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〜アブソルートゥス〜
2話✡︎花の女神フローディア✡︎
しおりを挟む翌日、サイスに向けて馬車は走っていた。
夜通し走らせている。
カナは出来るだけ早くサイスに着きたかった、出来るだけ早くエルドから離れたかった、エレナは馬車の中で横になり、涙を隠し泣いていた。
カナを守ると心で誓っていたのに、カナを傷つけカナに守られたからである。
今もカナが寄り添ってくれている。
その日カナは一日中エレナから離れる事は無かった、馬車の中には野営用に刃物もあるからである。
何かあった事は共として付いてきた護衛達も気づいていた、カナは状況をメモに書き、護衛の一人を手で呼ぶと馬を走らせながら護衛が馬車に近づく。
カナは小さく少し重さのある物をメモで包み護衛に投げ渡した。
「それを読んで回して下さい」
護衛は直ぐに馬を走らせながらそれを読み、今の状況を理解した。
そしてシンシルの護衛は王宮の兵でエレナの部下にもあたる……
護衛達はエレナを心配し、悟られないように気を使い始める。
「なんと言うことか……」
最後にメモを読んだ護衛が思わず声を漏らした……彼は他の護衛達に指示を出してカナに言う。
「カナ様、私に考えがありますので私は戻ります。エレナ様をお願いします。」
それを聞いたカナは頷くと、彼は引き返して行った。
幸いエレナは泣き疲れて眠っていた。
彼はエレナの率いる弓兵師団に呼びかけ、サイス周辺に検問を敷くことにした。
何も考えない大臣達がエレナの居場所を見つければ近づいて来るのが目に見えたからだ、ならば最初からそこに居ると言う事が露呈してもいい、その代わりに絶対に通さなければいいと考えたのだ。
その気になればエレナは王族である、その権威を振るえば、たかが大臣程度はその検問を通ることは出来ない、彼もエレナを守ろうと動き出した。
その頃シンシルは騒ぎを聞きつけてエレナの屋敷に来た大臣達を呼び出し、強く問い詰めていた。
王宮の大臣達はエレナに対してそう言った事を考えてはいないが、エルド宮の大臣達の多くが邪に動いていた事を知り、エルド宮の実態を徹底的に調べるように、大臣では無く王宮の兵に指示をだした。
「平和な時代が長すぎたのか……
そうでは無いと信じたい……」
シンシルは玉座に座ったまま頭を抱えそう呟いた。
国が平穏になり、権力を求め始めた者が急に増えている様に感じたからだ、騒乱の時代にでさえ、その様な事は無かった。
エルフ族は水の守り人、森の守り人とも言われる程、自然との調和を大切にして来た、王座と言う物を嫌がる王族が居るくらい無欲な種族である。
それが変わろうとしているのかとシンシルは恐れるが、シンシルは思い出した。
数万年前にも二度、エルフ族が権力闘争に明け暮れ、それが発展し同じ一族同士で血で血を洗う醜い物に発展した事があったと言う話を……
今回の出来事が同じ様な事に繋がらなければ良いがと懸念する、その詳しい詳細は解らないが記憶の棚に行けば解る、シンシルは記憶の棚に向かう事にした。
その夜に護衛として五百名従えて、王立図書館にシンシルが着き記憶の間に入る。
「誰一人とて、わしが戻るまで入ってはならぬ王命として誰も通すな」
そう言い扉を閉めて、内側から魔法で鍵をかける。
だいぶ手慣れている、何度か来ている様だ、シンシルは記憶の棚に書物が並んでいるのを確認して、その題名を調べる。
「我!記憶を求める者なり!」
そう力強く叫んだ!凄まじい轟音と共に、その題名の本が光りだし記憶の棚が消えていく。
「そうか……
わしが今求めるのは記憶と言うことか……」
そうシンシルは呟き木の扉を開け暗闇の階段をあかりもつけずに降りて行く。
知識の間についたシンシルは大きな声で言う。
「ミーシュ!ミーシェ!
解っているのだろう?
