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第二章〜記憶の石板〜
35話✡︎クリアス✡︎
しおりを挟む「もういいわ、あなた魅力的だけど残念ね。
サヨウナラ……」
メトゥスが力を込めトールを握りつぶが、トールは声も上げずに空を見上げた。石船から何かが放たれたのが目にはいり叫ぶ。
「地上の力を見るがいい!
我らの勝利だ‼︎‼︎」
そう叫びながら絶命した。
メトゥスはトールの遺体を投げ捨てたが、トールはそれでも暗黒を握りしめていた。
それは闇のレジェンド・トールが闇の女神オプスへ最後まで愛を貫き通した証であった……
そして歪んだ空間にメトゥスが腕を戻そうとした時……何かが一瞬光り爆発した、石船から放たれたクリアスだ。
その爆発は凄まじく中心は数十万度はあろうか強すぎる青い光を放つ、恐ろしい高熱から放たれる熱風は、全てを蒸発させていく……
一番近くにいた恐怖の竜フォルミドさえも焼かれ、硬い鱗の間に隙間が生じて爆風で多くの鱗が飛ばされて消滅して行く。
それでもフォルミドはしぶとく歪んだ空間に逃げ込むが、腕を出していたメトゥスは凄まじい悲鳴をあげ左手を失い、クリアスを恐れ歪んだ空間を閉じる。
そして冥界の者達もユニオン勢もひとたまりもない、いきなり凄まじい衝撃が走り巨大なデスナイトでさえ薙ぎ倒され、フェルムナイトは必死に耐えようとするが灼熱に耐えきれず、その鋼鉄の体は溶かされ蒸発していく。
多くのユニオンの兵は飛ばされながら蒸発していく……デスナイトも血の騎士も、オークもゴブリンも!ダークエルフもドワーフも!エルフもヒューマンも‼︎
何もかもが!何もかもが!
敵も味方も関係無い‼︎そこに居た全ての者達が……
吹き飛ばされて消滅していく。
鉄も岩も全てが焼かれ蒸発していく、悲鳴をあげれた者はまだ幸せであった……
その爆風はクリタス平原にとどまらず、五秒とたたず、クリタス国の首都クリタスに到達し力無い国民が一瞬で焼かれる。
衝撃波は家々を一瞬で薙ぎ倒し同時に焼き始める。
街並みを彩り美しく季節を伝える街路樹にさえ容赦しない。
まだ若く、夢を追いかけ未来に希望を持つ少年にも……
まだ産まれたばかりの善も悪も知らない純真な赤子にさえ……
偉大な愛が赤子を守る様に母親がかばうが……
無慈悲にも全てを奪っていく。
まだこの距離でも熱が収まらず、ガラスが溶かされ爆風が全てを吹き飛ばして行く。
その破壊は首都周辺の小都市や町や村まで飲み込んで行く。
逃げ惑うことも許さない、恐怖も絶望も無い全てが一瞬で奪われた……
爆発が収まった後、クリタス平原と首都クリタスには何もなかった。
強固な城壁と街の一部の建物が残骸となり残っていただけで、あれだけ戦った戦場も亡き骸一つさえ残っていなかった。
たった一発、たった一発の砲弾が全てを奪った。
唯一トールが握りしめた暗黒だけが吹き飛ばされても傷つかず天高く、天界まで届き破壊神クロノスが掴み取り涙を流していた……
巨人族の王ザラハドールは全てを見届け、血の涙を流し、クリアスを作った事を後悔したが、それ以上に神々が傍観した事に怒り……
全世界に散らばる巨人族に叫んだ!
「奇跡を信じるのではなく!目の前の真実を見つめよ‼︎‼︎
奇跡は求めるものではなく!信じるものでもない‼︎‼︎‼︎
自ら起こすものだ‼︎‼︎‼︎
我々は地上を冥界から守りきった……
だが……その代価が余りにも大き過ぎる……
この悲しみ苦しみ……
地上の悲劇を全て天界に……
神々に思い知らせよ‼︎‼︎‼︎
地上の生けるものよ!
立ち上がれ‼︎神々へ罰を下せぇぇ‼︎‼︎」
その教えは巨人族が神々と決別した決意の言葉だった事を全ての者が理解した。
その様子を見ていた冥界の一人の神が呟いた……
「クリアスか……
地上には要らぬなぁ
神に等しい力を地上が持てば、やがて滅びる……
妾の楽しみが無くなってしまうではないか……」
冥界の支配者、死の女神ムエルテがつまらない物を見るように呟いていた。
そこで記録は終わり、記録の間に重い静寂が訪れる。
誰もが衝撃を受けたのは言うまでも無い、
そしてクリアスによって蒸発していく多くの者達の姿が脳裏に焼き付き、まるで熱く溶かされた銀を飲まされる様な……
それ程の精神的に苦しい思いをした。
一つの国一つ種族が犠牲になり、災いの日を世界が乗り越えたと言う事実。
そしてクリアスと言う科学の力、メトゥスの左手を奪い恐怖の女神メトゥスにも恐怖を与える程の力。
だがその力はあまりにも無慈悲過ぎる……
そしてその科学と言う力を求め始めている一部の欲深い者達……エレナは気がおかしくなりそうだった。
騒乱の時代に自らの国の為に命を投げ捨てた者達は数多くいるが、この記録はその比ではない。
だがクリアスの神を退けた現実もエレナは考え……
悲しいが苦しいが認めざるおえない、そう思いかけた時。
ユリナとカナがうつむいてる姿が目に入った……
二人もエレナと同じように苦しんでいた。
一つの感情がエレナを、とても強く引き止める……母性だ……
「いけない!
あんな物がある世界にしてはいけない!
この子達がクリアスに怯える様な世界にしてはいけない!
災いの日の為⁈
冥界の神に対抗する為?
そんなの言い訳に過ぎない‼︎
強すぎる力を持てば振りかざしたくなる、使いたくなるに決まってる!
それはただ恐怖を与えるだけ、そんな世界……冥界と変わらない‼︎‼︎」
エレナは自分を強く持ち直して、自分に言い聞かせる様に声に出して叫んだ‼︎
ユリナとカナがそれを聞いて、エレナに抱きついて泣き始める。
ユリナもカナも大人と言えるが、エレナから見れば親から見れば、永遠の子供に変わらない……
「カナ?ユリナ?クリアスなんて、ない方がいいよね?」
エレナは優しく聞くと、二人は泣きながら頷いた、アルベルトがエレナの肩を優しく叩き静かに頷く。
その姿をみてエレナの番人が申し訳なさそうに話す。
「エレナさんユリナさん、カナさんアルベルトさん。
私達からお詫びしなければなりません。
皆さんが巨人族の魔法を知りたくてこちらに来られたのは、魂が繋がった時から解っていました。
ですからその中から、私達が見て欲しい物を選び申し訳ありません。」
二人の番人が頭を下げて謝る。
「どう言うことだい?」
アルベルトが優しく聞くと
「先程お話しましたが、私達もオプス様が生み出して下さった闇の眷属です。
私達は闇の女神オプス様を知って欲しくて、巨人族の記録から、オプス様を解ってもらえる。
闇の女神と光神を選びました、
そして科学については、科学の力と私達の同胞ゴブリンの国クリタスの悲劇を知って貰いたくて、全ての科学の記憶よりも歴史の棚から、クリタス王国の滅亡を選びました事をお詫びします。」
「ちょっと待って、全ての科学の記憶って……」
エレナが聞く。
「はいありますよ、この記憶の棚に巨人族が始めて作った機械の作り方から全て……
知りたいですか?
