アーティファクト

〜神歌〜

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✯第一章 西の国〜前編〜✯

8話✯二人でしていれば……✯

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 翌日昼頃にセリアとセリエはシャーゼンの街に着いた。
 二人は早速アーティファクトの材料を探しに道具屋と魔道具屋を探し始める。
「お姉ちゃん、これなんだろ?」
「うーん……浄化に使う石なんだと思うけど。
テンプ石って……

すみませんテンプ石って解ります?」
「テンプ石?なんだ聞いたこと無いな……」
セリエが魔道具の屋の主人に聞くが知らない様であった。

 「聖石と、聖水……あと砂鉄と天使の涙あります?」
綺麗な声がセリアの後ろから聞こえて来た。
 二人は振り向くとそこに、白い布に銀色の刺繍が全体に美しく施されたローブを纏った、美しい水色の髪をしたエルフが立っていた。
 背はセリエより僅かに高い、エルフはセリアに歩み寄り優しくセリアに言う。
「テンプ石は自分で作る方が早いのよ、天然物は中々出会えない貴重な石なのよ」
「ほえ~」
「必要なのは、聖石と聖水、砂鉄と天使の涙……
良くマエストロの修行に出される課題になるわね」
そのエルフは二人に教える様に話してくれる。

 「課題?なら教えて貰っていいのですか?」
セリエは、シャルルが修行として出してくれたのか気になり、そのエルフに聞いた。
「大丈夫よ、マエストロには運と言う要素が、とても大切なの……
貴重な材料が目の前にあっても、それを手に入れる事が出来なかったら、作品は出来ないからね。

いい物を作るには、知識もそうだけど運の方が大切なのよ」


 その話してる間に道具屋の主人がその品を包んでくれ、セリアがお金を払い受け取っていた。
「さぁ、作り方を教えてあげるから街の外に行きましょう。」

 そのエルフにそう言われて店を後にした。
「あの……何処かでお会いしました?宜しければお名前を教えて頂けますか?」
「?セリアちゃんは解ってるでしょ?」
「え?」
セリエはセリアを見ると、セリアがセリエの耳元で囁いた。
「魔鏡の魔女さんだよ」
「えーーっ‼︎魔っ」
セリアがセリエの口を急いで手で塞いだ。
「セリアちゃんお利口になったね」
魔鏡の魔女が笑顔でそう言い、セリアの頭をなでると、セリアは嬉しそうな笑顔をした。

「あの、なんて呼べばいいですか?流石にそれじゃ呼べないので……」
セリエは魔鏡の魔女が偉大な魔導師の様な雰囲気を醸し出しており、魔女とは思えないその精錬された身嗜みに、昨日のあのイメージはかき消されしまったので、低姿勢で聞いた。

「クルムでいいよ」

 クルムは少し考えそう教えてくれた。
(あっ……何か隠してる。
なんだろう、嘘じゃ無いけど言いたく無いのかな?)
セリアは自然とそう思えた。
 三人は街の外に出て、クルムが魔法陣を描きながら話してくれる。

 「セリエさん、この魔法陣と手順をメモしておいてね。」
「はい」
セリエがメモを取り始める。
 制作の合成魔法は学校でも習っていたがクルムが描く魔法陣を二人は見た事無かった。
 教え方も丁寧で、知っている先生より教え方も上手く、二人は初めて先生と思える存在に出会った気がした。

 「それでね、先に砂鉄に聖水と天使の涙を合成するの」
クルムは詠唱を始め、その詠唱もセリエはメモを一字一句間違えずに綺麗に取る。
 そうこうしていくうちに、テンプ石が出来上がる。
「はい、これがテンプ石、テンプ石は浄化の力が強いから二人が持ってね。」
 セリエは魔法陣の真ん中にあるテンプ石を持ち不思議に思った。
 クルム……魔鏡の魔女は決して罪深い者では無い気がした、なぜクルムが魔女になったのか深く疑問に思えた。

「ありがとークルムさん!
クルムさんの方は調べ物終わったの?」
「もうちょっとかな、疫病が流行る少し前に、死体が街の外を歩いてたって話を聞いたんだけど……」
「死体が?アンデットってこと?」
セリエが聞く。
「多分……魔女みたいなの……私が知ってるとこだと、死体の魔女なんだけど、それだけじゃ無くてもう一人魔女が関わってる見たいなんだよね……

まだ解らないから、二人とも気をつけてね」
「大丈夫だよ!悪い魔女ならこのセリアちゃんが燃やしちゃうから‼︎」
「はいはい、二人とも本当に強いから魔女も驚くかもね」
(私でもこの二人同時はちょっと……怖いな、特にセリアちゃんは色んな意味で怖い……)
クルムはそう言いながらそう思っていた。



 「クルムさん、良かったら食事でも一緒にどうですか?」
「ごはーーん!」
「うーん……
どうせ断ってもセリアちゃんに連れてかれるんでしょ」
「あったりぃぃ!」
セリアは満面の笑みで大きな声を出して、ロアとセリエの手を引いて街に入って行った。


