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第三章〜戦士の国アグド〜
65話✡︎新しい国✡︎
しおりを挟む新しきアグド国王、ベルガルが最初にした事はピリアを許したことであった。
種族と言う考え方を重んじるこの世界で、アグドに災いを招こうとしていた闇の眷属のドッペル。
そのドッペルの一人を種族では無く、個人として見て寛大に許した。
その後、戦場になったバータリスの整理がシェラドの部隊によって行われる。
長老院の兵一万五千、長老院側についた兵二万三千、合わせて三万八千の兵と。
ジェネラル側五万三千の兵がぶつかり、両軍合わせて、九万一千の兵が戦った規模の大きい内乱になっていた。
それでもその兵力はアグド全体の半数にも満たず、セレスの倍以上の兵力を保有している、いかにアグドが強大な軍事国家であり、戦の無い今の時代に無用と言える兵力が、国の大きな負担となっていた。
その結果、ジェネラル側が勝利し。
両軍合わせて戦死は一万を超え重症は二万二千を軽く超えた……
この後、重症から死亡に至る者を加えれば、凄まじい被害になる。
戦士達が愛用する、斬馬刀や巨大な戦鎚が一撃必死の破壊力を持つだけに、重症者の半数はおそらく死亡に至る可能性が極めて高い。
新しい国王ベルガルはその戦後処理に悩まされるが、そこはダンガードが長老院として手を貸した。
そもそも長老院の役割は内政を充実させ、戦場に王が戦いに行ったあと、戦争被害を想定しそれに速やかに対応し軍を立て直す役割もある。
それがいつしか軍国主義に傾き過ぎて、内政を怠り、国のバランスが崩れ数千年に渡り名君と言える王が現れず。
長老院側が腐敗しきって行ったのだ……
今この戦いで、長老院から欲深い者達が一掃されオーバーロード・ダンガードが長老院を仕切る形になり、本来の役割を取り戻そうとしている。
年の功だろうか……ダンガードが考え出す対策は中々のものである。
その前向きにこれからのアグドを考える、ベルガルとダンガードの姿を見て。
エレナはこの被害は大き過ぎるが悲しいことに必要な物だったのかも知れないと翌日には感じていた。
内乱が終わった翌日の夜、ノウムの月四日目も光輝いていた。
ユリナはその月をバータリスの外で野営しているエルフの野営地から見ていた。
そして水の鳥を自分の師団に向けて飛ばした。
「ユリナ今何を送ったの?」
エレナが聞いてきた。
「備蓄の最低数を下回るけど、一年分だけを残して全部送る様に伝えたの。
来年からまた備蓄していけばいいし……
絶対にさ……
ここで亡くなった兵達のことを考えたら…
いい国になってほしいって……
そう思って、何か手伝えないかなって……」
「そうね……今のアグドは本当に食料もお金も足りないからね……
財政難が深刻で、セレスみたいに遺族の補償も出来ないし……」
そうエレナはいいながら水の鳥をシンシルに向けて飛ばした。
「尊い者達!」
ユリナが大きな声で言った。
エレナもユリナもその時、思い出しふと思った。
シンシルから受け取った、記憶の石版。
それをダンガードやベルガル、シェラドそして主だった隊長達に見せようと。
そして、この戦いで出た犠牲を無駄にしないように、より強く思ってもらおうと考える。
だが……良く考える、あの記憶の石板の最後は、エレナがオーク達を倒している。
相当怒りを込めて……
シェラドには効果が有るかも知れないが、隊長達がどう思うか解らない……
「お母さん…あの石板……」
「やめましょう…」
エレナが頭を抱えて言う。
翌朝ユリナはエルフの野営地で、星屑の劔を振っていた。
「そうじゃなくて、こうだよ」
「こう?」
「こう、こういってこう!」
ウィンダムが教えている、不思議とウィンダムは大剣や斬馬刀の扱いを知っている、ユリナも疑わず教えて貰っている。
エレナも斬馬刀の扱いは知らないので、ウィンダムの教えを聞いている。
やはり、斬馬刀は踏み込みが大切の様だ。
その踏み込み一つで押し切られるか、押し切るかが結構変わるらしい……
そこにウィンダムが追加で話す
「でもエルフの場合は、ゴブリン達と同じでオークや獣人族と力比べをすると魔力をかなり使っちゃうから避けつつ……
刀身の重さを利用して切り込む方がいいよ」
そうだよね、と納得しながらエレナとユリナは頷きながら聞いている。
「あら?ウィンダムさんが先生って珍しいですね」
カナがやって来た。
「こちらも始めましょうか」
エレナが少し離れて小太刀を抜きカナと向き合い、カナも小太刀を抜いて、カナから斬りかかる。
エレナが剣術を二千年ぶりに磨き始めた。
二人とも師弟関係であるが、カナはエレナにとっていい練習相手であり、カナもまた同じである。
エルフ同士が剣を交えてる光景は、オークにとって珍しく、見物する者も何名かいる。
エレナもカナもやはり華がある、洗練された二人の剣技は見事であり、二人の美しさが人目を惹く……
カイナとアヤは仲良く座り、それを見ながら何かを話している。
朝から昼頃まで鍛錬し、食事をとりながら休息している時にベルガルが来た。
「エレナ殿、少し話し合いに来てくれないか?知恵を借りたい。」
エレナはベルダ砦でベルガルに重症を負わされたが、騒乱の時代に多くを学んでいた為に抵抗なくベルガルと話す。
ベルガルも剣で分かり合う習わしが強いオークの一族だけあって、一度戦ったエレナには親しみを持ってくれている。
この小さな野営地では種族の壁を少しずつではあるが、乗り越えようとしている者達が多くなって来た。
「カイナも練習付き合ってもらえば?」
アヤがカイナに言う。
「私の相手になるのは多分、巫女様しか居ないよ……カナちゃんの練習相手取っちゃ悪いよ」
カイナが言う。
「私を忘れていませんか?」
そこにピリアが来て言い、カイナの姿になりカイナと同じ槍を出した。
カイナの姿をしたピリアは可愛らしい笑顔を見せる。
「……」
カイナはその笑顔を見て自分にその笑顔が出来るのかと思った、カイナは自分がイミニーである事を忘れてはいなかった。
「じゃっ、相手してもらおうかな?
自分と戦うのか……面白そうだね」
カイナが立ち上がりそう言った。
「はいっ!
ご自分と戦うのは、心の鍛錬になります。
カイナさんとの魂はもう切っていますので遠慮なく来て下さい。」
ピリアが笑顔で言い、カイナとピリアは槍を向け合い……そしてカイナから仕掛けた。
カイナの槍捌きは美しく、そして力強い、全く同じ技量の相手と戦うのは、カイナにとって良い練習になっていた。
オークの兵達も二人を見ていた、槍を使う者はオークには少ない、そして歓声をあげはじめる。
自らに打ち勝ち、初めて強さを手に入れる……
ウィースガルムもダンガードも信じた言葉が彼らの胸に輝いていた。
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