✡︎ユニオンレグヌス✡︎

〜神歌〜

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〜第十一章 メモリア・黒い天使〜

199話❅黒い天使❅

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 ガドルフ地域では戦が繰り返されていた、ムエルテは様子を見に来ていた。

「…………」
ムエルテは以前と違い人の死を心地よく思えなくなっていた。


 かつて神話となった世界で最後の戦いの時、無数の死が快楽と思える程にムエルテに流れ込んだ、その為にムエルテは最後まで戦い抜いた神であったが、それがこの世界でも同じように力にはなるが、心地よく思えなくなっていたのだ。


「早よう止めてくれいパリィよ
早よう其方の白き風を
大陸に吹かせてくれい……」

 ムエルテはそう呟いて眺めていた時、ふと小さな村で子供が泣いていた、村は焼かれ村人は逃げ惑って殺されていく。

 その子供は空にいるムエルテを見つけた、傷も負って無いが死相が浮き上がり、見えてしまったのだ。
 ムエルテは神として手を出せずにいた時に手の六芒星が輝きムエルテに囁いた。


「私が行きましょうか?」
カイナだ。

「良いのか?」
ムエルテが聞いた。

「私の主神オプス様なら
必ずお救いします……」
カイナが言う。


「あやつは地上を
こよなく愛したからの……
何故死んだのだ

オプスよ……」
ムエルテが言う。


「……」
カイナが静かになる。


「行け妾が許す!」

 ムエルテが言った、オプスなら助けるとカイナが言った、ならばオプスが居ない今、自分がしなければならないとそう思っていた。


 すると六芒星の闇の星が輝き、カイナが現れた。

 漆黒のローブに骨の左腕を持つ黒い翼を羽ばたかせた少女が。

「ユリナも必ず許してくれます。
カイナはムエルテ様の命に……」

カイナはそう言い、漆黒の翼をはためかせ凄まじい速さで子供の元に飛んで行った。


「黒い天使か……
救えるか?
死の運命を変えてみせよ」
 ムエルテはカイナを期待し優しい目で見ていた

 カイナは骨の槍を使いベルスの指示で動く盗賊達と戦う、その槍捌きを盗賊達は止められなかった。

「お姉ちゃん……天使様?」

 生前ネクロマンサーであったカイナは、天使と言われる様な事をした事が無かった為に嬉しく少し照れ臭く思えた。

 そして暫く戦い、五十は超える敵を倒し盗賊達は退いて行く、そこにカイナは槍を空を切る様に素早く振った。

 その槍の切っ先から無数の骨の牙が飛び盗賊達を襲った、全ては倒せなかったが、追撃にはその一振りで十分であった。


「お姉ちゃん
お母さん助けれる?」


 戦いが終わった頃に子供は泣き止み飛びついて来た、辺りを見ると、その子の母親と思える女性が倒れていた。
 もう息は無い、だがカイナはその母親の魂が何かを伝えたがっているのを感じた、遺体を優しく抱き起こし、額に手を当てて囁くと遺体が目を開いて弱々しく言う。

「パイス逃げて北に行きなさい
噂で聞いた北のセクトリアに行きなさい
かならず……」

 母親はそう言いカイナを見て言った。

「この子を北に……お願いします」

 カイナが静かに頷くと、母親は微笑んで魂は体から離れて行ってしまった。

 あまり長い時間魂を引き止めると、アンデットになりかねない、仕方なくカイナは魂を見送った、それでもネクロマンサーの力を初めて優しく使えた気がしていた。

 カイナはムエルテが母親の魂の手を取り天界に導いていくのを、見送っていた。

 パイスはまだムエルテの姿が見えている様で、死の運命は変わって無い様だ、カイナは黒い翼と骨の左腕をしまい片腕だけの人の姿になり、パイスを連れて北に旅立って行った。

(命を救う為に
命を奪わなくてはならぬとは……
皮肉なものだ……)

ムエルテは心の中で呟いていた。



それから二十日程経った頃。



「パリィ様
此方にサインをお願いします」

 セクトリアでは、建国に向けて最終調整を行なっていた。

 各村の長老が集まりパリィとメーテリアが作った政策を話し合い、決まった事の書類にサインをしていた。
 全ての書類がサインを終えたのは、予定の時刻より少し遅れたが、差し支え無いと判断した。

 翌日、建国の儀式を行う、メーテリアには祈りの儀式から外れて貰った。

 セディナで祈りを捧げた時あれだけの事があったのだ当然外した、だがメーテリアは嬉しそうで恥を感じてはいない様だった。


「いよいよですな……」

 クイスがパリィに話しかけて来た、パリィはクイスに丁寧なお辞儀をしてから話し出す。

「テリング王国には
本当にお世話になりました
まだまだ国としては不十分ですが
これからもご支援をお願い致します」

 パリィは丁寧に伝える

「何をおっしゃいます
テリングはサルバ殿から派生した国
マルティアの弟の様な国

これからも良い縁を
此方からもお願い致します」

 パリィは微笑みながら星空を見上げる、これからが戦いの始まりだと言う事をパリィは解っていた。





 翌日はパリィが予想した通り良く晴れ渡っていた。
 儀式はセクトリアの東側、カロル川の河原近くで行った、千年前のマルティア国もそこで儀式を行っていた。


 マルティア国が広大な領土を維持出来たのは、カロル川を最大限に利用して極北地域の東から北への流通を軸にして街作りを進めたのだ、その後西への街道を整備してロディニナ地方からの食料や様々な物資を送っていた。