 三人はお洒落な喫茶店に入り、サンドイッチと飲み物を注文して、様々な話をはじめる、その喫茶店は外にも席があり三人は外の席に座った。

「あっそう言えば、さっきのメモは貴方達の先生に確認してもらってね。
間違ってると大変だから」
クルムはそう言いながら、一口上品に紅茶を口にし、まだ続きを話そうとした時、その仕草がシャルルに似ているとセリアは思った。
「クルムさん!シャルルさんのこと知ってるの?」
相変わらずセリアは急に質問しだす。

 まだクルムが説明している途中でセリアには関係無い様だった。
 セリエはその質問も知りたかったのでそのまま聞いていたがクルムはそうでなかった。
(シャルル、この子の教育頑張ってね。

きっと魔女から普通に戻るより大変だと思うけど……
シャルルなら出来るから)
クルムはそう思いながら静かにカップを置いた。


 「そうね、古い親友かなシャルルは私の隣の家の子だったの。

珍しくエルフの家が隣同士で、お隣さん同士で良くみんなでパーティーしてたんだ……
それから仲良くなって良く二人で遊んだりしたわ」
(それがなんで魔女に……)
セリエは気を使い心伝で聞いた。
(あら?、メーンスの魔法を使えるのね流石ね。)
(えぇ、セリアと良くイタズラするのに使ってましたから)
セリエがそう丁寧に言うと。
(メーンス?心伝って魔法じゃないの?)
セリアが聞いて来た。
(ふふっ本当に二人には驚かせられるわね。
この魔法をシャルルに教わる前から使えてたなんて、魔女の私も驚いたわ。

 この魔法はメーンスと言って、心伝と言うのはヒントを絡めた呼び名なのよ。
 だからアーティファクトに載せる時は、メーンスって唱えないとアーティファクトに出来ないの。

 それは心伝が正しい呼び名じゃ無いからなのよ。
覚えておいてね。)
(ほえ~それでなんで魔女になっちゃったの?)
(それは今話さなくても、いつか解るわ……)


「ひょっとして白金の二人じゃないですか?」
「え?」
一人の若い男が話しかけて来て、セリアが少し驚いて声を出した。
「そうですが……」
セリエが応える。
「おー!やっぱり白金の二人だ‼︎」

 気付いたら沢山の街の人達が店の前に集まって来ていた。
「この前は街を救ってくれてるありがとな!」
「本当に、ありがとうございます‼︎」
「ありがたや、ありがたや……」
若者から老人まで多くの人々が感謝の気持ちを込めて礼を言っている。

 クルムはその様子を見て、あの時セリエを助けて本当に良かったと思っていた。
(サングイス……
あなたの罪もきっと二人が少しづつ軽くしてくれるよ、いつか安らかに眠れる日が来るかも知れないからね……

お願いだから憎しみを捨ててね……)
クルムはメーンスを使わずに心の奥底でそう願っていた。

 かつてシャルルが魔女からエルフに戻った後、クルムは血の魔女サングイスと交流を僅かに持っていた。
 クルムはサングイスに、罪を重ね無い様に説得していたが、サングイスは聞きはしていたが、それを受け入れようとはしなかった。
 そしてサングイスは街を襲い、セリアに敗れ浄化の炎で焼き尽くされたのだ。
 後からクルムが知ったことだが、シャルルもサングイスと出会い、同じ様に罪を重ね無い様に、罪滅ぼしをする様にと、シャルルに進められていたのだ……


(二人でしていれば……)


クルムは心からそう思い呟き、その思いが強かったのか、街の人々に英雄の様に感謝され、それに手を振ったりして応えているセリアとセリエにも聞こえていた……

 暫くして三人はその場を去り、クルムはまだ調べる事があり、二人と別れ様とした時、クルムは二人に優しくこう言った。


「二人とも……
二人で一つのことをしなさい
二人で出来ないと思ったら、シャルルにも手伝って貰いなさい

三人で出来ないと思ったら私を呼びなさい……

本当に大切な大切な時なら……
私も直ぐに行ってあげるから、忘れないでね。」
 セリアとセリエは、魔鏡の魔女クルムが何かを思い詰めている様に思え、静かにクルムの瞳を見つめて頷き……


「解ったよ!
その時に来てくれなかったら酷いからね‼︎」
セリアが明るく返事をし、魔鏡の魔女クルムの思い詰めた気持ちを吹き飛ばした。
 クルムはセリアの笑顔を見て、なんだか明るい気持ちになれて、前向きに頑張ろうと思えた。


「えぇ、あなたに追われたら大変だから必ず来るわよ、でも本当に大切な時だけにしてね」
そうクルムは明るい笑顔を見せてくれ、セリアの頭をいい子いい子する様に、なでてくれてから手を振りながら去って行った。
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