130 / 234
〜第六章 ファーブラ・巨人族〜
119話✡︎✡︎下手な童話✡︎✡︎
しおりを挟むフィリアが死んだ……その知らせは直ぐにクリタスにいるフェルミンに届いた。
闇の街道は魔族の結界に守られ、街道を使いクリタスに知らされた。
フェルミンは泣き崩れ……数日間誰にも合わなかった。
その知らせは更にパルセスに届き、直ぐにパルセス女王フェルミンの元に三千は超える女王護衛部隊がクリタス王国に送られた……
そしてその動向は世界に不安を与えた。
セレスではフィリアの遺体をエレナが魔力を持ちいて保存していた。
フィリアの葬儀、フェルミンを待っていたのだ。
フィリアの遺体は美しく整えられ、エレナの魔力でまるで死を思わせない程、眠る様に横たわっている。
その周りは溢れる程の花で飾られ、まるで眠れるお姫様の様であった。
「フェルミン……大丈夫かな……」
エレナはフェルミンを心配しながら待っていた……
戦場で数多くの死を目の当たりにして来たエレナは死と言うものに慣れていた。
エレナは精一杯明るく送り出そうと、心の支度も整えていたが、今度はフェルミンが心配になっていた。
そしてふと気づいたユリナ達に今日は会っていない事に。
コンコン!
クリタス王国のフェルミンがこもっている、トルミアの屋敷の一室にノックが鳴り響く。
「フェルミン、入るよ!」
ユリナだ、トルミア女王が鍵を貸してくれて勝手に入って行った。
フェルミンは椅子に座り外を眺めていた、反応は無い自ら命を絶ってる訳でも無い……ただボーっとしていた。
「フェルミン……」
ユリナは呟きそっと歩み寄る……目の前にさっと手を振るが反応がない、フェルミンの悲しみは凄まじく深い……立ち直れていないのだった。
ユリナはベッドに座り静かに話し出した。
「下手な童話だけど聞いてくれる?
むかーしむかし……
記憶の棚に二人の名も無い少女が居ました。
二人は不老不死でずっと若い少女でした。
ですが悲しい事に魔族である二人は地上の暖かさ知らずに過ごしていました。
十万年経ったある日、赤い鎧を着た悪者が記憶の棚に現れて、百五十年も閉じ込められてしまいます。
そこに二人のエルフの少女が現れて光の騎士様を呼んでやっつけてもらいました。
名もない魔族の少女二人は、綺麗なお姉ちゃんに、愛と言う意味のある名前を貰いました」
ユリナは静かに静かに不器用でも精一杯思い出しながら話した。
「二人の姉妹のお姉ちゃんは、綺麗なお姉ちゃんと冒険に行きました。
妹はおうちでお留守番です、でも二人とも違う場所で地上の温もりを、いっぱいいっぱい感じていました。
二人とも地上が大好きになりました。
お姉ちゃんの方は冒険から帰って来たら、とっても立派な魔族になっていました。
妹の方はお留守番をしていたので、変わらずでした。
妹は思いました。
私も強くなりたい、強くなれなくても、守れる様になりたい……」
ユリナは目に涙を溜め始めていた、そしてフェルミンも目に涙を溜めている……
「ある日、ドワーフのお姫様と出会いました。そのお姫様は自分のしたい事を一生懸命やっていました。
妹はお姫様に憧れました。
お姫様になりたいんじゃなくて、やりたい事をして、自由にしているその子に憧れました。
妹は思い出しました。
自分に名前をくれた綺麗なお姉さんが冒険に行く時、その憧れたお姫様が心配していっぱい泣いていたのを……
それでも強がって、何も言わずに馬車で帰って行った事を……
守りたい気持ちと、心配な気持ちを学びました。
そして暫くしてそのお姫様が女王様になる事を知りました。
妹は思いました、憧れの人を守りたいって強く思いました……」
ユリナは言葉に詰まってしまったが、それを押し殺し、心の中で弱い自分に刃を突きつけた……
フィリアの最後をどうしても伝えたかったのだ。
「ある時、地上が平和になったのに何かに女王様が狙われました。
妹はがんばりました、自分を身代わりにして……
きっと思ったでしょう。
お姉ちゃんの様に戦えれば……
名前をくれた綺麗なお姉さんの様に戦えれば……
でも妹は闘いませんでした。
身代わりになれば絶対に守れる。
そう思ったのです。
憧れの女王様を守りたい……
彼女は決めていました。
十万年、悲しみに目を背けて何もしなかった自分が今出来ることを精一杯すると……
暗い道を走り抜けて助けを呼ぶと……
彼女は逃げきれませんでした。
それでも、彼女はやり遂げました……
十万年何も守れなかった彼女は……
か、か、彼女は……」
ユリナに悲しみがのしかかる、それはとてつも無く重くて、ズッシリと口を閉ざしてしまう程だったが……
「彼女は……憧れの……
女王様を守り切りました。
そしてエルフの国でその女王様を今も待っています。
し、しずか……に……」
ユリナの方が泣き崩れてしまった。
扉の向こうでは、カナとフェルト、トルミア、そしてトールが静かに話を聞いて悲しんでいた……
(フィリア……)
フェルミンは再び思い出した。
フィリアとの短い日々を。
記憶の棚で巨人族の科学の石板を二人で漁る様に見た日々……
そして二人で新しいクアパを考えた日々……
一緒に街でお買い物して、服をプレゼントしあった日々。
女王として仕事をしている時に手伝ってくれた日々……
細かく思い出せば、沢山の思い出があった事に気付く、フィリアはいつもフェルミンのそばに居てくれたのだ。
そして窓からユリナを照らす日差しが遮られた……
「ユリナさん、セレスに行きましょう」
フェルミンが立ち上がり、ユリナの涙を拭きながら優しく声をかけてくれた。
フェルミンはフィリアがどんな思いで、フィリアのそばに来たのか知らなかったのだ……それを初めて聞いてフェルミンは、フィリアに会いに行く事にした。
ユリナはフェルミンの顔を見て、無理にでも笑顔を作り、フェルミンもそれに答えて笑顔を見せてくれた。
フェルミンらしい愛らしい笑顔だが、その瞳は悲しみで溢れていた。
0
あなたにおすすめの小説
【収納】スキルでダンジョン無双 ~地味スキルと馬鹿にされた窓際サラリーマン、実はアイテム無限収納&即時出し入れ可能で最強探索者になる~
夏見ナイ
ファンタジー
佐藤健太、32歳。会社ではリストラ寸前の窓際サラリーマン。彼は人生逆転を賭け『探索者』になるも、与えられたのは戦闘に役立たない地味スキル【無限収納】だった。
「倉庫番がお似合いだ」と馬鹿にされ、初ダンジョンでは荷物持ちとして追放される始末。
だが彼は気づいてしまう。このスキルが、思考一つでアイテムや武器を無限に取り出し、敵の魔法すら『収納』できる規格外のチート能力であることに!
サラリーマン時代の知恵と誰も思いつかない応用力で、地味スキルは最強スキルへと変貌する。訳ありの美少女剣士や仲間と共に、不遇だった男の痛快な成り上がり無双が今、始まる!
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
2025/12/7
一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる