160 / 234
〜第九章 メモリア・白き風〜
149話❅天気を読む❅
しおりを挟むパリィは小屋に帰って来た。
「ただいま!」
二頭の馬に声を掛けて小屋に入る。
何も変わって無い出かける前の小屋だ……。
この小屋にかけてある、おまじないはパリィとパリィの家族しか見つけられない、もし姿を消した母以外に見つけるとしたら……
前世にパリィに子を身篭らせたキリングしか居ないだろう。
パリィはキリングに聞きたい事が生まれ変わってから一つ出来た、もし出会えたら、全ての記憶を失っててもいい……。
全くの別人でもいい、それでも聞きたい事が出来て、このまじないをかけているのだ。
まずパリィは小屋の周りにピルトの香を焚いた、匂いの強い星見草の花を持って来たからだ、ピルトの香油は作り方が難しいが、ピルトの実は沢山取れる、これも前世の女王だった記憶が活かされている。
沢山作っても良い値が付く、今は作り方を知っている者がこの千年の間に殆ど居なくなってしまったのだ。
だが沢山取れるからと言って、パリィは必要な分と予備程度しか作らない、香油にする前のピルトの実は、動物達の大切な食べ物なのだ。
商売する程作れば、動物達が困ってしまう、パリィはそれを知っていた。
そして小屋の中に入り机の上にタマゴダケを取り出した、タマゴダケは十個ほど取れた、星見草の花は根ごと二輪ある。
タマゴダケは紐に通して、小屋の中に吊るした三日もすれば程よく乾く。
星見草の花は根ごとそのまま売る事にした。
明日売りに行く事にして以前に狩で得た鹿の角と毛皮も売りに行く事にした。
翌日は少し肌寒かった、あと一ヶ月もすればこの地域は冬になる、静かに冬が近づいているのだ。
一年のうち四ヶ月は冬でここから、一ヶ月程北に行けば極北地域と言われ五ヶ月は冬になる……
マルティア国はその極北地域にパリィが作った国だ……あと二百年続けば、パリィが命を落としても繁栄し続けるだけの基盤は作れた筈だった、パリィはエルフならではの長寿を活かした国作りをしていた。
身支度を済ませ、小さな幌付き馬車に馬を繋げて馬車を出し荷を積み込む。
そしていつもの、まじないを小屋にかけてから出発した。
小屋からは、その馬車が少しの余裕を持たせながら走れる道が、街道まで続いている。
パリィの小屋まで行く道は街道からはまじないがかけてあり、よほどの力を持つ者でなければ気付かれることはないのだ。
『白き風』と異名を持つパリィだが、前世と違いまだ七百歳……エルフとしてはまだ、二十歳前である為に、かなり気を使っている。
見た目二十歳過ぎる頃から、何千年もそう見た目では歳を取らないが、エルフ同士なら何となく何千歳くらい?と言う見分けることが出来るが、人間や他の種族には言わなければ解らないのである、
パリィは街に行くと、時折エルフにマルティア国のパリィと思われる事があるが、パリィは全力ですっとぼける。
その為に今は剣を持たずに弓を使っているのだ。
だが街の武器屋に行き、鏃を買おうとすると時折良い剣を見かけ剣士としての性だろうか目が行ってしまう。
暫く馬車を走らせ、耳を澄ませて周囲の音を聴く、そして風の香りで更に確かめる。
街道には誰も居ない様だったので、そのまま馬車を走らせた。
街道に出て一番近い街、アイファスに向かって北に馬車を走らせる。
風が寒さを感じさせ、それなりに暖かい身なりで来て正解であった。
パリィは風の香りを感じてホッとする。
明日も天気は良い様だ、そして風の流れを読み、可愛くため息を付いた、明日は今日より寒い様だった。
そんな事を考えながら、馬車を走らせ夕方になる前にアイファスの街に着いた。
パリィは直ぐに魔法の道具屋に寄る、まずは重要な星見草の花を売りに行った。
二輪で5万クルトで売れ、貴重で品薄らしく良い値で買ってくれた上に、また売りに来てくれと言われた。
一泊の宿代がだいたい1000クルト、売りに来ての滞在費から考えても十分過ぎる値段だった、パリィは帰り際にその道具屋で指輪を見かける。
魔法の指輪だ……
その指輪に物をしまっておけるのだ。
「この指輪いくらですか?」
パリィは聞いてみる。
「3万クルト、だがパリィさんなら1万でいい、いつも良いものを持って来てくれるからな」
「バイドさん
そんなに安くしてくれるの?」
「あぁ、この星見草の花も根ごと持って来てくれた。
根ごとあれば、もう一輪だけ咲かせる事も出来る、花を咲かせなくても、根も法薬になる、俺がやれば20万クルトにはなる。
本当に良い品だ」
「20万?……じゃあタダでいい?」
そうパリィは可愛い笑顔で言った。
バイドも、え?と言う顔をした。
「仕方ないな持って行きな
但し!また良い品持ってきてくれよな」
そう笑顔で言い、それを渡してくれた。
パリィは笑顔で礼を言い、魔法道具屋を後にした。
そして他の店を周り、毛皮と鹿の角を売り1万クルトになる、パリィはいつも使う宿に行きその晩は早く休んだ。
その日の晩、アイファスの街の武器屋は遅くまで、商品の剣を手入れしていた時、コンコンと店の扉を叩く音がして、扉を開けた。
白いローブを着てフードを被った若いエルフの女が店の前にいた、背中には立派な大剣を背負っている様で、柄には鉄の蛇が装飾されている。
「悪いんだが今日は店じまいなんだ
また明日来てくれないか?」
店の主人が言う。
(ユリナさんやっぱりもう遅いから
閉まってますよ)
その大剣から優しい声が聞こえる。
「ごめんなさい」
そう言いながらユリナはフードを取り素顔を店の主人に見せ話を続ける。
「さっき街に着いたのですが
宿代が足りなくてこの剣を売りたいのですが買い取って頂けないでしょうか?」
そう言いながら、腰につけていた一本の古い剣を武器屋に見せる。
武器屋はその剣を受け取りながら言う。
「それなら家に泊まってもいいぜ」
武器屋はそう言うと、ユリナは武器屋の瞳を見て笑顔で言う。
「ありがとうございます。
でも奥様に悪いんで遠慮しますね」
ユリナは武器屋の瞳を見て、卑しく無く本当に親切で言ってくれたのを見抜いていた、ユリナはその剣の説明をし、武器屋の主人はその古い剣を買い取ってくれ、ユリナは武器屋をあとにし宿屋に泊まる気はないが、演じる様にその方向に歩いて行く。
(ユリナさん
なんで直接渡してあげないんですか?)
