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〜第十章 メモリア・セディナ〜
167話❅走る二人❅
しおりを挟む「あーっ‼︎
どうやってお父さんを
お母さんとくっつければいいのよっ‼︎」
ユリナが椅子に座りどうしようもない事を悩んでいる、机には紅茶のセットが二人分用意されている。
ここはセクトリアの外れに立てられた小さな家で、ユリナはパリィの民に紛れ込んでパリィを見守っていた。
机には銀の皿に水がはってあり、その水面にパリィの姿が写っている。
(ユリナさん
難しいと思いますよ)
オプスが闇の神剣暗黒の中で言う。
(この世界は前の世界と違います
エレナさんが創造した世界です
過去の記憶は殆どが流され
みんな新しい人生を歩んでいます
それに最高神のエレナさんと、結婚するようにセルテアさんに
神の啓示を示したところで……
人間として
新しい人生を送ってるセルテアさんは
戸惑うと思いますし
エレナさんにユリナさんが絶対神として示したとしても……
エレナさんはなんで人間と?
と思うでしょうし……
エレナさんの記憶が戻らないと難しいですよ)
オプスが微笑んで言い姿を表しユリナの向かいに座る。
「ちょっと何か方法を知ってるの?」
ユリナが聞く。
「はい……
考えがあります
ですからそっと
見守ってあげて下さい」
闇の女神オプスが言い紅茶を一口くちにし、ユリナが何かあるのか聞こうとした時、それを遮るように更に聞いた。
「それよりユリナさん
オディウムは探さなくていいのですか?」
「えぇ……
あいつは必ずお姉ちゃんの所に来るわ
オルトロスが地上で勝てないのは
お姉ちゃんだけ……
だからオディウムはお姉ちゃんを必ず倒しに来る……」
ユリナはそう言い水鏡に写るパリィを見守っていた。
春になったが雪はかなり残っている、流石極北地域である、北方地域はだいぶ雪溶けが進んでいる頃なのだが、春の日は高くなっているも、まだまだ残雪が残っている。
パリィの家もようやく出来た、みんな村の人達と同じ様に質素な家で良いと言ったのだが、村の人々とバイトが来客時に困ると言い、小さくも屋敷と言える家を建てくれた、中にも応接用の部屋まで作ってくれている。
(うーん……
あと何年?十年?かは
誰も来ないと思うんだけどなぁ……)
そう思いながらパリィは新しい家を見回していた。
何故かと言えば、まだこの周辺を調べてはないが、パリィの記憶では村や街は無い、近くて二日の距離に村があるはずだが、それも千年前の記憶で今もあるかは解らない、そう考えて周辺を調べようと思っていた。
そして、護衛団十名一組で二組編成して三日分の食料を持たせ周辺の探索をしてもらうことにした。
食料は確かに不足し始めているが、村や街を見つけ交流を持てれば、パリィが持って来たお金で買い付ければいい、そうとも考えていた。
「パリィさん
ちょっと思ったんだけど……」
「なに?テミア」
「私達が来た東の街道って
ずっと使われて無かったよね?
でもアイファスには
極北からの物がたまに流れて来てたけど……
何処から来るの?」
テミアが聞いている。
「山を登って
尾根を通って来る道があるんだけど
猟師しか使わないかな……」
そうパリィはいい、ふと思った。
カルパシアの村はまだありそうな気がした。
カルパシアの村はグラキエス山脈にある、カルパシア山の中腹にあり、猟で生計を立ててる村だ、アイファスの街でカルパシアの名産をたまに見ていたのだ。
此処からだと十一日程かかる。
パリィは暖かくなり、雪が減ってから行こうと考えた、まだ山の方は雪深く、雪溶けが始まると雪崩の危険性も高い、とても危険である。
そう思いながら外を眺めていると、遠くをセドが走っていた。
何をしているのかとパリィは目を点にして見ていた。
「セド大丈夫?
