✡︎ユニオンレグヌス✡︎

〜神歌〜

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〜第十一章 メモリア・黒い天使〜

190話❅ロディニナ地方❅

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「妾が伝えるはそれだけである。
また必ず会うであろう
その時まで努力するが良い
サルバ黄泉へ帰るぞ」

 ムエルテはそう言うが、パリィは落ち着いて聞いていた、そう言いながら近くにいてくれると思っていた。


「姉上、また必ず会えます。
その時までお元気で」

そうサルバは言いムエルテと共に静かに消えて行った。

(パリィめ……
妾がいつも近くに居ると
思っておるな

それもメーテリアの力か……
あやつは過去の世界で
何者だったのだ……)

ムエルテは僅かに歯痒く感じていた。


 パリィはサルバともっと沢山話したかった、パリィ亡き後にベルス帝国と戦ってくれた、パリィがしなければならない事を、命を投げ出してやってくれたサルバ。
 マルティアの力を集め、世界に希望の光を差し込んでくれた。

 何よりも大切な可愛い弟と話したかった。
サルバは『白獅子』の事を一切話さなかったのがパリィには何よりも温かく優しく感じていた。


 見上げた夜空には何故か三日月が、満月になっていた、風が速いのかさっきまであった僅かな雲が一つも無く美しく星が輝いていた。

 翌日パリィはセクトリアに帰る時にカルベラの女達に沢山声をかけられた。
 「また来て下さいね」とか「セクトリアに遊びに行きます」など、パリィは笑顔で答え期待されている事と交流を持てた事を実感した。


「パリィ様?
浮かない顔してますね
どうされました?」

 帰る途中でメーテリアがパリィに聞いて来ていた、だが悩み過ぎているのかパリィの耳には入っていない様だ。

「パリィ様?パリィ様?」

 メーテリアがパリィの前で指を振りながら言う。


「メーテリア、決めました。
二人で旅に出ましょう」

 その言葉にメーテリアは、時が止まった感覚を覚えた。

メーテリアは静かに涙を流した。


(パリィ様、私と逃げて……)


 メーテリアは誤解している、何もかも何処までも誤解している。

「ロディニナ地方へ行き村や街を周り
マルティアの再興を伝えに行きます

護衛を連れて行けば
セクトリアの開発が遅れてしまいます
その為に二人で行きましょう」

 パリィはメーテリアの誤解には気付かず、サラリと説明した。

「メーテリア?」


 パリィはメーテリアが、ガックリとしていたので不思議そうに呼ぶ。

「パリィしゃま~」

 メーテリアが泣きながら甘えた声で言う。


「何泣いてるの?
急がないといけないの

ベルス帝国が復活するかも知れない……

ゆっくりと昔のみたいに
二百年も掛けてられないのよ」


 パリィがメーテリアに説明する、気付けばパリィの瞳は女王としての瞳に変わっていた。

(パリィさま……)

 メーテリアはその瞳を見て、気持ちをきりかえる、パリィはピルピーを走らせ、セクトリアに急いで帰った。

 パリィは屋敷に帰り、細かくメーテリアに説明した。


「キリングが……」
メーテリアが話を聞いて驚く。

「キリングが
私の事を思い出してくれたみたいなの

そして死の女神ムエルテ様の命を受け
この世界の過去に行って
何かをしてるみたいなの……

生き返る為に……

キリングが頑張ってるのに
私も負けられないの……」


 その話を聞いて、メーテリアは疑わなかった、パリィは前世より多く夢を見ている、生まれ変わったせいかエミリィの影響かは解らないが、全て記憶に関わる夢か予知夢を見続けている。

 今回は直接、ムエルテとサルバがパリィに会いに来たが、メーテリアはきっと夢からだと思って納得した。

「なら直ぐに私達が不在でも
対応出来る様に計画と
必要な事をまとめますね」

 メーテリアはそう言い、すぐに書類を作り始めた。

「メーテリアありがとう。」

パリィがお礼を言う。

「キリングには
私からも言いたい事がありますけど
解ってくれれば
パリィ様をお任せ出来ます

あんなにパリィ様のベッドに
私が先に潜り込んでも
変なこともしませんし
優しく許してくれますから」

 メーテリアが、パリィの気を使わせない様に本心を言う。


(キリングそこは怒ってもいいよ……)
 パリィはメーテリアのそれを聞いてそう汗をかきながら思った。

 既に半分姉妹の様なパリィとメーテリアに、いつも遠慮していた優しいキリングをパリィは思い出していた。




 それから数日、セクトリアは忙しくなる。
テミアとテリアは小舟を作っている、パリィに頼まれたのだ。
 そんなある日パリィはシャナの森に行き、ロディニナ地方に行く前にとピルトのお爺さんに挨拶をしに行った。