大剣がユリナに話しかける、その声はユリナにしか聞こえていない。
「オプス様
今はその方がいいと思うの……
オプス様こそいつまで暗黒の中にいるんですか?」
ユリナも大剣に話しかけ小さく微笑み、アイファスの外に出てから姿をふっと消した。
明くる日、朝早く目覚めパリィは武器屋に行く鏃を買い置いてある剣に、ふと目が行き一瞬目を疑った。
やはり気のせいだったが気になり聞いてみた。
「おじさん、この剣は?」
「昨日の夜
若いエルフが売りに来たんだが
ビルドが鍛えた剣らしい……
まぁどうせ偽物だろう?
そんな剣が出て来ることは滅多にないからな」
「そう、ちょっと持っていい?」
「あぁ、いいぜどうせ安物だ」
パリィはその剣を持ち、そして構え静かに振ってみる、懐かしい感覚と握った時にシックリと来る、刀身はやや細めの剣、手入れがされて無くやや光は鈍い、だがパリィ解った間違いなくビルドの剣だった。
「ちょっと布貸してくれます?」
「ほら、これ使いな」
パリィは店の主人が渡してくれた、ボロ切れを使い刀身の根本を少し磨いてみる。
「おじさん、この子幾ら?」
パリィは買うと決めた。
「良いのか?そんな剣で3000でいいぜ」
「ありがとう」
パリィはそう言い、他に鏃を二十個程買って店を出た。
その剣には刻印があった、ビルドの風の刻印がしっかりとあったのだ、それはビルドだけが使った刻印で紛れも無い、ビルドが鍛えた剣であった。
パリィはその剣を魔法の指輪にしまい、小屋に帰る、昨日予想した通り天気は良いが大分寒い帰る途中で、なぜビルドの剣に出会ったのか不思議な気持ちになる。
千年前パリィの剣を全て鍛えてくれた、ドワーフの名工ビルド。
今はもう居ない、また出会えれば……そう思いながら馬車を走らせた。
パリィは小屋に帰ると、馬車をしまい馬を馬小屋に入れ、小屋のベッドの手前の床を外して壺を取り出して、当面のお金だけ残して壺に入れる、その壺には1000万クルトが溜まっている。
そして床板を戻して、机にビルドの剣の柄を巻いてる古い革を外してみる。
そこには『風の劔』と古い文字で彫られていた、その裏を見るとパリィ・メモリアと同じ文字で彫られていたのを見て、涙を流し始める。
そう言えばビルドはあの戦いの前に、パリィだけの剣を新しく鍛えていると言っていたが……受け取る前にパリィは自らの命を絶ってしまったのだ。
ビルドはドワーフで、パリィより年下だが既に老いていた、その為にパリィを娘の様に可愛がってくれていた。
そんな思い出が溢れてくる。
あの時代、悪いことばかりでは無く楽しい思い出も沢山あったことをしみじみと感じていた。
まるで本当の持ち主に出会えた剣が、思い出させてくれた様だった。
0
あなたにおすすめの小説
【収納】スキルでダンジョン無双 ~地味スキルと馬鹿にされた窓際サラリーマン、実はアイテム無限収納&即時出し入れ可能で最強探索者になる~
夏見ナイ
ファンタジー
佐藤健太、32歳。会社ではリストラ寸前の窓際サラリーマン。彼は人生逆転を賭け『探索者』になるも、与えられたのは戦闘に役立たない地味スキル【無限収納】だった。
「倉庫番がお似合いだ」と馬鹿にされ、初ダンジョンでは荷物持ちとして追放される始末。
だが彼は気づいてしまう。このスキルが、思考一つでアイテムや武器を無限に取り出し、敵の魔法すら『収納』できる規格外のチート能力であることに!
サラリーマン時代の知恵と誰も思いつかない応用力で、地味スキルは最強スキルへと変貌する。訳ありの美少女剣士や仲間と共に、不遇だった男の痛快な成り上がり無双が今、始まる!
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
2025/12/7
一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる