✡︎ユニオンレグヌス✡︎

〜神歌〜

文字の大きさ
80 / 234
〜アブソルートゥス〜

3話✡︎英雄と英雄✡︎

しおりを挟む



 その頃サイスではセレティア湖を一人で穏やかに眺める一人の騎士がいた。
 とても爽やかな顔立ちで、屈強な身体つきをしていて、彼は普段着で剣一本だけを背中に背負っている。


「セレティア湖か……いつ見ても美しいな……」
 騎士はそう呟き、後ろに倒れるように横になる、青空に僅かな雲がゆっくりと流れている心地良い風を感じながら雲を眺めていた。

「ご~主人さま~誰か来ますよ」
光の守護竜ルクスが騎士に言う。
「わかったよ、ルクス静かにしてな」
騎士はルクスに優しく言う。

「アルベルト様
サイス周辺にセレス弓兵師団が検問を張ったようです。
セレスに何かあった模様ですが
いかがしますか?」
 護衛らしき者が報告して来ると、アルベルトは寝転がりながら言う。

「弓兵師団か英雄殿の部隊……
気にする必要はない放っておけ」
護衛らしき者はふと何かに気づいた。

「何か来ます」
そう言いアルベルトの前に出る。

 エレナ達の馬車がサイスに向かってそう早くないペースで走って来た。
 エレナ達は馬で三日の距離を二日でやって来た……サイスが見え馬も疲れている為に、ペースを落として来たのだ。

「そこの者何者か!
水の巫女様が通られる!
道を開けよ‼︎」
エレナ達の護衛がアルベルト達に叫ぶ。

アルベルトの護衛らしき者が叫び返す!
「無礼な!
こちらの方はサラン王国第二王子
アルベルト様であるぞ‼︎」

 カナが驚いた、同盟国の王子がまさかここに居るとは思っても居なかった。


「ちょっと待て……
こっちはセレスに身分を隠してお邪魔してるんだぞ、バラしてどうする?」
アルベルトが言う。

「隠してるとはどう言う事ですか?」
カナがアルベルトに聞いた。

 エレナは馬車の中で静かに聞いていた。

「つい二年前にヘブンスの称号を頂いてな、その前から光の祝福を授かっていたんだが……
王子と言う事もあって女達に追いかけ回されてな

気が休まらなかったんだ……

こいつがサイスと言う良いところがあるからって一月前から来ていたんだ」
アルベルトは済まないと言う顔して話していた。

(リヴァイアサン)
エレナがリヴァイアサンを呼ぶ。
(あぁこいつは嘘を付いてない
こいつも困っていた様だな)
 エレナは疑った余りにも境遇が似ている、だがリヴァイアサンの言葉を聞いて馬車から降りた、アルベルトに礼を取り顔を見る。

 彼は穏やかであり、包み込む様な優しい瞳をしていた。

「何かお悩みか?
美しい瞳に良い輝きが見られないが」
 アルベルトがいきなりそんな事を言って来た為に、エレナは内心疑ったがリヴァイアサンが現れて言う。

「エレナまて
こいつは思った事をそのまま言ってるだけだ!
おいお前!
国の行事とか苦手だろ?」
リヴァイアサンが言う。

「あぁ、苦手だ……
この前バディ族と外交交渉の席でな
会食の時に鳥を頼んだら
交渉が破談したよ……」

 それを聞いてエレナが笑った。バディ族は鳥人族、その席で鳥を頼むなんて有り得ない話だ。
 エレナは二十年ぶりだろうか、男性相手に心から笑った。

「それってミノタウロスの前で
牛を食べたいって言ってるのと同じですよ」
エレナは微笑んで話しかける。

アルベルトも微笑みながら言う。

「話したくないなら
剣で語らないか?
エヴァスとの剣
ヘブンスとしてお受けしたい」

「えぇ、カナ私の小太刀をお願い」

 カナは急いで小太刀をエレナに渡す。

 エレナは小太刀を抜いた……何年も何年も抜いてなかったが、クリスタルの小太刀は美しく手入れされていた。

 エレナが絶望し気力を失いつつある中で、カナはいつかこの小太刀をエレナが抜く時に恥ずかしい思いをしないように、大切に手入れしていたのである……

 二人は集中している、エルフ族最高位の戦士エヴァスとヒューマン族の最高位の騎士ヘブンスがそこに居た。

 最初に仕掛けたのはアルベルトだった、アルベルトは走り込みながら劔を抜き、斬りかかる、それをエレナは小太刀に魔力を込めてあえて受け止める……その劔は重く手加減を感じない。

(この人……本当に……)

 エレナはその一太刀で感じ取った、邪な剣ではない、言いよる為の口実でも無い、騎士の劔をエレナに放って来た……

 エレナはそれをいなして、素早く連続で突きを放つがアルベルトはその突きを全て突きで受け止める。
 ヒューマンがエルフの速さに追いついている……

 カナとエルフの護衛は信じられない光景を見た、エレナの速さを後から返し追いつくと言うことは、それ以上の速さと正確さが無いと出来ない。

 エレナは無意味を悟り、素早く逆手に持ち替えようとした時、その僅かな一瞬でアルベルトはエレナの小太刀を持つ手首を劔の鞘で叩いた……

 エレナが負けた……僅かな僅かな戦いが終わった。
「エヴァス殿最近悩まれ剣に想いが乗らない様ですね……
エヴァスとしての使命をお忘れですか?」


「アルベルト様!
母は今お疲れなのです!
ご理解下さい!」
カナが言う。

「疲れている……
その様な事では一族を守れない時がある‼︎

それくらい解りますよね?

エヴァスより高い称号が無い限り
甘えは許されない事を知って下さい」

アルベルトはエレナに厳しく言った。


「アルベルト様!それは……」

「カナやめなさい!
アルベルト様の言うことは
間違っていません……

アルベルト様、剣のお相手有難うございます……
私も今暫くこちらに滞在しますので、またお願い致します」
 そう言いエレナは馬車に乗り込み、サイスに向かって行った。

 エレナは不覚を取った訳ではない、アルベルトの言う通り剣に想いを乗せられ無かった……

 エレナの剣はヘブンスに届かなかった。

 カナは動揺していた、男性を遠ざけていたエレナが自ら申し込んでいる。
 エレナはアルベルトの厳しさに新鮮さを感じた、ここ何十年も権力を求める欲望にさらされて来た為にそれはより強く感じた。

 だがアルベルトはエレナに示してくれていた。
 エレナの使命を、エレナは心なしかアルベルトに惹かれていた。


 エレナ達はサイスのセレティアの神殿に泊まる事にした、セレティアの神殿はサイスが管理していて神官は居ない。

 エレナもここに祈りを捧げに来るが、神聖さを感じる数少ない神殿である。

 日が沈んだ頃に弓兵師団の一個小隊がサイスに到着した。
 強行して来た様でだいぶ疲れている、馬も何頭か潰れてしまった様だが、知らせを聞いたエレナの部下達が心配になり駆け付けたのだ。

 弓兵達はシンシルがエルド宮を調査し出した事をカナに報告する。

 既に何件か不正が浮き上がりつつある、確かにエレナに送られた品々は一大臣が買える様な物ではない品も混じっていた。
 エルド宮の大臣達が何をしていたのかはすぐに察しがつき、贈り物を全て燃やしてしまったことをカナは後悔した。

 証拠を消してしまったからである。

 カナはこのことをエレナには知らせなかった、今はエレナに精神的な負担をかけたくなかった。


 その日の夜、エレナとカナは久しぶりに弓兵達と焚き火を囲んで、騒乱の時代を思い出しながら語り合い、部下達と良い時間を楽しんだ。
 兵達に欲は無い、権力や地位に興味が一切無い、彼らは騒乱の苦しい時代を共に戦い生き抜いた戦士達である。

 共に多くを失い悲しみ、生き抜いた喜びを分かち合って来た、エレナにとってかけがえのない戦友達であった。

 兵達も王族でありながら、兵達と共に居ようとしてくれるエレナに信頼を寄せていた。


 その兵達に囲まれ、生き生きとしてるエレナを遠くからアルベルトは見ていた。
「いい顔している
騒乱の時代に彼女と剣を交えていたら
勝てなかったかもな……」
アルベルトはそう呟いた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

収奪の探索者(エクスプローラー)~魔物から奪ったスキルは優秀でした~

エルリア
ファンタジー
HOTランキング1位ありがとうございます! 2000年代初頭。 突如として出現したダンジョンと魔物によって人類は未曾有の危機へと陥った。 しかし、新たに獲得したスキルによって人類はその危機を乗り越え、なんならダンジョンや魔物を新たな素材、エネルギー資源として使うようになる。 人類とダンジョンが共存して数十年。 元ブラック企業勤務の主人公が一発逆転を賭け夢のタワマン生活を目指して挑んだ探索者研修。 なんとか手に入れたものの最初は外れスキルだと思われていた収奪スキルが実はものすごく優秀だと気付いたその瞬間から、彼の華々しくも生々しい日常が始まった。 これは魔物のスキルを駆使して夢と欲望を満たしつつ、そのついでに前人未到のダンジョンを攻略するある男の物語である。

追放令嬢と【神の農地】スキル持ちの俺、辺境の痩せ地を世界一の穀倉地帯に変えたら、いつの間にか建国してました。

黒崎隼人
ファンタジー
日本の農学研究者だった俺は、過労死の末、剣と魔法の異世界へ転生した。貧しい農家の三男アキトとして目覚めた俺には、前世の知識と、触れた土地を瞬時に世界一肥沃にするチートスキル【神の農地】が与えられていた! 「この力があれば、家族を、この村を救える!」 俺が奇跡の作物を育て始めた矢先、村に一人の少女がやってくる。彼女は王太子に婚約破棄され、「悪役令嬢」の汚名を着せられて追放された公爵令嬢セレスティーナ。全てを失い、絶望の淵に立つ彼女だったが、その瞳にはまだ気高い光が宿っていた。 「俺が、この土地を生まれ変わらせてみせます。あなたと共に」 孤独な元・悪役令嬢と、最強スキルを持つ転生農民。 二人の出会いが、辺境の痩せた土地を黄金の穀倉地帯へと変え、やがて一つの国を産み落とす奇跡の物語。 優しくて壮大な、逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...