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〜第十一章 メモリア・黒い天使〜
191話❅ユニコーン❅
しおりを挟む何故パリィがマルティア再興の為に、ロディニナ地方に向かったかと言えば、ロディニナ地方は極北地域で最も農地に適した土地を広く有している、そして冬に閉ざされた極北地域でも、凍らないカロル川を通しセディナまで物流が止まることはなく、マルティア国を支え続けた地域である。
「ねぇ
そろそろペラの村が見える頃よね?」
パリィが船の上で当たりを見回しながら言う。
「はい……
もう見えてもおかしく無いのですが……」
二日程船を進めておかしいと二人は思っていた、千年前の村で石造りの建物が中心の村で、今は無いとしても痕跡が残ってる筈だがそれすら無いのだ。
もう少しで日が沈む、仕方なく二人は岸に船をつけロープでくくり、小さく天幕を張り今日は休む事にした。
「パリィ様少し遠いのですが
マルトの街はまだある筈です。
そちらに向かいませんか?」
メーテリアが考えながら言った。
「そうね
マルトは大切な街でしたからね」
パリィは夜空を見上げながら、深く深呼吸をし立ち上がって言った。
「船を岸に上げよ
明日雨みたいだから」
ピルピーを呼んで、船を引っ張ってもらい岸に上げ、二人で天幕広げて中でも焚き火出来る広さにしてから休んだ。
翌日パリィの予想通り、雨が降った
天幕を雨が叩く、不思議とその音が心地よかった。
カロル川は流れが早くなり、濁り始めるがピルピーのおかげで川を心配する必要はない。
そんなピルピーを見てパリィはふと思った。
「メーテリア?
そう言えばユーニはどうしたの?」
パリィがメーテリアに聞いた。
「あの子は逃してあげました
東の方に走って行ったので
ひっょとしたら……
ロディニナに居るかも知れませんね」
メーテリアが、うーん……と考える様に言う。
「やっぱり
ユーニにはヌナ地方は辛すぎるよね……」
パリィは焚き火を見ながら言う。
ユーニはユニコーンでメーテリアの愛馬だった、風の精霊でもあるユーニは、何故かパリィよりメーテリアに懐いた。
だが普通に考えれば、ユニコーンならそれが普通であった。
ユーニとの出会いはマルティア時代のとある年の春先に、パリィとメーテリアが一緒にセディナ近くを散策していて、草原を歩いていたら突然現れた。
ピルピーがパリィを心配して、前に出てくれた。
でも大人しそうだったので、二人はユーニに近づいて声をかけると、ユーニは最初パリィに懐こうとしたが何かに気付いて急に、嫌!って言う態度をした。
パリィが不思議がって居るうちに、メーテリアに懐いていた。
その時メーテリアはなんだか良くわからないけど、勝った気がしてニマニマしたのを二人は良く覚えていた。
後で二人はユニコーンの事を調べたら、ユニコーンは男性と関わりの無い女性を好むらしい、それでいつもパリィにピッタリで男性に興味が無い様な、メーテリアに懐いた訳が解り、二人で笑ったのも覚えている。
二人は懐かしく思い出しながら、その日を過ごした。
そもそも今回、船を選んだのは普通の馬で移動するのは、川を渡る際や馬の怪我などを考えれば、馬を失う可能性がある。
それを考慮しての事だ、ケルピーやユニコーンの様に精霊の類なら魔力ですぐに怪我も治してあげれる上に、そもそも怪我もしにくいのだ。
「この旅で
ユーニに再会出来るといいね」
パリィはメーテリアに微笑みながら言った。
其れから三日経ちマルトの街を目指していた、その日の夕方、遠くにマルトの街が見えて来た、パリィはあえて離れた場所に船を止め歩いて行く事にした。
マルティア時代からある街だ、確かに煙突からでる煙から薪が燃えている香りがする。
人の匂いもする。
「ねぇ
何故マルトの街が
まだあるって知ってたの?」
パリィがメーテリアに聞いた。
「パラドールの村に
何回かマルトからの旅人が
来たことあったんですよ
それで知っていました」
メーテリアが教えてくれた。
「なんで今まで教えてくれなかったの?」
パリィが聞いた。
「それは
そのぉ……お墓参り行きます?」
メーテリアが言う。
「えっ?誰の?」
