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✯第一章 西の国〜前編〜✯
7話✯『神罰の剣』✯
しおりを挟むシャーゼンの街はあれからまだ一週間程しか経ってないが賑わっていた。
シャルルが作ったアーティファクト『治癒の星』がある為か安心している様であった。
まだ夜が開けずに、薄らと白み始めようとしているが、街の酒場は賑わっていた。
魔鏡の魔女は姿を消して街に入って行った……。
一方、だいぶ前にシャルルの小屋に訪問者が現れていた。
コンッコンッ……
コンッコンッ!
小屋からは反応が無いのをその者は確認し、強引に扉を破壊しようと扉から離れて手を向けた時。
「私ならここに居るわよ……」
シャルルがその者の離れた後ろに立っていた。
「あなた、アーティファクトの依頼じゃ無いわね……
なんの用なの?」
シャルルはセリエの張った結界をすり抜けて来た者が、魔女だと言う事は解っている。
警戒しながら話しているのを、その魔女も気付いていた。
魔女は気配を消しながら振り向く、黒いドレスを着ているが、その顔は目元が腐っていた……月明かりに照らされ、顔だけでは無い、体の至る所が腐っている……
「あなた……死体の‼︎」
シャルルが睨みつけた瞬間、死体の魔女は素早く襲って来た。
もはやアンデットと変わらない、罪に塗れあらゆる負の力に蝕まれ、意識もない様に見えた。
シャルルは歯車の剣を出し構えた瞬間に、死体魔女の爪がナイフの様になり一瞬で伸びシャルルを斬り裂こうとした。
シャルルはそれを躱したが、死体の魔女はにやけた笑みを見せて、シャルルの剣を弾き飛ばした。
シャルルは死体の魔女を力強く蹴飛ばして、一瞬で姿を消す。
死体の魔女は気配を探りシャルルを探している。
「やっぱり……魔女相手はね……私も本気で行かないとね」
声のした方を死体の魔女が見ると、シャルルはその一瞬で黒いローブをまとっていた。
そして右手を左手の長い裾に入れ、あの銀色の仮面を美しく取り出し、身に付けた。
月の光に照らされ右目の二つの瞳が薄く蒼く美しく輝いている……。
「お前は……奇術の魔女‼︎」
死体の魔女は悍しく低い亡者の様な声で初めて喋った。
「残念……魔女だったのは千年前まで……今はシャルルよ」
シャルルはそう言い、優雅に両手で円を描き、優しくその円を押した。
すると光の円が現れ、死体の魔女目掛けて飛んでいく、死体の魔女は得体の知れない円を警戒し躱して距離を詰めようとしたが、躱した光の円からシャルルが飛び出して来て、死体の魔女の両腕を一瞬で斬り落とした。
「やっぱりこの姿の方が、本気になれるな」
全ての理を無視した、そう見える様な移動をしたシャルルの現れ方に、死体の魔女はなす術が無かった。
だが死体の魔女は痛みを知らないのか、そのまま距離を取り魔力を高めると、その両腕が再生し始める。
既に悪魔と言える様なその様子を見てもシャルルは動じなかった、千年前はシャルルも同類であった。
「ロア……ありがとう私を救ってくれて」
シャルルは心からロアと言う親友に感謝した。
シャルルは千年前まで、今目の前にいる死体の魔女と同類だったと、魔女と戦う度に思い、ロアへの感謝の気持ちがその度に溢れて来てたのだ。
シャルルは静かに瞳をつぶり詠唱を始めた。
「我が剣よ……我が力その全てを……」
シャルルが唱えると、シャルルの剣の歯車のが凄まじい勢いで回転しだし、全ての噛み合って無かった歯車が、噛み合って行く……
そして剣全体にヒビの様な光が走り輝き出した。
死体の魔女は再生した手を大地付き叫ぶ!
「グアァァ!」
既に詠唱では無いが、負の魔力が溢れ出し首だけの亡者のが無数にあらわれ、シャルルを襲った!