熱でもあるのかしら……」
少しパリィは心配したが、元気そうな為に変わったものを見るような視線で暫く眺めていた。
そして気付いた……
雪が溶けかけて重くなっている、その中をセドは足を取られずに走っている、かなり前傾姿勢だが、雪の中として見れば速いのが解る。
えっ、とパリィは目を疑う、あの速さであの中をパリィは走れる気がしなかった、パリィは外に飛び出して、同じように道の無い深く重い雪の中で走ろうとした。
この前グラキエス山脈で雪を投げ合った時の様に動けない、パリィは走ろうとするが、やはり速く走れない、そのパリィに気付いたのかセドが走って来た、息を多少切らしているが、さほど疲れてはいない様だ。
セドの努力を目の当たりにした。
「やってみるか?」
パリィはそう言われて頷いて、走り始めるがズボ!ズボ!と足を取られる。
「違う違うちょっと見てな」
そう言いセドが走り始める、さっきと同じ速さを最初から出している、よく見るとセドの足は沈み切っていない。
深く重い雪に完全に足が沈むと、足を取られるのだ、それを無理に足を速く前に出そうとする為に前傾姿勢になる、悪く言えば倒れかけている姿勢を倒れる前に足を出しているのだ。
パリィは理解したが、出来る気がしなかった、剣を振った時に様々な姿勢になるので、理屈で解ったがあの姿勢を保つには相当な腹筋が必要なのが想像出来た。
セドが戻って来て言った。
「パリィなら出来ると思うぜ
元々速いんだろ?
なら沈む前に足を出す事を考えてやってみな」
そう言われてとりあえずやってみる事にした、最初の一歩から全力で。
サッ……
(えっ……)
意外と走れた自然と前傾姿勢になる、思ったより腹筋は使わない、セド程では無いが、走れていると考えた瞬間。
足を取られた。
「うわぁ!」
パリィは可愛い悲鳴をあげて、前傾姿勢のまま雪に突っ込んだ、はたから見れば無様な姿でおかしな突っ込みかたをしていた。
(なにやってるの……)
ユリナが不思議なものを見るように水鏡に写るパリィを見てそう思っていた。
「はははっ!
俺もそれやったぜ!」
セドが思いっきり笑っている。
パリィは顔を赤くして雪を払いながら立ち上がる。
「今余計なこと考えただろ!
走れたとかさ
慣れてないのにそんな事を考えるから足が沈むんだぜ
最初は集中して無心でやりな」
「もう、最初から言ってよ!」
パリィは半分怒っている。
「でもやっぱり凄いなパリィは
俺はその転び方するのに
五十年かかったんだよ……
走れた時に嬉しくてさ
パリィと違って喜んでたら今みたいに顔から突っ込んだぜ……
それを見ただけでやったんだからな」
セドがそう言った。
別に転び方を教わった訳じゃないが、何となく褒められた気がした。
「さっ後は練習練習!
集中しろよ!」
セドがそう言い二人は走り始めた。
気づけば暖かい日差しの中、キラキラと光り輝く深い雪原の中を、二人はいつまでも走っていた
パリィの気持ちの疲れも気づけばすっかり取れていた。
その日の晩……。
「この中を走ってたのお姉ちゃん……」
ユリナが試しに走ろうとしているが、女神でなく、エルフとして走ろうとするが、足を取られ顔面から転ぶこともできず、ズボズボと足が沈む。
そして雪の下にある何かにつまずき、身体全体で倒れ雪に埋まる……。
「さすがお姉ちゃん……」
ユリナが呟き深雪の中でもがいている。
その様子を天界から恐怖の女神メトゥスが見ていた。
「ユリナさん……
何してるのかしら……」
そう呟やく。
「見るでない
阿呆がうつる……」
ムエルテが呆れながら現れる。
「助けなくて良いのですか?」
メトゥスが心配して言う。
「あやつは阿呆じゃ
いやっ
紛れもない馬鹿かも知れぬ
あんな暗黒などを背負い
あんな場所を走れるエルフがどこにいる?
神剣かも知れぬが
斬馬刀であるぞ
その重みで雪に埋まっておるではないか?
そのうち諦めて
女神として立ち上がるであろう?
ほうっておくがよい」
ムエルテは呆れ散々に言う。
「ユ……ユリナさん……」
恐怖の女神ではあるが恐怖を一切感じさせないメトゥスが、ユリナを心配してくれおどおどしながら見守っていた。
「あとこの事は
他の神々に言うでないぞ
絶対神のテンプスが
雪に埋れていたなんぞ
口が裂けても言うでないぞ……」
ムエルテはそう言いながら、メトゥスの首に大鎌の刃を当てていた……。
「はっはいっ‼︎」
メトゥスが怯えて返事をする。
(私より怖いんですけど……)
メトゥスは心からそう思っていた。
「それで良い……
妾はエレナにようがあるのじゃ
せいぜいテンプスを見守ってやるが良い」
ムエルテはそう言い天界にあるエレナの屋敷に向かって行った。
その後ユリナが諦め、女神として立ち上がるまでメトゥスは心配しながら見守っていた……。
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