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第三章〜戦士の国アグド〜
46話✡︎要塞都市カルデア✡︎
しおりを挟むカルデアは二千年前の戦争で、セレスが国境の平原を守りきれず、オークの大部隊の侵入を許してしまった為に、戦争が終結した後に防衛拠点として作られた街だ。
その為に総力戦を展開出来るように、巨大な円形の城壁が街を全て囲み、中央には更に巨大な城壁が城を囲んでいる、言わばエルフの要塞都市である……
その要塞都市が出来てから、この周辺の平原はカルデア平原と呼ばれる様になった。
エレナ達はカルデアの城に入り、領主に挨拶をする。
エレナは自ら設計も手伝ったこの街を好まない、完全に国防を考えて作られた街……
その街の作りには、自然に人々が集まり街になった温もりが無い。
それどころか城壁や門には防衛の為に、敵兵を殺す罠が至る所に設置され、時を追うごとに時代が進むにつれて、その罠は残忍性を増し強化されている。
戦争が生み出した冷たい街だ……
エレナはこの街に来る度に、もう少し違う作りに出来なかったのか毎回悩まされる。
だが今回は悩まなかった。
アグドに行くのは、今後この様な街が作られることが無くなる様にする為だ。
この様な冷たい街を無くす為だ!そう心に強く言い聞かせていた。
エレナは弓兵達を休ませて、アグドに命をかけて行く使者を募る。
勇敢にも百名中二十名が志願する、その内十名を任命して、一人に巻物を渡しオークの国境守備隊に送る。
ここから国境まで早馬で二、三日と言った所に国境がある。
使者達は白い旗を背中につけて走り出した。
二日後、そんなエレナ達の部屋にカルデアの領主が一枚の図面を持って来て、嬉々として新しい罠をエレナに話して来た。
リヴァイアサンがエレナの心に囁く
(こいつ出世しか考えてないぞ)
カルデアの防衛強化には大分予算がかかっている、既に何かあっても首都エルドから援軍が来るまで十分持ちこたえられる程強化されている。
それどころか、ここにかかる予算は、エレナが王立図書館の一件で遺族保証の為に話し合った予算とは違う、敵兵とは言え国を守る為とは言え人を殺すための予算だ。
それを嬉々として語り出世しか考えて無い領主に怒りを覚えた。
「カルデアは大切な街です。
ここが抜かれては、多くの国民が危険に晒されます。」
そうエレナは静かに言い、深く呼吸をし怒りを抑える。
「ですが、これ以上この街が冷たい街になるならば、私が王権に復帰した後。
最初に手掛けるのは、カルデアの解体です。
良く覚えておいて下さい……」
そう冷たく言った。
(お母さん……)
ユリナはまた母エレナの強く美しい心に憧れを覚え、同じ瞳でカイナもエレナを見ていた。
領主は予想してなかったエレナの言葉に焦り、礼儀を正しその場を去る。
フロースデア家は王権から退いているが王族の名門、その党首が国の英雄でありエヴァスの称号を持ち、水の女神の巫女である、その発言力は相当強い。
一都市の領主がそのエレナに、そう言われたのである、生きた心地がしないだろう……
エレナはその場を後にする領主を見送り。
外に出て空を見上げる、その胸には怒りを超え憤りと、これから変えなければならない、数々のことが、この二千年間の自分を見つめ直させた。
それから六日が経ち、使者が十名全員が無傷で帰って来た。
それだけでも奇跡的なことだが、外交使節を受け入れるとの返事に、ユリナもカナも怪しいと疑っていた。
当然エレナは何かありそうな気がしてならないが、アグド国王ウィースガルムが決めたらしく、その巻物まである。
これは当然正面から行かなくては、何かと後々厄介ごとに成りかねない。
そしてエレナは回答が早い事から、アグドも伝達能力がセレス程では無いが大分高度になってると感じた。
