✡︎ユニオンレグヌス✡︎

〜神歌〜

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〜アブソルートゥス〜

1話✡︎壊れかけた心✡︎

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 エレナはトールとオプスが、美しい夜空の下を馬で去って行くのを見て、思い出していた。
 二人の愛が絶対的で美しく、そして支え合っている姿を見て、エレナはその昔を思い出しながら囁いた。



「アブソルートゥス……」



 エレナが水の女神エヴァ祝福を授かったのはユリナが産まれる僅か五十年前四千三百歳頃の事だ……その時まだ、エレナの髪は金色で美しい水色では無かった。

 エヴァの祝福の力は水の女神エヴァの魔力をかりる事が出来る。
 その力を解放すれば、あらゆる時に水が味方してくれる、その効果は雨を降らせ海では津波さえ起こし逆に押し返すことも容易である。
 だが神では無いために呪文が必要であるが……通常の魔導師は相手にならない程の力を持つ。


 その祝福を授かり四十五年立ちエレナ苦しんでいた……
 王族であるフロースデア家の当主であり、エルフ族の中でまだ四千三百歳程の年で、見た目では二十歳程の年頃の若い女性がまだ愛する相手も居なく一人で居た、カナが養女で居たが前党首、エレナの父が騒乱の時代に戦死し弓兵師団を受け継ぎ、母もエルフ族の深い愛のせいかそれを追うように病いに倒れ他界してしまった。そして兄弟も居ない……


 結果、フロースデア家の正当な血を引くのはエレナ一人になってしまっていた。
 そして国の英雄であり、女神の祝福を持ち王族であるために、セレス国内の野心家や欲深い大臣達は息子が居るものは息子を、居ない者は強引に養子を取りエレナに求婚を求めて居た。

 それは酷い有り様であり、愛なんて語れるものでは無かった……
 まるで全てを平和に導いたその代価が押し寄せた様に、エレナを苦しめ続けていたのだ。
 エレナはしだいにカナと召使い以外とは誰とも会わなくなってしまっていた。



(私はこんな醜い世界の為に……
何をしていたのかしら……)
 エレナはそう思い屋敷の三階の大きいテラスから一人で空を見上げていた。
 何か屋敷に使いが来たのか、召使いが対応している……しばらくしてカナが部屋の扉をノックして入って来た。

「お母様、明日の昼頃にシンシル様がお見えになるようです。
支度の方はしておきますね。」
「うん、お願いね……」
「あとエルドの大臣の方が何名かこの後お見えに……」
「いつも通りお願い……」

 そう聞いてカナは静かに部屋を後にした、カナも解っていた。
 フロースデア家は王権から退いている、大臣が来るのは、エレナに媚びへつらうか、若い男を紹介に来るだけだ……


(あさましくて醜い獣のようね……
ほんっとうに私を何だと思っているの……)
 そう深い悲しみを込めて涙を流しテラスを後にする。

 その日の夕方、カナが大臣達の対応を全て受け丁寧に大臣達を見送る。
 カナが大臣達からエレナへの贈り物を片付け裏に運ぼうとしていた。

 ちょうどエレナが降りて来たが、カナは大臣達の要件をエレナには伝えなかった。
 その贈り物を見ただけでエレナは彼らが何をしに来たか理解した。

 エレナはその贈り物の中で銀のナイフが目についた、見事に装飾が施され美しいナイフだった。エレナは歩み寄りそのナイフを手にした……

(エレナやめろ!)
リヴァイアサンが心に叫んだ!


 エレナはナイフを鞘から抜き自らの首を切ろうとしたのだ。

 それをカナが素早くその刃を握り叫ぶ!
「お母様!何をするんですか!」
 カナの刃を握った右手から赤い血が大量に流れる!
「離しなさい!
この贈り物で私が死ねば!
大臣も思い知る!」

「離しません!絶対に‼︎」
 エレナの目が憎しみを訴えている……カナは握った刃から伝わる熱い痛みと憎しみそして怒りを感じながら、目を鋭くしエレナの気持ちに負けない事を訴える……


 騒ぎを聞きつけて、召使い達がエレナを止めに屋敷中から集まる。
「早馬でシンシル様に伝えて!
エレナ様は今はお会いになれないと‼︎」
 カナが召使いの一人にそう言い、直ぐに屋敷から早馬が送られる。

「カナ離しなさい!」
「ナイフを渡して下さい‼︎」

 エレナが強く言ったがカナはそれ以上に叫んだ!
「貴方達、何をしているのです!
お母様を押さえて下さい!
早く‼︎」
カナがそう叫び召使い達がエレナを取り押さえる……
 カナは素早くエレナの手首を左手ではたきナイフを離させる。


「屋敷中の刃物を全て隠して下さい‼︎
武器庫には見張りを数名立たせて!
早くお母様を部屋に‼︎」
 カナは気付いた……祝福を授かってからエレナがどれだけ精神的に追い詰められていたか、その苦痛が想像以上であったと初めて気付いた。

