✡︎ユニオンレグヌス✡︎

〜神歌〜

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〜第十一章 メモリア・黒い天使〜

183話❅オルトロス❅

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「まったく妾が調べてることは
そち達には関係ないことじゃ

覚えておくのも良いが
そち達の成すべきことをはよ成さぬか」
ムエルテはそう言いながら、巻物をしまい立ち去ろうとしたが……。

「ムエルテ様?
いつもそうされますけど

いつも近くにいて下さいますよね?」
メーテリアが言う。

「わざわざ隠れなくても
いいと思うんですけど……」

メーテリアが続けて言う。

「……
そちは妾が忙しいのを
知らんのじゃな……」

 ムエルテが冷たい目で、メーテリアを見ながら言うが、実際にムエルテはかなり忙しい、暇を見てはパリィ達の近くにいるのだ、ムエルテが離れてる時はユリナが近くにいるのだが、ユリナは微妙に時間をいじってパリィ達には発見されずにいるのだった。

「妾の役目を少しでも見てみるか?
それには死んでもらわねばならぬが

良いか?」

ムエルテがメーテリアに聞く。

 メーテリアはすぐに涙を溜めて、全力で顔を横に振る……。

「ようがある時は妾から声をかけるのでな
それまでほっといてくれぬか」

 ムエルテはそう言い去って行った。

 メーテリアは震えていたが、すぐに収まってパリィに抱きついた。

 そしてパリィは、確信してはならないものを確信した。

(メーテリアは死ぬことより

お酒が怖いのだと……)


 その晩、パリィは不思議な夢を見た。

 荒れ果てた大地から、双頭の狼がやって来る、尾は蛇で背中からも七匹の蛇がうねり禍々しい姿をしている、そして二本の牙は長く瞳はどす黒く赤い。


 伝説の魔獣オルトロスだ。


 オルトロスは人々を襲い、生きたまま捕らえた人を二匹の蛇が自由を奪い他の蛇が皮を剥ぎ楽しむかのように食らっている。

 狼は牙で逃げ惑う人を喰らい、蛇は人を捕らえ弄び喰らい、正に地獄の野獣である。

 大地を荒らし村を滅ぼし、満たされぬ欲を満たそうとするかの様に、次々と破壊と殺戮を繰り返している。

そして遠くから咆哮が聞こえた。

 パリィは夢の中でその咆哮がした方に振り向くと、白い獅子が昇る朝日を受け凄まじい勢いで走って来る。


「あれは……白獅子……」
パリィが呟く。



 その獅子が走る大地は命溢れる様に美しく、朝日の光を受け草原の草が一面全て黄金色に輝いていた。

 白獅子はオルトロスに襲い掛かる、オルトロスも白獅子に襲い掛かり、二頭は激しくぶつかり合う。

白獅子の怒りに満ちた声が響き渡る。

 その戦いは五日続いた、昼も夜も朝も休む間もなく戦い続け、オルトロスは三匹の蛇を失い、白獅子も右目を失い、至る所に深い傷を負った

 そして二頭は睨み合い、僅かな風が吹いた時に同時に飛び掛かった。

 オルトロスの右の頭の首を白獅子の鋭い爪が引き裂き、オルトロスの尾の蛇が白獅子の右腿に深く噛みつき、白い獅子はよろめくも牙を剥き出しオルトロスの左の首に噛みつこうとした。

 オルトロスは素早く体当たりをして、白獅子押し倒し素早く白獅子の首を噛み切った。


オルトロスは勝ち誇り遠吠えをする。


 その光景がこの世の終わりを意味するかの様に、不気味で悍ましかった。


 パリィは目を覚まし、その夢がパリィの記憶では無い事を理解した。

 白獅子が義理の弟サルバだとしたら……そう考えた時にパリィは思い出した、ベルス帝国のシンボルはオルトロス、黒い下地に金のオルトロスが描かれた旗。

 サルバは確かにベルス帝国と戦い命を落とした、その戦いの夢なのか。


(違う……サルバが率いた白獅子はベルス帝国を倒している!
今の夢は白獅子が敗れた……)


 パリィは考えたく無かった、今の世界で白獅子の旗を掲げるのはテリング国、パリィは不安の表情を浮かべ、ベットから起き直ぐに着替え始めた。


 着替え終わると、パリィは朝食の支度もせずに、朝早くクイスの元に向かった、クイスはもう起きていて、直ぐにパリィにあってくれた。

「パリィ様
朝食は取られましたかな?」
 クイスは何気なく聞いてくれ、パリィは小さく顔を横に振った。
 クイスはパリィの分も朝食を兵に用意させ、その間は静かな空気が流れていた。
 朝食が運ばれて来て、クイスはパリィに言った。


「話しづらい事ですかな?
まぁ食べながらお聞きしましょう」

 クイスなりに気を使ってくれていた、食事をしながらと言うのは、何故か不思議と聞きにくいことも聞けるものであり、そして、不思議と話し易くなるのだ。

 パリィも静かに朝食に手をつけ、見た夢のことは話さずまた静かにきいた。


「南方の国々で今後勢力を伸ばすと
思われる国はありますか?」
パリィが静かに聞いた。

「ほう、いかがされました?」
クイスが聞く。

「いえ
特に何も無いのですが
マルティアを再興し
千年前の様な事があってはいけませんので
今からでも備えられないかと……」
パリィが静かに言う。


 パリィが顔を曇らせて言い、クイスは気付いたパリィが、テリングをいやセルテアを心配している事に、クイスは笑顔で答えた。

「パリィ様お気になさらずとも
今はマルティアを
再興することだけを考えて下され。

セルテア王子もそれを望んでおられます」

 クイスはパリィに心配させない様に気を遣い、パリィと和やかに朝食を共にした。


 パリィが村に帰ると、クイスが顔を曇らせた、実はクイスが極北に出発する前に、ある事が南方地域最南の土地で起きていた。

 黒の下地に金のオルトロス、その旗を掲げた大盗賊が誕生したのだ、まだ首領の名も伝わって来ない。
 だがその旗は、かつてのベルス帝国の旗そのものであると、セルテアもクイスも知っていた。

 セルテアは周辺の国々に使いを送った、その旗を掲げた大盗賊が現れたら、国の誇りも意地も名誉さえ捨ててでも、友好国に援軍を要請し討伐せよと、盗賊だからと言え侮るなと、セルテアの予感は的中し、大盗賊は小国に戦を仕掛け、周辺国が援軍を送り、小国は難を免れその大盗賊は行方をくらましたのだ。

 南方地域の最南と言える、ガルドルフ地域の出来事であった。

 クイスはそれを話すことは無かった、既に南方地域ではオルトロスとの戦いの幕が斬り落とされようとしていた。

(パリィ様……
お早くマルティア国の再建を
成し遂げて下され

それがこの世界の光になりますゆえ……)

 クイスは帰ろうとするパリィを見送り、そう心から願っていた。



(こやつようパリィを知っておるの
そのようなことを知れば
パリィがじっとしておるわけがない)

 ムエルテは今日も巻物を読みながらパリィの近くにいた。

(カイナよ
その盗賊とやらは
オルトロスと関わりがあるのか?)

ムエルテがカイナに聞いた。

(はい間違いなく
オルトロスが操っています)

カイナが言う。

(さようか……
ならば見に行くかの……

エレナもセディナにおる……
問題なかろう)

 ムエルテはそう言い、南方地域に向かって行った。
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