 冬でも凍りつかないカロル川は、マルティア国の生命線でもあった。



 パリィは儀式を終えた時、石碑にアニマと刻まれた、アニマ、それは命を意味する言葉でパリィは気付いて微笑んだ。

 ムエルテが命の女神として姿を消してパリィの目の前に居て、酒を酌み交わしたのだ。
パリィはこの日の為に作られた祭壇から姿を表して宣言した。



「今日この日より
再びマルティア国が蘇った事を
『白き風の女王』
パリィ・メモリアがここに宣言します


私が犯した千年前の過ち
その後の悲劇を私は様々な記憶に触れ
私は知りました

再び私が女王として
この場に居られるのは皆さんのおかげです

私を信じ私の元に集まって下さった
皆さんのおかげです

いま祈りを捧げ
マルティアを守護して下さる神様が
舞い降りて下さいました

その神様はアニマ・ムエルテ
命と死を司るリンゴが好きな女神です

かつてのマルティア国の様に
我々の国が力を取り戻した時
アニマ・ムエルテ様を祀る神殿を
建てる事を天にお約束致します

その前に……
我らマルティアの民には
しなくてはならない事があります」


 そう言いパリィは少し間を置き、集まった人々を見渡しパリィが生涯をかけて守らないといけない、多くの人々の顔をその瞳に焼き付けていた。

 人々は大地の女神テララや冬の女神ヒエムスよりも、遥かに上位の女神ムエルテが舞い降りていた事に驚いている様だった。


そしてパリィは号令をかけた。



「全てのマルティアの民よ!
良く覚えている者も
この場にいると思います
千年前の悲劇をっ
暗黒時代の始まりを!

その脅威がいま……
南方地域で産まれようとしています
悲鳴と言う産声を上げ‼︎

あのっ!
ベルス帝国が蘇ろうとしています!

我らマルティアの首都であった
北の宝石セディナをっ‼︎

亡者の街に変えた
ベルス帝国が蘇ろうとしています!

千年前グラキエスの戦いで
我らマルティアの敗北が
世界を絶望へと導き
多くの悲劇が
憎しみを生み世界に齎されました

我々が何をするべきか!

我は『白き風』……いえ……

我らは『白き風』
となり大陸全土に届けよっ‼︎‼︎

我らの風を大陸全土に吹かせ!
絶望を希望に変え!
命輝き溢れる春を呼ぶ風となり
大陸を包みなさい!

その日を我らマルティア国はっ‼︎‼︎

切に願い!
切に望み!
全ての命の為に!

我らマルティア国は
ベルスの野望を打ち砕く為に
戦う事をここに宣言します!」



 既にベルス国の噂は極北地域に達していた、盗賊に奪われ産まれた国は、周辺国へ攻撃を繰り返し領土拡大を計っているのが、鮮明に描かれていたのだ。

 恐怖を糧に憎しみが膨れ上がっていたのだ、パリィの宣言は、ベルス国に対する宣戦布告でもあった。

 それはベルス帝国がかつて警戒をしたマルティア国として、二度は負けないと言う意思表示でもあった。

 そのパリィの宣戦布告と言う宣言は瞬く間に極北地域に広まっていった。

 側から見れば無謀と言える宣戦布告を聞いた極北地域の村々は、『白き風』の再来を確信しこぞってセクトリアに使者を送った。

 パリィは前世、千年前のマルティア国を信じた。千年前の自分自身の統治を信じた、『白き風』と呼ばれ世界の希望を集めた自分自身を信じた。

 この時代に、伝説となったマルティア国が求められてる事を信じたのだ。


 パリィの読みは当たった。

 その宣言から二十日程経った頃、続々と極北地域の村や街からの使者がセクトリアに到着した。

 僅かな間で二十は超える村と街がマルティア国に集った、まだまだ使いは来る。
 マルティア国の領土は凄まじい速さで広がって行く、パリィは直ぐに各村と街の所在を正確に把握して、街道の整備を指示して行く。


 先にも言ったが、極北地域は極めて流通が重要である、冬には大量の物資を輸送する事が困難になるからだ。

 メーテリアもバイドも慌ただしく対応に追われる、そしてクイスからの提案で小さくても城を築く事になる。

 それは使者が多く、今後も増える事が予想されセクトリアの街も大きくなる事が、簡単に見通せたからだ、テリング王国の支援もあり、最初の居城をセクトリアに建てる事になる。

 それは噂になり、更に北方地域、南方地域へとマルティア国再興の話は広まって行った、その噂はガドルフ地域でベルス国と戦っていた小国にも広まり、彼らを勇気づけていた。


「やっとだのぁ……
さて……
オディウムよどう出るのかの……」

 ムエルテが空から、忙しいく使者の対応をしているパリィを見守りながら、そう呟いた。
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