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第一章〜ユニオンレグヌス〜
3話✡︎デュエル✡︎
しおりを挟むユリナが表にでると、サイを始め護衛の為に広場の左側で支度をしていた弓兵隊が、ユリナを見て空気が変わる。
ユリナの表情には先程サイが見かけた幼さはない、まだ六百歳程の若いエルフの女性とは思えない、大人びた空気を放っている。
ユリナはサイを呼び広場の右側に静かに歩き出す、少ししてカナが表にでて来た。
カナは黒いライトアーマーに弓、矢筒と一緒に、小太刀も肩からかけていた。
ユリナはカナを誘導する。
「カナさん、そちらへ」
カナはユリナと30メートル程の距離を取り向かい合い、ユリナが持っている弓に気付いた。
「流石エレナ様の弓、ユリナ様を心配してくれたのですね。」
そう不思議な事を言う。
その会話を聞いてサイが言う。
「ユリナ!カナさんとデュエルって、勝負にならないだろ?」
すかさずカナが言った。
「私から申し込んだのです、気にしないで下さい。」
また笑顔で答える。
「そう言う事!サイ壁を作って」
表情を変えずにユリナが言う。
サイは仕方ないと言う顔をした。
「ユリナ手加減しろよ、全くうちのお姫様は」
そう言いながら、両手の五指を合わせ魔力を手のひらに集中させると、手のひらと手のひらの空間が、青く青く冷たく輝き出す。
そして勢いよく両手を大地につくと、分厚く透き通る様に透明な氷の壁がユリナとカナの四方を囲んだ。
そして長方形の様な壁の中央に正方形を意識させる様に四本の柱が後に突き出して来た。
「サイ?私は貴方のお姫様になった記憶はありませんよ」
丁寧にそして冷たく小さな笑みをこぼしながらユリナが言った。
弓兵隊からも僅かに笑い声が聞こえた。
それを聞いてカナが言う。
「始めましょう、ゆっくりしていると護衛達の出発が遅れてしまいますよ」
ユリナは答える様にサイを見る。
サイは承知したようにコインを取り出し、親指の上に乗せ、二人が集中し始めたのを確認し、コインを空に向け弾き飛ばした。
その間ユリナもカナも妙に長く感じた、そしてコインが小石にたまたま当たり……
キン!と高い音を立てた。
同時に二人は矢筒に手を伸ばしながら、中央の柱に向かい互いに右側に走り出した。
言うまでも無いが、向き合っている為に柱の反対側、円を描く様に互いに距離を置きながら、やはりユリナの方が僅かに動きが早く先に柱と柱の間を狙い矢を放つ。
カナがその隙間にタイミング良く入って来るが。
読んでいたのか、僅かにカナの姿勢が低くかすめて当たりはしない。
(流石ユリナ様、狙いもタイミングも正確ですね。でも……)
カナは心の中で囁く。
次の矢をユリナは素早くつがえて魔力を込めて四柱中央の空に向け放つ、それに合わせカナも魔力を込めてその矢に向けて矢を放つ。
ユリナの矢が分散する直前に、その矢が射抜かれる。
その瞬間、ユリナは驚きながら悟った。
(シルバー•レンジャーの実力じゃない⁈
それなら……)
ユリナから殺気が放たれ始める、ただ強くなく何処と無く優しい風の様な殺気である、ユリナがその気になった、サイもカナもその殺気を直ぐに感じ取る。
(そう、エレナ様と同じ殺気それで良いのです。)
カナがそう心で微笑む。
走りながらカナは足取りを僅かに調整して、柱を利用しながらユリナの射線を切り、弓を肩にかけて矢筒に手を伸ばすが、矢を取らない。
氷の柱は透明度が低く、その姿はユリナから確認出来ないがサイは見ていた。
(ユリナ気を付けろ‼︎
カナさんはレンジャーじゃない!)
