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〜第十一章 メモリア・黒い天使〜
182話❅神の巻物❅
しおりを挟むパリィ達がセディナの浄化を済ませ、不思議な地震があったが、セクトリアの街に被害はなく、すぐにセディナの探索を行えた。
セディナの廃墟を隅々まで探索するのに、十日も必要とした、それは浄化され動かなくなったツリーフォークを焼き払ったり、アンデットとならなかったのだろうか、かつてのセディナの住人の遺体も発見されたので、埋葬前に集めたりなどの作業も加わったからだ。
王宮も探索したが、かつての思い出深い物も、何も残ってはいなかった、ベルスの兵達が略奪していったのだろう、王宮の中はだいぶ荒らされていた。
護衛団がマルティアの旗を持ち、常にパリィの周りにはメーテリアと護衛が数名いたので、サクヤは気配を消してパリィを見守っていた、王宮の外でムエルテが姿を消しながら、何かを読みながら調べていたのだ。
(パリィ様……)
サクヤはパリィを見て呟いていた。
(サクヤ?)
パリィは一瞬その声が聞こえたような気がした、あたりを見回すがやはり姿は無い、だが生きているはずは無い、サクヤは人間だからだ。
パリィはサクヤが、見守ってくれている様に感じ小さくその声がした方にお辞儀をし、王宮を後にした。
セディナはこれで全て浄化され、セクトリアの安全は確保出来た、パリィはまだ先の話だが、マルティアを再建して落ち着いてからセディナも管理する事にした。
それから三日経ち、よく晴れ渡った日の昼頃にセクトリアの見張り台から北の方に人々の姿が見えた。
北の林の東側から彼らは帰って来た。
セドだ、パラドールの村に戻っていた村人を無事に連れて来たのだ。
セドはパリィから貰った任務をちゃんとこなしてくれていた、馬車も見られる、どうやら焼け残った物も運んで来てくれたらしい。
パリィは人々を暖かく迎えゆっくり休んでもらった、セクトリアは今、建設が進んでいる、簡素ではあるが雪に強い作りの集団で住める建物を建てて行く。
テミアとテリアはすっかり現場監督である、流石ドワーフとしか言いようがない。
パリィはグラムを屋敷に呼んで何かを話していた。
「あぁ
ぜんぜん構わないぜ
俺らも明日グラキエスに狩に行かせる
戻ってくるのは三週間後だ」
グラムが言う。
「グラムさん
ありがとうございます。
パラドールの人達も
早くカルベラ隊のことを知って
もらえると良いですね」
パリィがそう言う。
「あぁ……パリィ様も気をつけてくれよ
俺らをまた受け入れてくれたのは嬉しいが
俺らをよく思って無い奴らも
必ず居るはずだからな」
グラムはそう言って、カルベラに戻って行った。
確かにグラムが言うのは間違いない、パラドールの人々からすれば、村を焼いた盗賊が隣に村を作ったようにしか見えない、カルベラはどうなんだろう?とパリィは考える、カルベラからすれば、南方の国テリングと友好的にしているパリィのやり方に不満を持つ人が居ないかも心配になっていた。
それはテリングとの交易を考えていたからだ、その為には特産品が必要である、昔から今でもそうだが、極北地域と北方地域の特産品の一つに毛皮と鹿の角がある。
鹿の角と言ってもただの鹿じゃ無い、グラキアと言う鹿で、その角は長く非常に硬い腕のいい職人が加工すれば、小太刀にもなる。
その小太刀は普通の小太刀より軽くて女性でも簡単に扱えて、鉄と同じくらい硬い、北国でしか取れない貴重な品である。
マルティア時代にはグラキアの小さな牧場があった、性格はそんなに荒く無く穏やかなので飼育も可能だが、寒い地域でしか育たない、餌も手間が掛かるが、角は高級品なので飼育しても有り余る利益が出る、更にグラキアは角だけ切っても、二年もすればまた立派に生えてくるのだ。
ここまで見れば良いところばかりだが、今の現状では難しく大変なのだ。
冬を越す飼料と、小屋を作ってあげないといけない、それ以外にもさまざまな事があり、生き物を飼育するのはこの土地では本当に大変なのだ。
今回グラムに頼んだのは、生きたままグラキアを捕まえて来てもらう事だ。
