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〜神歌〜

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✯第一章 西の国〜前編〜✯

9話✯黙れ‼︎✯

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 二人はシャーゼンの街に泊まった。
 翌日帰ろうとして街を出ようとしたが、街の衛兵でない三十人程の兵が二人を止めた……
「お前達が白金か?
国王様が護衛として雇うとの事、バルゲルまで来い!」

「丁重にお断りします。
宮廷の警護は上級魔道士がいらっしゃるはず。
私達の入る余地は無いと思いますし」
セリエが丁寧に断ろうとしたが、兵達は囲み通さない様に槍を向けて来た。

 「へー、みんな槍を使うんだ」
セリアが前に出て兵達の槍を笑いながら見ている。
「お姉ちゃん嫌だってよ?
ど~しよ~かなぁ~?」

 その様子を街の人々は心配そうに見ていた。
「おい、国王様だってよ……今の国王様は欲しい物なら何でも手に入れないと気が済まないって言うじゃないか……

可哀想に……」
「まだ子供じゃない……」
街の人々は心配そうに話し出した。


 「大丈夫よ、あの二人は白金だから心配ないわ」
一人の女性がそう街の人々言った……クルムが様子を見に来たのだ。
「白金……マジかよ……」
「こりゃあいい物が見れそうだな!」
街の人々がそう言いはじめる。


 「う~ん、そうね!
私に槍で勝ったら、ついて行ってあげるぅぅぅぅぅぅ!」
セリアはとても楽しそうに言った。
「おう?いいぜ少し遊んでやろう、お嬢ちゃん」
「ハハハハッ俺たちが魔道士に槍で負ける筈ないだろ……クハッ」
兵がセリアを馬鹿にした瞬間、凄まじい一撃が笑った兵の腹部を襲った。
 セリアが炎の槍を出して薙ぎ払う様に重い一撃をお見舞いしたのだ。
 その一撃で一人の兵が飛ばされた。

「きっさまーー‼︎」
「早くおいで!兵隊さん!」
「構わん!痛めつけてやれ‼︎」
五人程の兵が襲い掛かる、セリアは簡単に兵達の突きを躱す、兵達は殺さない様に急所を外して狙っているが、セリアに次々とはたかれて行く……

 「みんな槍の使い方しぃ~らないのぉ?」
セリアは遊んでいる。
「よーく考えてごらんよぉ?
なんで女の子の私が槍を使うかさ!」
セリアの身のこなしは軽くて速い、だが一撃一撃に槍の反動を使い、槍のしなりを使い少女とは思えない重い一撃を放ち続ける。

 そう……槍は本来叩く物であり、突きはトドメを刺す為である、セリアはその基本を知っていた。
 そして何よりも槍のしなりと反動を活かした打撃は重く、少女のセリアでも放てるのだ。

 兵達はその一撃一撃で膝をついて倒れ込む、腕で止めようとすれば腕の骨にヒビが入り、腹部に食らえば息が止まりそうになる。
 三人四人……六人七人と立てなくなって行く。
「なんだコイツ………
魔道士じゃねぇのかよ……

一斉にかかれ!」
兵達が十人以上で一斉にかかり、セリアは槍を活かして高い跳躍を見せ背後に周り、また襲いかかる。
「みんな大丈夫?準備運動にもならないよぉ~」
セリアは遊んでいる、活発なセリアは魔法学校にいた時に気付いたのだ。
 魔力が尽きた時、魔道士は弱いと、そして武術も身につけようとセリエと少しづつ毎日稽古していた。
 その様子を精霊達が楽しそうに見てて手伝ってくれ、昔からの達人の技も教えてくれ、それを更に魔法を使い身につけていった。
 セリアは自分が強くなる為に、セリアなりの努力をしていたのだ。
 ただの兵達の槍が敵うはずは無かった。


 「お前!我らにこんな事をして、ただで済むと思っているのか‼︎」
兵の一人が叫んだ……
「うん?手加減しちゃダメなの?」
セリアは笑顔で応える。
「きっさまー‼︎」
叫んだ兵が剣で襲い掛かかり、セリアは初めて受け止めた。
その瞬間に他の兵達がセリアを突き刺し、明らかに殺そうした。

 セリアの背中から炎の翼が生えはじめる。
「私は貴方達を罰してもいいんだけど……」
セリアは静かに聞く……
兵達のセリアを突き刺した槍が溶け燃えはじめる……


「その命を焼き尽くし、炎の神の元に送ってもういいんだけど?

どうする?」
セリアの瞳から凄まじい業火の様な殺気が初めて放たれ、兵達は怖気付いたのかセリアから距離を取った。
「お前!国王のお召しを何だと思ってるんだ!」


「黙れ‼︎」


セリアが叫んだ。
「国王だからって偉そうなんだよ!
国王が何をした‼︎

この街だけじゃない!
西の国は疫病に苦しんでる民に何をしたの!