わしじゃ、シンシルが来てやったぞ」
そうすると暗闇の階段からミーシュとミーシェがオプスの姿で現れた。
「早くそなた達も自らの姿を持つ様になれれば良いな……
そなた達はその名で呼ばれなくては魂が輝かぬからの……」
「はいシンシル様、今日はどの様な要件でしょうか?」
ミーシェが聞く。
記憶の間への通路を歩きながら、シンシルが答える。
「訳があっての、過去にエルフ族同士が争った記憶を見たいのだ……」
「すると……
岐路の棚と、王家の棚……
女神の棚に三つありますね、どれになさいますか?」
ミーシュが聞いた時シンシルの足が止まる。
「三つじゃと?二つでは無いのか?」
シンシルが驚き聞き返す。
ミーシュが答える。
「はい、多分ですが地上で伝えられているのは岐路の棚と王家の棚だと思います。
女神の棚の記憶は巨人族時代の記憶で十万年前の物です。
正確に言うと……」
ミーシュが悩んでいる。
流石に全ての年代は覚えていても年数までは覚えてないらしい。
その時シンシルは思った。エレナの家名はフロースデア、花の女神を意味する、もしその争いに女神が関わって居るのなら、フロースデアがただの家名でなく、本当に花の女神が居たとしたら。
「もう良い……女神の棚の物を見せてくれ……」
シンシルがそう答えた時に丁度記憶の間に着いた、ミーシュがしゃがんでおいでおいでをすると、一枚の石板が黒い霧に包まれ、飛んでくる。
シンシルは不思議そうに聞く。
「何故霧に包まれているのだ?
しかも漆黒の霧……不吉ではないか……」
「今地上で何が起きているのですか?
この霧に包まれていると言う事は、この石板に記された者、それかその子孫に同じ悲劇が起きる兆し……
まだそうなるとは決まっていませんが……」
ミーシェが聞くと。
「王家の棚と岐路の棚の石板も呼んでくれないか⁈」
シンシルが焦りながら言う。
「呼ぶだけならいいですよ」
ミーシュがそう言いながら今度は両手でおいでおいでをすると。
恐ろしい事に二つの石板も漆黒の霧に包まれていた。
つまり、過去三回起きた一族を分けた争いは全てフロースデア家が深く関わっている事になる。
「これは一体……」
「では(花の女神)をお見せしますね」
ミーシェが言い十万年前の記憶が映し出された。
その記憶はシンシルを驚愕させた……
過去に巨人族の時代に平和な時代を愛した美しい花の女神が、セレスのサイス舞い降りた。
花の意味の名を持つフロスと言う王子とサイスで恋に落ち、二人は結ばれフロースデア家が誕生する。
欲深く無いエルフでさえ、その女神の美貌に心を奪われ、求愛を求める者がエルド宮に凄まじく増え今のエレナの様な状況に陥る……
フロスはそれに怒り王宮の兵を率いて、エルド宮と争いセレス国内にその争いが広まり、多くの者が命を落とした。
平和を愛して舞い降りた女神は、その争いを見て更に苦しんだ。
平和を愛してる女神が発端でセレスの平和が崩れたのだ……その女神はフロスの子を宿していた、その子を王宮で産み地上に残して女神は姿をくらまし、地上から去ってしまった。
フロスは争いに勝つが、女神が去ってしまった事を悲しみ嘆き悲嘆にくれる……
違う道が無かったのかと悩み続けその答えを導き出せず、その子が四千歳程になった時に女神を探すため、天に昇る様に命を絶ってしまう。
その女神はフローディアと言う、水の女神エヴァが花びらから生み出した花の女神であった……だがその当時それが起きてしまった為に悲しみの女神とエルフ達は言う様になった……
そしてそれ以降神々は、地上世界への干渉を極力避ける様になったと言う記憶であった……
シンシルは慌てた、今エレナはサイスに向かっている!
まるでフローディアに導かれる様に……そこで何かがあれば取り返しのつかない事になってしまう。
シンシルはミーシュとミーシェに礼も言わずに飛び出して行った。
シンシルは記憶の間から飛び出して、王立図書館の外まで走る。
護衛の兵も後に続くシンシルは外に出て直ぐに水の鳥をカナに向けて飛び立たせる!
もう既に朝になっていた。
(頼む間に合ってくれ!)
シンシルは心の中で叫んだ……
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