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〜アブソルートゥス〜
3話✡︎英雄と英雄✡︎
しおりを挟むその頃サイスではセレティア湖を一人で穏やかに眺める一人の騎士がいた。
とても爽やかな顔立ちで、屈強な身体つきをしていて、彼は普段着で剣一本だけを背中に背負っている。
「セレティア湖か……いつ見ても美しいな……」
騎士はそう呟き、後ろに倒れるように横になる、青空に僅かな雲がゆっくりと流れている心地良い風を感じながら雲を眺めていた。
「ご~主人さま~誰か来ますよ」
光の守護竜ルクスが騎士に言う。
「わかったよ、ルクス静かにしてな」
騎士はルクスに優しく言う。
「アルベルト様
サイス周辺にセレス弓兵師団が検問を張ったようです。
セレスに何かあった模様ですが
いかがしますか?」
護衛らしき者が報告して来ると、アルベルトは寝転がりながら言う。
「弓兵師団か英雄殿の部隊……
気にする必要はない放っておけ」
護衛らしき者はふと何かに気づいた。
「何か来ます」
そう言いアルベルトの前に出る。
エレナ達の馬車がサイスに向かってそう早くないペースで走って来た。
エレナ達は馬で三日の距離を二日でやって来た……サイスが見え馬も疲れている為に、ペースを落として来たのだ。
「そこの者何者か!
水の巫女様が通られる!
道を開けよ‼︎」
エレナ達の護衛がアルベルト達に叫ぶ。
アルベルトの護衛らしき者が叫び返す!
「無礼な!
こちらの方はサラン王国第二王子
アルベルト様であるぞ‼︎」
カナが驚いた、同盟国の王子がまさかここに居るとは思っても居なかった。
「ちょっと待て……
こっちはセレスに身分を隠してお邪魔してるんだぞ、バラしてどうする?」
アルベルトが言う。
「隠してるとはどう言う事ですか?」
カナがアルベルトに聞いた。
エレナは馬車の中で静かに聞いていた。
「つい二年前にヘブンスの称号を頂いてな、その前から光の祝福を授かっていたんだが……
王子と言う事もあって女達に追いかけ回されてな
気が休まらなかったんだ……
こいつがサイスと言う良いところがあるからって一月前から来ていたんだ」
アルベルトは済まないと言う顔して話していた。
(リヴァイアサン)
エレナがリヴァイアサンを呼ぶ。
(あぁこいつは嘘を付いてない
こいつも困っていた様だな)
エレナは疑った余りにも境遇が似ている、だがリヴァイアサンの言葉を聞いて馬車から降りた、アルベルトに礼を取り顔を見る。
彼は穏やかであり、包み込む様な優しい瞳をしていた。
「何かお悩みか?
美しい瞳に良い輝きが見られないが」
アルベルトがいきなりそんな事を言って来た為に、エレナは内心疑ったがリヴァイアサンが現れて言う。
「エレナまて
こいつは思った事をそのまま言ってるだけだ!
おいお前!
国の行事とか苦手だろ?」
リヴァイアサンが言う。
「あぁ、苦手だ……
この前バディ族と外交交渉の席でな
会食の時に鳥を頼んだら
交渉が破談したよ……」
それを聞いてエレナが笑った。バディ族は鳥人族、その席で鳥を頼むなんて有り得ない話だ。
エレナは二十年ぶりだろうか、男性相手に心から笑った。
「それってミノタウロスの前で
牛を食べたいって言ってるのと同じですよ」
エレナは微笑んで話しかける。
アルベルトも微笑みながら言う。
「話したくないなら
剣で語らないか?
