら、どの様に勝利まで持っていくか、その筋道を立てる。
(ニーズヘッグとはまた随分大掛かりな魔法を…。あんな魔法俺達レベルの奴が使ったって隙晒すだけだってのに。何考えているのかは知らないけど、喰らったらまずいしさっさと終わらせよう。)
必死に魔法を組み上げているメルトに向かって、ルネスは無属性魔法の中でも数少ない遠距離攻撃魔法”魔弾”を放つ。ハーメルン戦でやったときと同じ様に、指を使って1発ずつ指弾の要領で発射した。
いくら指で撃っているとはいえ、身体強化を施した指から放たれる魔弾は軽く音速を超える。それだけの威力があれば試験クリアの規定ダメージ量には余裕で届く。
「…は?」
はずの魔弾は、アンリの防御魔法に当たると次の瞬間、跡形もなく消え去った。
威力不足か。そう思ったルネスは、もう一度魔弾を生成する。今度はより多くの魔力を集めて密度を高め、威力を増大させる。更に限界ギリギリまで身体強化を付けた指で再度魔弾を放つ。
しかし、魔弾は先程と同じ様に防御魔法に当たるとあっけなく消えてしまった。
(…おかしい。あれだけの威力があればこちらの勝利条件を満たすレベルのダメージを叩き出せるはずなのに、ダメージが入っている気配すらない。)
チラリ、とアンリの方に視線を向けるルネス。アンリはルネスの視線に気づくと黙って首を横に振る。
(アンリがなにかしたわけじゃない。メルトの組み上げている魔法もニーズヘッグから全く変わっていない。
…待て。この試合の直前に試合を行ったのって、確かメルトの取り巻きの…)
そこまで考えて何かに気づいたルネスは、視線をメルトからメルトの足元へと移す。メルトの足元にある魔法陣を慧眼で視ると、ルネスが感じていた違和感の正体がそこにはあった。
(やっぱり、アンリの防御魔法に重ねるように吸収魔法が重ねられている。これのせいで俺の魔弾が消されてたのか。確かに魔弾は純粋な魔力の塊だから、こういう魔法に弱いんだよな。
にしてもわざわざアンリにバレないようにカモフラージュまでしてある。随分と用意周到だな。)
タネが分かったところで再びアンリの方を向くルネス。アンリは「それがどうした。」と目でルネスに語っていた。
(なるほど。『クラスメイトのテストを手伝ってはいけない』なんてルールはないからこれはセーフってことなのね。それでいいのかよ…。)
アンリの態度に心の中でツッコミを入れながら、ルネスは今後の対策を考える。
(魔弾がだめとなると、後はメルトのニーズヘッグをあいつにお返しするしか手段がなくなるわけだが…。
まあ、やるだけやってみるか。だめでも別に死ぬわけじゃないしな。)
ルネスは計画を変更し、メルトの魔法の方向ベクトルを変更してそのままメルトにぶつけることにした。しかしニーズヘッグは火属性魔法の中でも最上級クラスの魔法。果たしてまともに返せるのかどうか、不安の残るルネスだったが『あくまでもテスト。アンリの防御魔法があるからまず死ぬことはない。』と心の中で割り切る。
「さあルネス・シェイド。これでお前も終わりだ!」
完成した魔法陣を地面に叩きつけるメルト。すると地面にヒビが入り、そこから凄まじい勢いで炎が溢れ出してきた。
「あー、これは返せんな。」
その光景を見た直後、ルネスは勝てないと悟った。地形が変わる程の魔法など、いくらベクトルを変更したところで意味がない。それこそ自分自身が空中にでも浮かない限りこの攻撃を避けることはできない。
そう思い、リタイアすべく規定のサークル外へと足を踏み出す。しかしルネスの足は見えない壁にぶつかってサークルより前に出すことができなかった。
「なんだこれ!?」
よく見ると、ルネスの周りを覆っていた防御魔法はいつの間にか消え、代わりにルネスを閉じ込めるかのように透明な壁がルネスを取り囲んでいた。
ルネスがどんなに強く叩いても壁が壊れる様な感触が伝わって来ない。そんな状況にルネスは焦りを感じていた。
「あいつら、まさか本気で俺を殺す気だったのかよ…。」
自分では壊せないと悟ってアンリに助けを求める。
「おーい、先生。どうも防御魔法が解けてしまっているようなので、俺はここでリタイアさせてもらいます。」
しかしルネスが呼びかけても、アンリに一切の反応がない。
「おい、おい聞いているのか先生。…おい、おいアンリ!聞こえているなら返事をしろ!」
いくら大きな声で呼び掛けても、ルネスの方を見向きもしないアンリ。どんどんと壁を叩いてみるが、それでも反応がない。
「おい!アンリ早く気づいてくれ!このままじゃまずい!!」
メルトの放つニーズヘッグが、地を裂きながらルネスとの距離を着実に詰める。目前まで迫るニーズヘッグに危機感を感じずには居られない。この状況に更に焦りを見せるルネス。アンリに気づいて貰うためにガンガンと壁を殴り続ける。
「このままじゃ、死ぬ!」
ニーズヘッグがコロシアムの中央まで差し掛かった頃、ようやくアンリがルネスのアクションに気づく。なにもない空間をドンドンと叩きながら何かを訴えている。
「どうしたルネス、何かあったか?」
しかしアンリの声が届いていないのか、尚も何かを訴え続けている。
「…?」
アンリがルネスの口元に注目し、何を言っているのか読み取ろうとする。しかしなぜかルネスの口元を凝視した瞬間、ルネスの顔全体がぼやける。
「何だ?」
目をこすり、再び口元を注目するアンリ。しかし先程まではっきり見えていたはずの顔が、今はぼやけてよく見えない。
(蜃気楼?…いや違う、これは幻惑魔法か!)
