アーティファクト

〜神歌〜

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✯第一章 西の国〜前編〜✯

13話✯セリアを救う?✯

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 数日してシャルルは、昨日ロアがバルゲルに向かった時の事を思い出していた。

「シャルル、風の魔女どう思う?」
ロアがシャルルに聞いて来た。
「うーん、セリアちゃんがそんなに悪い魔女じゃないって言ってたけど……
解らないよね……」
シャルルはそう言いながら、風の魔女がセリアに絡まれ、逃げ出した姿を思い出しながら、本当に悪い魔女なのか、疫病をばら撒いた魔女なのか、それが解らなくなっていた。
 それはロアも一緒だった。
「あの様子じゃ、しばらくはバルゲルには来ないかも知れないし……風……
うん?」
ロアは気付いて考え出した。
「どうしたの?」
シャルルが聞く。
「まさか……バルゲルは風の魔女に守られていた?」
ロアが言う。
「え?」
「バルゲルには疫病で苦しんでる人が居なかった。
つまり、風の魔力で癒され続けていたとしたら……」
「じゃあ、なんで風の魔女はロアを襲ったの?」
「……なんでだろう……」
ロアは自分が何かしたのか考え始める、確かにロアは酷い目にあった、だが右足の傷の跡は後三日もすれば綺麗に無くなるだろう。
 魔女であるロアはそんな目に数多くあっていたので気にはしていない。

「何か別の事で、悪い事しているのかな?」
シャルルが考え始めるとロアが急に立ち上がり、慌てて支度を始めた。
「シャルル、治癒の星ってまだある?」
「一つあるけど……」
「ちょっと貸して!」
「無くなっても作って返すからお願い!」
「うん……バルゲル‼︎」
シャルルは渡しながら少し考え叫んだ。
「そう、もし風の魔女がバルゲルを守っていたなら……

バルゲルは今、守られていない……
急がないと!」
ロアは魔女の姿になり、魔鏡を使いバルゲルに向かって行ったのだ。



 それを思い出しながらシャルルは治癒の星を作る支度をしていた。
 バルゲルは大都市でとてもじゃないが、治癒の星一つでは足りない、高価な物だが作って置いて仮に使わなくても損は無い物だった。

 他の魔女は別だが、風の魔女がロアを再び襲うとは思えなかった。
「うーーん……
これで支度は出来たけど、どうすれば……」
シャルルは悩む、治癒の星は制作に半年は掛かる、それは高等過ぎる魔法をアーティファクトにする為に、魔力を込めるのにとても時間が掛り、更に部品一つ一つを組み立てるのにも、魔力の流れを美しく流れる様に組み立てなければならない。
 だが組み立ては三日程ですむ、急げば二日で出来る。
 つまり治癒の星制作で殆どの時間は、魔力を込める事に費やされる。
 もしバルゲルの街に疫病が広まってしまうかも知れないと考えたら、半年も時間をかけてられない、シャルルは悩んでいた。

 そしてもう一つの深い悩みが……
「シャルルさーん!」
セリアが元気よく声を掛けて来た。
 果たしてこのセリアと暮らして、半年も集中して作り続ける事が出来るのか……それが最大の悩みでもあった。
「風の精霊さんが遊びに来てるから、外で遊んでるね!」
 セリアはシャルルが考え事をしている様だったので、誘うつもりだったが誘うのをやめた。
「はい、気をつけてね」
シャルルは静かに返事をする。
「はーい!」
セリアが小屋から出て風と遊び始める。

 「きゃはは!」
セリアの楽しそうな声が外から聞こえる、セリアの意思で無く風に巻かれ浮き上がったりして、風に遊ばれてる様にも見える。

「セリアも変わったなぁ……」
セリエがそう言いながら部屋から出て来た。
「変わったって?」
シャルルが聞く。
「私が血の魔女サングイスに負けちゃっう前のセリアはあんなんじゃ無かったの……」
セリエが話し始める
「サングイス……」
シャルルが表情を曇らせる。


「人の気持ちなんて考えなくてさ……
私が怒っても、しばらくしたらまた同じことをしてさ……

錬金術なんて覚えたら、お金作っちゃって、私が見つけて全部燃やしたんだけどさ、人も簡単に殺しちゃう様な子だったの……」
 シャルルはその話を聞いて信じられなかった、今のセリアからは想像が出来ない、セリエの瞳が真実を語っている事を伝えている。
「そんな、じゃあなんで……天使の魔法を使え……まさか!」
シャルルはトランス魔法の詠唱を思い出し気付いた。
「それじゃ……セリアは……」
シャルルはそう言い、小屋から飛び出した。
「シャルルさん?」
セリエがシャルルを見る、シャルルはセリエさえ気付いてない事に気づいたのだ。


 セリアは楽しそうに風と戯れている、明るいセリアの声が響き渡っている……
「あなたって子は……」
(誰でもいつか死んじゃうんだからさ……
今を精一杯楽しもうよ、やる事やってさ自分らしく生きればいいんじゃないの?)
セリアがシャルルに言った言葉を思い出した。
 なぜセリアの様なまだ十七才の少女がそんな事を言い、その言葉に深さを感じたのか、シャルルは解った気がした。
 だがそれだけでは無い気がした、以前セリアの笑顔に僅かな影を感じた。
 まだこの姉妹には秘密がある、その秘密をシャルルは知るべきであると、知らなければならないと感じていた。

