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第二章〜記憶の石板〜
33話✡︎災いの日 恐怖の女神✡︎
しおりを挟む突然クリタス平原に、透き通り全てを冷たく凍りつかせる様な声が響いた。
全てが止まった様に思えた……
その声は色めいた悩ましげな口調で話しだす。
「私は早く見たいの
聞きたいの
感じたいの
解って下さるぅ?」
そう言い少し間を置き……
「だから特別に私の可愛い可愛い、ペットを送ってあげるから……
地上の皆さん、早く屍になった姿を見せて……
死ぬ瞬間の美しい悲鳴を聞かせて……
そして私の一番好きな貴方達の恐怖を
私に感じさせて下さい」
「恐怖……恐怖の女神メトゥスか!」
トールが叫ぶ。
「あ、た、り、」
そうメトゥスが遊びながら返した時、歪んだ空間からデスナイトよりふた回り程大きい竜がゆっくりと現れる。
その全身を赤く大きな鱗が覆っているが、その鱗はよく見ると蠢いている。
亡者の顔が浮かび上がり時折、恐怖の叫びを上げている……
生きたまま食われた者達が永遠の恐怖と苦しみを味合わされているのだ。
巨竜は暴れまわる、紫の炎を吐き兵を蹴飛ばし踏み潰していく。
「神の竜!しかも冥界の神……
ウィンダム貴方達はこの時何してたの⁈」
ユリナが心の中のウィンダムに声を出して叫ぶ!
ユリナの首元からウィンダムが現れて言う。
「ごめんねユリナ、前にも言ったけどこの時僕達守護竜は生まれて無かったんだ。」
ウィンダムが申し訳なさそうに言う。
「守護竜だけじゃない、祝福を持つ者も居ない、きっと隊を指揮してるトールはレジェンドかも知れないけど……
あの竜は恐怖の竜フォルミドかも知れないだとしたら。」
エレナが絶望的な表情を見せながら言う。
トールは剣を鞘に収め、
「暗黒を持て……」
静かに言う、するとゴブリンの兵五人が重々しい長く太い大剣を持って来た。
何故か刃を手を斬らない様に持って来ている。
「トール様、これをあれに使うのですか?
命を間違いなく落としますよ……」
兵達が口々に言うがトールは黙って、暗黒と言う大剣を背負う。
「他に手が無かろう……
まぁ元より滅ぶ定めなら最後に……
俺だけに許された闇の神剣……
暗黒で恐怖の女神メトゥスの可愛いペットとやらの首を斬り落としてくれよう」
トールは一切の恐怖を感じさせない程勇ましく言う、ただ意識は不思議と自由であった。
暗黒を背負ってから兵達の死が暗黒を伝わって来る、その死は誇り高く誰一人として死を悔やんでは居ない、一部の死を除いて……
フォルミドに殺された者達の魂をフォルミドが食らっている。
その者達の魂の悲鳴だけが、トールの心に響いていた。
「待ってろ……今助けてやる……」
トールは呟いた。
その悍ましい光景に兵は恐怖し戦意を失いかけている、食らわれた魂は永遠にその恐怖をフォルミドの中で味わい続ける様だ。
オーク達だけはその恐怖に刃を突きつけ、何とか戦線を維持しているが、そこが崩れたらもう戦にならないだろう。
そんな中に……
「ゴブリン達よ何を恐れる‼︎
我らは冥界と戦う為に生まれたのを忘れたか⁈⁈
我らの闇を奴らに見せてやれ‼︎
全軍我に続けぇぇぇぇ‼︎‼︎」
トールはそう叫び、先頭に立ちフォルミドに向かい突撃していく!
まさに冥界の恐怖に挑んでいくその姿は英雄そのものであった。
フォルミドがトールに気づいて紫の炎でゴブリンの軍を焼き尽くす様に吐きつける。
戦場にいるユニオンの全ての軍がそれを見て、全てが終わった事を悟るがトールが暗黒で受け止めた。
その炎は全て暗黒に吸い込まれていく、全ての炎を暗黒が吸い込んだ時、暗黒の刀身が黒い輝きを放ち、その刀身には漆黒の渦が幾つも渦巻いていた。
ユニオンの全軍がそれを見て大きな声を上げて士気を取り戻し、体制を立て直そうと戦い始める。
戦況は絶望的だが、闇の種族あのゴブリンが僅かだが希望をもたらした瞬間だった。
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