ことの異常性に気づいたアンリは、試合を中断するためにメルトの放つニーズヘッグを止めに動く。しかしアンリの身体は何故かその場から一歩も踏み出せなかった。
「何だ!?」
腕や足を動かそうとしても、まるで何かに縛り付けられているかのような抵抗を感じる。いつの間にか、アンリも何者かの罠にハマってしまっていた。
「ああああああああっ!!!」
全身に身体強化を掛け、無理矢理自身を縛り付ける何かを振りほどくアンリ。そのままメルトを救出するためにニーズヘッグとの間に割って入る。火属性特化の防御魔法を展開し、正面からメルトのニーズヘッグを受け止める。
いくら最上級の魔法とはいえ、撃っているものの実力が伴わなければ威力はそれなりになる。アンリはメルトの放つ魔法をなんとか受け止めると、ルネスを囲う透明な壁に向かって蹴りを放つ。
バリン、と音を立てて透明な壁が破れるや否や、アンリがルネスを壁の中から引っ張り出す。
「ルネス、大丈夫か!」
引っ張り出されたルネスはアンリの方を見ると、ニヤリと笑った。
「残念でした。」
一瞬、何を言っているのかわからなかったアンリだが、ルネスが巫山戯ているのだと思い少し語気を強める。
「こんな状況で何をふざけているんだお前は。大体ーーー」
「嫌ああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
直後、コロシアム内につんざくような悲鳴が響き渡る。何事かと思いアンリが顔を上げると、そこにはニーズヘッグに全身を焼かれるルネスの姿があった。
アンリの掛け声とともに、メルトが魔法を構築する。ルネスはメルトの組み上げる魔法を視ながら、どの様に勝利まで持っていくか、その筋道を立てる。
(ニーズヘッグとはまた随分大掛かりな魔法を…。あんな魔法俺達レベルの奴が使ったって隙晒すだけだってのに。何考えているのかは知らないけど、喰らったらまずいしさっさと終わらせよう。)
必死に魔法を組み上げているメルトに向かって、ルネスは無属性魔法の中でも数少ない遠距離攻撃魔法”魔弾”を放つ。ハーメルン戦でやったときと同じ様に、指を使って1発ずつ指弾の要領で発射した。
いくら指で撃っているとはいえ、身体強化を施した指から放たれる魔弾は軽く音速を超える。それだけの威力があれば試験クリアの規定ダメージ量には余裕で届く。
「…は?」
はずの魔弾は、アンリの防御魔法に当たると次の瞬間、跡形もなく消え去った。
威力不足か。そう思ったルネスは、もう一度魔弾を生成する。今度はより多くの魔力を集めて密度を高め、威力を増大させる。更に限界ギリギリまで身体強化を付けた指で再度魔弾を放つ。
しかし、魔弾は先程と同じ様に防御魔法に当たるとあっけなく消えてしまった。
(…おかしい。あれだけの威力があればこちらの勝利条件を満たすレベルのダメージを叩き出せるはずなのに、ダメージが入っている気配すらない。)
チラリ、とアンリの方に視線を向けるルネス。アンリはルネスの視線に気づくと黙って首を横に振る。
(アンリがなにかしたわけじゃない。メルトの組み上げている魔法もニーズヘッグから全く変わっていない。
…待て。この試合の直前に試合を行ったのって、確かメルトの取り巻きの…)
そこまで考えて何かに気づいたルネスは、視線をメルトからメルトの足元へと移す。メルトの足元にある魔法陣を慧眼で視ると、ルネスが感じていた違和感の正体がそこにはあった。
(やっぱり、アンリの防御魔法に重ねるように吸収魔法が重ねられている。これのせいで俺の魔弾が消されてたのか。確かに魔弾は純粋な魔力の塊だから、こういう魔法に弱いんだよな。
にしてもわざわざアンリにバレないようにカモフラージュまでしてある。随分と用意周到だな。)
タネが分かったところで再びアンリの方を向くルネス。アンリは「それがどうした。」と目でルネスに語っていた。
(なるほど。『クラスメイトのテストを手伝ってはいけない』なんてルールはないからこれはセーフってことなのね。それでいいのかよ…。)
アンリの態度に心の中でツッコミを入れながら、ルネスは今後の対策を考える。
(魔弾がだめとなると、後はメルトのニーズヘッグをあいつにお返しするしか手段がなくなるわけだが…。
まあ、やるだけやってみるか。だめでも別に死ぬわけじゃないしな。)
ルネスは計画を変更し、メルトの魔法の方向ベクトルを変更してそのままメルトにぶつけることにした。しかしニーズヘッグは火属性魔法の中でも最上級クラスの魔法。果たしてまともに返せるのかどうか、不安の残るルネスだったが『あくまでもテスト。アンリの防御魔法があるからまず死ぬことはない。』と心の中で割り切る。
「さあルネス・シェイド。これでお前も終わりだ!」
完成した魔法陣を地面に叩きつけるメルト。すると地面にヒビが入り、そこから凄まじい勢いで炎が溢れ出してきた。
「あー、これは返せんな。」
その光景を見た直後、ルネスは勝てないと悟った。地形が変わる程の魔法など、いくらベクトルを変更したところで意味がない。それこそ自分自身が空中にでも浮かない限りこの攻撃を避けることはできない。
そう思い、リタイアすべく規定のサークル外へと足を踏み出す。しかしルネスの足は見えない壁にぶつかってサークルより前に出すことができなかった。
「なんだこれ!?」
よく見ると、ルネスの周りを覆っていた防御魔法はいつの間にか消え、代わりにルネスを閉じ込めるかのように透明な壁がルネスを取り囲んでいた。
ルネスがどんなに強く叩いても壁が壊れる様な感触が伝わって来ない。そんな状況にルネスは焦りを感じていた。
「あいつら、まさか本気で俺を殺す気だったのかよ…。」
自分では壊せないと悟ってアンリに助けを求める。
「おーい、先生。どうも防御魔法が解けてしまっているようなので、俺はここでリタイアさせてもらいます。」
しかしルネスが呼びかけても、アンリに一切の反応がない。
「おい、おい聞いているのか先生。…おい、おいアンリ!聞こえているなら返事をしろ!」
いくら大きな声で呼び掛けても、ルネスの方を見向きもしないアンリ。どんどんと壁を叩いてみるが、それでも反応がない。
「おい!アンリ早く気づいてくれ!このままじゃまずい!!」
メルトの放つニーズヘッグが、地を裂きながらルネスとの距離を着実に詰める。目前まで迫るニーズヘッグに危機感を感じずには居られない。この状況に更に焦りを見せるルネス。アンリに気づいて貰うためにガンガンと壁を殴り続ける。
「このままじゃ、死ぬ!」
ニーズヘッグがコロシアムの中央まで差し掛かった頃、ようやくアンリがルネスのアクションに気づく。なにもない空間をドンドンと叩きながら何かを訴えている。
「どうしたルネス、何かあったか?」
しかしアンリの声が届いていないのか、尚も何かを訴え続けている。
「…?」
アンリがルネスの口元に注目し、何を言っているのか読み取ろうとする。しかしなぜかルネスの口元を凝視した瞬間、ルネスの顔全体がぼやける。
「何だ?」
目をこすり、再び口元を注目するアンリ。しかし先程まではっきり見えていたはずの顔が、今はぼやけてよく見えない。
(蜃気楼?…いや違う、これは幻惑魔法か!)
ことの異常性に気づいたアンリは、試合を中断するためにメルトの放つニーズヘッグを止めに動く。しかしアンリの身体は何故かその場から一歩も踏み出せなかった。
「何だ!?」
腕や足を動かそうとしても、まるで何かに縛り付けられているかのような抵抗を感じる。いつの間にか、アンリも何者かの罠にハマってしまっていた。
「ああああああああっ!!!」
全身に身体強化を掛け、無理矢理自身を縛り付ける何かを振りほどくアンリ。そのままメルトを救出するためにニーズヘッグとの間に割って入る。火属性特化の防御魔法を展開し、正面からメルトのニーズヘッグを受け止める。
いくら最上級の魔法とはいえ、撃っているものの実力が伴わなければ威力はそれなりになる。アンリはメルトの放つ魔法をなんとか受け止めると、ルネスを囲う透明な壁に向かって蹴りを放つ。
バリン、と音を立てて透明な壁が破れるや否や、アンリがルネスを壁の中から引っ張り出す。
「ルネス、大丈夫か!」
引っ張り出されたルネスはアンリの方を見ると、ニヤリと笑った。
「残念でした。」
一瞬、何を言っているのかわからなかったアンリだが、ルネスが巫山戯ているのだと思い少し語気を強める。
「こんな状況で何をふざけているんだお前は。大体ーーー」
「嫌ああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
直後、コロシアム内につんざくような悲鳴が響き渡る。何事かと思いアンリが顔を上げると、そこにはニーズヘッグに全身を焼かれるルネスの姿があった。
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