「うーん気になるけど、行くしかないね……ユリナ、シンシル様にこの事を魔法で伝えて。
カナ、弓兵隊に明日の朝に出発するから準備する様に指示を、みんなも準備しておいてね」
そうエレナが言うと一行は慌ただしくなる。
ウィースガルムからの巻物には、アグド国境のベルダ砦から入国する様にと書かれている。
オークのベルダ砦はカルデアから馬で三日程で着くオーク族の国境防衛の要の砦である。
翌朝、エレナ達と護衛百名の弓兵隊は馬でその指示に従い出発する。
「お母さん、あの後カルデアの領主になんて言ったの?かなり態度が小さくなってたけど……」
ユリナが馬を走らせながら聞く。
エレナはさらりと言う。
「ちょっとね、今のままならセイエンに赴任してもらうわよ言ってあげたの」
(それ、お母さんが言ったら……)
ユリナもカナも領主の態度に納得した。
セイエンの街はセレスの最西端の街でカルデラから見れば、遥かに小規模な防衛拠点である、つまり辺境送りと言う事だ……
三日後……ベルダ砦が見えて来た、かなり大きく、砦と言うより城を思わせる様な威圧感を感じる。
近づくにつれて、その強固な作りを感じさせる。
「お母様、あちらも気づいた様ですね」
カナがオークの一団がこちらに向かって来るのを見つける。
「二個小隊……かな?」
エレナが大体の数を把握して、右手を上げて隊のペースを落としフードをかぶり顔を隠す。
あちらはペースを落とさずに、近づいて来る。
エレナの一行の弓兵隊に緊張が走り、動揺し始め、護衛が前に出ようとした時。
「待て!隊列を崩さず整列し停止!」
ユリナが馬に鞭を入れ先頭に出て掛け声をかけた、隊はその場で停止して列を整える。
エレナはユリナの指示を聞いて小さく微笑む、エレナとカナは動揺などしてない、ユリナは僅かに動揺しているが、オークの一団に敵意はあるが、殺気を感じない為に指示を出した。
エレナとカナは解っていた、彼らが戦う気が無い事を、あの時代にオークの軍と数多く戦っていた。
もし彼らが戦う気なら、既に強靭な肉体でジャベリンを投げて来ただろう、そうなれば、既に十名は命を落としたはず、彼らはエレナ達で遊んでいる。
オークの一団がようやく、ペースを落とし始めたのはかなり近づき、叫べば声が届く程の距離で、そのまま突っ込まれたらどうしようも無いそれ程近づいてからだった。
そして停止したのは馬二頭分程の距離で、即座に斬り合える距離だ。
彼等の荒々しい性格を理解するにはそれだけで十分だった。
「女?よく怖気付かなかったな、貴様何者だ」
エレナが来る事を知らない様だ、だがそれ以前に明らかに外交使節に向かって言う言葉では無く、限り無く無礼な物言いだった。
「なっ!あなたは我々が外交の為に来た事を知らないの⁉︎」
ユリナが強気で言い返すが、それをエレナは手だけでユリナを静止させる。
「私はフロースデア・カナ、貴方達とは幾度も戦場で合間見えました。
貴方達のもてなしは理解しています。」
カナが丁寧に言う、自分の故郷を燃やし村人を殺したオークに向かって、その怒りを抑え込み言っている。
「?水の舞姫……」
オークの指揮官がそう言うと、オークの兵達が僅かに動揺した、シェラドが言った通り、カナは言い伝えになってる様だ。
「つまり貴様が水の巫女か……」
フードをかぶったエレナを見てオークの指揮官が言うと、エレナは口で微笑みフードを取り、空色の髪を優雅になびかせて、美しく微笑む。
その姿にオークの兵の一部は一瞬目を奪われたが、指揮官は鼻で笑いながら言う。
「戦場ならば、貴様を打ち取れるものを……客として来るとはな。
見事だ、俺はグリフ付いて来い」
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