 メーテリアはセクトリアが進めている開発の計画や、食料の管理などを詳細に書類を作っている。

 そして、パリィは一枚の紙をテミア姉妹に渡した。

「これは?」
テミアが不思議そうに聞いて来た。

「私からのお礼、開けてみて」

 テミアが紙を広げて図面を見ると、それは鍛冶屋の図面であった。
 何日か前に、テミア達の知らない荷物が街の倉庫に入っていた。
 それは鍛冶屋に必要な道具や、鉄を溶かす炉など様々な品で、パリィがテミア姉妹達の為にテリング国から買った物だった。


「こ……これ……
鍛冶屋建ててもいいの⁈」
テミアが驚きながらパリィに聞く。


「えぇ
この屋敷の隣の土地がまだ空いてるでしょ
二人の為にずっと空けておいたの
そこに建てていいからね」

パリィが微笑んで言う。


「パリィさん
ありがとう‼︎‼︎」

 テミアとテリアは元気にお礼を言ってパリィに飛びついた、二人とも本当に喜んでくれていた。

「ううん
二人とも本当に頑張ってくれてるから
いつもありがとね」

 パリィも二人に本当に感謝していた、テミアとテリアがいなかったら、これだけ早くセクトリアの建設は進まなかった。


 テミア姉妹も顔を輝かせて、本当に喜んでくれていた。

「でも街の方も手伝ってね
テリアもそっちの方が得意そうだし
これからもよろしくね」

パリィは優しく二人に言う。


「うん
本当にありがとう!
パリィさんも早く帰って来てね」

テリアがパリィに言う。

「うん
雪が深くなる前に帰って来るからね」

 パリィは二ヶ月程で帰って来る事を考えていた、セクトリアはまだここに出来たばかりで最初の冬をまだ越していないからだ。

 それから二日経ち、メーテリアが作った書類を確認してパリィも安心する、マルティア時代に政務を任せていただけあって、細かく作られている。
 その日のうちに、パリィはクイスと話して街の事をクイスにも頼んだ。

 そしてその翌日にパリィは、カロル川からテミア姉妹が作った小舟で東に旅に出る事にした。


「パリィ様
お気をつけ下さい
急ぐ訳を聞き占いましたが……
残念な事に……

パリィ様の言われた兆しが出ております
なるべく早くお帰り下さい
無事を祈っています」

バイドが心配そうに言う。


「バイド
執政として私の代わりに
セクトリアを頼みますね
私は雪が深くなる前に必ず戻ります
それまで頼みましたよ」

パリィがバイドにそう言うと。



「パリィ
なんで俺を連れて行ってくれないんだ?」

見送りに来ていたセドが聞いてきた。

「セド
剣に信頼を置ける人が
貴方しか居ないのです
守るには剣が必要な時もあります

私が居ない間
セクトリアを守って下さいね」

 パリィが笑顔でセドに言う、アイファスの時の様に、戦になることは無いと思われるが、何かあった時に頼れる剣士が居るのと居ないのでは大きな違いがある、パリィはそれも考えていた。


 セクトリアの人々も見送りに来ていたので、あえて女王らしく振る舞おうとしたが、パリィもセドも体がむず痒くなる程、自然では無く、メーテリアは笑いを堪え、目に涙を溜めていた。

 それを黄泉からムエルテが見ていて、あやつ何をしておるのだ?と不思議に思っていた。


 そして、パリィとメーテリアは旅立った。
カロル川の船旅は楽である、船を漕がなくてもピルピーが楽しそうに静かに船を進めてくれるからだ。

 パリィはゆっくりとしたひと時を、久しぶりに味わっていた、船旅はセクトリアにいて僅かに少しずつ精神的な疲れを溜めていたのをパリィに気づかせた。

 千年前にはそんな事は無く、パリィは伸び伸びとしていた、それはメーテリアをはじめ、軍事や外交など様々な分野で良心と才能に溢れた人達が数多くいて、パリィを支えていてくれていたからである。

 これから向かうロディニナ地方にも、メーテリアと同じ政務を任せていた者が居た。

 彼は人間の男性でありながら、心優しく孤児達の為にマルティア国に数多くの孤児院を作り、子供達を助けていた、パリィも彼の声を聞き、国からの資金を多く子供達の為に使った覚えがある。

 残念な事に、彼は人間である為に千年の時が経ちもう居ない、彼が住んでいた村はカロル川を船で東に向かい、二日程で着く為にまずはそこを目指し船を進めた。



(ロディニナ地方か
そろそろあの森が現れる頃……

厄介なことにならぬ様に
妾もついて行くかのぉ……

にしてもこの巻物
いつ読み終わるのじゃ……)

 ムエルテはパリィとメーテリアの跡をついて行くことにしたが、以前から読んでいた巻物を幾ら読み進めてもいっこうに終わりが見えず、不思議に思い始めていた、どう見ても外見からすればもうとっくに読み終えてもいいはずなのだが、まだまだ終わりそうに無くムエルテは悩み始めていた。
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