 カナの傷は深かった、もう剣が握れないかも知れない、その痛みにもカナは顔を歪めなかった。
 エレナの心はもっと痛い筈だと理解していたからである……

 リヴァイアサンが現れ、カナの傷に命の水を与え治療しようとした時、カナはその右手でリヴァイアサンを振り払った!
「リヴァイアサン!
あなたはお母様を守るのが使命な筈!
いったい何をしていたのですか‼︎」
 そう叫びつけ、直ぐにエレナの部屋に向かった。


「もういいから出て行きなさい!」
エレナの部屋からエレナの叫び声が聞こえる、エレナは取り押さえられ、何をするか解らない一人にしたら尚のことだ……

「……」

 エレナが何かを囁き魔力を高めた!
 カナが部屋に駆け込み左手の手刀で首を強く叩いてエレナを気絶させる。


 エレナの部屋が静かになるがカナが直ぐに行動に出る。

「大臣達からの贈り物は全て!
庭で燃やして下さい!
今日の物だけじゃなく以前からの物全て燃やして下さい‼︎」
 カナが叫び召使い達に指示を与えるが、カナの右手からは血が流れ続けている。

 召使い達も慌てて屋敷中にある大臣達からの贈り物を庭に集め、それが山の様になりそれに火を放つ……

 大臣達の欲望が燃やされていく、美しい絵や書物、金銀で彩られた装飾品や貴重な宝石など全てが燃やされていく。

 カナはその炎が憎くなった……

 全ての欲望が若いエレナに注がれ、エレナの心を蝕んでいた、カナは傷の手当てもせずに、座り込んで涙を流していた……


「あんなに、あんなに嬉しかったのに……
戦いが無くなって庭も芝生を植えて綺麗になったのに……なんでこんな事に……」
 カナが悲嘆にくれていた時に静かに部屋に入って来た者が居た。


「カナよ、手を見せなさい……」


 国王シンシルがカナが放った早馬からの知らせを聞いて飛んで来たのだ。
 会えないならわざわざ早馬を出す程の事ではない、そして明日のはずが使いは今と言った、その二つからシンシルはカナが早く今来て欲しいと、屋敷で異変が起きた事を察したのだ。

 シンシルはカナの手を見て優しく手を重ねると、淡くそれでいてはっきりとした水色の輝きが生じる。
 シンシルは命の魔法を使い、カナの手を元の美しい手に治療した。

 シンシルは黙って、エレナが横になってるベッドに近づきエレナの額に指を当てる……

「そうであったか……
二人とも何人か共を連れてサイスに行くがよい、しばらくエルドから離れるが良かろう……
あの地は心を癒し潤してくれる。
これっ!誰か馬車を用意し必要な荷をまとめて出発の支度をせよ!」
 シンシルはエレナの心の疲弊を知った、エレナの屋敷はエルドから近い……
 いつでも大臣達が来れる距離にある、まずは彼らからエレナを守る必要がある、シンシルは直ぐにエレナの召使い達に指示をだした。


そしてエレナが気がついた。
「シンシル様なぜ……」
シンシルは穏やかに微笑み。
「そちに休息をやろうと思ってな、しばらくサイスに行くがよい。
一年でも百年でもゆっくりして参れ」

「百年ってそれではっ!」
 エレナがそう言った時カナの服が血にまみれ、かなりの血を流したのか部屋に血だまりが出来ているのが見えた。


 エレナは飛び起き、部屋を飛び出してナイフを握った場所を見て衝撃を受ける……
 部屋の血だまりより大きな血だまりがあり、そしてカナの血が飛び散っている。
 だがエレナには記憶が僅かにしか残ってない、それがエレナを止めてくれたカナの血だと言う事をすぐに把握した。

 カナは外に目をやると、もう夜になっている……何人かの召使いが宝石を火に捨てず、隠そうとしたのを見た。
 カナは飛び出して、屋敷の庭にいるその召使いに叫ぶ!


「そんなにそれが欲しいなら直ぐに屋敷から出て行きなさい‼︎」

召使い達は驚き慌てて、火の中に投げ入れる。
「貴方達は!エレナ様を苦しめた物を欲しいと思う事を恥ずかしいと思わないのですか⁈」
 カナが怒り叫び、召使い達は必死に詫びている。


 カナが怒りを表している、争いが無くなり本来の性格だろうか、とても大人しいカナが……その様子を見てエレナは膝をついて泣き出してしまった。
 心が壊れかけている自分にやっと気付いた。そこには英雄の姿など何処にも無く、ただ悲しみにくれる一人の女性がいた。


シンシルが歩み寄り、静かに言う。
「今は休むがよい、何も考えずセレティア湖を眺めてしばらくここを離れよ」


「はい、シンシル様申し訳ありません……」
エレナは泣きながらか細く返事をした……

 既に馬車は用意され、ある程度荷物を運び込んでいる。
 その時遠くから蹄の音がするのをシンシルは気付いた。カナを呼びカナに囁く……

「大臣達が気付いた様だ急いで行きなさい」

 カナはそれを聞き直ぐにエレナを馬車に乗せ、シンシルに礼を取り出発する。
 シンシルの護衛が十名程、供として後を追った、まだ距離がある為に大臣達には気づかれる事なくセレティア湖に向けて出発する事が出来た。
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