シャルルは瞳を見開き、剣で力強く死体の魔女目掛けて空を斬ると、無数の光の刃が亡者目掛けて襲いかかり斬り裂いて行く、その中をシャルルは駆け抜け、距離を詰めようとするが、先程斬り落とした死体の魔女の両腕が、シャルルの足を掴んだ!
シャルルが動けなくなった瞬間、死体の魔女はシャルルの首を斬り落とした……
罪の塊であり、邪悪に全ての罪を力とした死体の魔女は、自らの斬り落とされた腕の近くに、地面が縮まったかの様な、そう思わせる様な速さで近づいて来ていたのだ。
そして死体の魔女はシャルルの遺体が力無く倒れるのを見て、冷たい微笑みを浮かべて立ち去ろうとした……
「我が災い鎮める者……彷徨うがいい」
死体の魔女が数歩歩いた時。
「あなたが、振り撒いたんだ……」
死体の魔女は振り返ると、首の無いシャルルの遺体が立ち上がり、地面に転がった銀の仮面をつけた首が喋っている。
「きさまぁぁ、魔女のままだったのか?」
死体の魔女が唸る様な声でいうと。
パチンッ!
指を鳴らす音がして、首なしの遺体と転がった首が消えた。
「なんで奇術の魔女だったか少しは考えたら?
どうやって神を騙したか、どうして神をもて遊ぶことが出来たか……
わたくしの力を甘く見てない?
私くらいの道化師なら幻なんて、寝ながらでも使えるのよ」
シャルルはそう言いながら、背後から死体の魔女を剣で突き刺した!
「ギィヤァァァ‼︎」
死体の魔女が断末魔の様に悲鳴を上げる!
「力を解き放て、神罰の剣よ‼︎」
シャルルが叫び剣が光輝く!
「お前に浄化は生ぬるい!
神罰を受け‼︎
永遠の地獄で苦しみを味わえ‼︎」
シャルルは叫びながら剣をより深く突き刺し、剣を横に捻った。
「グギヤァァァァア‼︎」
そして力強く斬り裂く、傷口が光輝き死体の魔女はその光に飲み込まれ消えていった。
魔女を殺すには浄化しかない、だがシャルルは殺すことが出来なくても、裁きの神々、力のある神々が全ての罪を裁く地獄に死体の魔女を送ったのだ。
かつて魔境の魔女ロアと奇術の魔女シャルルは、二人でも名も無き邪神を葬ったが、本当に力のある神々は、幾ら全盛期の二人でも太刀打ちは出来ない。
そんな力を持つ裁きの神が居る地獄に死体の魔女を送りつけたのだ、幾ら死体の魔女でもどうしようも無い場所に……
「やっぱり私の結界じゃないと強い魔女は来ちゃうか、早く結界用のアーティファクト直さないと」
シャルルはそう言いながら、仮面を取り小屋に入って明かりを灯して、丁寧にローブと仮面を箱にしまい、窓から月を眺めてみる。
(なんだろ……近いうちにロアに会える気がするな、早く会いたいなぁ……)
シャルルは魔女からエルフに戻り、魔女に対してまだ理性を保っている者には出会う度に罪を重ねない様に話していた。
今戦った死体の魔女の様に既に罪に染まり切ってしまった魔女を、シャルルはある目的の為に神罰の剣で地獄に送り続けていた。
『神罰の剣』それは魔境の魔女ロアと奇術の魔女シャルルが、名も無き邪神を倒し、その力を閉じ込めて作り出したアーティファクトの剣。
シャルルはその剣を机に置いて、歯車を一つ一つ確認し手入れを始めた。
仮にも神の力を利用している剣で、シャルルの細かいメンテナンスが必要不可欠なのだ、シャルルはそれを欠かさずに大切にしている。
「私に出来ることか……」
シャルルはそう呟きながら、神罰の剣を丁寧に手入れし、気付いたら空が白んでいた。
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