エヴァスとの剣
ヘブンスとしてお受けしたい」
「えぇ、カナ私の小太刀をお願い」
カナは急いで小太刀をエレナに渡す。
エレナは小太刀を抜いた……何年も何年も抜いてなかったが、クリスタルの小太刀は美しく手入れされていた。
エレナが絶望し気力を失いつつある中で、カナはいつかこの小太刀をエレナが抜く時に恥ずかしい思いをしないように、大切に手入れしていたのである……
二人は集中している、エルフ族最高位の戦士エヴァスとヒューマン族の最高位の騎士ヘブンスがそこに居た。
最初に仕掛けたのはアルベルトだった、アルベルトは走り込みながら劔を抜き、斬りかかる、それをエレナは小太刀に魔力を込めてあえて受け止める……その劔は重く手加減を感じない。
(この人……本当に……)
エレナはその一太刀で感じ取った、邪な剣ではない、言いよる為の口実でも無い、騎士の劔をエレナに放って来た……
エレナはそれをいなして、素早く連続で突きを放つがアルベルトはその突きを全て突きで受け止める。
ヒューマンがエルフの速さに追いついている……
カナとエルフの護衛は信じられない光景を見た、エレナの速さを後から返し追いつくと言うことは、それ以上の速さと正確さが無いと出来ない。
エレナは無意味を悟り、素早く逆手に持ち替えようとした時、その僅かな一瞬でアルベルトはエレナの小太刀を持つ手首を劔の鞘で叩いた……
エレナが負けた……僅かな僅かな戦いが終わった。
「エヴァス殿最近悩まれ剣に想いが乗らない様ですね……
エヴァスとしての使命をお忘れですか?」
「アルベルト様!
母は今お疲れなのです!
ご理解下さい!」
カナが言う。
「疲れている……
その様な事では一族を守れない時がある‼︎
それくらい解りますよね?
エヴァスより高い称号が無い限り
甘えは許されない事を知って下さい」
アルベルトはエレナに厳しく言った。
「アルベルト様!それは……」
「カナやめなさい!
アルベルト様の言うことは
間違っていません……
アルベルト様、剣のお相手有難うございます……
私も今暫くこちらに滞在しますので、またお願い致します」
そう言いエレナは馬車に乗り込み、サイスに向かって行った。
エレナは不覚を取った訳ではない、アルベルトの言う通り剣に想いを乗せられ無かった……
エレナの剣はヘブンスに届かなかった。
カナは動揺していた、男性を遠ざけていたエレナが自ら申し込んでいる。
エレナはアルベルトの厳しさに新鮮さを感じた、ここ何十年も権力を求める欲望にさらされて来た為にそれはより強く感じた。
だがアルベルトはエレナに示してくれていた。
エレナの使命を、エレナは心なしかアルベルトに惹かれていた。
エレナ達はサイスのセレティアの神殿に泊まる事にした、セレティアの神殿はサイスが管理していて神官は居ない。
エレナもここに祈りを捧げに来るが、神聖さを感じる数少ない神殿である。
日が沈んだ頃に弓兵師団の一個小隊がサイスに到着した。
強行して来た様でだいぶ疲れている、馬も何頭か潰れてしまった様だが、知らせを聞いたエレナの部下達が心配になり駆け付けたのだ。
弓兵達はシンシルがエルド宮を調査し出した事をカナに報告する。
既に何件か不正が浮き上がりつつある、確かにエレナに送られた品々は一大臣が買える様な物ではない品も混じっていた。
エルド宮の大臣達が何をしていたのかはすぐに察しがつき、贈り物を全て燃やしてしまったことをカナは後悔した。
証拠を消してしまったからである。
カナはこのことをエレナには知らせなかった、今はエレナに精神的な負担をかけたくなかった。
その日の夜、エレナとカナは久しぶりに弓兵達と焚き火を囲んで、騒乱の時代を思い出しながら語り合い、部下達と良い時間を楽しんだ。
兵達に欲は無い、権力や地位に興味が一切無い、彼らは騒乱の苦しい時代を共に戦い生き抜いた戦士達である。
共に多くを失い悲しみ、生き抜いた喜びを分かち合って来た、エレナにとってかけがえのない戦友達であった。
兵達も王族でありながら、兵達と共に居ようとしてくれるエレナに信頼を寄せていた。
その兵達に囲まれ、生き生きとしてるエレナを遠くからアルベルトは見ていた。
「いい顔している
騒乱の時代に彼女と剣を交えていたら
勝てなかったかもな……」
アルベルトはそう呟いた。
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