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〜第七章 ファーブラ・神々の参戦〜
136話話✡︎✡︎トータリア✡︎✡︎
しおりを挟むエレナはユリナの様子を見ていたいが、優しい声をかけるそんな時間は無かった。
逃げずにいたシャッフェンは掃討され、フェルムナイトは文字通り鉄屑の様に粉砕され、恐怖の女神メトゥスの軍団はその力を見せつけていた……
直ぐに被害を調べさせ、空にも監視の目を向けさせ、陣を構築していく。
次々と来る報告で、この場にいる部隊全体の被害を把握して行く、エレナは天幕の中で冷静にその被害に見合った、配置に陣を組み直していく。
「お母様……これ程の被害が、クリタス軍は三分の一も死者が出ています。
負傷者も含めれば、半数以下しか戦う力は残っていないかと……」
カナが心配そうにエレナに話しかける。
トールが率いたクリタス軍はかつて世界を守ったその意地を見せ、果敢に巨人族の放った獣とフェルムナイトに立ち向かって行った……
結果フェルミン率いるパルセス軍を守り切り、エレナ達が到着するまで持ち堪える事が出来た。
だがその被害は甚大であり、英雄トールの死が彼らの士気を著しく低下させていた。
「トール様……」
その知らせはクリタス王国の女王トルミアに、直ぐに届きトルミアは呟きながらクリタス平原の兵達を見つめていた。
ユリナは暗黒を背負い、ユリナにはまだ重い暗黒がキャシャな背中からトールの存在の大きさをひしひしと感じていた。
そしてその晩、連合軍は最大限の警戒を敷き野営する。
ユリナは天幕には居なかった。
ユリナ達の野営地は不思議と、ユリナとトールが剣を交えたあの始まりの地の近くであった……ユリナはそこに居たのだ。
あの時と同じ小さな木が寂しげに立っている。星を見上げながら一人で立ったまま、トールの、ウィンダムの一つ一つを思い出していた。
そこに人の気配がしてユリナがその方を見るとトルミア女王がいて星を見上げていた。
「トルミア様?何故ここに……」
ユリナが不思議そうに言った。
「私はトルミアではありません……
無き兄を想いここに来たのですが……
先客がいましたね。」
その者は言う。
「?……えっ……そんな……」
ユリナが驚いた時にその者が言う。
「私はトータリア……兄がいつもユリナさん達には迷惑をかけていましたね。
妹としてお詫びします。」
そうトータリアは微笑みながら頭を下げると、ユリナは何のことか直ぐに解った。
そしてトルミア女王の姿にトールが驚いたのも身をもって理解していた。
入れ替わっても誰も気づかない程に似ていたのだ。
「本当に……最後まで馬鹿なんだから」
ユリナはそれとは別の意味で答えた。
「そうですね。本当にあの人は……」
トータリアもユリナの気持ちを深く理解し応える……二人の間に不思議な空気が流れる。
少し離れた場所から、ふわっとした様な光が見えている、カナが争乱の時代と同じ様に鎮魂の舞を舞っている。
遠くからでもその姿が二人には見えていた。
「ユリナさん……大丈夫ですか?」
トータリアが聞いてきてくれる。
「えぇ……」
ユリナは初めて愛を知った……だがそれは、報われる事なく、皮肉にも本当に失ってから解ったのだ……
人は誰でもそうだが、その手元にある時には、それが何かを理解してはいない。
それが無くなってから、初めて本当に大切なものだったと気付くのだ……
そして気付いた時、それを幾ら探しても簡単には見つけられない、例え見つける事が出来たとしても、簡単には拾うことは出来ないのである……
ユリナはそれを身をもって味わっていた。
でも気付いていた……トールの居場所が自分の心の中にあると、いつまた出会えるか解らない、再開できない事なんてないとその心に言い聞かせていた。
そうでもしないと、生涯に一人しか愛せないエルフ族の女性である為に、気がおかしくなってしまいそうでたまらなかった。
ユリナはこのエルフの宿命にも疑問を持ち始めた……美しい宿命であるが、それはその立場に立たない者が見るものである。
その立場に立った者はどう思うのだろうか……そう思ったのだ。
そして気を紛らわす様に様々な事を考えている。
それが出来るのも……暗黒がユリナを認めてくれた事が非常に大きい、そしてそれは暗黒を通して闇の女神オプスにも伝わっていた。
「ユリナさん……お強いんですね……」
闇の女神オプスが囁く、オプスも悲しみを抱えていた。
いまニヒルの手先が暗黒世界に攻撃をして来たら、とてもじゃないが冷静に戦えず憎しみに身を委ねてしまいそうな程に心に傷を負っていた。
シャイナはその様子を静かに見守っていた……ムエルテに命じられオプスを守ろうとしていたのだ。
「シャイナさん、ムエルテに命じられたのは解りますが、少し一人にして下さいませんか?貴女からすれば私は……」
シャイナは静かに首を横に振った、僅かな不安と疑いがあった。
それはオプスが暗黒世界を作り出した力、そして無に返す力……。
クロノスが破壊神であり、全てを無に返す力を持っているが、それはクロノスの劔がニヒルから与えられた剣でクロノス自身の力では無い、そして世界を作り出す創造の力は、無から有を生み出すアインの力……
闇の女神オプスはその二つの力を自らの能力として持っているのだ。
無に返す瞳、そして暗黒世界を作り出した力……ムエルテはその二つに疑問を抱いていた。
オプスはそっと座り、俯いて涙を流し手で顔を覆い泣き始めていた。
地上では、ユリナとトータリアがカナの舞を遠くから見ていた。
その光に地上をうろついていた、ブラッドナイトが引き寄せられていた……
ドス黒い殺気を放っている。
「そんな、冥界の者は敵では無いはず」
ユリナはそう言い走り出す。
ブラッドナイトが剣を振りかざしてカナに斬りかかろうとしているが、カナは構わず舞い続ける。
そして血の剣が振りかざされた時、大きな鎌がブラッドナイトの首を落とした。
「メトゥス、貴様の部下はそこまで天界の力を持つ者が憎いのか?」
ムエルテが言う。
「ふっ……しかたないでしょう……
今まで戦い続けた相手、しかも我らを忌みきらう者達の庇護下にある者達……
貴方達……地上の者を襲う事を禁じたはず……従わない子はうちの子に食わせるからねぇ」
ムエルテとメトゥスがそこに現れる……
「カナよ邪魔をした、悪いが妾達をエレナの元に案内してくれないか?」
ムエルテがそうカナに言うと、カナは黙ってお辞儀をして案内する。
「ムエルテ様!」
ユリナが駆け寄りお辞儀をした、カナを守ってくれた礼である。
ムエルテは小さく笑いすぐに悲しげな表情を見せて歩き出した。
何かがあったのだユリナはそう確信した。
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