サイは気づき心で思うが声には出さない。
これはあくまでもデュエル、他人が手を出したり口出しする事はユリナの名誉を傷つけてしまう。
ましてカナはユリナより格下、ユリナの立場を無くしてしまう。
カナは既に走らず歩調で確実にユリナの死角に入る。
ユリナは注意を払いながら柱から距離を取り、何もない見渡せる位置に移動する氷の壁の端で静止、弓を構える。
そして風の音を聞き……
(来る!)
ユリナがカナの動きを感じ取った、その瞬間カナが柱から姿を現し、ユリナに向かい正面から突っ込んで来くる。
ユリナはカナの動きを瞬時に判断し矢を放つ、カナもそれに反応し素早くかわした瞬間、既に二本目の矢がカナ目掛けて放たれていた。
その狙いは正確でカナの足を確実に捉えている……が!
カナはその矢を素早く小太刀を抜いて払いのける。
「なっ!」
サイは思わず声を漏らす。
それは明らかに相当な手練れの剣士である。
ユリナは冷静に三本目の矢に魔力を込め放つ、その矢は一瞬で五本に別れカナを正確に狙う。
カナは口で笑みを浮かべ、矢筒に忍ばせていたもう一本の小太刀を抜き二本の小太刀に魔力を込め、五本のマジックアローを素早く正確に次々と弾く。
既にユリナに四本目を番える余裕は無い程にカナの接近を許してしまっている。
「走れ!」
サイが聞こえない様に苦しそうに小声で言うが、無論その声はユリナには届かない。
ユリナは一歩も引かずに理解した、あの時この弓に呼ばれた事を。
迫り来るカナの左手からの一撃目はユリナの左足を狙い振り抜こうとするが、それをユリナは弓の上部を下に素早く降りそれを受け止める、この弓で無ければ弓ごと左足を失っていただろう。
その斬撃を受けるのと同時に鋼の矢を右手で素早く抜き取り、逆手に持ち替え魔力を込めカナの右手の上から振り下ろす斬撃を綺麗に受け止めた。
その一瞬、ユリナはカナの小太刀に刻まれたセンティネルの印に気づくが、二重線の印は小さく確認出来なかった。
「凄いです初めてです!
私をレンジャーとして見た方でユリナ様は、初めて私の本気の剣を!
止めて下さりました。
多分私がセンティネル•デュエリストなのはもうお気づきかと」
そう笑顔でカナは言うが、二人は姿勢を崩さない。
二人の実力が拮抗している、その中で、確実にカナの間合いでユリナも下手に動けない……
カナもユリナが自分の動きに確実に対応して、まだ実力を出し切って居ないのを理解している。
「カナさん、その剣……
お母さんの動きに似てる気がするけど」
ユリナがカナに聞くとカナは力を抜き剣を引き答える
「多分このままデュエルをしても、私の負けでしょう。
本気の剣を止められてしまいましたから。
勝てる気がしません……
深手を負う前に引かせて頂きます。
私の剣もこの考えも全てエレナ様に教わりました。」
「‼︎‼︎」
ユリナは驚きを隠せない、カナは明らかにユリナの実力を上回っているのを、隠しているユリナはそう感じていた。
そして母であるエレナが剣を使う事を初めて知ったからである、カナは話し続ける。
「まだユリナ様がお産まれになる前に、エレナ様は剣と弓そして水の魔法を使いこなされてました。
そして何よりも駆け引きがお上手です。
それは巨人族が追放され全ての種族が混乱し、覇権を争った時代にエレナ様が学ばれました。
騒乱は二千年前の戦で、エルフ族とヒューマン族の同盟が成立し、各種族の均衡がとれ今は穏やかになりました。
そのヒューマン族との同盟を考え出されたのもエレナ様です。
エレナ様は五千歳程ですがその時間を余す事なく使ってこられました。
それが今のエレナ様の強さの秘密の一つなのです。」
そうカナが言う頃には弓兵隊は支度が整ったようで、弓兵隊は騎馬に乗り整列を始めていた。
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