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第二章〜記憶の石板〜
32話✡︎災いの日……開戦✡︎
しおりを挟むそして戦いが幕を開け、ゴブリンの防御陣前衛がゆっくり前進すると、タイミングを合わせてオークの一団が斜めに突撃して行く。
冥界と闇の軍勢に陣は無い、ただ無数の塊があるだけで、不思議と連携は取れている。
だが何かを待っている様子で不気味に動く気配はない。
オークの軍勢は敵陣にまさに殴り込む‼︎
その肉体は鍛え抜かれ、繰り出されるナックルをつけた拳は一撃で血の騎士を吹っ飛ばす。斬馬刀を片手で振り回し、冥界の者を一刀で真っ二つして行く者もいる。
炎の魔力を込め殴られ切られた敵は燃え上がり、再生を防がれ確実に倒されて行く。
戦士の一族オークの勇猛さを存分に輝かせ彼らは敵陣を引き裂いて行く。
だが数が多すぎる……終わりの無い正に修羅の道をオークの一団は突き進む。
ゴブリンの軍は前線が戦闘状態にはいり、守りを固めながら、押し込んで行く。
目的は歪んだ空間、そこを何かしらの術があるのか封じるつもりの様だ。
ダークエルフは一斉に真空の魔法を放ちエルフ特有の弓術で援護している。
騒乱の時代に戦い抜いたエレナとカナは戦場を知っている、その為にこれが負け戦であると感じ、苦しいが戦士達を見つめている。
ユリナも優勢に戦いを進めている様に見えるが、ユニオン軍の被害の凄まじさに胸を痛めていた……
今度はダークエルフの一団が、剣を抜き突撃して行く。
ダークエルフのシールドナイト、先頭は相当腕が立つ指揮官の一人の様だ。
ダークエルフ達は斬り進んでいる、オークの一団と合流を目指す様に反対側から、修羅の道を勇敢に突き進む!
戦況は勢いあるユニオン側が有利に見えるが、時間がそれを許さない。
時が経てば数の差が出てくる、トールが苦渋の指示を前例にだす。
「第一陣突撃せよ!第二陣守備陣にて前進!」
「なっそんな!」
ユリナが思わず声を出した。その指示は第一陣に死ねと言ってるのと同然だからだ。
「ユリナこれは仕方ないの、数で圧倒的に不利な場合、しかも敵に増援が来る場合。
兵を休める時間なんて無いのよ……
あの戦闘状態で前後の隊を入れ替えれば僅かに隙が出来る。
そこで敵の前衛が守りを固めたら、また押し込むのに時間がかかってしまう。
私でも同じ指示を出すと思う……」
エレナがユリナに苦しみを抑えて教える。
「でもそれじゃ一人も生き残れない……」
ユリナはやっと気づく、これがどれだけ悲しい戦いなのかを……
「トールの開戦の号令、よく考えてねユリナ」
ユリナも指揮官の一人、指揮官の苦しみもエレナはこの機会に教えようとしていた。
突撃して行ったゴブリンの第一陣は奮闘空しく散っていく、その屍を乗り越えてゴブリンの第二陣が前進する。
正に悲しい戦いである、先に突撃したオークの一団も疲弊し風前の灯と言える。
その時、後方ドワーフの軍に動きがあった。鋼の体をした、巨大なゴーレムが数体現れた。
「何あれアイアンゴーレム?いや大き過ぎる……」
エレナが知らずに驚く。
「あれが巨人族の魔法、魂無き科学と言う魔法の一つ、フェルムナイトあれは正に心の無い鉄の騎士……
敵を教えれば恐怖も悲しみも、怒りも無くただ敵と戦う者です。当時のドワーフは機械兵と言ってた様です。」
エレナの番人が言う。
「フェルムナイト……」
ユリナとカナが声を揃えて呟いた。
フェルムナイトは普通のヒューマンの十倍以上の高さがあり、冥界の者を簡単に踏み潰し巨大な剣一振りでゆうに、血の騎士達五体は薙ぎ倒し蹴散らして行く。
そこにドワーフは今度は少し小さいフェルムナイトを準備し始める。
それに合わせてオークの一団がまた同じ様に突撃して行く、既に先に行った部隊は全滅している。
エレナは気付いた、分厚い敵の軍団に斜めから斬り込む二つの部隊。
僅かでも冥界と闇の軍勢を手前側の中央に寄せ、本軍と言えるゴブリンの軍が押し込む隙間を作っている。
恐らくゴブリンの軍が中央まで来た時点で後方で温存している、蜂矢陣を使って最後の突撃を行い、一番奥の歪んだ空間まで攻め込む作戦にも見えた。
今の進軍でそこまで到達する為に、どれだけの被害が出るかエレナは気付いていた。
その絶望的な戦いを繰り広げている最中、ゴブリンの軍の後方から角笛が鳴り響く!
その先には白の下地に金色の六芒星、ユニオンレグヌスヒューマンの旗印がはためく。
そして相当な規模のヒューマン騎馬隊が、蜂矢陣を形勢しながらゴブリンの軍の左から、敵陣に突っ込んでいく!
まだ角笛は鳴り響き後方にはヒューマンの凄まじい大規模な歩兵部隊が援軍に向かってくる。
「相変わらず、ヒューマンは短命だが数が多いな……
数ある種族の中で秀でた力が一切なく僅かに劣る種族だが……
逆に全てにおいて万能、敵にすれば厄介だが、味方に居れば心強い!」
トールの口元が始めて僅かに笑った。
この時代ヒューマンは軽視されがちだった、だがトールはヒューマンの本当の強さを見抜いていた。
それは数ではなく訓練さえすれば万能と言えるほど何でもこなす力、いつか全てにおいて、アルベルトの様な平均的に突出した英雄が生まれてもおかしくないと、そう考えていた。
ヒューマンの角笛が鳴り響き、ユニオン勢の士気が高まる。
騎馬隊は勢いに乗り敵を踏み潰し、引き殺し凄まじい勢いで中央まで斬りこもうとするが……
歪んだ空間から後方のドワーフ部隊の方に巨大な槍が現れる。
デスナイトだ……デスナイトは大型のフェルムナイトと同じ大きさはあり、フェルムナイトと激しく戦い始める。
ドワーフ陣営は準備していた中型のフェルムナイトを全て急いで出して守りを固め、大きな筒でデスナイトに狙いをつけ鉛玉を打ち出す。
大砲だ……だが今のエレナ達が知らない大砲で凄まじく連続して撃っている。
そして手の空いた者はまた大型のフェルムナイトを急いで準備し始める。だが間に合いそうに無い、後方のドワーフ陣営は完全に防戦一方になってしまった。
それを見計らっていたかの様に、大量の矢がデスナイト目掛けて放たれた。
水色の下地に金色の六芒星、ユニオンレグヌスエルフの旗印だ!
エルフ族は崩れそうな陣が出てこないか、様子を伺いその機動性を活かし戦場の周辺を移動していた。
そのエルフ族が一斉にドワーフの救援に動き出した。
素早くドワーフの前に布陣し、得意の弓術でフェルムナイトを徹底的に援護し、フェルムナイトがデスナイトに集中出来るように、連続速射で闇の軍勢を抑える。
続いてエルフ軽歩兵、重歩兵が待機して、ドワーフ達を守れる様に陣を敷く。
後方が安定を取り戻したその時……
「可愛い地上の皆さん、いつまで頑張れるの?」
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