パリィが誰のお墓かも解らず普通に聞いた。
「とりあえず行って見ましょう」
メーテリアがパリィの手を引いて言う。
メーテリアに誘われ、パリィはマルトの街に入って行った、しばらくすると、パリィは自然とマルトの街に住むエルフやダークエルフの視線を集める。
今は亡きマルティアの女王、『白き風の女王』を目にしているのだ、大半は疑い僅かな者が亡霊を観る様に手を合わせた。
パリィは初めてアイファスの街に行った時と、同じ反応だったので、あまり気にしなかった。
メーテリアはパリィを墓地に案内せずに、神殿へ案内した。
パリィの姿を見て神官が驚いたが、メーテリアが神官に何かを伝えた、街の人々も何故か、神殿に集まって来ていた。
パリィは聖堂の奥に案内され、そこに名が記されて無い墓が二つあった、いや、記されていた様だが斧でボロボロに削られている。
メーテリアが清楚に瞳を瞑り、祈り始めた、パリィも誰の墓か解らず、メーテリアに合わせて手を合わせた。
メーテリアが呟いた。
「パリィ様やっと……
初めてのお墓参りに来れました
安らかに眠り下さいね
愛しのパリィ様……」
「…………………………………
……………………………………
……………………………………」
パリィは様々な意味で汗をかいた。
窓からムエルテが覗き込むように、様子を見て呟く。
「何をやっておるのだ……
自分の墓参りなど
珍しいことをするの……」
「これ、私のお墓?……」
パリィは困りながら聞いた。
「はい
千年前の戦いで……
パリィ様のご遺体を此方に私が埋葬しました、此方がキリングの墓です。
セディナに埋葬した場合
ベルス帝国に侵略された時に
荒らされるのが目に見えていたので
此方に神として祀る様にしたのです
私も気づかれない様に
近づかない様に心がけていました」
メーテリアが言う。
「あ……ありがと……」
パリィがありがたい様なでも、困った様にメーテリアにそう言った時、気づいた、聖堂を埋め尽くす程の街の人々が、ひざまづきパリィを優しく見つめていた。
神官が恐れながら、喜びながらパリィに聞いて来た。
「パリィ様、本当にパリィ様なのですか?」
メーテリアが清楚に言う。
「パリィ様?
アレをお見せ下さい」
パリィは直ぐにアレを解った。
ふっと息を吹くと、聖堂に霧が立ち込めその中をパリィは身を隠し素早く駆け抜け、神殿の外に出た。
神殿の外に出てパリィはピルピーを呼び飛び乗り何かを祈る。
パリィは『白き風』と呼ばれたその力を見せ姿を消した。
「パリィ様は外に行かれました
皆さんパリィ様がお待ちです」
メーテリアが街の人々を誘導した時、優しくも強い風が吹き、教会に立ち込めた霧を払う。
「まさしくパリィ様の霧だ……
『白き風の女王』がお帰りになったぞ!」
一人が叫ぶ、街の人々から歓声が上がる。
それから直ぐに街はお祭り騒ぎになった。
「皆の者!
宴の支度じゃ!
神殿が持つゆえ多いに騒げ
祝うが良い!」
神官が叫んだ。
「ちょっと……えっえっ……」
パリィは展開が早すぎて焦る。
「メーテリアどう言う事?」
パリィはメーテリアに聞いた。
「パリィ様
言い伝えがありましてな……」
神官がそう言いながら、巻物をパリィに渡した、パリィは静かに開くと。
『白き風』の為に祈り、風を待て……忘れなければ必ず『白き風』はまた汝らに春を呼ぶであろう。
そうシンプルに書かれていた、メーテリアの字で……、それは間違いなくメーテリア字であった。
間違いなくパリィが解らない筈がない、パリィが静かにメーテリアの方を振り向く、その笑顔は頑張ったと伝えたいのか、笑って誤魔化してるのか解らない笑顔をしていた。
メーテリアは神官やそういった修行は、さわり程度しかしていない、修行しようとした時期もあったが、祈りの儀式や祝事でお酒を飲む事が多々あり、逃げ出したのだ、とてもじゃ無いがこの様な予言的な事を、書いたり言える様な者では無い。
「メーテリア、後で話があります」
パリィが静かに言った。
「はっはいパリィ様……」
明らかにメーテリアが、ギクっとしたのが解る返事をした。
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