✡︎ユニオンレグヌス✡︎

〜神歌〜

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〜第九章 メモリア・白き風〜

150話❅ドワーフの姉妹❅

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 翌日パリィはまた薬草を探しに行った。

 冬が来れば暫く薬草やキノコは取れない、深い雪に包まれ狩しか出来なくなってしまう、馬の餌の支度もしないといけない。

 冬に備えて薪は常に集めていたので問題はないが、やはり毎年冬の前が一番忙しい。

 パリィは秋の恵みを精一杯集める。
 その間は動物達も忙しい様で、この前の様に何かに襲われるかも知れない為に気をつけながら採取して行く、

 夕方になり急いで森を抜けて行く、旅人の様な二人をかなり遠くからだが、確かに見かけた。
 時々振り返っている、何かに追われている様だ、ぼろぼろの旅のローブにフードを被り、顔を隠している。

 パリィは追ってる者を探すと、容易に気配を感じて見つけることが出来た。

 追ってるのは東側にある、ドルビス山脈の山賊だった。

(山賊……
私の住む森まで来るなんて珍しい……)
パリィはそう思った。


「おい
白き風が出たらどうする?」
「あぁ、これ以上は不味い……
やつは魔物か何かだ……
見つかったら殺されるぞ」


(……)
パリィは聞いていた。

(私のことを魔物ですって!)
パリィは普通に怒った。

 そして意識を集中しふっと息を吹く。

 その時一陣の風が吹きパリィはそこに居なかった。

 パリィは素早く走り出していた、そして霧が立ち込めて行く……。
 パリィは走りながら霧を引き連れるように距離を詰める。

 山賊は二十人程……

山賊は霧に包まれて行き動揺しはじめている。

「おい、これってまさか……」
一人の山賊がそう言った時、悲鳴があがる、中団にいた山賊の右腕が矢に射抜かれたのだ。

「ぐぁぁっ」

「白き風だ!」

「待て、矢だ……」
冷静な者が辺りを見回す……
「円陣を組み弓を構えろ!」

 山賊達は円陣を組み全ての方角を見渡すが、深い霧の中パリィを見つける事は出来ない……

 そして、シュッと言う音と共に、また一人腕に矢を受け悲鳴があがる。
 山賊達は素早く、矢が飛んできた方向に矢を放つが、今度は二人が背中を射抜かれるが急所は全て外している。

 そして振り向いた瞬間にまた別の者が、左手を射抜かれる。

 あまりの速さで位置を変え、パリィは矢を放っている為に山賊達は、次第に恐れ始める。

 そしてパリィは距離を詰め一瞬で、一人の山賊が持つ槍を風の劔で切り、風の様に素早く姿をくらまし、槍を持っていた者の右手を上から射抜いた。

「化け物だ!」
一人が叫んだ……

 パリィはそれを聞き更に苛立つが、そこは抑えて言った。


「ここは私の森……
今なら命は取りません……
命欲しければ直ぐに立ち去りなさい」


 パリィは女王であった時の様に、威厳と優しさを込めて声を響かせていた。
 そしてふっと息を吹くと、風が吹き霧が晴れて行く。

 山賊はパリィを恐れドルビス山脈に引き上げて行く。
 パリィは高い木の上に居た、離れて行く山賊を上から見張り、十分距離が取れてから逃げていた二人の旅人を追った。

 二人は山賊達が追って来ないのに気づいたのか、足を止めて息を切らし休んでいた……
 水も切らしているのか、水筒を口の上で逆さにしているが水が出る様子は無い、武器も持ってない様で小柄な女性二人の様だ。


 もう直ぐ日が暮れる、夜の森は強い焚火を焚いても危険である、肉を好む動物がうろつき、時折、魔物も徘徊する。
 魔物と言っても全てが危険ではない、時折人を助ける魔族も居るが簡単に信用してはいけない。

