✡︎ユニオンレグヌス✡︎

〜神歌〜

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〜第七章 ファーブラ・神々の参戦〜

135話✡︎✡︎気づいた愛✡︎✡︎

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 それは鋭い音を立てて大地に突き刺さる……

闇の神剣暗黒であった。

トールだけに許された暗黒。


「ばか、形見のつもり……
誰がこれから私に剣を教えてくれるの?
これは貴方の剣よ……」

 涙が溢れ出してくる……そのユリナを嘲笑うかの様に戦場では戦いが続いている。


「ユリナさん……」
 天界に居たカイナもユリナがトールを愛していた事に初めて気づいた、それと同時に今までカイナが崇拝していた巨人族が、トールの命を奪った事が許せなくなった、そして自らの罪も……。


 膝をつき涙を流しているユリナに、一匹のシャッフェンが襲い掛かって来た。

「ユリナ!」

 カナが叫ぶが声が届かない、カナも舞える状況では無く剣を振っていたのだ。
 エレナがそれに気づき素早く矢を放ったが、動きのいいシャッフェンはそれを躱した。

 ユリナには全ての声が音が聞こえていなかった、愛してたという事に気づき、そして気づいた時には失っていたのだ……

 アグドでトールとオプスが結ばれ、数日戻らなかった時、異様な苛立ちを覚えた。
 始めて闇の街道を通り、クリタスの棚から出た時、トールとオプスの仲睦まじいやり取りを聞いた時も苛立ちを覚えた。

 その訳が解ったが、ユリナはその全てに今まで気づかなかった。

 エレナが走り出しユリナを守ろうとするが、離れすぎている。


「ユリナー!」


 そして獣がユリナを鋭い爪で切り裂こうとした時……
 それはユリナの前、暗黒の向こうに現れシャッフェンを長い何かで貫いた。


 黒い羽が舞い黒い翼を持った少女……


 骨の左手を持つ者であった。
 その光景を見た全ての者が一瞬、時が止まった気がした。

「なにをしている!暗黒を取れ‼︎
私の分まで最後まで戦え‼︎」

「カイナ……」
ユリナが呟く……

「トールの言葉を覚えてないのか?
思い出せ‼︎」
 カイナが叫び、ユリナを守ろうとして周りのシャッフェンを槍で貫き、なぎ払い戦い始める。

ユリナは思い出していた。

(剣ってのはな体の一部になるんだ)
ユリナは暗黒を涙を流し見つめている。

(今のは俺の拳だ)
そして涙を拭おうとする。

(そう思わねぇと……)
ユリナが瞳を閉じて涙を拭った時、その僅かな間にトールのその時の顔が浮かんだ……
(死をかけても何も出来ねぇ……)

 トールはその言葉通り再び守ったのだ……

 希望と言う何よりも大切なものを守ったのだ、ユリナは静かに立ち上がり、暗黒に手を伸ばした……
 暗黒はかつての力を取り戻している。メドゥーサの蛇が暗黒を守っている……

「ユリナー!ダメ‼︎」
 エレナが叫んだが、カイナが槍を振りシャッフェンと戦いながら叫ぶ!

「それはユリナの剣だ!
トールの命を無駄にするな‼︎‼︎」

 ユリナはその言葉に背中を押された……
 カイナは自分の死よりもトールの死を大切にして欲しいと心から魂そのものから叫んでいた。


 愛した人の剣……
今でも近くに感じる人……
その人の体の一部であった暗黒……


ユリナは何も恐れずに暗黒を握り締めた!


 メドゥーサの蛇の目が赤い光を放ちユリナに噛み付いた。
 メドゥーサの蛇が石に変えようと魔力をユリナに注ぐ、毒の牙がユリナの腕の中で動き凄まじい毒の様な魔力が注がれて行く。


「石に変えればいい……

あなたは私が愛したトールの手……

私は貴方を握り続ける……

もう……

永遠に離さない……」


 ユリナはトールの体の一部だった暗黒を、剣としてでなくトール自身として手にした……

 力では無く……
得られるはずの無い……

帰って来ない……
実らない愛を全て注いで……


石と変わり始めたその腕で暗黒を引き抜く。

 そしてメドゥーサの蛇は感じた。
ユリナの心にトールの温もりと慈しむ力がある事を、トールが生涯放つことが出来なかった力を……


「私の命は……
永遠にあなたのものよっ!
私はあなたしか愛せないんだからっ‼︎‼︎

二度とあなたを……
何があってもっ!離さないっ‼︎‼︎」


 ユリナの血と心から溢れる愛を感じ取った。


 そして魔力を注ぐのでは無く今度は吸い始める。
 ひじまで石に変わりかけ、いつ砕けてもおかしく無かったユリナの腕は次第に元の美しい腕に戻り始めた。

 
「ユリナ……大切にしなよ……」
カイナはそう言い天界に帰ろうとする。
「カイナ……」
ユリナが涙を流しながら呼ぶ。

「なんだよ……私が居ないと立てないの?」
カイナが歩み寄って来てくれた。
 カイナはオプスの力で天使としての体を得ていた、カイナはその右手を差し出し、ユリナを立たせてくれた。

