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第三章〜戦士の国アグド〜
55話✡︎バータリスへ✡︎
しおりを挟む三日後バータリスへの出発の時、シェラド達は自らの軍を護衛として四個中隊四千もの部隊を率いた。
エレナ達の百名の隊はその中心に配置され、守りを固められる。
シェラドはオーク族の中でジェネラルと呼ばれ、軍の最高位にいる軍の指揮官であった。
これだけの規模の護衛にエレナ以外は驚いていが、エレナは三日前のシェラドの言葉を理解していた為に驚きはしなかった。
事実が歪んで伝われば、エレナ達は簡単に狙われるのは考えなくても解る、その配慮だった。
「エレナ殿、多少時間がかかるが、それは許してくれ私もそなた達とは今となっては争いたくない。
シェラドがバータリスにも、自らの手勢を集結させていから安心してくれ……」
ベルガルがエレナに伝えて来た。
「シェラドさんは……とても力がある様ですが、どんな方なんですか?」
カナがベルガルに聞く。
「あいつは、アグド全軍の半数以上を指揮下に置いている……
今までも何度か、長老どもがセレスに攻め込む指示を出したが、あいつが首を縦に振らないから結局攻め込むのを断念しているんだ。
ジェネラルと言う称号の意味をシェラドは理解してる、いいやつだよ」
ベルガルが答えるが、そのジェネラルの意味をカナは理解していなかった、だが嬉しそうに微笑んだ。
「まぁ、解るさバータリスに行けば、アイツが戦争の為に軍を動かさない訳が……
今回の事でクリタスのゴブリン達に兵を送るのも嫌がるだろうな」
ピリアもそれを聞いて少し安心する。
この時シェラドは一つの覚悟をしていた。
誰もが予想してない行動をシェラドはバータリスで行おうとしていた……
シェラドが騎馬にのり右手を前にふる。
「進め!」
それを見ていたグリフが出発の合図をする。
通常なら馬で十一日程で着くが、軍での行軍になる為に騎馬隊とは言え十四日はかかる。
ベルダ砦からバータリスの間には、ベルリス平原と呼ばれる平原がある。
その広大な平原にはいくつかの川や、森が点在し森には湧き水の池があり、そこから水を引いて、僅かな麦や穀物を生産している様だ。その平原を抜けていく。
騎馬隊で荷馬車も多数ある為に、ペースはさほど早くない。
ユリナは不思議に思った、王の死が明らかになって何故もっと急がないのか。
オーク達の仇をピリアが取り、シェラド達は凱旋の様なもの……もし真実が歪み伝わる事を懸念するなら、出来るだけ急ぐはず。
それを悠々と、馬を軽く走らせゆっくりとしている。
その行軍が三日経ち、五日目の夜……エレナはすっかり元気になっていた、僅かに腹部にあざは残っている様だが、ゆっくり行軍した為に回復は早かった、そのあざもバータリスに着く頃には消えているだろう。
エレナ達が焚き火を囲んでいる時に、シェラドとベルガルが来た。
「みんな傷は大丈夫か?」
シェラドが聞く。
「えぇ、ゆっくりと進んでくれたおかげで、いつでもベルガルさんと、もう一戦デュエル出来ますよ」
エレナは冗談を混ぜながら笑顔で言う、それを聞いてシェラドがベルガルを見ると、ベルガルは苦笑いをして、まだ治りきってない事を無言で伝える
そこに伝令が来た様だ。
「ジェネラル!グルカスの五個中隊と西グルカスの五個中隊が到着しました。
ベルガル殿、護衛精鋭部隊二個中隊も今し方到着しました‼︎」
そうグリフが伝えに来た。
エレナはその知らせを聞いて驚く、既に護衛として四個中隊四千、そこに十二個中隊一万二千が加わり十六個中隊、一万六千に及ぶ……一個師団となった。
しかも加わったのは全て、セレス側の国境守備隊である。
「他は?」
シェラドがグリフに聞く。
「ヴァラディアから八個中隊が明日合流出来るとの事、ベルリス砦から五個中隊とベルリス中央砦から二個中隊も明日合流予定です」
グリフが次々と報告してくる、全てセレス側の国境守備隊を集結させている。
「一体何を!」
エレナが余りにも大規模な軍の招集に疑念を強く持ちシェラドに聞く。
それはそうだ、既に聞いただけで二個師団以上、三万一千の兵を集めている。
戦争でもする気なのかと言う勢いだ、それと同時にシェラドの声でそれだけの軍が簡単に集まる。
ジェネラルの威厳の強さを物語っている。
「長老共に教えるだけだ……
戦士としての誇りを忘れ権力に溺れ、それを守る為にセレスを敵として見続けてる。
何千年もだ……
それが如何に愚かか、奴らがセレスに向けてる兵を奴らに向けてやるのさ」
シェラドがそう哀しい目をして言う。
「一族の悲しみってそう言うことなの?」
エレナが聞くと、
「それから生み出される物だ……指揮官の多くはそれを知っている……
だが、セレスを制圧すれば解決すると長老共は言っているが、俺はそうでは無いと思っている」
ベルガルが答える。
「グリフ、バータリスはどうだ?」
シェラドがグリフに聞く。
「ジェネラル旗下の他の国境守備隊以外で、あと七日以内にバータリスに到着する隊は全て予定通りに二個師団が、バータリスに到着します。」
グリフがそう報告してベルガルに聞く。
「ベルガル殿、伝令はいつ?」
「明日の夜が丁度良く無いか?」
「そうだな……その位が丁度いいな、悪いが少し離れる」
シェラドそう答えベルガルと去って行く。
エレナはシェラドが何を考えてるのかを推測しはじめる。
リヴァイアサンの反応からして、悪意や野心の様な邪なことは思っていない。
仮にそうであれば、炎の守護竜ヴァラドが彼から離れるか、その身を焼き尽くすだろう……
神の祝福を持つ者は、力を使う時に正しさが求められるからだ……そうなると彼が今ここまでしようとする事は正しいこと、もしくはしなければならない事……
グリフが言った言葉が脳裏を横切る。
そして一つの仮説が生まれる。
「情報統制……」
エレナが呟いた。
皆んなが?と言う顔をした。
そしてそれが、この悠々と進む行軍と繋がった……
「そうか、シェラドはこの国をアグドを変えようとしている……」
エレナが気付いた事をゆっくりと話しだす。
「このゆっくりとした行軍は多分……軍の集結の為、あとバータリスで戦う事になっても疲れ切った兵で戦わない為かも知れない……
それを可能にしてるのが、情報統制……
バータリスは王の死をまだ知らない、と言う事は他国も……
出発前の三日間、あの日は集結をスムーズに行軍と合わせる為の前置きだとすれば……
あのドッペルと戦った日に各地に早馬を飛ばしたんだと思う。」
エレナは昔、騒乱の時代に軍を率いた時の様に話しを続ける。
「このペースで、明日早馬を出してバータリスまで約三日後に伝わるとして、バータリスの長老側が、それを知るのが王の死を私達が知ってから十二日後。
私達は九日行軍してからになる……
そうなれば、シェラドの指揮下に無い部隊を
長老達が集めても、大した数は集まらない上に、夜通し強行で集まった兵達は疲れ切っていて、満足に戦えない……
その十二日間が明らかに致命的になる。
つまり、開戦前から勝敗は決まっていて戦にならないって事になる」
エレナがその戦略性を恐ろしく思いながらそこまで言うと。
「流石だなエルフの英雄よ、見事に読むな、そなたとは戦はしたくないものだ……」
シェラドがそう言いながら、グリフと酒と肴を持って来た。
「私もよ、ジェネラル」
エレナは微笑みながらシェラドに返した。
「シェラド、何故そこまでして国を変えようとするのですか?」
エレナが聞く。
「あの日、ピリアが言ったトールの気持ちだ……
一族を滅ぼしてでも、守るって間違ってるって解ってた。
でもそれしか無かった、と言っただろ?」
シェラドは想いを募らせていた、セレスに行き都市は栄え活気に溢れている。
軍国主義の様なアグドとは違い、一族の者が日々喜びの中で生きている。
それを思い出しながら話す……
「それを聞いてな……
やはりそれしか無いのかと感じたんだ。
このアグドは変えなければならない……
セレスの様に同じ一族が喜びを分かち合える様に……
だが、内乱は避けなければならない、アグドの指揮官も馬鹿では無い。
私が集結させた軍を見れば、戦う事を避け話し合う事を選ぶ者達も多いだろう……
闇のレジェンド・トールは知っている……
だが、彼が一族を滅ぼして何を守ったのかは知らない。
だが何よりも大切なものを守ったんだろう……」
シェラドがトールの偉大さに気づき始めた。
六日目、シェラドの軍はゆっくりと行軍を続け昼頃に、予定した軍が合流し三万一千、二個師団に膨れ上がる。
そして僅かにペースを上げ進軍を再開した。
その夜予定通り、バータリスに早馬を送った。
「これで三日後にはバータリスは慌ただしくなるな、長老らの慌てる姿が目に浮かぶ……」
「あぁ……」
翌日から普通に進軍する、バータリスにはシェラドの軍は伝わっていない……
シェラドはベルダ砦で、長老側の指揮官を全て斬っていた、シェラドの情報統制に意を唱えたからである。
そしてバータリス駐留部隊に関係する者や他の指揮官の部下は説得し、命の保証やこれからのアグドの為を伝え取り込み、成功した後に自らの指揮下で地位を約束するなど、ベルダ砦の三日間をついやしていた。
彼はジェネラルの地位を最大限に活かして、抜かりなく事を進めていた。
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