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〜第十一章 メモリア・黒い天使〜
196話❅懐かしい声❅
しおりを挟むパリィ達は昨日と同じ場所で焚き火をしながら森を眺めていた。
「あれ?パリィ様雨が……」
メーテリアは雨が降らないことに気づいた。
「えぇ……」
パリィが天気予報を外した。
それは産まれて初めての事だった、だがムエルテは何のことか解らず話した。
「雨雲ならさっき追いやってやったぞ
水でも無いのか?」
「えぇ!
追いやったってどうやって……」
メーテリアが驚いて聞いた。
パリィはふと思い出した、焚き火の準備と天幕を貼っていた時にムエルテが空に手をかざしていたのだ。
そしてムエルテの聖域にパリィが夢の中で足を踏み入れた時に、手の平に六芒星が輝いたのを思い出した。
「ムエルテ様の手の平……」
パリィはすぐに気付いた、黄泉から帰された時、ムエルテが使ったのは死の力でも命の力でも無かった、とても暖かく優しく力強い温もりのある力だった、ムエルテはパリィを考えて大自然の力を使ってくれていたのだ。
「そうじゃ……
この力が妾にあるのは……
今は悲しみの証じゃ」
ムエルテが手のひらを見て静かに言う。
「悲しみの証?今は?」
パリィが聞く。
「あぁ……
妾は大切な友を失った……
いや失ってはおらぬか……
闇の女神オプス
あやつは妾のこの六芒星におる……
そしてその弟の光神ルーメン
その兄弟神
炎のイグニス
水のエヴァ
風のウィンディア
大地のガイア……
みなの力が妾の手にある
オプス……また会いたいのぉ
あやつとは気があったかも知れぬのに
一度あやつの最後の戦いに
共に戦えただけであった……」
ムエルテが寂しそうな表情を見せる。
死の女神とは思えない、優しく寂しげな表情を見せながら語り出す。
「六芒星……」
パリィが呟く。
「そうじゃ
六芒星は六大神の象徴じゃ……
かつての世界はのその六大神が
世界を司っておった
他に主だった神は冥界の神くらいじゃった
だから季節もない世界での
寒い季節も無かったのじゃ……」
ムエルテが懐かしそうに話している。
「冬がない⁈」
メーテリアが驚いて聞いた。
「そうじゃ
寒い土地はあるが年中寒いままじゃ……
面白味がないのぉ……」
ムエルテは古の世界の辺境地域の事を少し話していた。
ムエルテがいつもの様にリンゴを取り出して、パリィに投げ渡した。
「ムエルテ様は
リンゴがお好きなんですね」
パリィが聞く。
「これはの妾が初めて
地上世界の者から貰った物じゃ……
とても赤くての
血の様で気に入ったのだが
食べてみて甘くての……
本当に気に入っての……
だがある時気付いたのじゃ
この赤はの血の色ではないのぉ
・・・の色じゃのと
そしたらの
今はあの森に時折現れる友がの……
妾にこう言ったのじゃ……
ムエルテ様は本当に死の女神なの?
・・・の女神になれるんじゃない?
とな……恐れもせずに良く言ったものじゃ」
ムエルテがその昔、ユリナが言ってくれた事を思い出しながら話している。
ムエルテは一部を、恥ずかしそうに濁して言った、パリィはあえてそれを聞こうとしなかった、だが気づいて聞いた。
「あの森に居る
友達には会えたのですか?」
「あぁ
相変わらず集中して大切なことをしておる……
妾も手伝ってやりたいのだがな
あやつしか出来ぬことなのでな」
パリィもメーテリアもムエルテのいい方に親しみを感じていた。
「それは親友なの?」
パリィが聞く。
「ふっ……
長い付き合いだのぉ
だが奴もまだまだじゃ」
ムエルテが微笑みながら言う。
「それにあやつには探しておる者がいる
そやつが見つかれば
あの忌まわしい記憶が
繰り返されることは無いかも知れぬの」
ムエルテは少しづつ悩みながら言っていた。
「ベルス帝国と関係があるの?」
「オルトロスは
奴の使い魔に過ぎない
それだけ言っておこうかの……
まぁキリングを信じていれば良い
其方から見れば
神話の世界に行ったのじゃ
誰も知らぬな
奴が上手くやってくれれば……
この新世界で容易く見つけられる。
まぁ
過去の妾に
こき使われてるかも知れぬがの」
ムエルテは古の世界で、キリングに数多くの指示を出していた、それはキリングの実力もあるが、流れ者であるキリングがあの世界で頭角を現すのに必要な事でもあった。
パリィが立ち上がって強く聞いた!
「そんな神話の世界で
何をすればいいのですか!
いえ……
ムエルテ様がなぜ行かれないのですか!」
パリィもキリングが心配である。
「慌てるな
妾は行けぬのじゃ良く考えてみよ
この世界に死の女神が居なくなる意味を」
ムエルテは静かに言う。
「死の女神が居なくなる……
黄泉が危なくなる……?」
メーテリアが考えながら言う。
「近いが違う……
この世界が死者で溢れる事になる
さすれば滅びるぞ……」
ムエルテは想像できることを言う。
「そんな……
じゃあどうすれば!」
パリィが立ち上がり、ムエルテに飛びつくように言う。
「そんなに愛する者を信じられぬのか!」
ムエルテは強く怒鳴るようにパリィに言った。
「信じてる……信じてるけど!
キリングは私にだって
一度も剣で勝ったこと無いんだよ!
頭だって私より悪いし
いつもいつも本当に一生懸命だけど
悩みすぎると
最後には自分を犠牲にする事を
考えるのよっ!
大切な時に居ないし
私と最後に戦った……
あの時にキリングに会えたのだって……」
パリィは涙を流しながら、本当に心配してる気持ちをムエルテにぶつけた!
メーテリアはパリィの気持ちを理解したが、そもそもキリングは馬鹿じゃ無い、ただパリィの方が一枚上手なだけである。
剣も決して弱く無い……千年前も広大な領地を誇ったマルティア国内でも、キリングより剣が強かったのはパリィだけだ、ここでメーテリアは冷静に考えて、国としてその様な場所に行かせるならキリングが適任であると、パリィに声をかけようとした。
「そっ
そうであったの……」
ムエルテは頭を抱えた、パリィにこの前言われたことを思い出し、パリィの心配を頷くが不意に森から声が響いた。
「大丈夫です
何も心配いりません
彼だから出来る
私はそう信じています」
その声は透き通る様に響き優しく語りかけて来た、パリィは初めて聞く声に何故かとてつも無い懐かしさを感じた。
(ユリナめ
妾とは口を聞かぬ時にも
パリィには声をかけるのだな)
ムエルテは小さく微笑みそう思っていた。
「貴方は……?」
パリィが聞く。
「私のするべき事が終わったら……
お会いしましょう。
それまで楽しみしていますね」
ユリナは名乗らずそう言う。
森からそう声が響いた時、朝日に森が照らされ薄らと森が薄くなり始めていた、パリィは森に走り出した。
(今の声!いったいだれなの!)
そう思い自然と走り出していた、そこにムエルテが素早くパリィを捕まえて叫ぶ。
「行くで無い!
永遠の別れでは無い!」
そして森は静かに消えてしまった、ムエルテはパリィを離して呟いた。
「また逢える……
いや逢いに行くのかの
その時までまつがよい」
小さな笑みを、僅かに嬉しそうに笑みを溢しながらそう呟いていた。
(あやつも早くパリィに
会いたかろう……
それまでは妾が見守る故……
早うみつけい)
ムエルテはそう思いながら、消えた森のあった方を見ていた。
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