救いもしないで、災いに立ち向かわないで何をしたの‼︎」
 セリアもセリエも西の国に入り、多くの街を見てきたが、国として機能してはいなかった。
 それでいてセリア達を護衛に雇うと言う話を聞いて、セリアは自分の事しか考えてないと思い腹が立ったのだ。
 そして街の人々もセリアの叫びに共感して騒ぎ始め、クルムもセリアの言葉から心の奥底から溢れる光を感じていた。


 「お前ら……シャーゼンは守り国王は守らぬと言うのか!
この街の者達がどうなってもいいと言うのか‼︎」
兵は言ってはならない事を言った。


「なら……私が西の国を滅ぼしてあげようか?」
「なっ……」
セリアが静かに言い、水の翼まで広げ、そして光の翼まで広げ六枚の翼を広げ、それが出来ると力を見せた。
その姿は美しく、神聖な光が溢れ出していた。
「人を救わない国なら……」
セリアは瞳をつぶり、覚悟を決め瞳を開き力強く叫んだ!



「そんな国!無い方がいい‼︎」



セリアの瞳は美しく罪をも恐れていなかったが……


「あなたがする必要はありません」


優しい声が響いた。
「今なら魔女がこの国に災いを振り撒いたのも解ります……」
黒いローブに銀の仮面……左目に二つの瞳……魔鏡の魔女だ。

「まっ魔女……」
兵達が極限まで恐れた。
「国王に伝えなさい……

これ以上、大罪を犯せば、この魔鏡の魔女がこの国を滅ぼして差し上げます。

滅ぼされたく無ければ美しき国にしなさい……」

「魔鏡の、魔女……
で……伝説の……」
「お、おい……魔鏡の魔女は奇術の魔女とつるんでるはず……」
「そっそんな……伝説の魔女二人に狙われたら……」
「ウァァ‼︎」
兵達は逃げ出した、倒れていた者も痛みを忘れたのかよろよろと走り出した。


 魔鏡の魔女は再び優しく言う。
「忘れずに伝えなさい、美しき国にしなさいと」


 兵達が逃げ去りクルムは不思議な事に気付いた。
 クルムは魔鏡の魔女として、今はその姿でいる、だが街の人々は魔鏡の魔女を恐れていなかった。
 初めてだろう、表立って魔女が人を守ろうとしたのは……
信じられない光景だが、街の人々も魔女を見て初めて恐れて居なかった。


「セリア行こう」
セリエが言う。
「え?魔女さんいいの?」
「大丈夫だよ」
「うん……帰ろう!」
セリアは翼をしまい、シャルルの森に向かって二人は歩き始めた。
 折角魔鏡の魔女が、いい魔女であるとシャーゼンの街の人々が気付き始めたので、セリアとセリエが入るより最後も魔鏡の魔女クルムに任せようと気を利かせたのだ……


 「魔女さん、あいつらが言った事が許せねぇ……白金にも頼んで懲らしめてやれねぇか?」
「そうだ‼︎この街を救ってくれたのはシャルル様とあの二人だったじゃねぇか!

国王は何もしてくれねぇ‼︎」
街の入り口で騒ぎになっていた。


 魔鏡の魔女はスッと手を街の人々に向けると静まり返った。
「静かにして下さい……

私はこの国を静かに見ます。
ですから決して騒がないで下さい……
お願いします。」
魔鏡の魔女はそう頭を下げて街の人々に願い、話を続けた。

 「白金の二人は、優しくて貴方達に何かあれば、本当にこの国を滅ぼすかもしれません……

あの子達はそれだけの力があると思いますが……


それは大罪であり、あの子達が魔女になってしまうかも知れません……
皆さんは皆さんの恩人が、魔女になり……

あの優しさが苦しみに変わる姿を見たいですか?
私は……見たくはありません……」


 魔鏡の魔女の言葉は優しく、身をもって味わった苦しみを伝えようとしていた。
 街の人々は静かになり、その言葉を良く聞き考え始めた。

 「魔鏡の魔女どの、貴方は貴方の罪を悔いておるのですな……」
この街を治める神父がそう言いながら歩み寄って来た。
「えぇ……神父様、私は罪を悔い罪を滅ぼそうとしてます。」
「そうでしたか……

皆よ!優しき魔女殿の言う通り、静かに過ごそうでは無いか……

きっと何かあった時、魔女殿が我らを救って下さる

それを今は信じようでは無いか」
神父がそう言い、街の人々が納得した様だ。
「あぁ、そうしよう、世の中にはいい魔女も居るんだな!
シャーゼンの街を頼む、魔鏡の魔女さんよ!」
「あの二人に魔女は似合わないしな、あの子達の為に、大人しくしよう」
 街の人々に笑顔が戻っていた、クルムはもう少しここに居たい気がしたが、静かに丁寧にお辞儀をしてから、スッと姿を消した……


 そして魔鏡の魔女はクルムとして、シャーゼンの街に残り、まだ解らない他の魔女を調べる事にした。


 (何千年ぶりかな……
長居してもいいかな?って思える街って……)
「優しき魔女……」
クルムは久しぶりに心からの笑顔を見せていた……
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