 ユリナはカイナに抱きつく……

「ごめんね、ごめんね……
気付いてあげれなかった……
寂しかったよね?
本当にごめんね……」
ユリナは泣きながらカイナに詫びる……

「やめなよ……
今はそんな時じゃない……
その話はこの戦いが終わってからね!」
カイナはそう言いユリナから離れる。

「私だって……」
 カイナが何かを言いかけたが、それを振り払って言う。

「まだやる事あるから!
またね‼︎」
カイナはそう言って翼をはためかせ、飛んで行ってしまった。

 ユリナはカイナが助けてくれたこと、そしてカイナが闇の女神オプスに良くしてもらってる事に安心した。

 そしてトールの剣、暗黒がユリナの寂しさを拭いとってくれているのを感じていた……
 まるでトールが涙を拭いてくれている様であった……


「カイナ……ありがとう」

 エレナが呟きながらユリナに歩みよる、この場での戦いは既に見えていた。
 冥界の軍団が、巨人族の放った獣を辺境に追いやり、僅かに残る獣を掃討している状況であった。

 その時、遠くのパルセスの方から二人の早馬が来るのが見えた。
 その使いは二手に分かれ、フェルミンの居る方とエレナの旗の方に向かって行った。

 フェルミンは不安を覚えたが、そしてそれは的中した。
「女王様!パルセス北部‼︎
ゼノン山脈より敵!
数はおびただしく不明……
パルセス本国の力では保ちません!
直ぐに本国へお戻り下さい‼︎‼︎」


「そんな……ゼノン山脈から……」
 フェルミンは驚いた……パルセス北部、ゼノン山脈はどの種族も僅か少数でしか行き来しない、それだけ厳しく切り立った山々が続くのだ。
 パルセスは北からの侵攻を受けた事が無かった、その為に守りは手薄なのだ……

 そしてその知らせはエレナにも届いた。

 エレナに伝えた兵は、援軍を懇願した藁にもすがる様な姿でエレナに訴えた。
 だが今連合軍を二手に分ける訳にはいかなかった……今の戦いで被害が大きい事が明白であった、とは言え親友とも言えるフェルミンの国が窮地に立たされている。

 パルセス軍は砲撃を中心として戦い、ほぼ無傷である、だがドワーフは近接戦闘には向かない……エレナのセレス本隊、アグド本隊もまだ到着していない、エレナがそう苦悩した時……

「私が行こう」
アルベルトがそう言い現れた。
「あなた……」
エレナが心配そうに言う。


「弱きを守れ……助けを求める者に手を差し伸べるのは騎士の役目……
サラン王国軍がパルセス経由でこちらに向かっている。
ガーラが居ない今、王族として私が率いよう」
アルベルトが凛々しく堂々と言う。


「エレナさん」
 フェルミンが急いでエレナの元にやって来た。

「フェルミン、サラン王国軍が来るまで保ちますか?」
エレナが聞く。

「えぇ、フィリアのおかげで時間が稼げます。」
フェルミンが静かに言った。
「フィリアが?」
エレナが不思議に思い聞く。

「エレナさんの水の鳥で、直ぐに父上、ファルドクスに知らせて下さい!
フェルムナイトを全て使う様にと‼︎」
フェルミンが強く願い出る。

「フェルムナイト?何故?」
カナが不思議そうに聞いた。

「フィリアが……
二年前記憶の間で科学と創造の棚から石板を……私に見せてくれたのです。

その石板を元にアイアンゴーレムを元に作ったのです。
まだ大型の物は作れていませんが……」
フェルミンが思い出と一緒に悲しそうに言う。

 フィリアはフェルミンが物作りが大好きなことも理解して、国の為にと巨人族の封印されていない、科学と創造の棚から色んな石板を二人で見ていた。

 フィリアとフェルミンの僅か二年間と言う短い間であったが、二人の絆はとても深く結びつき、一切無駄な時は無かった……
 エレナは静かに頷き、直ぐに水の鳥を飛ばした。

「エレナ様、私は急いで半数のパルセス軍を率いてパルセスに戻る事をお許し下さい」
フェルミンは礼を取り許しを願った。

それにエレナは応えた。

「パルセス軍、全軍を用いてサラン王国軍と共に迎え撃ちなさい!
必ず守るのです。いいですね……」
 エレナは認めた……フェルミンだけでは心配だがアルベルトが加わることが背中を押した……

 パルセス軍は直ぐに反転し、パルセス防衛戦の為に戦場を離れて行った。



「あなた……フェルミンをお願いね……」
エレナが別れを惜しむ気持ちを隠し、フェルミンのことを頼む……

「あぁ、俺が守れなかった事があるか?」
アルベルトがそれを知りながらも、応える。

「ううん……でも敵が……」
エレナは最後の別れだと感じていた……

「そうだな……
まぁルーメンにでも祈ってくれサラン王国の守護神、姿を表すといいな」
 アルベルトはそう言い微笑んで、姿を消し北上するサラン王国軍に向かった。

 エレナはこれが再び最後の別れになってしまう気がしていた、そして永遠の別れになると感じていた……

 それでもアルベルトが騎士として剣を振りに行く、それを見送る事も、また愛だと……
気づいていた。
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