「シャルルさん?」
セリエがシャルルを呼び小屋から出て来た、シャルルはセリアを見て涙を貯めている。


「この子は知っているんだ……」


 シャルルは静かに呟いた、シャルルの瞳には明るく無邪気に遊んでいるセリアが、儚く哀しく映っていた。
「セリエさん、少し二人で留守をお願いしますね。」
「え?どちらに行かれるんですか?」
「ロアの所に行ってきます。
私が帰ってくるまでに、治癒の星を早く作る方法を考えて置いてください。

答えが見つからなくてもいいです。
私さえ解らない事なんで二人で考えてみて下さいね。

これが、治癒の星の作り方です。
よく読んで、考えて見て下さいね」
そう言いながらシャルルは、治癒の星の図面の写しをセリエに渡した。
 そしてシャルルは、小屋を出てロアの後を追った。


 シャルルは小屋が見えなくなると、奇術の魔法を使い、バルゲルのロアが描いた魔法陣に移動した。
 シャルルは考えながら、バルゲルの街を歩きロアの魔力を探る。
 バルゲルの街にいる事はすぐに解り、そこに向かい歩く。
(セリアの元の性格がそうなら、何がそうさせたの?
サングイスにセリエさんが負けた?

それは今のセリエさんなら簡単に負けはしない、いや!サングイスの方が力は劣る……
ロアに知り合ったのが三年前って言ってたよね……

魔女に負けるって、タダじゃ済まないよ、だいたいは……死……
まさか!セリエさんは……

いや、あの子なら逃げたのかも知れない……まって……)
シャルルは様々な事を考えていたが、解らなかった。
 ただ一つ解っていた事はセリアを救いたい、そう思っていた。
 そして人は長くて百年程しか生きられない、生涯を掛けなくてはならない事か知りたかった。
(誰でもいつか死んじゃうんだからさ……)
その言葉が更にシャルルに重くのしかかる。

 そしてロアが近くにいる事に気づいた。
 シャルルは急ぎ足でそこに向かう。
 ロアは喫茶店の様な店で紅茶を飲んでいた。
 シャルルは何も無かった様にロアの前の席に座り……
「同じ物を下さい」
直ぐに注文した。
「どうしたのシャルル?何かあったの?」
ロアが聞く。
「ちょっとね」

(ロア……セリエさんの秘密知ってる?)
シャルルがメーンスの魔法で聞くと、ロアは黙って、革の袋を取り出してシャルルに渡した。
(中の物、触ってみて……)
ロアが言う。
 シャルルは袋の中に手を入れる。
(これは……サングイスの灰……浄化されてる……‼︎)
シャルルは気付いた、サングイスの灰に残る魔力が三種類あって一つはセリアの魔力だった。
 、サングイスの魔力とセリアの魔力が一つになった魔力もある。
 その質はセリエの魔力に非常に似ていた。

 シャルルは袋をロアに返し、紅茶を上品に飲み落ち着こうとした。
 その灰が意味している事を悟った。

 血の魔女サングイスはセリエに勝った後にセリアに負け浄化されたのだ。
 問題はセリエだ、セリエはどの様に負けたのかだ、それは命を奪われたのか、生き延びたのかだ……
答えは一つしか無かった。
(ロア……それは……本当なの?)
シャルルは信じられなかった。


 セリエは……一度死んでいる。


それしか考えられなかった。
 サングイスの灰を使い、古の秘術を用いてセリエは仮初の命を受けて生き返ってたと言う事しか考えられなかった。
 ロアは静かにしている。
(なんで教えてくれなかったの?)
シャルルは聞く。
 ロアはそっと立ち、二人分の代金をテーブルに置き。
「こちらにお金置いておきますね。」
店員に伝えてから二人は店を出た。
(家で話そう)
ロアが言う。
 二人は路地裏に入り、ロアが魔鏡を使いシャーゼンの家に行く。


「シャルル、知ってどうするつもりだったの?」
「ロア、私はセリアを救いたくて知りたかったの」
「セリアを救う?」
「あのセリアの性格おかしいと思わない?」
「おかしいって……」
「普通の人が幾ら強いとしても、血の魔女サングイスには勝てない、それは解るよね?

じゃあなんでセリアがサングイスに勝てたの?
浄化まで出来たの?」
シャルルは聞きながら説明しようとしている。
「それは、ファイアーエンジェルの魔法で……浄化の炎を扱えば」
ロアは考えながら答える。
「ファイアーエンジェルの詠唱は?」
シャルルが質問を重ねる。

「確か……


大いなる炎の神よ……我が罪を全て焼き尽くしたまえ……
地獄の業火よりも熱き炎で我が身、我が心、我が罪を焼き払いたまえ……

全ての罪、地上の罪を焼き払う為に……
その神聖なる力をおかしください

我が魂を代価に


だったはず……‼︎ってまさか‼︎」
ロアは最後に叫ぶ様に言う、シャルルと同じ事に気づいたのだ。
「そう……
罪深い者が、それに気づき死後に罰せられる事を前提とした……
神の力を借りる究極の魔法……

ロア、昔教わったよね?
私も今まで忘れてたの、トランス魔法は罪深き者しか使えない事を」
シャルルは悲しげに説明する。

「命を奪い奪われたから解る

心の痛み

その痛みから産まれる善意によって生まれる力……

それでも死後、永遠に罰せられる……
自らを捧げる力」
ロアが理解し哀しげに言う。
ロアは想像してなかった、考えても無かった……セリアが何故いつも無邪気に遊び、ふざけているのかなんて考えてもいなかった。


 日が沈みかけている、黄昏時を知らせる夕焼けの光がロアの家に差し込んでいた。
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