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〜第四章 変わりゆく時代〜
86話✡︎百四十日✡︎
しおりを挟むエレナはその後十日程、王宮にもエルド宮にも数百年ぶりに足を運び続ける。
アグドに技術者を送る話しを進めている。
アグドを豊かな国に変えようとするエレナの姿勢を見て、エルドの大臣達は賛否両論ではあったがしだいに、エレナの熱心さに引っ張られて行く。
一方アグドの方では、セレス国境に配備されていた大規模な国境警備部隊は、シェラドがバータリスでの戦いで招集した以降、増員される事なく、逆に一拠点につき二個中隊まで規模が縮小されて行く。
そして場所によっては解体される事が決まる拠点も出始めていた。セレス国境に注ぐ予算が極端に縮小された為である。
ユリナも今後の食料輸送の手筈を整えている、余りにも大量の食料の為に近衛騎兵師団が自ら手を貸してくれると申し出てくれ、ユリナは彼らの申し出を受け入れ、支援は円滑に進み始める。
その頃エレナは悩んでいた……
パルセスはアグドを突っ切って行く方が近いが、途中ベルダ砦からバータリスを経由したとして馬でバータリスまで三十四日……合間合間で休息を取るとして、四十日はかかる。
その先のパルセスはバータリスからクリタス平原まで七日……だがクリタス平原には補給出来る所がない為に、地下都市トールに立ち寄りクリタス平原を突っ切る支度が必要だ。
クリタス平原を突っ切っるのに、十日は要する……
そこまで考えただけで、バータリスから地下都市トールまで四日、支度に二日として、
エレナの屋敷からクリタス平原を突っ切るのに五十六日もかかる事が予想される……
パルセス領内の移動も含めれば、行って帰って来るだけで、百四十日……は軽くかかりそうだ……それを悩みながらエレナは屋敷に帰って来る。
それだけの日数を要すれば、アグドの開発にも支障が出る。何かいい知恵が無いかを、玄関ホールの脇にあるソファーに座りながら考えて居る。
「エレナさん何か困ってるんですか?」
フィリアが声をかけて来た。
「うーんちょっとね、パルセスに行くのに普通に行ったら行き帰り百四十日もかかるから、早く行ける方法無いかな?って」
「‼︎そんなに掛かるんですか⁈」
フィリアが驚く。
「そんなにって普通だけど、そうかフィリアちゃん地上に出て遠くまで行ってないから解らないかな」
エレナは優しい笑顔で言う。
「はい、私達は記憶の棚にいた時一時間程でクリタスの棚まで行けましたので、全く知りませんでした……」
フィリアがそう言った時……エレナの目つきが変わった。
エレナはシリアスな顔で静かに言う。
「フィリアちゃん……良く聞こえなかったの、もう一度お願い出来る?」
フィリアはエレナのその口調で、一瞬で怯えた……過去に記憶の棚でアルベルトの首に刃を突きつけ、迫った時と全く同じだったからだ……
フィリアは怯えながら言う。
「き、き、記憶の棚からな、ならクリタスの棚まで一時間でいけるな~って、は、話しですか?
エ、エレナ様」
既に失禁してしまいそうな程、怯えながら話している。
「怖がらなくていいのよ?
フィリアちゃんは何も悪く無いからね、詳しく教えてくれないかな?」
怖がらないでと言う事に無理がある、既に目が座っている。
「ただいま~……」
そこにユリナが帰って来た。
「お母さん何してるの?」
ユリナはフィリアに迫るエレナを見て頭を抱えて言う。
フィリアはすかさずユリナに飛びついた、凄まじく怖かったのか、汗をぐっしょりかいている……
「フィリアちゃんがね記憶の棚からなら、クリタスの棚まで、一時間で行けるって言うから聞いてたのよ」
エレナがそう言うとユリナは、え?と言う顔をしてフィリアの頭を撫でながら聞いた。
「どう言う事?それなら私達が出会った時に何で言わなかったの?」
「あの時は、街道の封印を解く必要は無いと思ったのです。
闇のレジェンド・トールも居なくて、暗黒も無いので無理に街道を使う事は無いと思ったのです。」
フィリアは頑張って話している。
「街道ってなんなの?」
エレナが優しく聞く。
フィリアはあわわ状態で怖がっている。
「フィリア、落ち着いて」
ピリアが来た。
フィリアはピリアに抱きついた。
「街道は闇の街道です。
巨人族の時代に私達ドッペルは記憶の棚を行き来するのに使っていました。
時折、人々が厄災を回避するのに使った事もありますが、二度ほどしか使われなくてクリタス時代のトールの時代には、巨人族ですら忘れてしまい地上の記憶から消え去った街道です。」
ピリアが説明してくれた、だがその事実は衝撃だったその街道さえ知っていれば、何かあった時に兵の招集や人々の避難に活用すれば、国土こそ甚大な被害を受けたとしても、十万年前にクリタス王国の滅亡は免れた筈だった。
そしてクリタス王国の国民も救われたかも知れない……
まさに忘れてはならないものを、世界が忘れていたという事だ……
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