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〜第四章 変わりゆく時代〜
77話✡︎英雄の号令✡︎
しおりを挟む「フェルミンさんがお姫様って信じられないですね。
でも……お店にいる時はとても楽しそうです。」
アヤがそう言う。
「きっとアヤさんなら解ると思いますよ
アヤさんもヴァイオリンを弾いている時はとても生き生きしてるのと同じです。
フェルミンも自分の生き方を見つける事が出来たからね」
エレナが話してくれた。
アヤはそう聞いて納得した、誰しも得手不得手がある、それは全てにおいて言えることで、アヤが剣を振るのが苦手過ぎて出来ないのと同じで、フェルミンもお姫様としての暮らしに向かないのである。
きっと全ての世界で全てのことが出来る者など一人も居ない。
エレナは万能に見えるが料理は極端な程出来ない、普通の家庭ならとても苦労するタイプだ……
だからこそエレナは、王族でありながら全ての人に出来る限り対等に接しようとする。
それはエレナ自身にも出来ないことがある、上下問わず誰かと支え合って生かされていると理解しているからだ。
ユリナもそれを理解し始めた、自分に出来ること出来ないことを頭の中で整理し始めていた、そして出来るようになれそうなことを考えていた。
恐らく神もそうなのかも知れない、破壊神クロノスと創造神アインが惹かれあったのは、互いに苦手な物を司るためなのかも知れない……
そう考えが発展した時にユリナは何かに気付きそうで、もどかしい気持ちになった。
だが不思議とそれをその場で聞くことでは無いと思い疑問を胸にしまった。
そしてふいにエレナが言う。
「ユリナ、ウィンダムを呼んできてくれる?」
ユリナは頷いて、ウィンダムを呼びにオプスとトールの天幕に行く。
天幕の入り口は空いていて、二人はゆっくり星を眺め星座を探していた、どうやら良い夜を過ごしている様だ。
「ウィンダム?今はトールか……
お母さんが呼んでるよ。良かったらオプスさんも来ませんか?」
「うん?このままでいいか?」
「その方がいいかもね、クリタス平原のことかも知れないし」
トールは何の話か解らず、顔をしかめてオプスを連れてエレナ達の焚き火にやって来た。
「エレナ、クリタス平原がどうしたんだ?
まだ記憶の棚に行く訳では無いだろ?」
そう聞いてくるトールに、微笑みながらエレナは聞く。
「トール、地下都市トールのゴブリン達が独立を果たしらた、なんて国を名乗ると思う?」
「クリタス王国を名乗るんじゃないのか?」
当たり前の様にトールが答えた時……
「クリタス平原をクリタス王国に戻したいと思わない?」
エレナは声を変え真剣に聞いた。
トールはそれを聞き、一瞬で戦士の目つきに変わり聞き返す。
「それが出来るのか?」
声に重さがこもっている……
「出来るか解らない、出来るとは言えない、
でも出来ないとも言えない……」
エレナはそう話す。カナは聞いたことがあった過去に一度エレナが言ったことがあった……
エレナが英雄と呼ばれるきっかけになった戦いでかけた号令の言い出しであった……
エレナは続け、カナが心で思い出しながら叫ぶ!
「私達がしようとしている事は普通なら出来ない」
(我らが行うは!奇跡そのものだ!)
「皆んなが手を貸してくれても」
(全ての兵と!民が!力を合わせても!)
「出来ないかも知れない」
(勝てないかも知れない……)
「だからと言って何もしなければ」
(だが!何もしなければ!)
「何も出来ない」
(滅びるだけだ!)
「もう一度言うけど」
(私はもう一度言おう!)
「出来るか解らない、出来るとは言えない、
でも出来ないとも言えない」
(出来るか解らない!出来るとは言えないが!出来なくはない‼︎)
「解るかな?」
「解るか!戦わなくては勝てない!
戦わなければ滅びる!
勝たなければ!我ら一族が滅びる!
皆よ!奇跡を摑み取れ‼︎」
「オォォー」
カナは勢い余って最後は声に出していた、そして兵士達のその時上がった声も、可愛く叫んでいた。
その場にいた皆んながカナを注目していて、カナはかなり恥ずかしくなった様で顔を真っ赤にした。
「カナ覚えてたんだ、あの時のこと……」
エレナが微笑みながら言う。
「はい、お母様が英雄になられた戦いの号令ですよね」
「うん、ベルリス平原をクリタスに返す、誰も血を流さずに……
これもあの時と同じくらい大変かな、でもね……
大変だからと言ってやらなければ出来ない……」
エレナがそこまで言う。
「奇跡を信じるのではなく……目の前の真実を見つめよ、
奇跡は求めるものではなく、信じるものでもない
自ら生み出すものだから……
って事?お母さん」
ユリナが巨人族の教えを聞いてきた。
「そう……私達から本当に動かないと何も出来ない、まずはやって見ないとね。
アグドに来て痛い目見たけど、来て良かったし……
それでトールに頼みたい事があるんだけど、それとなくトルミア様に地下都市トールの財政状況を私が知りたがってるって、伝えて来てくれる?」
エレナが話を振る。
「金か?なぜそんな物を……」
「相手はドワーフよ……お金の話が絡むのは当然だと思ってないと、交渉にならないからね」
エレナは自然に振る舞いながらトールに言った。
「解った直接話せる様に明日頼んでみる。」
そうトールは言い、オプスと戻ろうとするがオプスは少しエレナと話したい様で、トールは先に天幕に戻って行った。
「エレナさん、その話は奇跡を掴みます……
ですがエレナさんは葛藤するでしょう……
何方を選んでもその話は、良い方に進みます。
ですが先に伸ばせば伸ばす程、エレナさんの選べる道は無くなって行きます。
決して命に関わる話ではありません、ですが覚えておいて下さいね。」
そう不思議なことをオプスは言い、微笑みながらトールの待つ天幕へ向かっていった。
そして夜が更けエレナ達も天幕に戻り、休む事にした。
エレナはオプスの言葉を闇の女神からの予言として受け取り、深く考えながら何の事かも推察していたが答えを見つけられず眠りにつき夢を見ていた。
「出来るか解らない!
出来るとは言えないが!
出来なくはない‼
我らが行うは!奇跡そのものだ!
全ての兵と!民が‼︎力を合わせても!
勝てないかも知れない……
だがっ!何もしなければ‼︎
滅びるだけだ‼︎‼︎
私はもう一度言おう!
出来るか解らない!
出来るとは言えないが!
出来なくはない‼
解るか!戦わなくては勝てない‼︎
戦わなければ滅びる!
勝たなければっ!
我ら一族が滅びる‼︎
皆よ!
奇跡を摑み取れ‼︎‼︎」
あの戦いの前、ノウムの月のしたでエレナが号令をかけている夢であった……
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