パリィは交易の為に、難しくても牧場を作る事を考えていた。
しっかりとした交易が出来れば、極北地域から人々が集まり易くなる、更に南方から商人もやって来る。そして街が栄えれば、兵を養える、今のように護衛団では無く兵を持てるようになれば他の村と交渉出来る。
治安面や安全を保証出来れば、その村を領地として取り込む事が出来る。
パリィはその為に、色々と今からすべき事を考えていた。
セディナの心配も無くなり、農地開拓も進み始め最初に開拓した土地は、既に耕され種まきが始まっている、夏前に何とか間に合ってくれたのだ。
「メーテリア
少し出かけよう」
パリィがメーテリアを誘った。
「はいっ!」
メーテリアが素直に嬉しそうに返事をした。
パリィはピルピーに乗って、メーテリアと近くの川に行った。
この川から大きな水路をいづれ引かないといけない、パリィは様子を見て回り途中でピルピーから降りて、ピルピーを自由にしてあげた。
そしてピルピーは川に入り、美味しそうに川に頭を突っ込んで水草を食べている。
暫くして、楽しそうに遊び始める。
「懐かしいですね。」
優しい瞳でメーテリアが言う。
「うん……
ここは変わらないね」
パリィが言う。
毎年、パリィもメーテリアも親しい人達と夏はここに遊びに来ていた、二人は思い出しながら、セディナの川を眺めていた。
ピルピーもこの川に住んでいた、川遊びに来ていたパリィの前に現れてパリィが水をかけて遊んでいたら懐いてくれた、それ以来ピルピーはパリィから離れないでずっとそばにいるのだ。
二人が静かに川を眺めてるとピルピーが二人と遊びたがっている、だが川遊びにはまだ早く、川はまだまだ冷たすぎる。
「ピルピー
もう少しあったかくなってからね」
パリィが笑顔でそう言うと、ピルピーも約束してくれたと思ったのか、嬉しそうにした。
メーテリアはあたりを見回して、川のほとりに違和感を感じ、魔力を瞳に込めてそこを見ると、ムエルテが姿を消して巻物を読んでいた。
メーテリアがパリィの耳元で囁く。
パリィがじっとそこを見るが、見えないが……。
「ムエルテ様
何をしてるんですか?」
パリィが聞いてみた。
「少し調べものがあってのぉ……」
ムエルテはそう言いながら気づく、パリィとメーテリアがじっとムエルテを見ているが、パリィは見えてないはずだが、見えてるかのように、目と目が合っている感覚にムエルテは陥る。
「まったく……
おぬしらには油断できんのぉ」
ムエルテがそう言いながら姿を現し、川辺に座ったまま巻物を読み続ける。
「何を読んでるのですか?」
パリィはそう聞きながら歩み寄って、巻物を除き込むと、そこには見たこともない文字が書かれていた。
ムエルテはどうせ読めないと思い、気にせず読み続けている。
「美しき流れに流されしもの
それは美しき流れによりもどる
川の流るるように運び
風の流るるように囁き
七色の輝きはその流れとともにあり
その輝きに触れし者は
時を操りともに生き
すべての人
すべての神を見守らん」
パリィがそれを読んで囁き、ムエルテは汗を流す。
パリィはカナの生まれ変わりで、カナは巫女でもあった、古の世界で、歌と踊りを司る女神ミューズの巫女、そのために古の世界の神の文字が読めたのだ。
「………」
ムエルテが止まる。
「お主読めるのか?」
ムエルテが聞いた。
「はい
なんとなくですが
読めますけど……」
パリィが答えメーテリアが、流石パリィ様と うんうんと頷く。
ムエルテは驚いた、この巻物はムエルテが黄泉の国を作って間もない頃、ニヒルがムエルテの留守の間に、黄泉の国に訪れて置いていったものだった、ムエルテはそれを知ってすぐに嫌々ニヒルの元を訪れたが。
(いづれ必要になる)
ニヒルはそう言っただけであった、まるでニヒルは今の状況になることを、知っていたようにムエルテは感じていた。
それはまるで、時の女神となったユリナがその力を全て操れていない、そう言っているようにムエルテは感じていたのだ。
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