巨人族が初めて作った機械」
一同が唾を飲んだ。
あのクリアスを作った巨人族は一体最初に何を作ったのか……どんな恐ろしい物を作ったのか皆想像出来なかった。
そこにカナの番人が、おぼんに何かを人数分乗せて持ってきて、一個づつ渡していく。
冷たくて見慣れたものがそこにはあった。
エレナは顔をしかめる、ユリナは衝撃を隠せず……目元がピクピクしている。
カナはカナなりのポーカーフェイス、笑顔でそれを見つめる、アルベルトはそれを食っている。
「これアイス?」
エレナがアルベルトにホントに?って顔をして聞く。
「うん、結構美味いバニラアイスだね。」
アルベルトが答える。
「はい、巨人族が最初に作った機械はアイスを作る機械でした。
魔法を使えばアイスを作るのは簡単です、でも魔法を使えない人が作るのは大変です。
国が豊かになり、平和な世界で甘い物、美味しい物はみんな欲しがります。
全ての人が使える、と言うところから科学は始まり、皮肉なことに。
全ての人が使ってはいけないクリアスを生み出したのです。
中には最初から冥界の者と戦う為に作られ、それが変化して家庭に置かれた物もありますが……
そう言った物にも血に塗られた発展があった事は知っておいて下さい。」
エレナの番人がそう説明している。
ユリナはエレナの番人に聞いた。
「クリアスの作り方もあるの?」
相変わらず直球で聞く。
「ありますよ、この正面が破壊と科学の棚ですが、石版を呼ぶ事は出来ません破壊神クロノス様が封印されましたから……
本当は破壊した方がいいんですが……」
「じゃあそこまで案内して?」
エレナが言うとエレナの番人は言う。
「ここから行きますか?」
そう不思議な事をエレナに聞く、エレナはエッ?と思うが深く考えず頷くと。
「馬を走らせて五百年かかりますが、いいですか?」
エレナの番人はホントに?と言う顔してエレナに聞く。
「五百年か……」
アルベルトが深刻な顔して言う。
確かにいい訳ないエレナもあまりの距離に時が止まる。
「多分、破壊と科学の棚はクリタスの棚からなら、歩いて半日程でいけます。
ですが破壊する事は出来ません、この記憶の石版は消滅させるか無に帰すしか無いのです。」
エレナの番人がそう言う。
「と言う事は、闇の神剣暗黒が必要なんだね?」
ウィンダムがユリナの肩に乗って聞く。
「はい、そうなんです。
私達はあのクリアスの石版を破壊して欲しいのです、無に帰して欲しいのです。
私達闇の眷属の仲間ゴブリンの国、クリタスを滅ぼしたクリアスを……」
エレナの番人は涙を流しはじめる。
「でも例え暗黒が手に入っても、使える人が居ないと思うよ。
あれはトールに許された神剣……
そもそも暗黒はクロノスが今持ってる、クロノスが渡してくれると思う?」
ウィンダムが珍しく絶望的な事をエレナの番人に言う。
エレナの番人は神々に対して強く強く悔しいと言う感情を抱く、何故クロノスは封印だけしたのか、破壊を司る神が何故破壊しなかったのか、そこには深い意味がある事を知るよしもなく。
「それでも破壊したいのかい?
無にかえ……」
ウィンダムがユリナに言う様に優しく言うが、それを遮る。
「壊したい!
無くしてしまいたい‼︎‼︎
私達の一族も沢山沢山奪われた!
友達も沢山沢山……
あんな物消えてしまえばいい‼︎‼︎」
先程とは違う番人は憎しみと怒りを込めて叫び訴える。
エレナは思い出した、ドッペルゲンガーのドッペルと呼ばれる一族は、基本殺されるまで不死、十万年前のあの悲劇を知っている、僅かな生き残り。
番人の怒りと悲しみが強く伝わり、これだけの時を経てもそれが癒されることがない事を知る。
さっきまでクリアスを認めてしまいそうになった自分が……愚かに思え恥じるべきだと思い、それを引き止めてくれた二人の娘にエレナは深く感謝していた。
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