 パリィは心配して声をかける。

「二人とも大丈夫?」
そう言いながら自分の水筒を差し出すと。


「ありがとうございます。」

 そう二人は言い、二人で回しながらゴクゴク飲んでいく、少し落ち着いたのかフードを取ると、二人はドワーフの娘だった。

 一人はオレンジ色っぽい髪、もう一人は明るい茶色の髪をしていた。
 千年程生きるドワーフ族、二人はまだ若く二百歳程である。

「ちょっといい?」

 そうパリィは言いながら二人の額に指で触れる、そして優しく二人に言った。

「もう直ぐ日が暮れるからうちに来ない?
夜の森は危ないし
二人とも武器も無い見たいだし
今日はうちに泊りなよ」

「本当に良いのですか⁈」
オレンジ色っぽい髪の子が言う、

「私達お金も何も無いし……
帰る所も……」
明るい茶色の髪をした子が言う、

「いいから
話はうちで聞くよ
お腹も減ってるでしょ?」


 そして二人を小屋に招き、パリィはパンとタマゴダケのスープを用意して、三人で食事を取る。

 二人ともポニーテールで、幼く可愛らしい顔をしている姉妹だった。

 オレンジ色っぽい髪の子が姉のテミア。
明るい茶色の髪をしている子が妹のテリアと言うらしい。


 二人の話を詳しく聞くと、二人は南方から逃げて来たらしい、ある程度の準備はしたものの長旅で多くを失い、ドルビス山脈を越える辺りで山賊に見つかり、僅かな荷物も捨てまる三日逃げて来た様だ。

 ドワーフは基本的に体力はある、それは女性も男性変わらない、恐らく彼女達だから逃げて来れたのだろう。

 その話を聞いて、パリィは不憫に思い聞いてみた。

「二人とも良かったら
ここに居てもいいよ色々と手伝ってくれればそれでいいからさ」

 パリィは二人の額を触った時、この二人は悪い子では無いと感じ取っていた、そして何故か出会うべきであると感じていた。

「え?良いんですか!
助けて頂いただけでなく
そんな……」
テミアが聞いて来た。

「いいよ
気にしないで行く所ないんでしょ?」

「ありがとうございます!」
二人は少し考えた様だが、声を揃えて礼を言うと。

「じゃ、お風呂の支度して入ろうか」

そう言いながら小屋にあるお風呂に水を貼る。
 パリィの小屋のには井戸があり、水汲みから始める。テミアもテリアも良く働く子であるのがわかった、その間にパリィは薪を割り始める。

 薪は手頃な倒木を見つけると、小屋まで馬を使い引いて来て薪として使える大きさにしてからしまっておく。

「パリィさん終わったよ。」

 元々この小屋には母と暮らしていた為に小柄なテミアとテリア、三人で入るには十分なお風呂があった。

 窯に薪をくべ、火をつけてお風呂を沸かし始める。

 火の番を二人に任せて、パリィは小屋に入り二人が着れそうな服を用意する。
 幸い、二人とも小柄な為にパリィのお下がりが使えそうだ。

 久しぶりに一人じゃないお風呂だなぁとパリィは感じていた。
 これから冬になれば、毎日お風呂は入れない、薪を調整しないといけないので二日に一度か三日に一度になってしまう。

 明日買い出しに行かないと、そう思いながら支度をしていると、テリアが湯加減を見に来た。

「このお風呂沸くの早いですね
もう沸いてますね
この蓋は何ですか?」

「開けて、その薪を入れてみて」
パリィが窓の外の薪を指差してながら言う。

 そう言われてテリアが蓋を開けると、穴があり窯に繋がっていた、薪を入れる穴だった。

「……」

パリィが何かを囁いてそれからテミアを呼ぶ。

「風送らなくていいの?」
テミアが聞いて来た。

「うん大丈夫よ
風に頼んでおいたから丁度良くしてくれるよ」
 パリィは魔法を使い、そよ風が窯に入る様にしたのだ、後は適度に薪を入れればそれだけでいいのだ。


 そして三人はお風呂に入り、身体を洗いっこしたりして楽しく過ごした。
 湯船に浸かり、ゆっくりしているとテミアが聞いて来た。
「パリィさん
ここに何で一人で住んでるんですか?」


「お母さんが居たんだけど二百年前に、帰って来なくなっちゃったんだ……
心配だけど……
大丈夫だと思うし
やりたいこともあるし
お母さんがなんて言うか
解らないから……」


 パリィは女王となった前世では捨て子であった……

 その為に親と言うものを良く知らないのだ、今世でそれを得たが、前世の記憶を全て持っている上に、すぐに居なくなってしまった為に何となくでしか解らなかった……


「やりたい事って夢ですか?」
テリアが聞いて来た。
「夢なのかな……
暫くしたら話してあげるね」
 パリィは流石に今日あったばかりの、二人に自分が過去のマルティア国の女王であったことを話すのは躊躇った。
 もう少し仲良くなってからにしようと思ったのだ。


 そして三人はお風呂から上がり、テミアとテリアはパリィのお下がりに着替える、二人とも小柄でパリィの服も似合い可愛かった。

 ただ胸はパリィより少しあり、パリィはそれを見て、ほんの少しお下がりだと小さいかな?と感じて言う。

「明日街まで行こうか、二人の服も用意してあげないとね。」
そう笑顔で言うと。

 二人は嬉しそうに礼を言い、その日は寝る事にした。


 パリィにとって久しぶりの寂しくない夜であった。
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